DQ5~友と絆と男と女 (リュカ伝その1)
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43.家族を守る為ならばエゴイストになれる。危険な思考だけど。
<グランバニア城>
ビアンカSIDE
今日これからリュカが出立する。
たった一人で王家の試練を受けるのだ。
試練に合格しないと王様にはなれない。
リュカは散々ぼやいていたわ…
「国王になんてなれなくてもいいのに…」
だって!
普通みんななりたがるのに、我欲が少ないのね。
だから私はリュカが大好き。
そのリュカは今、部屋の外で最終打ち合わせをピエール達と行っている。
私の所にも声が聞こえる。
「じゃぁ…ピエール。ビアンカの事を守ってあげてくれ」
「守ると言われても…城内ですから…」
「イヤイヤイヤ…そうもいかないのさ!高官連中は僕が王位を継ぐ事を嫌がっている節がある」
「確かにそうじゃのぅ。今は御しやすいオジロン殿が国王じゃからな」
「それだけじゃない…オジロンには娘、ドリス一人だ!自分、もしくは息子と政略結婚させる目論見もあるのだろう…」
「厄介じゃのぅ…」
「うん。で、僕にとって最悪なシナリオは、僕に新たな妻を宛おうとしてくる事だ」
「新たな妻!?」
どういう事?
「娘等を僕の妻に差し出し、権力確保を考える。そうすると、ビアンカが邪魔なんだ」
!?
私は自分の立場の危うさを初めて感じた!
リュカはその事まで考え、念には念を入れて準備をしていたのだ。
リュカがこれから出立する…急に心細くなり震える私の手にプックルがすり寄ってきた。
「プックル…そうね、私には貴方達が付いているわね!不安な顔をしていると、リュカが試練に集中出来ないわね」
うん…いつもの様に笑顔で送り出さないと…
(コンコン)
「ビアンカ、開けていい?今、服ちゃんと着てる?」
「着てるわよ!何で普段は裸みたいな事言うのよ!」
「あははは、ごめん~ね!おっと、プックルと不倫中!?」
「馬と不倫するアナタと一緒にしないで!」
もう…緊張感を和らげるのが上手いわねぇ~
「じゃぁ…渋々行ってくる…」
私を抱き締め、お腹を撫でてくれる。
リュカの暖かい手で撫でられると、身体全体に幸せが広がる。
「何か、でかいな!まだ5ヶ月にもなってないんでしょ?」
「私だって初めてだから分からないわ…でもリュカは大きいの好きでしょ?」
「オッパイはね…」
「もう…エッチ…」
優しくキスをして、リュカは出て行った…
残された私は、彼の無事を祈り不安な日々を送る事しか出来ない…
「ガラじゃないわね!」
ビアンカSIDE END
<試練の洞窟>
ちまちまと嫌がらせ的な仕掛けのある洞窟の最深部に、ワシの紋章が彫り込まれた『王家の証』が奉られてある。
「お!?これかなぁ?王家の証ゲッチュー!!」
俺は意気揚々と踵を返し、『ゲッターロボ』の替え歌『ゲッチューロボ』を歌いながら洞窟を逆進する。
「おっと!ここを立ち去るのは、待ってもらおうか!」
見渡すと、ガラの悪い男達10人程が俺の行く手を遮っている。
「何ッスかぁ?」
<試練の洞窟>
カンダタSIDE
俺達の前に旅人風の男が立ち尽くしている。
「何ッスかぁ?」
危険な洞窟の最深部で、屈強な男共に囲まれているのに、緊張感の無い喋り方をする男だ。
「あ!?もしかして…アンコール希望ですか!?う~ん、忙しいので1曲だけなら披露しますけど…」
何なんだ、この男?馬鹿なのか?
「ちげぇーよ!あんたにその証を持って帰られると、困る人がいるんだよ!」
「そう!然る止ん事無い方からの依頼で、オメーを殺しに来たんだよ!」
この馬鹿共…ベラベラと…
「うるせーぞ!テメーら!!余計な事言うんじゃねー!」
俺は一喝して、手下共を戒める。
「あの~…」
男が緊張感無く話しかける。
「おサルさんがどうしたんですか?」
「…は?」
この馬鹿は何を言ってんだ?
