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とある3人のデート・ア・ライブ

作者:火雪
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第十章 仮想世界
  第8-1話 士道と佐天

 
前書き
思った以上に長くなりました 

 




太陽がギラギラと照らしつける。

蝉の鳴き声が遠くから聞こえる。

ガッ、ガッ、ガッ!

また、そんな音があちらこちらで聞こえていた。

でもその音すらも、薄れゆく意識の中では全く意味を成していなかった。

「(……俺、なにやってんだ?)」

少年は先ほどからずっと同じ動作を繰り返していた。

先ほど、と言っても何時からかは分からない。というよりは覚えていないの方が正しいだろう。

気づけば土で汚れたボロボロの服を着ていた。

気づけばクワで地面を抉っていた。

気づけば意識が薄れていた。



いきなり記憶を失ったまま神様転生されたかのように突然のことだった。

「コラァ!!五河!!しっかり働けぇぇ!!!」

士道の見たことない人が自分に対して檄を飛ばした。

恐らく今畑を耕しているのだ。

そこに一つ上の立場の人間が見張っていているのだろう。

何故怒られたのかは分からないが……










と。

「ッ!皆の者、手を止めろ!!女王様のお通りだ!!」

先ほど士道を怒った人物が恐怖を滲ませた声で叫んだ。一緒に働いていた人も顔を怖ばせて″それ″をした。

士道「………!?」

最初訳が分からず士道は突っ立ったままになっていた。

それに気づいたのか、隣にいた40歳くらいのおじさんが静かに、でも少し怒り気味の声で言った。

「おい君、何をしてるんだ………!?早く頭を下げなさい………!」

そのおじさんは右膝を立てて座り込み、両手を胸の前でしっかりと握りしめていた。

何だかよく分からないが士道も″それ″を真似した。

そこに数名の騎士と、一人の女王様らしき人がそこにいた。

「ここの調子はどうだ?」

「はい。皆健康に着々と働いています。このままいけば今年も予定通り作物が収穫できるでしょう」



そんな会話が、蝉の鳴き声しか聞こえないこの場に響いた。

そこで、士道は気になった。

士道「あの……」

「しっ、黙ってろ……!女王様の前で私語は罪に値するんだぞ……!!」

士道「……!?」

ボソッと言われた言葉に、士道は並々ならぬ威圧を感じた。

それは、士道達がいつも精霊達と対峙する時と似たような雰囲気だった。





そういえば、或守はこんなことを言っていた。





或守『愛の形を。愛とは、なんなのかを。選択の先にある非日常でーー』






その非日常がこれだとしたら。

士道「(一体、どうやって……愛……を……)」

突然、視界が、揺らぐ。

バタッ。

そんな音が、聞こえた気がした。

「五河君……ッ!!?」

隣の男性が静かに叫んだ。あの騎士達にバレないようにするために。

だがタイミングが悪かった。

「………ん?誰だあそこで倒れているのは」

………倒れてる?

「いや、これは……」

先ほど士道に檄を飛ばした人物が狼狽える。

「………弱者はいらぬ。殺せ」

こ……ろ、す……?

一瞬、自分の耳を疑った。

だが、周りの皆は一向にそれを止めようとしない。

掟なのか、その騎士の気まぐれなのから知らないが、どうやらここで死ぬようだ。抗おうとする気力もない。

「………お待ちなさい」

と、若い女の人の声が聞こえた。

誰だ……?




