艦隊これくしょん【幻の特務艦】
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
番外編 鎮守府カレー祭り(後編)
――大会前日の夜、自室にて、落ち込む瑞鶴を慰める翔鶴――
瑞鶴。そんなに謝らなくてもいいわよ。それなら、加賀さんと赤城さんに謝ってきなさい。え?嫌?もう、しょうがないわね。私が一緒に行って・・・それも嫌なのね。
あなたの気持ちはわからなくないけれど、加賀さんの事、少し冷静になってみてみたらどうかしら?確かにあの方はやや冷たいところがあるけれど、それは不器用さの裏返しだと私は思います。感情をうまく表現できないでいると思うの。本当はあなたのことをとても気にかけていらっしゃると思うわ。そうでなければ、最初から無視をしていたはずです。
ね、元気を出して。今日は私が指を切ったりして悪かったけれど、結局カレーも無事に作ることができたじゃない。味だって悪くなかったわよ。ただ、もう少し味を甘くしたものも一緒に作った方がいいと思うの。お子さんのいらっしゃる家庭も明日みえられるでしょうから。
私たちのチキンカレー、きっと提督や皆さんに受け入れてもらえると思うわ。昨日も言ったけれど、赤城さんや加賀さんのことを意識せずに、自分たちのできることを精いっぱいやりましょう。力みすぎるのもかえって逆効果よ。
今日はもう寝なさい。明日に備えましょう。
――その時、瑞鶴――。
わかっているわよ、翔鶴姉。・・・・本当は全部私が悪いの。でも、謝ることなんてできない。手のかかる妹で、ごめんね・・・。
私、どうしたんだろう?自分でも嫌になるくらいあの一航戦の正規空母のことを気にしてしまう。ねぇ、本当かな?向こうは私の事、気にしてくれているのかな?ライバル心むき出しにして、突っかかっていっても何にもならないのに、どうしてもそうなってしまうの。子供っぽいよね。
たぶん、私の中であの正規空母・・・・加賀は無視できない存在なんだと思う。憧れ?嫌よ、あんな風にはなりたくない!私は私だもの。でも、あの技量は少なくとも無視できない。それと、心構えも。でも・・・・あんな風にはなりたくない。一航戦の二番煎じなんて嫌!私は私だし。
いろいろ混乱していてうまく自分の気持ちを整理できない。うん、もう寝るね。ありがとう、翔鶴姉・・・・。
ねぇ、翔鶴姉。これだけは言わせて。私は手のかかる妹かもしれないし、赤城・加賀に突っかかっていくだけの実力も器量もまだまだないかもしれないけれど、でも、私は翔鶴姉と世界一のコンビになりたいの。第五航空戦隊の二人がどんな戦いでも、どんなことにでも一糸乱れぬコンビネーションを発揮できたら、とても素敵だと思う。
そして、私は私。悔しいけれど、今日加賀に言われて気づいたの。いつまでも翔鶴姉に頼ってばかりいないで、少しずつ自分の足で歩けるようになりたいって思う。なんてね。ちょっと柄じゃなかったかな。
おやすみなさい、翔鶴姉。明日は頑張ろうね!
――同時刻、自室にて加賀を諭す赤城――。
加賀さん、あなたの気持ちはわかりますが、今日の第五航空戦隊のお二人に対してはいささか冷たすぎると思いました。よく「五航戦の子なんかと一緒にしないで。」とあなたは言いますが、お二人にも素晴らしい点は沢山あります。そういうところを受け入れてお互いに切磋琢磨しあえたら素敵だと思うけれど。
加賀さん、カレー祭りは確かに競技ではあるけれど、でも、一番の目的は皆さんにおいしいカレーを振る舞うことです。それを忘れないで。自分たちの勝負は来てくださるお客様方には関係ないのだから。もちろん投票は任意では有りますけれど。
自然体のあなたが私は大好きです。良く二人で料理を作るとき、時折見せるあなたの満足そうな顔は、これから食べるおいしい料理のことを思っての顔でした。そんな表情を明日は見てみたいのです。だから、第五航空戦隊のお二人のことはどうか意識しないで。
もう寝ましょうか。それとももう一度レシピを確認しておく?
