SAO~円卓の騎士達~
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第四十四話 妖精世界
~リーファ side~
今私達が相手にしているモンスターは、羽の生えた単眼の大トカゲ《イビルグランサー》。
シルフ領の初級ダンジョンならボス級の戦闘力を持っている。
紫の一つ目から放つ《邪眼》、カース系の魔法攻撃が命中すると一時的に大幅なスターテスダウンを強いられる。
キリト君の戦闘は、セオリーのヒットアンドアウェイを無視して、次々に大トカゲを斬り伏せていく。
一応、シンタローさんが弓を用意してはいるけど使う必要がなさそうだ。
キリト君に魔法攻撃が命中するたびに、私が解呪魔法をかけてあげているんだけど、正直言ってその必要があるのか怪しい。
キリト君の戦闘は、剣を振り回しながら突進し、時には暴風に巻き込み、切り刻む。
当初は五体居たイビルグランサーを四体屠り、最後の一匹は残り二割程度に減らされた所で逃走に移った。
キリト「やべ。 一匹逃がした。」
シンタロー「任せろ。」
シンタローさんがそう言うと矢を放つ、その矢は正確にイビルグランサーに当たって、ポリゴンとなり爆散した。
キリト君は武器を収めてから私の方に向かい、
リーファ「おつかれ!」
キリト「援護サンキュー!」
手を上げてから、ハイタッチをする。
リーファ「しっかしまぁ、何ていうか、ムチャクチャな戦い方ねぇ。」
俺はリーファに言われ頭を掻いた。
キリト「そ、そうかな。」
サクマ「そうだろ。 何時も俺達がサポートに回っているんだから。」
キリト「まぁ、そうだけどさ。」
リーファ「今みたいな一種構成のモンスターならそれでもいいけどね。 近接系と遠距離型の混成とか、もしプレイヤーのパーティーと戦闘になった時は、どうしても魔法で狙い撃たれるから気を付けないとだめだよ。」
キリト「魔法ってのは回避できないのか?」
リーファ「遠距離攻撃魔法には何種類かあって。 威力重視で直線軌道の奴は、方向さえ読めれば避けられるけど、ホーミング性能のいい魔法や範囲攻撃魔法は無理ね。 それ系を使うメイジがいる場合は常に高速移動しながら交錯タイミングをはかる必要があるのよ。」
キリト「シンタローなら範囲攻撃じゃ無いかぎり打ち落とせるんじゃ無いか?」
リーファ「んな、無茶な。」
シンタロー「一回目で動きを覚えたらな。 初見は流石に無理。」
リーファ「え、えぇ~。」
私は呆れてしまった。
仮に動きを覚えてもギリギリで回避するのはNG。
僅かに動きがイメージしたものと違うなら当たってしまうからだ。
それを一回で完全に覚えて、二回目で完全に打ち落とせると言うのだ。
リーファ「と、とりあえず先に進もうか。」
頷き合い、私達は翅を鳴らして空中移動を開始した。
その後はモンスターに出会うこと無く、古森を脱して山岳地帯に入った。
リーファ「あ、そろそろ翅が限界ね。 一度着陸しましょうか?」
キリト「わかった。」
私が先に降下したのを確認してから、皆も降下を開始する。
地面に着陸したキリト君は、腰に手を当てて背筋を伸ばした。
リーファ「疲れた?」
キリト「いや、大丈夫だぞ。」
リーファ「頑張るわね皆、でも空の旅はしばらくお預けよ。」
マリー「えー、折角慣れて気持ち良くなってきたのに。」
キリト「なんでだ?」
リーファ「見えるでしょ、あの山。」
草原の先にそびえ立つ、真っ白に冠雪した山脈を私が指差す。
リーファ「あれが飛行限界高度よりも高いせいで、山越えには洞窟を抜けないといけないの。 シルフ領からアルンへ向かう一番の難所、らしいわ。 あたしも此処からは初めてなのよ。」
サクマ「そうか。 結構長い洞窟なのか?」
リーファ「かなり。 途中に中立の鉱山都市があって、そこで休めるらしいけど。 キリト君達。 今日はこれから予定ある?」
キリト君はウインドウを開き、時計を確認する。
キリト「リアルだと夜七時か。 俺は大丈夫だ。」
サクマ「こっちも平気。」
シンタロー「俺たちも。」
ユージオ「僕たちも。」
リーファ「分かった。 それじゃあ、もうちょっと頑張ろうか。 一旦《ローテアウト》しよっか。」
キリト「ろ、ろーて?」
リーファ「ああ、交代でログアウト休憩することだよ。 中立地帯だから、即落ちできないの。 だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ。」
キリト「なるほどね。 誰から行く?」
シンタロー「じゃあ、俺達はマリー、セト、キド、カノ、エネが。」
サクマ「俺達は後で良い。」
サクラ「私は先に落ちるね。」
ユージオ「じゃあ、僕達も先に落ちるね。」
キリト「じゃあ、リーファ、先に行って作り置き作っておいてくれ。」
リーファ「お言葉に甘えて。 二十分ほどよろしく!」
そう言って、私達、先に落ちる組はウインドウを出してからログアウトボタンを押し、現実世界へ帰還した。
ベットの上で目を覚ました私は、アミュスフィアを急いで外して一階に駆け降りた。
