逆襲のアムロ
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36話 暴走 3.10
* 砂嵐の根源
黒いモビルスーツはただひたすらと徐行運転でラー・アイムを目指していた。コックピット内には満身創痍なシローが無理やり搭乗させられていた。
「・・・」
このモビルスーツにはある特徴があった。一つはパンドラボックスに似たサイコフレームの結晶。これによりモビルスーツの制御を自律AIの様に可能にしていた。そして周辺の意識の汲み上げ。反戦、厭戦意識が高まるほど、人の念が強くなる。これを吸い上げてはサイコミュニケーターへの伝達速度を上げていった。
それで可能にしたことが2つあった。ひとつはこの砂嵐という天候。もう一つは土塊から生まれたシローの新しい体。
モビルスーツ内は培養液とも言えるもので満たされていた。元々あるドライブモードを耐える為の人体無害な水溶液だが、このモビルスーツは創造性を発揮しては乗り手にプラスになるようにと構築していく。それよりも優先事項としては周囲の期待に応えるということ。
最もこの場合の期待はエゥーゴやティターンズらとは相容れないものだった。それは抵抗できないものの願い。生きている者、死んで逝ったもの。恨みつらみと積もるものの想いは何よりも感受性があって刺激的なもの。要するに周囲の火力を要する全てのものがターゲットとなっていた。
故に砂嵐の直近で居る部隊がラー・アイム隊だった。
* ダカール上空 サイコアプサラス
夕暮れになり、戦闘継続も限界に迫ろうとしていた。エルランは圧倒的な火力による攻撃で今日中にダカールを火の海にする算段できていたが、アムロ、カミーユらの波状攻撃による抵抗でティターンズ・エゥーゴの混成軍がサイコアプサラスの空域に到達するに時間を稼がれてしまい、現状地上・空とダカール守備防衛隊に進軍を阻まれていた。
ゼロの援護もカミーユたちを攻撃を防ぐに手一杯だった。戦いは数だと言うことをエルランは改めて思い知らされていた。
「1個のビットでの攻撃は1個のモビルスーツほどの火力は無い。戦力に差が出てきたか・・・」
首都防衛隊長のブルタークも怒り狂う上司ウッダー司令により、サイコアプサラスの撃墜を厳命されてバイアランカスタムに搭乗して戦闘に参加していた。ゲタを履くジェガン部隊を叱咤していた。
「いいか。連邦に楯突いた狂信者を必ず討ち果たせ!この世から塵に一つ残すな!」
一つ一つの攻撃がサイコアプサラスに放たれてもビクともしないが、それはサイコフィールドによる斥力場の発生による。端から端までの斥力場の発生はサイコアプサラス自体の前進を阻んだ。エルランはそれを危惧していた。
かといえ主砲の射撃は戦闘効率的にこの部隊の群れに放つには勿体無い。やきもきしながらの戦闘をエルランは強いられていた。
既にアムロ、ユウも戦闘に加わり、ゼロに対峙しながらも5機でのウェイブライダー突貫の隙を見出す算段を戦闘しながら練っていた。
カミーユは戦況を見て、これなら目の前の巨大な敵に立ち向かえると確信した。
「よし。アムロ中佐!ティターンズ、エゥーゴとも戦力がこの空域に集まりました。今がチャンスです」
アムロはカミーユの意見に賛同した。
「カミーユの言う通りだ!ユウ、コウ、キース!皆で奴の腹に風穴を開けてやるぞ!」
「了解!」
「OK!」
「・・・」
アムロを戦闘にウェイブライダー突貫を矢印の様な隊形でサイコアプサラスに向かって行った。
エルランもその光景を目の当たりしにしていた。戦況が巨体過ぎるが故に簡易に見て取れる。その反面回避行動という手段がないのがこの機体だった。
エルランは突貫してくるかの火力はこのサイコアプサラスを破るだろうと計算していた。エルランは本当はダカールで使用しようとしていたある兵器をここで使うことを決めた。
「已む得んな。姫よ・・・サイコフィールドとI・フィールドを全展開し防御に備えよ。この爆発は尋常ではない」
エルランは裏取引である支援物資を受けていた。それがサイコアプサラスのあるミサイル砲門より出でてアムロたちへ向けて放たれた。
アムロはミサイルがこちらにむかってくるのが分かった。その瞬間おぞましい悪寒に包まれた。そして後に続く4機に向かって緊急回避ビーコンを打った。
「このミサイルは受けてはダメだ!上空へ急いで避けろ!」
アムロは急停止、上空へ飛びのいだ。カミーユもその悪寒を悟ってアムロと同様に逃げた。ユウ、コウ、キースもそれに従う。
ユウは苦虫を潰すような感じで顔を顰めていた。コウ、キースは上官の行動に素直に従いながらもたかがミサイル1機に取る行動としては異常さを覚えた。その異常さを両者とも考えて、ある最悪な結論に至った。キースがボソッと呟く。
「中佐・・・まさか。アレですか?」
コウがキースの言いたいことに補足した。
「人類史上最悪な破壊兵器・・・」
カミーユが充分な高度が取れたと思い上空でホバーリングした。
「そうだ。地上で弾けると向こう100年は住めない土地と化す」
そして5人の眼にその弾ける閃光が遥か下で見えた。アムロが結論を言った。
「核だ・・・」
・・・
サイコアプサラスの眼前は核のエネルギー波が津波のように襲い掛かっていた。
巨体故に避けられないが、その分の防護フィールドが核の余波を十分防いでいた。