――その時、加賀――。
赤城さんの言う通りかもしれない。私は何かと「五航戦の子なんかと一緒にしないで。」というけれど、それは意識していることの裏返しなのかもしれないわね。冷静に見てみると、あの二人には学ぶ点もあることは私にもわかります。だからと言って、今日のあの子の態度は私は承服できかねるけれど。
ええ、そうね。あの子たちはあの子たち。私たちは私たち。お互いがいい形でカレーを作れればそれでいいわ。でも、一言言っておきますけれど、私はこれっぽっちも五航戦の子なんかに負ける気はないから。
もう寝ます。検討できることはしたし、やることもやったわ。明日に備えましょう。
おやすみなさい、赤城さん。
――同時刻、自室にて、プリンツ・オイゲンと話すビスマルク――。
よし!!完・壁!!これで明日の優勝は決まりね。よかったわ、提督がカリーヴルストを認めてくれて。プリンツ、ソーセージとジャガイモのストックはあるわね?なんと言ってもカレーの付け合わせにはこの二つよ。これに限るわ。きっと他の子たちはカレーライスで勝負してくるだろうから、その中で私たちの料理は異色。きっとみんな面白がってやってくるわよ。楽しみね!
さ~てと、明日は早起きして練習もしたいから、もう寝ましょうか。ここまで手伝ってくれてありがとうね。それじゃお休み。
――その時、プリンツ・オイゲン――。
ん~~~。いいのかなぁ・・・・他のみんながカレーライスにしているのに。あ、でもでもアドミラルが認めてくれたから、だいじょ~ぶだよね、きっと!姉様とあたしがつくるカリーヴルストを食べたら、きっとみんなおいしいって言うと思うの。よぉし、あたしも寝ます!!
ビスマルク姉様と一緒に頑張って、きっと優勝を狙うんだから!!
――同時刻、自室にて、出場停止になった紀伊を慰める利根――。
おぬし大丈夫か?そんなに落ち込むな。そんなに指を切ったくらいで、失神することなんぞ、艦娘としてはどうかと思うが、普通の女の子としては・・・まぁ、なんだ、ない事ではないからの。出場停止を食らったからといって気にするな。あやつらもお主のためを思っていっておったのじゃ。本番中に失神して皆の笑い物になりたくはないじゃろう?来年はずっと練習して本番に臨めばよいではないか。そして、皆があっと言うカレーを作って見返してやるのじゃ!そうじゃろ?筑摩。
――その時、紀伊――。
あぁ・・・・。私ってどうしてこう駄目なんだろう。あ、いいえ。ありがとうございます。ええ、もう大丈夫です。ショックでしたけれど、でも、しょうがないなぁって。はい、利根さんの言う通りですよね。いきなり本番だなんて無茶すぎました。やっぱりコツコツ練習していいカレー作りを日頃からやってみようって決めました。そのためにも、明日皆さんがどんなカレーを作るのかをよく見ようと思います。
――その時、筑摩――。
紀伊さん、手が震えています。包丁恐怖症になってしまったのかしら。でも、紀伊さん。練習こそが上達への一番の秘訣です。大丈夫、あなたにならきっとできます。明日は私たちと一緒に皆さんのカレー作りを見学しに行きましょう。ね?
深夜――。調理場で奮闘する足柄――。
毎年そうだけれど、寝てなんていられないわ!!この時ばかりはお肌のことは考えないわよ。大丈夫。この時のために今日は昼過ぎから寝て備えたから大丈夫!!それに、私の秘伝のルーづくりはここからやらなくちゃ間に合わないし。やっぱり鮮度が大事よね、料理って。
今回はカツじゃなくてシーフードカレーの予定よ。やっぱり海軍たるもの海の幸を使いこなせなくちゃ意味ないもの。多少アレンジしてパプリカなどの具材を少し大きめに切って入れるの。彩もよくなって目にもいいしね。
今回こそは、絶対に勝つわ!!絶対に勝つ!!勝利への執着は、この飢えた狼のような私がつかんでこそふさわしいの!!さぁっ、頑張るわよッ!!!
――その時、調理場をそっと覗く妙高――。
また今年もやっているわ・・・。まぁ、そういうところが足柄らしいのだけれど。今更私が止めても聞かないのだから。私はもう寝るわね、足柄・・・・。
でも、どうか無理をしないで。自分の持てる技量をうまく発揮して見せて。
――同時刻、自室にて、床に就く鳳翔――。
昨日提督のおっしゃったことを色々考えてみた。確かに私はずっと秘書官として呉鎮守府にいるけれど、それは秘書官としての仕事が好きだったから。呉鎮守府にいるみんなの世話を焼くのが好きだったから。そして、あまり大きな声では言えないけれど、提督のおそばにいたいと思っているから。提督もご厚意をもってわたしにああおっしゃっていたようだけれど、でも私には私の思いもある。
提督。ですから、私は出場します。さぁ、もう寝ましょうか。明日は早いのだから。
――同時刻、自室にて、床に就く榛名――。
やることはやりました。後はぐっすり寝て本番を迎えるだけです。何回経験しても出撃と同じ、不安はあります。でも、大丈夫。あんなに練習したんだもの。きっと大丈夫。出場できなくなった紀伊さんの分まで、榛名、頑張ります!