どこかで聞いたことがあるその声の主を確認することも出来ないまま、士道は意識を失った。



ーーーー
ーーー
ーー



「………ん?」

ふと、士道は目を覚ました。

目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。

天井には天井扇が目に見えるスピードでゆっくりと回転しており、ここが庶民の家ではないことがハッキリと分かった。

同時に自分がベッドの上で寝ていることも理解した。

士道「俺、どうして……?」

と、辺りを見回すとそこはかなり大きな部屋だった。士道の家のリビングの何倍あるだろうか……

すると、突然無駄に大きい(3メートルくらいあるだろうか)扉が開いた。

そこから入ってきたのは……









佐天「あ、目覚めました?」










お嬢様……というよりは魔法使いのような格好をした佐天涙子だった。




ーーーー
ーーー
ーー



佐天の格好は正直言って本当に可愛かった。

白のブラウスに黒のフリフリのスカート、黒のソックスに茶色い厚いブーツのコスチュームはまるで魔女のようだ。

これが本当の魔女なら恐らく士道達の敵だろう。だが着ているのは佐天なのでそれはないのだが……何というか、彼女に似合っているせいか……

士道「(か、可愛い……)」

不覚にも、そう思ってしまった。

佐天「………えっと、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんですけど」

士道「わ、悪い……」

何だろうこの出来たてホヤホヤのカップルのような雰囲気は。

そんな気まずい雰囲気なりながらも士道は聞きたいことがあった。

士道「この世界は何なんだ?」

佐天「多分どこかの王国みたいですよ?私はこの国の『神官』らしいですし」

士道「『神官』か……」

なるほど、と強く頷く。

士道「…………『神官』って何だ?」

何故なるほどと呟いたのかは不明だが、普通の人はそうなるだろう。日本人なら特にだ。

佐天「私もよく分からないんですが、何か重要なポストみたいですよ?私はこの世界で『魔法』が使えるので戦闘要員らしいですが」

佐天も知っていたわけではなくここにいる人に聞いて『神官』というものを理解した。

その際ここの人は不審に思ったが。

士道「…………そうか」

ちなみに『神官』というのは簡単に言えば自身が神に仕えるか、神を祀る施設に奉職する者のことを言う。現在日本に神官は存在しないため聞きなれないのも無理はない。

この世界の人間は
『魔法』が使える=神の力を使える=神に仕えてる
と認識したらしく、佐天を『神官』に任命したそうだ。

と、突然扉が勢いよく開かれた。

そこには息を乱しながら扉に手をかけている騎士がいた。

「た、大変です神官殿!!と、、、突然龍のような化け物が現れました」

佐天「え?化け物?」

「はい!ここから南に約3キロ……すぐそこです!」

佐天「分かりました。すぐに向かいます。先に行っててください」

「わ、分かりました!」

その騎士は焦りながらも勢いよく出て行った。

士道「一体どうして龍らしき化け物?が現れたんだ?」

佐天「それは触れちゃダメです」

士道「え?なんーー」

佐天「触れちゃダメです」

士道「……………………あ、はい」

なんだろう、佐天さんの背後からまがまがしいオーラが……まるで、この物語を創った支配人がネタ切れしたから無理矢『それ以上はダメ。ばいさくしゃ』理ーーって今の声は何だ!?俺の脳内に直s『物理で殴る!!』グハッ……





……あれ?俺何してたんだっけ?

佐天「どうしたんですか士道さん?」

士道「いや……なんか、都合の悪い夢を見たような気が……」

佐天「いや、さっきまで私と喋ってたじゃないですか」

士道「だよな……?」

佐天「何だが良く分からないですけど、士道さんも来てくれますよね?」

来てくれる?