目の前が晴れるまで多少の時間が掛かる。
「フフフ・・・一網打尽とはこういうことを言う」
通信でゼロから連絡は入って来た。
「マスター、後方デッキにおります。着艦許可を・・・」
エルランは流石にクシャトリアの装甲ではこの余波は全て受けきれないだろうと思い、後部ハッチを開けてクシャトリアを収容した。
* ダカール防衛隊司令部
ウッダーらも核の光を確認できていた。そしてそこにティターンズの防衛部隊の9割方を向かわせていたことも知っていた。自身が命じた指令だったことも。
「・・・状況は・・・」
ウッダーは小刻みに体を震わせて、オペレーターへ確認した。その報告は余りに無惨だった。
「部隊のほとんどが消滅しました。ブルターク部隊長の信号も途絶しております。恐らくは爆心地に・・・」
ウッダーは席に倒れ掛かるように座り、目標について確認した。
「で、敵は?」
「依然、健在でこのダカールへ向かってきております」
「そうか・・・」
ウッダーは憔悴しきっていた。頭の中である予測が出来上がっていた。あの巨体にはまだ核があるとして、このダカールへ落とすつもりだ。守備隊もほぼ壊滅し麾下の戦力で敵を抑えることができない。できることは・・・
ウッダーは最期の仕事をすることに決めた。オペレーターへ指令を出した。
「全軍、ダカールを放棄する。全ての輸送車両はダカールより人員を乗せて四散し、各基地へ撤収すること。これが最期の命令だ」
オペレーターとそこにいたスタッフが皆驚いてウッダーを見た。ウッダーは視線が集まった事に軽く嘲笑した。
「聞こえなかったか?これが上官としての最期の命令だ。皆逃げろ!」
そう言い切るとウッダーは胸よりブラスターを抜き、こめかみに当てて銃を放った。
ウッダーはその席で自決を遂げた。その意思に全スタッフが最敬礼をし、皆撤収へ向けて動き出した。
軍としての統率、指揮系統を失われた為、司令官より下の下士官達が敵前逃亡と見られず退却できる大義名分を得れた。
その情報はアムロら、ラー・アイムの者達もオープンチャンネルから即座に受信できていた。
アムロはしてやられたと悔しい表情をし、カミーユは冷静に状況を分析し、他3人はその光景に唖然としていた。
カミーユはラー・アイムへ無線連絡をしていた。
「ラー・アイム!聞こえていますか!戦況は終局面です。ゲリラは既に敗走し後は・・・」
通信を受けたラー・アイムはシモン経由でシナプスへ伝わった。既に戦闘ブリッジへ移行しているクルーは皆ノーマルスーツを着用していた為、スーツに通信用マイク・イヤホンが内蔵されていた。シナプスはそれを用いカミーユと通話した。
「カミーユ、こちらは後方からの謎のモビルスーツを引き連れてそこへ向かっている。お前の言は正しい。後はお前らの空域でダカールの戦闘は終わる。核の爆発は確認済みだ。幸い、人の住めない砂漠のど真ん中での爆発が住民への被害は皆無だ。お前らにその謎のモビルスーツの映像を送る」
5人共シナプスからのLIVE映像を映し出された。ユウ、コウ、キースは目を丸くした。アムロとカミーユは眉を潜めた。
「まさかサイコフィールド・・・」
アムロがそう呟くと聞いていたカミーユが頷く。
「ええ、サイコフィールドの嵐ですね。斥力場と引力場が入り乱れて触れるものをねじり切ったり弾き飛ばしたりしそうですね」
カミーユがそう言ったことにアムロが驚いた。
「カミーユ、知っていたのかサイコフレームの可能性に」
カミーユはワイプで映るアムロを見て再び頷く。
「最近、ナガノ博士からメールが届きましてそれで・・・」
ワイプに映っているアムロが納得した。
「親父と博士は同様の研究をしているからな。親父の警鐘はそちらからかもしれない」
するとカミーユとアムロへ別の通信が入った。味方の信号だったので2人とも回線を開いた。
「アムロ、カミーユ、傍まで回収に来ている」
「ハヤトか!」
通信の主はハヤト・コバヤシだった。しかし回収と言われた意味が不明だった。それもハヤトが間髪入れず説明した。
「ガルマ議員からの要請だ。ブレックス議員も承諾し、既にシナプス艦長もそれに従って行動中だ。オレは元よりニューヤークからガルマ議員からいつでもスクランブルでいて欲しいということで大西洋置沖にラー・ヤーク(クラップ級)とクラップ2隻と共に待機していた。既に事態は宇宙へと移る。お前達らを回収しアーティジブラルタルから宇宙へ上げる」
アムロは根本的な説明を欲した。
「ダカールはどうなる!」
「既に情報交換が終えて作戦は決まっている。あの砂嵐をあの巨体へぶつけて終わりだ。互いのサイコフィールドが相殺し合い激突してダカールへの脅威がなくなる」
「・・・という保障など確信ないんだろ」
カミーユが腕を組んで言った。アムロも同感だった。ハヤトはその作戦に至った経緯を伝えた。
「カミーユの言った通り根拠はない。しかしダカールは既に市民含めて皆退避が完了しつつある。連邦首脳らもティターンズ派とエゥーゴの経済リベラル寄りなものたち含めて皆殉職した。政治機能が今停止している。要するにダカールに固執する必要がなくなったのだ」
だが市民らは強制的な疎開だ。少しでも維持した想いがアムロにあった。カミーユは戦略的にダカールでの戦闘が終わったことについて理解した。しかし被害の甚大さから私情を挟むことにした。
「ハヤトさん。もう少し時間いただけませんか?」