――カレー祭当日早朝、大会会場にて、準備委員たちに訓令をする由良――。
皆さんおはようございます。大会当日、上空は少し雲がありますが、予報では今後晴れるとのことですので、大丈夫だと思います。予定通りに行きましょう。各準備セクションの艦娘・妖精の方々は再度最終確認を行ってチェックリストを私に提出してください。
食材の運び出しは、各チームの方々が練習を兼ねて早く準備に到着されますので、早めにお願いします。開会式は9時です。その後鈴谷さんにバトンタッチして司会進行をお願いします。
カレー祭の醍醐味は、お客様が見ていらっしゃる前で各チームが一から作ることです。そのプレッシャーたるや戦場に出た時と同じだと聞きますが、それが盛り上がる要因ともなるのです。
午前の部は料理作り、午後の部は各テントでの試食提供となり、投票も大テントで行われます。各員は手順書を一読して備えてください。
それでは、張り切って頑張りましょう!
――その後、開会式後、実況席より、鈴谷――。
さぁさぁやってまいりました!!呉鎮守府カレー祭!!会場は既に大入り満員、皆さま今日は来てくださってありがとうございま~~す!!
さてさて~~!!ここ数年は連年優勝者が入れ替わる波乱の展開ですが、今回はいったいどのチームがその手に優勝トロフィーを、そして全国鎮守府対抗カレー祭への切符を手にするのか!?では、さっそく出場選手の紹介といっきましょうか!!!熊野よろしくぅ~~~!!!
――会場にて、アシスタント熊野――。
よろしくてよ、鈴谷。では出場選手の皆様方を紹介いたしますわね。まずは向かって左から。
カレー祭の優勝をその手につかむのは、前年の「栄光」の冠名を背負ったこのお二人が相応しいか!?チームA、第一航空戦隊の双璧の赤城・加賀さんチーム、ですわ!!
――その時、万雷の拍手の中、加賀――。
そうよ、今年も私たちが優勝をその手につかんで見せる。栄光の第一航空戦隊の名に恥じないように。そしてその名にふさわしいのは当然「優勝」の文字しかないのだから。
――会場にて、アシスタント熊野――。
海外の独国から強豪が!?初の国際試合となります。アウェーの地でその力を十分に発揮できますでしょうか?チームB、ビスマルク、プリンツ・オイゲンさんチーム、ですわ!!
――その時、万雷の拍手の中、ビスマルク――。
うわぁ、これこれ!!こういうイベント、いいわね!!皆私たちのことを見ているわよ!!応援してくれているわよ!!プリンツ、頑張りましょう!!
――会場にて、アシスタント熊野――。
今年も「お嫁にしたい艦娘」ランキング上位に入りました!!合言葉は「愛情込めて皆様方のために」!!今年も精一杯愛妻カレーをおつくりいたします!!チームC、榛名さんですわ!!!
――その時、万雷の拍手の中、榛名――。
熊野さん・・・・。そこまで堂々とおっしゃられると、困ります・・・・。それに愛妻って・・・・。でも!カレー作りでは、榛名、負けません!!
――会場にて、アシスタント熊野――。
連年二番手に甘んじておりますが、勝利への貪欲は誰にも負けません!!栄光の勝利を今年その手につかむのは、ついにこの方なのかしら!?チームD、足柄さんですわ!!
――その時、万雷の拍手の中、足柄――。
やっとこの時がやってきたわ。今まで散々練習した成果、たっぷりと披露してあげる!!今年こそは優勝よっ!!!
――会場にて、アシスタント熊野――。
3年前の王者の風格は健在です!!秘書官として、皆の「お艦」として呉鎮守府を指揮します!!やはりこの方が勝者にふさわしいのでしょうか!?チームE鳳翔さんですわ!!!
――その時、万雷の拍手の中、鳳翔――。
熊野さん・・・「お艦」って、どういう意味合いで言ったのかしら。これじゃ私が年嵩に思われても仕方がないじゃないの。後できっちり言っておかなくては。でも、今は勝負の時ね。集中しなくては。
――会場にて、アシスタント熊野――。
さぁ、最後のチームですわ!!仲良し姉妹!!チーム力ならば誰にも負けません!!珊瑚海同様「五航戦」の意地を見せつけられるでしょうか!?チームF、翔鶴・瑞鶴さんチームですわ!!!
――その時、万雷の拍手の中、瑞鶴――。
うん、いい感じじゃない!やっぱりこういう雰囲気は飽きないわよね!!さぁ、翔鶴姉、私たちの力、存分に見せてあげましょ!!
・・・でもね、熊野。珊瑚海は私たちにとってはあまりいい思い出じゃないんだけれど。消化不良の試合みたいなもんだったんだけれど。そこのところ分かって言ってるんでしょうね?
