東方叶夢録
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月夜の出会い
前書き
初めまして。n番煎じですがだいぶ前から構想していた東方オリ主人公モノを書き起す事にしました。
それなりに長い話なのでお付き合い頂けたらうれしいです。
《遠い記憶》
『うーん…』
『あら、どうしたの君。もしかして迷子?』
『かも、しれないです…』
『かも、じゃなくて確定でしょう…。私も一緒に探してあげましょうか?』
『ほんとですか!?』
『ええ、別に用事もありませんし』
『ありがとうございます!おねーさん!』
『お姉さん…いい響きねぇ。うふふ』
『どうかしましたか?おねーさん』
『いいえ、何でも。ところで君、名前は?』
『ふゆみやかなとっていいます。おねーさんは?』
『私は八雲紫。幻想郷の賢者ですわ』
『げんそーきょー?』
『私の家みたいなものですわ。それじゃあ探しに行きましょうか』
『…ところで叶夢はまだ小さいのに随分言葉遣いが綺麗で達者ね。お坊ちゃんなのかしら?』
『ううん、おぼっちゃんじゃないですよ』
『あら、じゃあどうして?』
『おかーさんのまねしてたら、こうなってました』
『へぇ…』
『へぇ、最近はこんなのもあるのねぇ』
『どうしたんですか?』
『ちょっと現代文化に触れて感心してたの』
『げんだいぶんかってなんですか?』
『あー…叶夢の年齢じゃわからないわよねぇ』
『うーん…みつかりません…』
『そうねぇ。ショッピングモールとかならインフォメーションセンターに行けば解決なんだけど。如何せん街中だものねぇ』
『どうしましょう…このまま見つからなかったら…』
『…私のお家に来る?』
『えっ…』
『私は歓迎しますわ。勿論叶夢が良ければ、だけどね』
『えっと…それは、ちょっと』
『…うふふ、なんて冗談よ。心配しなくても見つかるわ、きっと』
『そう、ですよね…』
『あっ!!おかーさん!!』
『えっ!?叶夢!?』
『おかーさーん!!』
『もう…どこに行ってたんですか。心配しましたよ…』
『ぐす、ごめんなさい、おかーさん…』
『いいんですよ。こうして見つかったんですから…』
『ふふ。良かったわね、叶夢』
『あっ!ゆかりおねーさん、一緒に探してくれてありがとうございます!』
『まあ、息子に付き添って頂けたんですね。ありがとうございます』
『いえいえ、お気になさらず。見つかって良かったですわ』
『あの、ご一緒にお茶でもどうですか?何かお礼をしたいのですが…』
『いえ、お気持ちだけで結構ですわ。それじゃあまたね、叶夢』
『うん、さよなら!ゆかりおねーさん!』
『ふふっ…叶夢…いつか、必ず……』
《現代》
夜。
月が綺麗な夜だった。
雲一つなく星が瞬き月で影が出来る程だった。
当然だろう、ここは田舎なのだから。都会と違い明かりがない。
「ほんと、どうしてこうなったんですかねぇ」
この田舎に来てから数日。冬宮叶夢はここに来た経緯を軽く思い出していた。
とある高校の入学式の日に謎の病気で倒れた生徒がいた。その病気は不思議なものでこれといった症状はないが眠り続けるというものだった。そしてその生徒は1年以上眠り続けたという。そしてある時突然目覚めたのだ。点滴により栄養的な問題はなく何故かあまり筋肉も落ちていなかった。
特に異常は無かったが父親の提案で療養とリハビリを兼ねて空気の澄んだ田舎に一時的に移住しようということになった。1年以上眠っていたとなると当然その生徒は高校を退学になっており今すぐ何かをすることもできないので父親に従った。
それが冬宮叶夢という少年である。
「はあ…」
月を見上げながらため息をつく。未だにいまいち実感がわかないのだ。
「月が綺麗ですなぁ…」
と、軽く現実逃避していると
「そうねぇ。綺麗な月ねぇ」
突然後ろから女性の声がした。
「えっ」
慌てて振り向くとそこにはあまり見たことがない格好をした女性がいた。全体的に白と紫で彩られておりアクセントに赤いリボンがつけられている。そして夜なのに傘を持っていた。
本人も日本人とは思えない金髪。そして柔和でどこか妖しげな笑み。決してこのような田舎にいるような人物ではないはずだ。
「こんばんは。いい夜ね」
「あ、こんばんは」
反射的に挨拶を返すも内心戸惑っていた。先程まで自分ひとりのはずだったのにいつの間に。音も気配もなかった。