「カミーユ。分かってる。決着を付けたいのだな」
「はい」
するとアムロも便乗した。
「オレもだハヤト。あの砂嵐と共にサイコミュがもたらした影響の一角をこの眼で見ておきたい。それに・・・」
アムロは少し間を置いて本音を伝えた。
「地球を汚染しようとするあの巨体をそのまま野放しにしておけない」
カミーユもアムロの言を聞いて「同感です」と答えた。
「元々、ジブラルタルからの打上げは2日後だ。ここの戦闘の終局もあと1時間もない。ラー・アイムが誘導してあの巨体へ向かっているからな」
ハヤトは快く了承した。既に計算に織り込まれていたようだとアムロ、カミーユともに思った。
その会話を通信で聞いていたキースが腕を組んで考えていた。
「しかしながら・・・」
コウがキースが呟いた声を聞き、問いかけた。
「どうしたキース?」
「ああ・・・何であの砂嵐は真っすぐラー・アイムへ向かっているんだ?」
アムロとカミーユは周囲の環境を自身の能力を研ぎ澄ませて感じ取った。両者とも汗がたらたらと滲み出てきた。
「アムロ中佐・・・」
ワイプで気持ち悪そうなカミーユの姿を確認してアムロは頷いた。
「ああ。この戦場の憎しみがあの砂嵐の根源だ。このダカール周辺の全ての兵器を塵にするまでという意気込みだな」
その話を聞いたキースは半笑いしていた。
「そんな・・・ポルターガイストですかあ~」
コウも相手が怨念まがいの者だという両エースの意見に理解不能だった。
「アムロさん、カミーユ隊長まで。現実的でないことを・・・」
ユウは相変わらず沈黙していた。そしてひとりウェイブライダーでサイコアプサラスへ向かって行った。その姿を見たキースは慌てて声にしていた。
「お・・・お~い。何処へ行くんだよ~」
アムロとカミーユはユウの行動が正しいと感じた。今できることはこの戦闘の決着。それはサイコアプサラスの撃墜だった。砂嵐はこの一連の戦闘ではあまり関係がないことだ。
アムロ、カミーユはユウの後を追ってサイコアプサラスへ天上より急降下していった。
コウも上官らの行動に即座に反応し降下していった。取り残されたのはキースだけだった。
「あ~もう。良く分からないよ。とりあえず後を追うしか・・・」
すると背後に気配すら感じさせる事無く謎の機体が浮いていた。
キースはその気配を陽の影で気が付いた。
「え・・・」
キースとの交信が途絶えたのはアムロらがサイコアプサラスと交戦に入った後だった。
* 地球軌道艦隊 ドゴス・ギア
左翼を犠牲にして強制的な戦闘に持ち込んだジャミトフたちはそのつけを払っている最中だった。
残りの右翼と本隊の半数を動員してエゥーゴ・ネオジオン混成艦隊を包囲殲滅に持ち込もうとしていたところネオジオンの別動隊により左舷より電撃的な攻撃を受けていた。
艦隊は艦艇らから構成されており、横からの攻撃が弱点だった。バスクが奥歯を噛みしめていたが、ジャミトフは違う事態の知らせにより座席の肘掛を指で繰り返し叩いていた。それはジャミトフの秘書官からもたらされた秘匿通信によるダカールからの知らせの為だった。
「・・・バスクよ」
「はっ」
バスクはジャミトフが口を開いた事に焦っていた。不意を突かれた大体失敗の状況において、この上官が発する言葉は大抵叱責だった。しかし思いもよらぬ事をジャミトフは口にした。
「地上から悪い知らせだ。コリニー議員がダカールの戦闘で亡くなられた」
「は?」
バスクは一瞬よろめいたがすぐさま態勢を立て直した。ジャミトフは追加補足した。
「そして我々の支持する政治的な派閥らも一緒に戦闘で無くなったそうだ。更に良くないことにエゥーゴ派閥は生き残った。意味することはわかるか?」
バスクはティターンズの存在意義が失われたことを今知ってしまった。
この組織ティターンズは政治体制で生かされているものだった。それを知った正規軍など誰もティターンズの指示なんか聞かないだろう。
「つまり短期決戦ですな」
ジャミトフは首を横に振った。
「違う。捲土重来だ。全員に戦闘停止を命じろ」
「は?」
バスクはジャミトフの指示に戸惑いを覚えた。ジャミトフはそんな部下を叱責した。
「バカか。元は連邦同士の戦いだ。誰も望んでおらん。生きて尚勢力を温存するのだ。いきなり我々を何か罰し処分するにはエゥーゴだろうが連邦だろうができやしない。民主国家だからな。しかし体裁は必要だ。イーブンで終わらせることが重要だ」
「成程。早速皆に伝達します」
バスクは振り向きオペレーターたちへ伝達した。その姿を見てジャミトフは額に手を付けていた。
「(今できることはアースノイド主義の維持だ。このままどのみち不都合な情報はとどまる事知れず蔓延していくものだ。いずれは戦闘にならなくなる。その前の布石を打たねばならぬ)」
するとバスクが狼狽えている姿をジャミトフが目撃した。ジャミトフは遠くながらもバスクを呼び掛けた。
「どうしたのだバスク」
「あ、閣下。敵の別動隊の攻撃によりミノフスキー粒子が濃すぎて通信が不可能です。その部隊を駆逐せねばなりませんがその部隊が・・・」
「奴らが何なのだ」
「奴らが目前に迫っております!」
ジャミトフは唸った。降伏の意思を見せれば彼らは戦闘を止めるだろうが、今後の動向としては戦闘の停止を両軍に呼びかけることが組織維持について大事なことだった。敗軍でないことがジャミトフの中の条件だった。こうも戦闘になった状態、核も使用した状態で敗軍に堕ちることは組織としての求心力が失われる。