――再び、実況席より、鈴谷――。
熊野ありがとう!!これですべてのチーム紹介が終わりました~!!さぁっ!!運命の鎮守府カレー祭、その優勝の栄光をつかむチームは誰なのか!?調理、開始です!!!
場内にウィリアムテル序曲が流れ始めました!さてさて~号令とともに各チーム一斉に調理に取り掛かります!!順を追ってみていきましょうか!!
まずはAチーム、第一航空戦隊です。赤城選手はルーづくりを、加賀選手は具材担当。さすがは第一航空戦隊!!艦載機の発艦同様一糸乱れぬチームワークだ!!流れるような作業で無駄一つないぞ!!
次にBチーム・・・おおっと!?ええっ!?何!?あの火柱!?チームBビスマルク選手、戦艦にふさわしい超火力でフライパンから火柱を立てている!!これはすごいぞ!!事故?アクシデント?熊野!!消火器要る!!え?要らない?そ、そう・・・。
――その時、プリンツ・オイゲン――
ひゃあっ!?ビスマルク姉様、あっついです!!あつい!!そんなに張り切って燃やさなくても大丈夫ですよぉ~。え?これでいいんですか?なんだか炭みたいなものができてますけれど・・・。これ、ソーセージですよね~?ジャガイモですよね~?う~ん、だいじょ~ぶかなぁ・・・。
次はCチーム、一人榛名選手が奮闘中です。流石包丁さばきは落ち着いている。そしてとても楽しそう!嫁にするならこういう直向の人がいい!!あ、霧島さんごめんなさい。そんなに睨まなくても、もう言いませんから。
次のチームD足柄選手・・・って何!?あの速さ!!驚異的な包丁さばきでみるみる具材が切れていく・・・っていうか切り裂かれている!?まるで辻斬りだぞ!!あれは危ない!!完全に自分の世界に入っている!!会場の皆さん、危険です!!足柄選手の半径3メートルには近づかないでください!!熊野!!妖精たち!!立ち入り禁止のテープ周りに張って・・・って危ない!!!今ギリに足柄選手の包丁が熊野をかすめた!!熊野大丈夫!?しりもちついて大丈夫!?OK!?よ~し、じゃ早いところ囲っちゃって!!それにしても完全に勝利への貪欲が目に出ている!いや全身に!!!あれほど貪欲な勝利への執着は流石足柄選手です。まさに飢えた狼だぞ!!
――その時、会場観客席で絶句する妙高――。
ああもう!!足柄ったら!!どうしてこう周りが見えないのかしら!?姉としてものすごく恥ずかしいわ。今年こそは皆の喜ぶカレーを作りたいって言っていたのに、あれじゃ勝利の事しか考えていないみたいじゃないの。まったく・・・帰ってきたらきつくお仕置きをしてやらなくては。
――実況席より、鈴谷――。
さぁさぁ、無事にテープが張られたところで、今度はチームE鳳翔選手です。皆さまご覧ください!あの美しくカットされた具材を!ご覧ください!あの正確な手さばきを!!一糸乱れぬ調理は、精鋭中の精鋭空母の名前に恥じません!!この調子で最後まで行くでしょうか?
最後に、チームF第五航空戦隊です。実は今回はですね~。第一航空戦隊と第五航空戦隊の間で、前日の練習中にちょっとしたアクシデントがあったという情報が匿名で寄せられまして・・・榛名選手がそれを見事にさばいたということです。それだけに今回のカレー作りは、双方の意地の見せ所なんですね。瑞鶴選手は具材を担当、翔鶴選手はルーづくりを担当しています。この辺もさすがは姉妹、息もぴったりです。やるじゃん!!
――その時、調理場で、瑞鶴――。
そうよ、その通りよ。ムカつくくらいその通りよ!でもね、もう鈴谷の実況聞いて頭に血が上ったりはしない。そう決めたもの。今は最後まで自分のペースで作り続けるんだから!!
――その時、調理場で、翔鶴――。
瑞鶴・・・。ええ、そうよ。その調子よ。実況はあくまで観客の皆様方に楽しんでもらうための余興ですもの。私たちは私たちで精一杯頑張りましょう。
――それからしばらくして、実況席、鈴谷――。
各選手、さすがに手馴れております!!相変わらずチームB、ビスマルク選手、プリンツ・オイゲン選手のところには火柱が立っておりますが・・・って何!?何なの!?今の爆音!!ダイナマイト!?