「イヤ…さっき、サルがどうのって…」
「然る止ん事無い方だ!誰も動物のサルの事なんか言ってねぇ!」
「あぁ…で、僕を殺して何になるんですか?」
「オメーが王様になるのを阻みたいんだよ!」
やはりこの男は馬鹿だ…
「馬鹿だなぁ、君達は…」
な!
こいつに馬鹿って言われた!
「僕の奥さんは妊娠中なんですよ。僕が死んでも、男の子が生まれたら無条件で王様じゃないですか。君達のやっている事は全くの無駄だね!」
「だったら、オメーの嫁さんとガキも一緒に始末すればいいじゃねぇーか!」
「がははは、ちげーねぇー!」
手下の一人が言った言葉に、他の手下が爆笑をした瞬間、男の姿が消え手下共の首から大量の血が噴き出した。
俺の足下に手下の頭が転がっている。
切断された事にも気付かず、大爆笑をしたままの顔で…
い、何時の間に…!?
振り向くと、あの男が先程と変わらぬ優しげな表情で俺を見つめている。
敵や官憲に取り囲まれた時も恐怖しなかった俺が、手下共の返り血を大量に浴び、優しげに微笑む一人の男に震え上がっている。
強い…こいつには勝てない…何とか逃げないと…
「ま、待て…俺の、こ、降参だ!もう、あんたに手出しはしないし、あんたの家族にも近づかない!約束する。本当だ!!」
俺は武器を捨て、両手を上げて見せる。
「黒幕は?」
声だけ聞くと、まったく怒りを感じさせない声で問いただしてくる。
「知らねぇーんだ…本当だ!顔も素性も隠して接触してきやがったんだ」
「なるほど…君を信じよう…」
ほっ…助かった…
「じゃぁ…もう君は、生きている必要無いね」
「え!?」
「だって、何も知らないんでしょ?役に立たない!」
「待ってくれ!何も殺さなくても…」
「君が生きていると、第2.第3の君が現れるかもしれないだろ。たかが金で雇われるぐらいの…」
「そ、それは…」
「でも、君が殺された事が広まれば、みんな怖くて引き受けない。俺も家族も一安心さ」
そう言って剣を抜き放ち、一歩一歩俺に近づく。
俺は恐怖で足が縺れ、尻餅をついて怯えている。
「それに黒幕はきっと、城の誰かだろう…君の首を持ち帰りみんなに見せつければ、動揺してボロを出すかもしれないし。クスッ…やっぱり君は死んだ方がいいんだよ」
俺は怒らす相手を間違えた…
男が目前で剣を振りかぶった時、人生最大の後悔を刻み込んでいた…
カンダタSIDE END
<グランバニア城>
ドリスSIDE
ビアンカさんの部屋で談笑を楽しんでいると侍女からリュカ帰還の報を受けた。
私はビアンカさんを待たせ、一人でリュカを迎えに走った。
城の正面階段2階でリュカと出会い、私は硬直する。
「あ!?ドリス…ただいま。ごめんね、こんな格好で…」
口調はいつもの様に優しい口調だが、格好は全身血まみれ状態!手には直径30センチ大の血まみれの包みが…あれはきっと…
「け、怪我…してるの!?」
その光景に驚くあまり、私は絞り出す様に問いかけるのが精一杯だった…
「ううん…僕はかすり傷一つしてないよ。全部返り血なんだ…」
返り血!?
いったい何が…
「あ、ビアンカには心配させたくないから…返り血の事は言わないでおいて…少ししたら部屋に行く事だけ伝えておいて…」
こんな時までビアンカさんの心配をしている…羨ましいな。
「それはいいけど…すぐ来ないと心配すると思う…」
「う~ん…じゃぁ、『帰還早々メイドさんをナンパしている所を、オジロンに見られて説教されている』って言っといて」
「え!?そんなふざけた…」
「クスッ、100%信じるから大丈夫」
新妻にナンパしている報告の方が心配するのでは…
「じゃぁ…僕、会議室で叔父上や大臣達に会わないと行けないから…」
そう言うと、そのままの格好で会議室へリュカは歩いて行った。
ドリスSIDE END
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