「バスクよ。本隊の防衛線で何とかならんのか?」
「U字編隊で半包囲網を形成しつつありますが、それ以上の敵の進軍速度に各艦混乱しております。我が軍は大軍故の行動、連携の遅さが裏目に出てしまい、抵抗するにも遊軍が多すぎます。」
「奴らの部隊はそうは多くない。奴らは死ぬ気か・・・」
ジャミトフには自殺願望はない。しかし突撃を掛けてきたネオジオンの別動隊は特攻だった。こう覚悟を決めた敵は存外しぶとい。ジャミトフはバスクにネオジオンの別動隊包囲殲滅の指示を迅速に完結させるよう告げた。
* ネオジオン別動隊
全モビルスーツが出撃し終えていた。連邦地球軌道艦隊本隊横腹を突くような突撃により戦場は敵味方問わず狂乱の極みにあった。ランバ・ラルはクルーは四方八方光の渦に居るような感覚だった。
ラルは操縦桿を握り、沈みゆく友軍の艦を見届けては次は自分かと思いふけっていた。
「ふむ、已む無し。敵旗艦までの距離は?」
既にこの艦にはランバ・ラルとハモンの2人だけだった。他の信頼おけるクルーは別の艦で操舵していた。その他のクルーは突撃時に全て脱出艇で退避させていた。
「あと時間で10分もないわ。モビルスーツ隊が往く道を案内してもらえているわ」
「そうか・・・。彼らにも生きてもらわねばならん。旗艦撃沈後本艦は彼らの脱出の為の殿を務める」
ハモンは夫の覚悟にクスッと笑った。ラルは嫌な顔をした。
「何が可笑しい?」
「いえ。嬉しいのですよ。貴方があのジオン独立戦争時に不本意ながら戦っていた姿からみたら晴れ晴れしさが満足そうで・・・」
ラルは高らかに笑った。
「そうだな。信念を貫ける立場でこうして戦場で逝けるのだ。武人としては誉れだ」
すると、モニターにクランプの姿が映った。ラルは定時連絡と思い答えた。
「どうだ状況は?」
クランプは余裕をある笑みで答えた。
「司令。この奇襲は絶好ですよ。友軍にしても優に数十艦生き残ってます。最も敵さんの残数は優に数百はありますが」
「統率が取れきれず遊軍と化しているんだな」
ラルはクランプの言いたいことを看破した。戦闘状況も把握はしているので敵の後手後手対応にラルも嘲笑を禁じえなかった。
「おっしゃるとおりです。良い知らせに先発のハマーン、ガトーらの部隊が敵の包囲網形成を遅延させております」
ラルは頷いた。
「よし。このまま敵旗艦ドゴス・ギアを・・・」
モニターに捕捉した。肉眼でもだ。しかしながら目視できた距離と索敵モニターとの距離差が合わない、そうラルは感じたがその誤算が正しかった。
ラルの乗艦に映るクランプも目視できていた。そのドゴス・ギアの巨大さに驚いた。
「なん・・・なんなんだ。ドロスなんか比じゃないぞ・・・」
ラルは表情を変え、深呼吸をした。
「さていくつの艦がアレに突っ込めば沈むのか・・・」
大艦隊の中で佇む大戦艦。旗艦の相応しい存在感だった。
ハマーンが操るキュベレイは連邦艦艇から出てくるジムⅢらをモグラ叩きの様に撃ち落としていた。後続で続くギラ・ドーガ部隊も同様だった。
「もう少しだな」
ハマーンは息を切らしていた。ラルの艦隊を進軍させるためにかなりの速度で無理やり連邦を攻撃していた。攻撃の仕方がただの嫌がらせのようなものなので戦力を削るものでなかった。危惧することは態勢を立て直されたらば戦力で押しつぶされるということだった。
「物凄く非効率な戦闘だが致し方ない。しかしながら・・・」
ハマーンもドゴス・ギアを目視で確認できていた。
「ここまで来たのだ。アレを落とす事だけに全力を尽くす」
ハマーンは部隊をまとめてドゴス・ギアへ通ずる道を少しずつ開けていった。
ガトーはハマーンとは逆側で同様に行軍していた。
ガトーはハマーンとは違い、ノイエ・ジールの圧倒的な火力で戦艦らを悉く撃沈させていった。
アレキサンドリア級、マゼラン級、バーミンガム級などクローアームとビームサーベルらで切断し、破壊させていった。次で何十隻目かはもう記憶にない。
「はあ、はあ・・・次!」
ガトーは気迫に満ちていた。傍にいたケリィ、カリウスも高揚していた。
「少佐!こんな戦に参加できて感無量です」
「フッ・・・ガトーに付いてきて運が良かったな。生きてこのような大戦の先陣に立てるのだからな」
ガトーは部下らの言に微笑し、士気をさらに高揚させた。
「さあ、我らの戦を連邦にみせてやるのだ。目標はあの巨大戦艦だ」
ノイエ・ジールが指し示す方向にドゴス・ギアが映っていた。
「さて行こうか」
ガトー部隊も一路ドゴス・ギアへ進んでいった。
* ドゴス・ギア
バスクは包囲網の完成をジャミトフに報告した。ジャミトフは満足そうにしていた。
「では早速駆逐しろ」
ジャミトフは冷徹にバスクに命じた。
「はっ、本艦はこれより微速後退致します。その後かの部隊を奴らの後方より折りたたむの様にして殲滅致します」
「上等だ」
バスクは手を上にやり、下へ振り下ろす。
「ファイアー!」
その掛け声でネオジオンの別動隊は砲撃の嵐に晒された。
* エンドラ級 ランバ・ラル
ラルの艦艇は砲弾の嵐のど真ん中にあった。しかしながらラルを守るように艦艇が方錐陣形取り、ドゴス・ギアへ向かっていた。ラルは攻撃の振動に耐えながらも船を操っていた。ハモンも席にしがみつきながらもオペレーターとして状況把握に努めていた。