違う!!違いました!!一瞬会場を狙うテロかと思いましたが、違いました!!濛々と黒煙を上げているのは、チームD足柄選手のところです。皆さまご安心ください。一見するとフライパンごと吹き飛ばしているように見えますが、あれが足柄選手の独特の調理方法『火力戦法!!』です。ですが、危険ですので、テープから中に入らないようにお願いします。
各選手とも煮込み、あるいは焼きの段階に入ってきたようです。う~ん!!おいしそうな香りがここまで漂ってきます!さぞかし皆様も待ち遠しい事と思いますが、ここで一つアナウンスです。
ご飯は競技上こちら運営側で用意いたしております。皆さまには会場あちら右手奥の大テントにて、ご飯をお配りいたします。それを手にそれぞれ気になったチームの調理場にお進みください!試食が終わり次第、お手元の入場券に一番良かったチームの名前、そしてご自身の年齢、性別、ご家族での来場の有無、任意で選んだ理由を記載し、大テント投票所の投票箱にお入れいただきますよう、お願いします。さぁ、各チームの状況です!熊野~!どんな感じ!?
――調理場付近、アシスタント熊野――。
こちらは調理場です。チームA、早くもカレーの煮込みの終盤に差し掛かっておりますわ。今回は特別製のコンロをご用意いたしました。前世の軍艦の調理場と同じ、スチームによるものですの。そのため煮込み時間もぐっと早くなっておりますわ。あ、今赤城選手が鍋からお玉でお皿にルーを盛り付けております。あぁ、とても素晴らしい香りがしますわ!!ピリッとしていますけれど、でもしつこくなくてどことなく甘さも合わせもった絶妙なコンビネーションが感じられますの。今回はシンプルということですけれど、その香りはただのカレーではありませんことよ。皆さま、お楽しみに!
次にチームB・・・って、あの~。これはいったいなんですの?あの、どうしても炭にみえてしまうのですけれども・・・・あ!ごめんあそばせ!そちらは完成品ではございませんのね。ええ、これは、わたくしも見たことがありませんわね!カレーのルーがソーセージとジャガイモにかかっています。お名前は・・・そう、カリーヴルストとおっしゃるそうです。とても絶妙に茹で上がったジャガイモのホクホクとした食感とカリッと焼きあがったソーセージとどんな相性なのかしら、楽しみですわね!
次にチームCですわ。ごきげんよう榛名さん。ちょうど盛り付けをされるところですのね。こちらはドライカレーですわね。皆様もご存じのように鎮守府カレー祭りの決勝戦は夏ごろに横須賀鎮守府で行われますの。その時分にはきっとこのようなピリッとした辛さのカレーが食欲を取り戻してくださるのですわね。流石榛名さんですわ。
そして、チームD・・・ひゃあっ!!??な、何をなさるんですの!?そんなにお玉を振り回して・・・・服が汚れてしまうじゃない!! ・・・全然聞いていませんのね。皆様、失礼いたしました。足柄選手はこれも最後の仕上げ・・・なのかしら、それに入っているようですけれど、周りが見えておりません。落ち着くまでもう少々お待ちいただけますかしら?
次にチームE、鳳翔さんですわ。・・・って、あら、どうしましたの?そんなに硬い目でわたくしを見つめて・・な、何かわたくし失言でも致しました?え!?後でお話がある?な、なんでしょう?そ、そうですわね、今はカレーのことですものね。あら?鳳翔さんのカレーはとてもシンプルですけれど、とろみがとてもきいております。
ご存知のように軍艦はとても揺れるので、カレーにしてもとろみがきいている方が喜ばれますの。それに保温性も保たれるのですわ。これはラーメンなどの麺類でも同じことなのですのよ。まさしくこれは海軍カレー!皆さま、陸上ではあまりお目にかかれない海軍カレーをぜひご賞味遊ばして。
最後に、チームF第五航空戦隊のお二人です。ごきげんよう。お二人のお顔、とても清々しいですわよ。力をすべて出し切ったという顔をされていますわ。お疲れ様です。って、あら?見た目は・・・・普通のカレーですわね。鳳翔さんの様にとろみが聞いているわけでもないですし、変わった具材が入っているわけでもないように見受けられますけれど、でも、これは・・・・。
――実況席より、鈴谷――。
熊野~~!!どうしたの!?
――第五航空戦隊の調理場付近、アシスタント熊野――。
あ、いいえ、なんでもございませんわ!わたくしとしたことが固まってしまい、
申し訳ありません。皆様、第五航空戦隊のカレー、とてもわたくしの拙い説明では伝えられません。まずは皆さまご自身でご賞味遊ばして。以上ですわ、鈴谷。
――再び、実況席、鈴谷――。
熊野ありがとう!最後はちょっと固まっちゃったけれど。でも、これで全チームのカレーが出来上がりました!!さぁ!!あとは皆さまお待ちかねの試食時間です!!思いっきり楽しんじゃってください!!!ではでは~~!!!
――それからしばらくして――。大テントにて、試食中の暁――。
か、辛~い!!なんで今年のカレーはこんなに辛いのばっかりなの?もう!!水、飲まなくちゃ食べられない・・・・ふうっ!!え?なに、響、どうしたの?・・・・辛くない?嘘、絶対辛いわよ。ええっ!?雷、電もそうなの!?