「ええと、ご近所の方ですか?俺はちょっと前にここに越してきたものでして…」
「ええ、知ってるわ。冬宮叶夢、よね」
背筋に軽く怖気が走る。なんだ、この人は。何故自分の名前を知っているんだ。
「ああ、怖がらないでちょうだい。別に取って食おうなんて考えてないわ」
そんなこと心配してなかったけど心配すべきかもしれない。直感だがこの人は何か違う。人の形をとった何かのように思える。
「それじゃあもう夜も遅いし俺は帰ります、それでは」
そして叶夢がとったのは逃げの手。しかし
「あら、連れないわね。もう少しお話していきましょうよ」
「……え?」
目の前にその女性がいた。おかしい、この人からさっき離れようとしたはずなのに。何故、目の前に。
「お話、しましょう?」
身長がさほど変わらないので少し身をかがめて上目遣いでそう言ってくる。
「…わかりました」
逆らえないと本能と頭で悟り諦め話すことにした。
「そう、ありがと♪」
そうすると女性は気を良くしたように笑った。
女性の名前は八雲紫というらしい。
れっきとした日本生まれらしく何故金髪なのかと聞いたら「金髪の日本人もいるわよ」とのこと。お互いの自己紹介で少し安心感を得た。
そこから話したのは普通の世間話だった。何故ここに来たのかとかこの田舎についてとか。普通に会話をしたことである程度この人に対する恐怖や警戒心は薄れていた。
「それじゃあ叶夢、あなたはこれから何をするの?」
すると突然先程までの笑みを消して真剣な表情でそう言ってきた。
「何って…療養とリハビリですかね?」
それ以外に目的は無いので叶夢はそう答えるしかなかった。
「そうじゃないわ。病から復帰し療養する、ここまではいいわ。けどその後は?」
「……」
考えていなかった。思えば叶夢は高校中退のニート状態であり勉学も中卒のものだ。ここから大学に行こうにも相当勉強しなければならないし就職しようにも世知辛いこの時代中卒を雇ってくれる職場が都合よくあることもないだろう。ブラックなら別だが。
「あー…現実から逃げたい…」
「ふふ、典型的なニート思考ね」
そう言うと八雲紫は立ち上がり少し歩いて振り返りこう言った。
「現実から逃げたい。その願い、叶えてあげましょうか?」
少し理解するのに時間を要した。叶えるだって?現実から逃げたいっていう俺の冗談交じりの願いを?
「えっと、どういう事ですか?」
「どうもこうもそのままの意味よ。貴方をこの現実から逃がしてあげるって言ってるのよ」
冗談だろうか。それなら笑うべきだろうか。真剣にそんなことを考えていると
「冗談ではありませんわ。私にはそれができますもの」
自信たっぷりという様子で笑みをたたえている。元々何処か妖しい人だと思っていたが笑っている時は特にその妖しさや底の見えなさが顕著に表れている。
「心が読めるんですか」
「あら、そんなこと出来ませんわ。私は覚ではありませんから」
胡散臭い。そう率直に思った。だがこの時叶夢の心に好奇心が芽生えた。この人は何処か得体が知れない。もしかしたら本当に現実から逃がしてくれるのかもしれない。方法はわからないが。
「殺す……とか言いません?」
「うふふ、貴方こそ冗談が上手ね。そんな物騒なことはしませんわ」
何故だろう、全く信じられない。しかし話している内に好奇心はどんどん広がってゆき気づけばこう言っていた。
「じゃあ、お願いします」
「ふふ、ありがとう」
何故かお礼を言われた。
「それじゃあ、少しの間目を閉じて。私がいいと言うまで」
「はい」
言われた通り目を閉じる。そして考える。今から自分の身に何が起こるのか、現実から逃がすとはどういう事なのか。一体この人は何者なのか。
「はい、もういいわよ。目を開けて」
思考を遮断し言われた通り目を開ける。
「え」
何が起きたのか。
「ここは、何処?」
先程まで見ていた風景とは明らかに違う。
「八雲さん?」
八雲紫は叶夢の数歩前におり背を向けている。そして振り返り、こう言った。
「ようこそ、幻想郷へ」
後書き
読んで下さった方ありがとうございました。この話には1部独自解釈が含まれています。例えば、紫さんは幻想郷と外の世界をそれなりに自由に行き来出来るとか。それでも良ければ今後もお付き合いください。
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