「あなた!損傷率が15%超えたわ。たった3分でよ!」
「わかってる!あと少しなんだ・・・」
ラルの艦艇の外側から華々しく撃沈していく多くの友軍。全てはラルに付いてきた戦友たちであった。
その中でも古参の1人のアコーズから連絡が入った。既にアコーズの艦はブリッジがボロボロだった。
アコーズは頭から血を流しながらもラルに敬礼していた。
「・・・司令。今生の別れとなります。我が部隊が散開して道を創ります・・・」
通常時ならば「バカを申せ!」と怒鳴りつけるところだがラルはこの事態に言葉がでなかった。誰かがそうせねばこの集中砲火から逃れられない。
囮の部隊が砲火の的となり爆破四散している間はビームを通すことはない。輝く火の粉がビームを透過させないためだった。
通信は一方的に切られて、ラルはうなだれていた。
* ハマーン隊
集中砲火で狙われたのは艦隊だった為、自身の部隊の空域内は通常戦闘で特別危機的ではなかった。
しかしながら、艦隊の包囲集中砲火を部下から聞いた時には青ざめた。
「・・・あのジジイ・・・最初からこれを知って狙っていたのか」
ラルの率いる艦隊が囮でモビルスーツ隊でドゴス・ギアを撃沈させることをハマーンは今気付かれされた。傍にいたギラドーガを駆るマシュマー・セロがハマーンへ指示を仰ぐ。
「どういたしますか?」
「知れたこと。あのデカブツを沈める。いくぞ!」
そうハマーンが言い放つとキュベレイを先頭に部隊は目前のドゴス・ギアへ向かって行った。
ドゴス・ギアに付くや否やギラドーガらの一点集中砲火で装甲に穴を開けようとハマーンは命じた。
その砲撃はドゴス・ギアの主砲によって一撃で四散し、且つ何機かのギラドーガが爆砕した。
その衝撃でキュベレイが軽く吹き飛ぶ。
「ぐっ・・・なんて火力・・・」
あんな装甲と火力にファンネルが通用する訳が無いと悟ったハマーンは接近戦で薄皮を剥がすようにサーベルで切り刻んでいた。ギラドーガらも持てる火力でサーベルやグレネードなど用いては装甲に穴を開けようと試みた。しかしながらこの戦艦の砲門の数が並ではなく対空砲火により次々とギラドーガは撃ち落とされていった。その光景を見てハマーンは唇を噛みしめていた。
「化け物め・・・」
ハマーンは危険を承知でブリッジを狙おうとした。そこに今回の戦闘の元凶がいる。その姿をハマーンは対空砲火を掻い潜り、モニターに収めた。
「バスク・・・それにジャミトフ!」
ハマーンは手持ちのファンネルでブリッジを狙った。その戦慄にドゴス・ギアのクルーが震えた。バスクとジャミトフを除いて。ブリッジでジャミトフが軽く嘲笑った。
「フッフッフ・・・まあよくやった方ではないかな」
バスクも頷き同意した。
「そうですな」
その光景にハマーンは悪寒を感じ、さらに危機を感じた。ブリッジの傍に対空砲が備えられていた。
それがハマーンとハマーンのファンネルを撃ち落とした。
「きゃああ・・・」
ハマーンのキュベレイは撃墜は免れたものの、両腕と両足が破壊されて宇宙に漂っていた。
戦闘不能に陥ったキュベレイを容赦なくドゴス・ギアの主砲が狙う。それを間一髪ガトーがキュベレイの前に出た。
「やらせんぞ!」
ドゴス・ギアは主砲を放ち、ノイエ・ジールへ目がけて浴びせた。その火力はI・フィールドを撃ち抜き、多少の軽減で入射角度がそれノイエ・ジールの右腕全てを消失させた。
「ぐっ・・・何と言う火力・・・」
ガトーはノイエ・ジールがまだ戦闘可能なことを確認して、ドゴス・ギアへ突撃していった。
「ぬあわーーーー!」
ガトーの咆哮はその気持ちがノイエ・ジールに宿ったかの如くドゴス・ギアの対空砲火をもろともせずドゴス・ギアの主砲の一つにノイエ・ジールを激突させた。
「ふ・・・フハハハハ・・・これで一つ潰したぞ・・・」
ガトーは衝突の衝撃で気絶した。それを見たガトー隊のカリウス、ケリィらはガトーを救出せんとドゴス・ギアへ詰め寄った。
「少佐!」
「ガトー!生きてろよ」
そんな救助隊にも容赦なく対空砲火を浴びせていた。次々と撃ち落とされていく仲間を後目にカリウスとケリィはノイエ・ジールへとたどり着いた。
「ケリィ大尉!引っ張り出しますよ」
「ああ承知した」
ギラドーガのバーニアを最大にしてノイエ・ジールを何とかドゴス・ギアのめり込みから引っ張り出した。その瞬間ガトーは気絶から立ち直った。
「は!・・・カリウス、ケリィか・・・」
ガトーがそう呼び掛けると「はい」とカリウスが答えたのと同時にドゴス・ギアの副砲が斉射された。
ノイエ・ジールの生きているI・フィールドで全員の撃墜は免れた。しかしその衝撃でカリウスとケリィはその場から吹き飛ばされた。そしてガトーが一人ドゴス・ギアの照準に当てられた。
バスクがほくそ笑み、撃墜の命令した。
しかし事態はまたもや変わる。ガトーの背後よりビーム砲の斉射三連がドゴス・ギアへ浴びせられた。
数十の対空砲がそれで破壊された。
攻撃の衝撃がドゴス・ギアを襲い、バスクはよろめき、ジャミトフは席にしがみついた。
「まさか・・・あの包囲網を・・・」
バスクは目の前のモビルスーツに囚われて、見事突破してきたラル達に気が付かなかった。
ジャミトフは椅子の手もたれを思いっきり叩く。
「バスク!どうにかせんか!」
ジャミトフに叱責されたバスクは目の前の艦艇らの進軍を止めるべくドゴス・ギアの砲撃を命令した。