う、お、お子様じゃないもの!大丈夫だもの!そ、そうよ。私はちょっと辛いのが苦手なだけで、それぞれのカレーの良さはわかるもの!ほ、本当だもの!!
――同時刻、大テントにて、試食中の紀伊――。
すごい!!赤城さん、加賀さんのカレーって、甘さと辛さがこんなに絶妙なバランスになってて・・・しかも香りがいろんなものが詰め合わさっているけれど、お互いがお互いを引き立てていて邪魔一つしてないわ。まるでハーモニーを聞いているみたい!
ビスマルクさんたちのカリーヴルスト、初めて食べたけれど、食感が全然違うわ。これ、はまっちゃいそうね。間宮でもこういうものを出してくれたらいいんだけれど。
榛名さんのドライカレーはピリッとしていてとてもおいしいわ。それでいてとがっていなくて優しい味、本当に榛名さんらしいカレーよね。
足柄さんのは・・・わ、す、すごい・・・これ、シーフードが丸ごと入ってる。というかカレーの上にシーフードがかかってる。
これはさすがに・・・どうやって食べればいいんだろう・・・。ちょっと後回し・・・あ、でも、味はすごくいいわ。ご飯が進みそうなスパイシーさがあるもの。何回お替りしても飽きない味ね。
鳳翔さんのはスプーンですくうと弾力みたいなとろみがきいているわ。でもそれが全然しつこくなくてご飯に絡まってちょうどいい感じになってる。味もとてもおいしいわ。
最後、第五航空戦隊のお二人のカレーね。見た目はいつも間宮で食べているものとそっくりだけれど・・・・。
あれ、でもこれは・・・・。
なんだかとても懐かしい香り、そして味がするわ。私、お母さんやお父さん、家族の記憶なんてないのに・・・・どうしてだろう、家族で食卓を囲んで食べるカレーってこういうものだってすっと思えてしまう。
不思議だわ。でも、とても懐かしい気持ちに・・・・。
――大会終了後、その夜、自室にて妹をしかりつける妙高――。
足柄・・・。あなたいったい何をやっていたの?あんなに包丁振り回して・・・・もう少しで熊野さんにあたるところだったじゃないの。全然あなたは懲りていないのね。そんなに泣いたって駄目。私が見ていた中で一番ひどかったわよ、今日のは。当り前です。最下位になるのは。あなたももう一度よく反省・・・いいえ、猛反省して、一からやり直しなさい。いいわね?!・・・・ええ、でも、悔しい気持ちはわかるわ。姉としてあなたには勝ってもらいたかった。でもね、さすがに包丁振り回して人にけがをさせる様な料理方法はもうやめてほしいの。
はい。ハンカチよ。涙を拭いて。いつまでも泣いているのはあなたらしくないわよ。今日は私のところに泊まっていいから気の済むまでいなさい。
――同時刻、自室にて日誌をつづる榛名――。
今回は4番手でした。やっぱり皆さんとてもすごかったです。残念でしたけれど、でも、紀伊さんが来てくれてとてもおいしいって言ってくださったのがすごくうれしかったです。それから特別賞をいただいたことも。総合的な得票は少なくても、年齢、性別層で得票トップだと、特別賞があるんです。でも、「愛妻カレー」っていうネーミングはちょっとやめてほしかったなぁ・・・。まだ全然そんなことを考えられないし・・・。
――同時刻、食堂にてプリンツ・オイゲンを相手に今日の感想を語るビスマルク――。
プリンツ、お疲れ様。今回は榛名と同率4位だったけれど、皆とてもおいしいって言いに来てくれたじゃない。あれがやっぱりよかったわよね。そりゃあもちろん悔しいけれど、でも、こうやって直接みんなの感想をきけるっていうのはなかなかない機会よ。今回の事でみんなの好みなんかがわかったから、これを次回に行かせるように頑張りましょう。
――その時、プリンツ・オイゲンーー
ビスマルク姉様、お疲れ様でした!とっても面白かったです!はい!次回は絶対絶対優勝狙いに行きましょうね!あ、でも~。アンケートのところに「火柱怖い」って感想があったので、次は火柱やめにしましょうね。
――同時刻、提督執務室にて、鳳翔――。
はい、今回は残念ながら3位となりました。非常に残念ではありますが、お言葉通り秘書官を降りさせていただきます。・・・・・えっ?なんでしょうか。私はそんなに暗い顔をしているか・・・・当り前です。どうしてって・・・それは、私は皆の世話を焼くのが結局は好きだということを自覚して・・・・なんですか、あまりご納得されていない顔ですね?どういうことでしょうか?他にあるだろうって・・・・あ、その、私の口からは・・・。え?なんですか、これは・・・これ、1週間の休暇承諾書!?提督これは・・・先日おっしゃられていたのは、秘書官交代ではなく、私の休暇ということだったのですか?まさか、私のためを思って・・・・。
提督、ありがとうございます。ですけれど、この承諾書、私は使うつもりはありません。少なくとも今は。何故って、この承諾書、使用期限がありませんから。私の好きな時に休んでいいと、そういう理解でよろしいですね?できれば、その時は一人ではなく、どなたかと一緒に休ませていただきます。誰と、ですか?それは内緒ですよ。ふふっ。
はい。今日は早めに下がらせていただきます。今熊野さんに手伝ってもらってますが、明日からまた復帰して溜まった仕事を片付けますので。あ、提督、大きな声では言えませんけれど、もう熊野さんには私が退出した後に下がらせてあげてください。
提督、今後ともよろしくお願いいたしますね!