えっと……確か龍が出たとか何とかの話だっけ。それで……

士道「え?俺も行くのか?」

佐天「当たり前です」

士道「いや、俺この世界じゃ……って現実世界でもそうだけど何の力も持ってないんだぜ?俺が行ったって足手まといだろ?」

佐天「ちゃんと主人公に相応しい剣があるから大丈夫です!」

サラッと主人公とか言わないで!ばいさくしゃ。まる。

士道「……何で剣なんかがーー」

佐天「それ以上はダメです」

士道「………………はい」

理由はわからないが、ここで深追いするのはダメな気がする。殴られるような気がする。何となくだが。

佐天「そんなわけで武器もあります。来てくれますよね?」

士道「でもなぁ……俺なんかが役に立ーー」

佐天「来・て・く・れ・ま・す・よ・ね☆」

佐天さんや、そんなとびっきりの笑顔で言われても背後から先ほどよりも大きいまがまがしいオーラが漂っているんですが……

士道「…………………はい」

佐天「聞こえないですね。ちゃんと大きな声で返事してください」

士道「全力で戦わさせてもらいます!!」

佐天「よろしい」

と士道が勢い良く答えると満足したのか先ほどの作り物の笑顔ではなく、心の底からの笑顔を見せてくれた。

その笑顔に、

不覚にもドキッとしてしまった。







佐天はクローゼットの中から服を取り出すと士道に着替えるように言って、その部屋から出て行った。

士道はオンボロな服を脱ぎ捨て、先ほどの騎士……よりも少し軽装な制服(?)を着た。



ーーーー
ーーー
ーー



佐天と士道はこの王国の宮殿の中の長い廊下を駆け足である場所へと向かった。

何故急いでいるのかというと、この国の王が部下たちに召集を掛けたのだ。

さっき士道と無駄話したせいで時間が押しているのだ。

士道「それで、その剣ってのはどこにあるんだ?」

佐天「この廊下の突き当たりの部屋にあるんですけど……その為には少し面倒なことがありまして……」

士道「面倒なこと?」

佐天「召集場所が王様が外国から来た王様とかの対応する場所なんですけど……それがこの廊下の途中にあるんですよ」

士道「…………ってことはそこを通らないと」

佐天「はい、武器は取れません。最悪手ブラで戦う可能性も……」

士道「…………マジ?」

佐天「…………マジです」

既に死の危機が迫っていることに、士道は妙な汗をかいていた。


ーーーー
ーーー
ーー




召集された場所でなんかいろいろ話していたがカットッ!!






佐天「そこ略しますか……」

士道「ん?どうしたんだ佐天さん?」

佐天「なんでもありません。それより……」

士道「どうしたんだ?」

佐天「…………むぅ」

士道「え?え?何でそんな不機嫌なんだ?」

佐天「…………行きますよ。さっさとやっつけちゃいましょ」

士道「何っ?何っ!?え!?」




……………………さて、ここで今の現状を説明しよう。

士道「これ、俺が悪いのか……?」

現在龍らしき化け物は南に10kmのところで暴れている。幸いそこは森の中なのでこの国で暮らす民には″まだ″被害が来ていない。

しかし、放っておけばいずれこの国に迫ってくるだろう。王様はこの国の問題を全て投げ捨てて宮殿内の『食客』や『宰相』などありとあらゆる人を集めて作戦を立てたのだ。

佐天「(士道さん……酷いです)」

もちろん戦うのはこの国の騎士、佐天などのような『神官』や他の国からとある事情で預かっている『食客』の戦闘員をつぎ込んだ。

そして、士道の扱いはというと。



王様『お前は利用価値がある』



と言われて戦うことを許された。

士道「(まあ俺を盾にするんだと思うけど……)」

分かっていても、いや分かっているからこそ今からその戦場に行くのは気がひける。というか嫌だ。

士道「どうして殺されに行かなきゃならないんだよ……」

だけどここに止めてくれる人はいない。

騎士たちの後方をダラダラと士道は歩いて行った。





士道「…………どうして佐天さんは不機嫌だったんだ?」

ーーーー
ーーー
ーー



グラァァァァォォォォ!!!

騎士たちが歩くその先では龍のような化け物が雄叫びを上げていた。

アレは人狼や鵺と同じようなタイプで頭が龍、身体が蛇のようになっており、その長い尻尾で森を荒らしている。

全長10メートルは軽くあるだろう。騎士たちの中には目の前の化け物に足が震え、止まるものさえいた。

それもそうだ。威圧感は勿論のこと、化け物が尻尾を振り回す度に勢いよく風が吹き付ける。その度にどうしても足が止まってしまう。

まるでこちらに来るなと言わんばかりに。




グラァァァァォォォォ!!!!!




さらに近づいて、より大きな雄叫びを上げた。

そしてこの騎士を纏めている騎士団長が大きく声を上げた。

「いいかお前ら!!あの化け物をぶっ倒す!!!作戦は宮殿内で話した通りだ!!!皆位置につけ!!!」

『ハッ!!!』

その声を聞いて整列していた騎士たちはあちらこちらへと散らばった。

佐天「私たちも行きましょう!」

士道「お、おう!」

士道と佐天も命令された通りに位置につく。



グルルゥゥゥ………



化け物も騎士たちの異変に気付いたようだ。先ほどまでの雄叫びが嘘のように静かになる。

そして。

「全員突撃ィ!!!」




騎士団長の声をキッカケに、化け物の討伐が開始された。


ーーーー
ーーー
ーー



正直言おう。

勝てるわけがない。




グラァァァァァァァ!!!!