「や・・奴らをこれ以上進ませるな!ここで討ち果たせ!」
ラルの艦体は残り9隻となっていた。後方よりバスクの包囲網による何百隻という艦艇が追撃していた。
ドゴス・ギアも含めて最後の集中砲火を浴びせた。その時信じられない現象が起きた。原因はラルの傍を漂う戦闘不能なキュベレイからだった。
ハマーンはどこにいるか不明瞭な感覚に襲われていた。ただ周囲の思念を媒介に武人の境地とも呼べる「無我」にいた。
「・・・何故、争っては・・・こんなに人が散る必要があるのか・・・」
ハマーンは信念というものを勿論持っていたがそれが戦いを誘う原因になっていると悟った。
争う必要がなくなるには共存する想いを皆知らなければならない。皆と繋がらなければならないとそんな考えが頭に流れ込んでくる。その過程でこの空域にある残留思念や生きる者の力などキュベレイは吸い上げては残り9隻の艦隊とハマーン、ガトーの部隊の残存者らを青白いオーラで包み込み、外からの砲撃を無効化していた。
その現象にジャミトフとバスクは腰を抜かしていた。
「あ・・・有り得ん・・・」
ジャミトフはそう呟くと席から崩れ落ちそうだった。そしてその光は真っすぐドゴス・ギアを侵食していく。その光の暖かさにジャミトフとバスクは息を飲んだ。
意識が2人に流れ込んでくる。そしてそれを理解しまいと抵抗していた。その我慢もそう長くは続かなかった。次の瞬間一瞬にしてブリッジが消し飛んだ。
その爆発は青白いオーラを切り裂かれた後に起きた出来事だった。
周囲の戦闘は既に現象に見とれたことにより砲撃は鳴りやんでいた。
ハマーンはドゴス・ギアのブリッジの消失に呆然としていた。
「え?」
ハマーンは望遠モニターでその原因となる彗星のような光が地球へ落下していく様を目撃した。
その彗星には明らかな意思を感じた。「理に触れてはなりません」と。
* サイコアプサラス戦闘空域
視界不良が極まり、センサーは全て死んでいた。
理由はラー・アイムが引き連れてきた砂嵐にあった。
サイコアプサラスのエルランも索敵モニターと目視でも周囲が何も確認できなかった。
「何が起きているというのだ」
それは突然であった。
上空からのアムロ達の攻撃を捌いていた時に起きた。
油断はしてはいなかった。空域に近付いてくる戦艦が1隻とその後方よりモビルスーツが1機の反応。
何も心配はなかった。
空域に風が吹いてきた。良くある話だ。それがあっという間に強風となり、まるで台風にあったような天候へと変化した。エルランはサイコフィールドを展開し、防護に備えた。というよりもそれしかできなかった。戦闘にもならない状況だった。
「とりあえず収まるまで待機するしかないな」
そう踏んでエルランはシートにもたれかかると、前座席のアイナがボソッと呟く。
「シ・・・ロ・・・・」
エルランの眉が動いた。洗脳され支配下に置かれているのに意識が一部復活したのかと考察した。
時間が無い。また再調整を施さないとこのサイコアプサラスが操れなくなる。
エルランは後退か前進かで暫く悩むことになった。
* ラー・アイム艦橋
シナプスら全クルーは砂嵐の衝撃を受けて砂漠へと不時着してしまった。そんな中でも容赦なく砂の衝撃が艦体を打ち付けていた。ブリッジのシャッターは全て下りていたが、それすら打ち破ろうとしているほどだった。
「全クルーにノーマルスーツの着用を義務つけよ」
シナプスはそう命令をすると、皆ノーマルスーツを着用した。ブリッジで何も出来なくて落胆しているカレン、エレドア、キキ、ミケルとシローの拉致について心配そうに話をしていた。
「シロー・・・どうしちまったんだ」
キキがそう言うと、ミケルが根拠なく励ました。
「大丈夫。あの隊長がここまで生き延びたのにはそれなりの運があったから。今回も無事に帰ってくるさ」
「悪運だがな」
エレドアはミケルの話に水を差す。カレンがそれを窘めた。
「エレドア、あのアマちゃんが真のワルならあたしたちもとっくにあの世だよ。行いが良かったと考えたことはないのかい?」
エレドアは両手で「信心深くないんでね。ただ・・・」と言い、壁に背を持たれ掛けて続けて話した。
「オレらは戦争をして人殺しをしていた。そんな奴は善人なはずがない。でもそれは生きる為だ。生きようとする想いが強いものが生き延びると思うよ。例えあんな朽ちた姿でもアマちゃんは生き残った。話を聞く限り、この砂嵐の元凶となるモビルスールに取り込まれたそうじゃないか」
キキが頷いた。エレドアがさらに続けた。
「なら、これも何か意味あることなのかもしれない」
4人とも耳を澄ましても砂嵐の轟音しか聞こえない。この艦体がどれだけもつか、それに4人含め艦内のクルーの生命が掛かっていた。
* サイコアプサラス空域
アムロ、カミーユは砂嵐に巻き込まれて地上へ着地していた。強風で飛行はできない。予想としてはこれで戦闘継続が困難ながらも一応は目標が達せられた。ユウもコウも地上へ降りていた。
コウがアムロへ連絡を入れた。
「アムロ中佐!キースとの連絡が途絶えております」
アムロは報告を受けて、できる限りの索敵をした。しかしこの視界不良ではどうにもならない。更にモビルスーツがアラートを鳴らす。コウが叫ぶ。
「ダメだ!モビルスーツが持たない。この砂がモビルスーツの装甲を食い破っている」