――同時刻、提督執務室横小部屋にて、泣きながら書類記入する熊野――。
ぐすっ・・・鳳翔さん、ひどすぎますわ。いくらわたくしが「お艦」と申したとはいえ、秘書官の仕事をさせるなんて・・・。鳳翔さんはずっと秘書官をやっていらっしゃるのですから、ああ申し上げてしまうのは自然ではなくて?それに鳳翔さんの年齢から申し上げても・・・いえ、やめておきますわ。これ以上何かされるのはもうまっぴらですもの!早く鈴谷のところに帰りたいですわ。
それにしてもこの書類の山、いつも鳳翔さんはこのような仕事をやっておられたのですね。それも毎日・・・。わたくしなどその間ずっと鈴谷や利根さん、筑摩さん、紀伊さんと遊んでしまっていたというのに・・・反省ですわ。
――同時刻、鎮守府内調理場にて加賀と材料後片付けをする赤城――。
ベートーヴェンの悲愴第二楽章の音がするわ。どなたかが弾いてらっしゃるのかしら。今の私たちの心境に合ってるわね・・・・。ねぇ、加賀さん。私たちは確かに今年も優勝をしました。あなたの言った通り連覇は達成しましたけれど、でも、私はどうしても第五航空戦隊のお二人のカレーに負けてしまったという気持ちがぬぐえません。それはあなたもうすうす感じているのではないかしら。
私たちのところには多くの方がいらっしゃいました。でも、家族連れの方、子供たちが一番にやってきていたのは翔鶴さん、瑞鶴さんのところでした。そして、一番楽しそうな場だったのも。
そしてご家族連れの層でトップの得票での特別賞をいただいていたのもあの方たちでした。家庭で食べるカレー、いいえ、皆でわいわいと楽しく食べるカレーってああいうものなのじゃないかと思うんです。私たちのは「お店」のカレーでした。確かに味には絶対の自信がありますけれど、その場の雰囲気、楽しさに関しては私たちは到底かなわなかったのじゃないかしら。
悔しい?ええ、それはもちろんそうです。でも、それは負けたからではなくて、結果的に大切なものを見落としてしまっていたことに気が付かなかった自分に対してです。
お二人のカレー、一口食べましたけれど、とても懐かしい味がしました。ねぇ、加賀さん。私たちも一度実家に帰らない?そして久しぶりに家族と団らんするの。そうすればきっと次の大会に活かせるエッセンス、大切なものを取り戻せるのじゃないかしら。そうね、そうしましょう。
――その時、加賀――。
確かに私たちは優勝し、連覇を成し遂げました。でも、そうね。赤城さんの言う通り、私もどこかスッキリしません。あなたが言った通りかもしれない。優勝をつかんでも、心が晴れないのは、大切な要素であの五航戦の子に負けてしまったからだと。
赤城さん、カレーはとてもとっつきやすい料理だけれど、奥が深いのね。元々料理は味も見た目ももちろんだけれど、誰かと一緒に食べ続けるものだということもまた重要な要素なのだわ。特にカレー、そして鍋等はその定番です。カレーはキャンプなどで、鍋はパーティーなどで皆が話しながら食べるもの。私はそういうのはあまり好きじゃないけれど。騒ぐのは苦手なので。
今回のことについては、私は第五航空戦隊に負けたと認めます。・・・赤城さん、そんな顔をしなくても。私だとて時には素直に敗北を認めることもあるの。
一度あなたの言うように、実家に帰って家族と食卓を囲むのも悪くはないわね。でも赤城さん、その時にはあなたも一緒に来てもらいます。私もあなたのご家庭にお邪魔しますので。約束ですよ。
――同時刻、学科棟ピアノ練習室にて、ピアノを弾く瑞鶴――。
翔鶴姉、いいじゃない。私はこんな曲を弾きたい心境なの。はぁ・・・結果は2位か。とても嬉しいけれど、でも、またまた第一航空戦隊に負けちゃったわ。でも、不思議よね。去年は加賀、私のことをとても冷ややかな目で見てたのに、今年は全然そんなことはなかったわ。どうしてかな?