戦闘が開始してから20分。こちらは攻撃を仕掛けるどころか防戦一方になりここ五分くらいは一切ダメージを与えれていない。

佐天「仕方ありません。私が本気出します」

士道「えっ!?」

いや、最初から本気を出せよ……と思ったが士道は攻撃手段が無いので逃げることしかしていない。そんな士道がそんな事を言うのは流石にダメだろう。

佐天が目を瞑り、手に意識を集中させる。すると周りの木々が徐々に揺れ出して行き、見えない何かが佐天の右手に集まっていった。

そして。

佐天「絶風波(エアロブラスト)!!」

そう叫ぶと右手から竜巻のようなものが化け物に向かって一直線に向かっていく。その勢いは周りの騎士たちを吹き飛ばしそうになるほど。

化け物も直接食らったのか初めてダメージを与えられた気がする。元にあの巨体を力で吹き飛ばしたからだ。

しかし飛ばしたと言っても数十メートル身体を引きずっただけ。あの巨大で固い表面の皮膚を傷つけるのにまでは至らなかった。

佐天「あぁもう!!」

龍のような化け物はその攻撃を食らって佐天の方を見た。

標的を変更したと言わんばかりに佐天を凝視しながら口から炎の塊を作り出す。

士道「ッ!?佐天さん!!」

思わず士道は走り出していた。その炎の塊は佐天にめがけて物凄い勢いで向かっていく。

士道「クソッ!!間に合えぇぇぇ!!!」





ーーーー
ーーー
ーー



風というものは応用が難しいように思うが実際はそうでもない。

風を操作すれば砂利やその辺に落ちているものを武器に出来るし、『噴射点』を作れば加速だって出来るし頑張れば空さえも飛べる。

あの炎の塊は風を使えば勢いは増すかもしれない。

だが、先ほど説明した『噴射点』を利用すればその炎の塊をバレーボールのように跳ね返すことも出来る。

簡単に言えば一方通行の反射のようなものだ。

佐天は手を前にかざして自分の身体より大きな『噴射点』を作る。他人から見れば何も無いように見えるが、佐天の手の前には確実に変化が起きている。

そう、このまま炎の塊がこちらに来れば『噴射点』に当たり、そのままバレーボールのように跳ね返って化け物の身体に一直線にーーー



と。




士道「間に合えぇぇぇ!!!」

自分の背後から雄叫びのような大声が聞こえた。

顔だけ後ろを向かせて見ると、士道が物凄い形相でこちらに駆け寄ってくるのが見て取れた。

佐天「(えっ……!?)」

佐天は困惑した。まさか、自分を助けようとしているのではないか?と。

一方通行の反射が自分の身体を膜のように覆っているのと同じように、佐天の『噴射点』も、一方通行の反射とは″厚さ″は違うが手に触れるような形で作られている。

つまり、このまま士道が自分の前に来てしまえば士道は炎の塊を食らい、『噴射点』は意味を無くす。無駄な犠牲を強いてしまう。

佐天「士道さん!私は大丈夫です!!このまま炎の塊を跳ね返す準備は整ーー」

士道「それでもだ!!このまま何も出来ないのは癪に触るんだよッ!!」

そんなのただの自己満足だ、と言いそうになったがそれを無理矢理喉の奥底に沈めた。







そうだ。

みんな、こんな士道の姿に惹かれたんだ。



上条みたいに喧嘩慣れしているわけでも無ければ一方通行みたいにチートのような能力を持っているわけでもない。

ただ助けたい。



それだけ。



でも、それが、そのたった一つの想いがーー




佐天「…………本当、士道さんって自己勝手ですよね」

士道「そんなの分かってる」

士道は庇うように佐天の前に出て両手を大きく広げた。

佐天「……もしその人が救いを望んでなかったとしたら有りがた迷惑ですよ?」

士道「それでも、本当に困っている人がいて、困っていない″かもしれない″とかいう理由でその人を見捨てるのは俺にはできない」

炎の塊はすぐそこまで来ているというのに士道は一歩も足を引こうとしない。

佐天「……本当、変な人ですね」

でも。

もしかしたら。

佐天「『絶風波(エアロブラスト)!』」







そんな士道に、佐天も惚れてしまったのかもしれない。








だからこそ、士道に対してモヤモヤしていたのかもしれない。








佐天は『噴射点』を解体して″元の風″に戻してから再び『絶風波(エアロブラスト)』を士道の肩に手を乗せるような形で放った。

それは炎の塊さえも押し戻し、炎の塊と『絶風波(エアロブラスト)』の二つの威力によって化け物は倒された。









その時の佐天は笑ってはいたが、どこか満足したようなしていないような、微妙な顔を浮かべていた。












 
 

 
後書き
まさかの佐天さんにフラグが立ちました 
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