アムロは考えた。砂が生き物のようにモビルスーツを壊している。この砂嵐の中にいて改めて強い意思を感じた。カミーユも同感だったらしくアムロへ話し掛けた。
「アムロ中佐。この空域の意思力、兵器への恨みしかありません」
アムロは頷く。根源を止めなければあの巨体と共に心中になりかねない。脱出よりも元凶の方が近いことは感覚として知っていた。
「よしカミーユ。まだバイオセンサーはいけるか!」
「問題ありません。元凶と対峙して打開するしか生き残れる術がありませんから」
アムロはバイオセンサーを介してサイコフィールドを生み出し、傍にある元凶に向かって動き出した。カミーユも同様だった。コウとユウはその場に残った。彼ら程の力はこの2人にはなかった。アムロはその2人に「そこで出来る限りの防護フィールドを張っておけ」と伝えるとユウは頷き、コウは無力さに悔しさをにじませながらも「はい」と答えていた。
アムロとカミーユはその場の近くへモビルスーツ形態で寄ると、その姿を現した。
黒いシャープな構造のモビルスーツ。顔からしてガンダムであることは間違いないが識別やカタログにも未記載な正体不明機だった。
そのガンダムが青緑色な輝きを身に纏い周囲の風を生んでいた。アムロとカミーユはビームサーベルを手に取り、そのモビルスーツへ斬りかかった。しかしまるで何十体とも言えるほどのモビルスーツの馬力かの如くでそのモビルスーツはアムロとカミーユのサーベルの持ち手を手で受け止めては握りつぶした。
カミーユのZとアムロのデルタプラスの手が爆砕した。その反動で後ろに飛びのくとガンという音で何か後ろへ2人ともぶつかった。
「何があるんだ」
アムロは振り向くとそれは今まで戦っていたサイコアプサラスの装甲だった。あの浮かんでいた巨体も着陸していた。傍にはモビルスーツの破片がゴロゴロと転がっていた。白い破片だった。
「・・・何が起きたんだ」
アムロはこの砂嵐がもたらした影響について困惑していた。
* サイコアプサラス 操縦席
エルランの頭部が体よりねじり切り取られていた。その頭部は前部の操縦席に座っていたアイナ・サハリンが握りしめていた。か弱い女性の握力とも思えない力で頭部を粉砕した。
「・・・シ・・・ロ・・・」
アイナは血塗れになって操縦席のモニターを愛おしく触っていた。
するとその画面に黒いガンダムが近づいてきた。
サイコアプサラスのコックピットが静かに開く。そして黒いガンダムのコックピットも開く。
黒いガンダムの中から、全身白い体を持ったシロー・アマダが出てきた。その姿を見てアイナは震えていた。
「あ・・・ああシロー・・・」
そう呼び掛けられたシローはアイナの下へ降り立ち、アイナに触れた。
「アイナ・・・待たせたね」
2人が抱き合った瞬間、2人の周囲より光が生まれて周囲の物資が融解始めた。サイコアプサラスや黒いガンダムも。その現象にアムロとカミーユは驚愕した。
「なっ!」
光に触れるものはすべて砂を化した。サイコフィールドを展開して防ぐことは可能だが、その範囲は留めることなく拡大していった。
カミーユがこの現象と予測される状況を判断してアムロに話しかける。
「アムロ中佐!このままではダカールも侵食されて砂塵と化してしまいます」
「分かってる!しかしこれを止めるには・・・」
あの2人を消すしか思いつかない。生身のひとを焼き殺すなど常人の芸当ではない。
「ぐっ・・・オレらはここまでなのか・・・」
そう悲観していたその時、天から一筋のビームマグナムがその2人に消失させた。
すると辺りは一瞬にして夕焼け空となった。
アムロとカミーユは唖然としたが、モニターでその所業の原因を見上げた。
それは空からゆっくりと舞い降りてきた。
一角獣のような角を持った白いモビルスーツ。
そして圧倒的なプレッシャーを伴って。その感覚はアムロには覚えがあった。
アムロは震えながらもそのモビルスーツへオープンスピーカーで語り掛けた。
「何故だ。どうしたんだララァ!」
その叫びにカミーユは話しに聞いていたララァ・スンという者があのモビルスーツに乗っていることを理解した。とても暖かな力を持つ者と聞いていたがそれとは真逆で深海の様な冷たさを感じ、カミーユは身震いをしていた。
モビルスーツに乗ったララァも広域の音声発信で自分の言葉で話し始めた。
「・・・私は<メシア>。ララァは私たちの一つの心に過ぎない。人は理を知ってはならない。気付いてもならない」
「なん・・・だと・・・」
ララァはメットを外して、冷たい視線でアムロたちを見下ろした。
「大事なことに気付けるのは貴方達次第。風向きが私に向けば救済と言う名の滅びを生むことでしょう」
そう言ってララァが乗る白いモビルスーツは万有引力の法則を無視して大気圏外へと飛び立っていった。
カミーユは複雑な顔をしていた。アムロは頭を抱えていた。
傍にユウとコウのZⅡが走り寄ってきた。
「中佐!隊長!」
コウが叫び2人のもとへ到着した。アムロとカミーユの乗る機体は装甲が少し融解していた。
それに2人とも戸惑いを覚えた。
「果たしてオレたちは助けられたのか・・・それとも・・・」
アムロは呟く。確かにララァの出現と彼女の発砲による2人の消滅によって自分たちは救われた。だがあの冷徹さは暖かさを持ったあの時のララァとは違った。