私、ちょっとだけ赤城と加賀のカレー食べてみたの。そしたら、全然味が違ったのよ。あぁ、第一航空戦隊の作るカレーってこんななんだって、私なんかじゃたどり着けないなぁって思った。ちょっと憧れたりもしちゃった。嫉妬もすごくあったけれどね。
えっ、何?翔鶴姉。あぁ、そうね。一つだけ私たちが勝ってたことがあるわよね。家族連れの人たちにとても好評だったってこと。私もカレーよそいながらいろんな人と話ができてとても楽しかった。子供時代に皆とキャンプにいった時にみんなでカレー作って食べたことを思いだしてたわ。
翔鶴姉、私思ったことがあって。カレーっておいしいことも一つのステータスだけれど、でも、みんな一緒に食べて楽しい、おいしいって思うことも一つのステータスなのよね。今回も負けちゃって悔しいけれど、でも、一つ大切なものを勉強できたんじゃないかって思うの。
それと、赤城、加賀のカレーも一つの答えなんじゃないかって思う。純粋においしさを求めるのは、私が日頃強さを求める姿勢に似てるかなって思うの。
ムカつくけれど、赤城、加賀のいいところは私も吸収できるようになりたいって思ったわ。今日はありがとう、これからもよろしくね、翔鶴姉。
あれ?私、いつの間にかショパンのノクターン弾いてる。うん、なんだかね、そういう心境になってきちゃった。
――その時、翔鶴――。
瑞鶴、そんなに落ち込まないで。今回は私は充分100点だと思っているわ。もちろん、まだまだ課題と向上の余地は沢山あるけれど、今の私たちが精一杯やれたっていう意味での100点よ。それに、私たちが第一航空戦隊の先輩方に一つ優っていたことがあります。優っていたというか、今回だけなのかもしれないけれど、家族層の方からの得票率が一番だってことよ。
ねぇ、瑞鶴。私ね、カレーをよそいながら一つ心に残っていることがあるの。ちょうどあなたが他のお客様のお相手をしていた時よ。6歳くらいの男の子がお父様とお母様に連れられてきたのだけれど、とても不機嫌だったわ。もう帰りたい帰りたいってずっと言っていたの。最初はなだめていたお父様お母様もいつの間にか不機嫌そうになって・・・私、その時にその子に、そしてお父様お母様に同じ甘口のカレーよそっちゃったの。うっかりだけれど。でもね、一口食べた男の子の顔がぱっと変わって、とてもおいしいって嬉しそうに言ってくれたの。それを聞いたお父様お母様も一口食べて、これ、うちのカレーと同じだっておっしゃるのよ。それからその子のおうちの話になって。人が変わったようにずうっと楽しそうに話してたわ、その子。お父様お母様も楽しそうだった。最後は3人で仲良く手をつないで帰っていたの。真ん中で男の子がとてもはしゃいでいたのが今でも目に残っているわ。
それを見送りながら、私、とても嬉しくて嬉しくて、涙が出てくるくらい嬉しかったわ。おいしいって言われるよりも、家族の楽しさに貢献できたってことがとても嬉しかったの。
瑞鶴、あなたの言う通り、私たちも赤城さん、加賀さんの姿勢を見習わなくてはならないけれど、でも、私たちの長所もずっと持ったまま成長できるといいわね。
今日はお疲れ様、瑞鶴。あなたと一緒にカレーを作ることができて私はとても楽しかったわ。これからもよろしくね。
私もちょっとピアノを弾きたくなってきちゃった。かわってもらってもいい?
――同時刻、自室にて、紀伊のモノローグ――。
今回は勉強することばかりだった。特に第一航空戦隊のお二人と第五航空戦隊のお二人のカレーは、対照的だったわ。第一航空戦隊のカレーは「味」を、第五航空戦隊のお二人のカレーは「楽しさ」を表現していたように思う。あの時どうして熊野さんが一瞬固まってしまったか、今思えばわかる気がする。あの時熊野さんも家族のことを思いだしていたんだと思う。楽しかった食卓での会話とか、ピクニックに行った時の事とか、かな。第五航空戦隊のお二人のカレーはなんだか魔法みたい。
家族か・・・・。そういえば、私っていったい何者なんだろう。家族、いるのかな。姉妹艦、いるのかな・・・。一人ぼっちって本当に嫌だわ。
ううん、落ち込んでばかりいられないわよね。私も来年はずっと練習して皆さんに喜んでもらえる、おいしい、楽しいカレーを作ってみよう!
ページ上へ戻る