もちろん、一階には誰もいない。
私はシャワーを浴びてからベーグルサンドを二人分つくって食べた。
さて、戻らないと、
私の部屋に戻って再度アミュスフィアを被る、そして
直葉「リンク、スタート。」
そう言って妖精の世界に戻った。
リーファ「お待たせ! モンスター出なかった?」
キリト君は、片膝立ちでしゃがみ込んだ格好から立ち上がり、口から緑色のストロー状の物を離し、頷いた。
キリト「おかえり。 静かなもんだったよ。」
リーファ「それ、ナニ?」
キリト「雑貨屋で買い込んだんだけどスイルベーン特産だってNPCが言っていたぜ。」
リーファ「私、知らないわよ、そんなの。」
キリト君は、それを私にひょいっと放ってきた。
それを一息吸うと、甘い薄荷の空気が口の中に広がった。
キリト「じゃ、今度は俺が落ちる番だな。 護衛よろしく。」
リーファ「うん、行ってらっしゃい。」
キリト君はウインドウを出し、ログアウトボタンを押し、現実世界に還った。
リーファ「・・・サクマさんとコジロウさんは良いんですか?」
サクマ「流石にこの人数を残していく訳にはいかないだろ。」
確かに、現在このパーティーの人数は十人以上。
さらにそのうちニュービーが約半数。
これを残して落ちるわけにはいかない。
リーファ「そう言えば、お兄ちゃんってSAOではどんな感じだったんですか?」
サクマ「全身、黒装備で、付いた二つ名が『円卓の黒騎士』。」
リーファ「円卓?」
コジロウ「俺達の作ったギルドの名前が『円卓の騎士団』だからです。 俺達の二つ名にも円卓が入っているんですよ。」
リーファ「へぇ~。 他には?」
シンタロー「あいつはSAOで十人しか獲得出来ないユニークスキルの持ち主の1人だった。 俺とサクマ、コジロウ、アーサー、それと茅場も持っていた。 ちなみにキリトは二刀流、サクマは二刃刀、コジロウは大太刀、アーサーは龍爪剣、俺は糸使いだった。 茅場は神聖剣だ。」
そんな事を話してたら最初に落ちた人達が帰ってきた。
サクマ「じゃあ、俺達も落ちる。」
シンタロー「俺達の残りも。」
そう言って後半の人達も落ちていった。
私が、ぼんやりと空を眺めていたら、キリト君の胸ポケットからユイちゃんが姿を現した。
リーファ「ゆ、ユイちゃん、ご主人様いなくても動けるの?」
ユイちゃんは当然といった顔で小さな手を腰に当て、頷いた。
ユイ「そりゃそうですよー。 私は私ですから。 それとご主人様じゃなくて、パパです。」
リーファ「そういえば、なんでユイちゃんは、キリト君のことをパパって呼ぶの?」
ユイ「パパとママは、私を助けてくれたんです。 私のことを俺の子供だ、娘だ、ってそう言ってくれたんです。 だから、パパとママです。」
リーファ「パパとママのこと、好き?」
ユイ「はい! 大好きです!」
ユイちゃんは、満面の笑みで私の質問に応えてくれた。
それから数秒後、キリト君がログインして戻って来た。
キリト「ただいま、あれ、何かあったの?」
リーファ「ううん、別に。」
キリト「そうか。 あ、作り置きありがとな、美味しかったよ。」
リーファ「そう、良かった。」
それから残りの人達も戻ってきた。
リーファ「じゃあ、出発しましょうか。 遅くなる前に鉱山都市まで辿り着けないと、ログアウトに苦労するからさ。 さ、洞窟の入口までもう少し飛ぶよ!」
キリト「おう。」
そう言って、私達は翅を広げ、軽く震わせる。
キリト君とサクマさん、ユージオ君にアリスさんが、今まで飛んで来た森の方向に振り向いた。
リーファ「どうしたの?」
キリト「いや、誰かに見られた気がするんだ。」
キリト君達は、木立の奥を見据えている。
キリト「ユイ、近くにプレイヤーは居るか?」
ユイ「いいえ、反応はありません。」
ユイちゃんは小さな頭をふるふると動かした。
だけどキリト君達は、なおも納得出来ない様子で森の奥を見ている。
リーファ「見られた気が、って。 この世界にそんな第六感みたいもの、あるの?」
キリト「これが中々バカに出来ないんだよ。」
ユージオ「この感覚で何回もオレンジプレイヤーの襲撃に気が付けたんだ。」
リーファ「うーん、ひょっとしたらトレーサーが付いているのかも。」
私が呟くとキリト君が眉を上げた。
キリト「そりゃ何だ?」
リーファ「追跡魔法よ。 使い魔の姿で、術者に対象の位置を教えるのよ。」
アリス「便利な魔法があるんですね。 それは解除出来ないのですか?」
リーファ「トレーサーを見つければ可能だけど、術者の魔法スキルが高いと対象との間に取れる距離も増えるから、こんなフィールドだとほとんど不可能ね。」
キリト「そうか、取り敢えず先を行こうぜ。」
サクマ「そうだな。」
リーファ「うん。 じゃあ、皆、行くよ。」
私達は頷き合い、地面を蹴って浮かび上がった。
それから翅を大きく震わせ空中移動を開始した。
~side out~
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