自分をメシアと呼んだ。聖書にも出てくる<救世主>だ。ララァは一体何を伝えたかったのかアムロには理解できなかった。ただ直感が告げていた。彼女は危険な存在だと。
「アムロ中佐・・・。ララァさんは危険な存在です」
カミーユが話し掛けた。アムロは頷く。あのサイコフィールドを大解放というべきかあの物質分解侵食を一撃で突破した意思力。彼女もあの消失した2人と同じく人外の領域へと変化を遂げたとでもいうのか。
「考えるにも時間が無さすぎる。ただ途方にくれるだけだ」
アムロはこの場は諦めることにした。するとラー・アイムのシモンから連絡が入って来た。ラー・アイムが生きていたことにアムロとカミーユは驚きと安堵を感じた。半ば諦めていた。
「ジジ・・・アムロ中佐、カミーユ大尉・・・無事ですか?」
戦闘直後とあってミノフスキー粒子の濃さに通信が若干乱れていた。カミーユがその通信を受けた。
「シモンさん、こちらカミーユです。生存はアムロ中佐、コウ、ユウ大尉の4名でキースが不明です」
「・・・了解しました。当艦はほぼ墜落気味の着陸により航行不能に陥っております。ハヤト氏の艦隊が合流して頂いて只今回収収容作業中です。あと小一時間でそちらにも行けます。待機でお願いします」
「了解です」
カミーユが単独でやり取りをして通信を終え、その情報を4人で共有した。
「待ちですね」
コウがそう言うと、4人とも気が抜けたようにリラックスした。
取りあえずは地球での一連の騒動は片が付いた形となった。4人が何かした訳ではない。全てが外的要因で事が進んでいった。
ビストの贈り物から議会開催でのティターンズ思想の議決に向かうと思いきや自ら撒いた種によるゲリラ攻撃とサイコアプサラスの謎の襲撃。結果、連邦議会の崩壊とティターンズの首脳らの殉職。そこからサイコミュの暴走によりアムロらが瀬戸際まで追いやられた直後のララァの一閃。
世界の動向は政治的思想レベルから別のステージに上がっていったとアムロは考察した。
「・・・これからの問題の中心はあの現象なのか」
簡単な解決方法は皆がサイコミュを捨てれば良い。一度便利なものを体感した人類は文明の利器を中々手放すのは困難だった。
ならばあの力に対抗することを考えなければならない。
それは力とのぶつかり合いで逆に酷い状況になるのではと考えもした。
カミーユも同じ考えだったようでアムロに話し掛けてきた。
「中佐。まるで際限がありません。今ならばコリニーの締め付けたい理由がわからなくもないですね」
「それは言ってはならないぞカミーユ。思想の締め付けは多くのフラストレーションを生む。自由化こそが多くの可能性を活かすことができる」
「知ってますが、進化していく技術の成れの果てがアレでは地球圏が維持できるのかどうか・・・」
すると4人とも索敵モニターに数機の反応を示し、どれも友軍のサインであることに気が付いた。しかしモニターで目視する限りには明らかにジオン仕様の機体なことに物凄く違和感を感じた。
近づいてくるジオン製の機体<ギラ・ズール>に乗るバーナード・ワイズマンより通信が入った。
「我々はサイクロプス隊です。ある方の親衛隊として貴方達と会わせるため、その方を護衛して参りました」
ある方という言葉に4人は引っかかったが、アムロがその方が懐かしくそして知った感覚で眉を潜めた。
この時代のシャアは今宇宙。ララァはそのシャアはシャアではないと言っていた。アムロが知るシャアが別にいてそれは乱れに乱れた精神状態で危険だということも言っていた。
アムロら4人の目の前に赤いモビルスーツが舞い降りた。サザビーに似たような造りだったが騎士道を重んじた様な造りでとてもシャープだった。それは後でシナンジュというモビルスーツだと知った。
その赤いモビルスーツのパイロットがアムロに話し掛けた。
「・・・久しぶりだな。アムロ」
「シャアか!」
アムロは緊張を全開にした。そのプレッシャーにシャアは言葉で制した。
「何を含まれたか知らないが戦意はない。その緊張を解いて欲しい」
アムロは警戒しながらも臨戦態勢を解いた。シャアは頷く。
「さてと・・・あのアクシズから今に至るまで、私の心はこの8年間でブラッシュアップされたとでも言っておこう。あの時の私は打倒アムロとララァへの執着。それは己の未熟さにあったことも。そこで私はある可能性をこの世界で模索することにした」
「可能性?」
「サイコフレームを利用した人類の革新だ。私は敗北者だ。進化の過程で古来より問題を突破して育っていく。その為には常に問題を提起していかなければならないと考えたのだ」
アムロはシャアが話す意味が良く分からなかった。シャアは話をここで止めることにした。
「後はハヤトらと合流してから話そう」
シャアがそう言うと上空にはハヤトらの艦艇がこちらに近付いてくるのをアムロは見た。
それと同時にキースからの連絡がコウに入って来た。
「お~い。コウ~」
「キース生きていたのか!」
キースが乗っていた機体はZⅡでなくギラ・ズールだった。
それにコウが驚いた。
「キース?ZⅡはどうしたんだ」
「ああ、アレはガス欠になってね。サイクロプス隊に助けられ、この機体を借りたんだ」
コウとキースは話し合っていた。カミーユは静観し、アムロは突然の好敵手の登場に頭が追いつかなかった。
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