とある科学の捻くれ者
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14話
『特定の侵入者に対し、特定の魔術、聖ジョージの聖域を発動します。』
踏ん張らなければ体が彼方まで吹き飛ばされそうなほどの暴風と共に、空間が歪んだ。
圧倒的熱量で?違う。それは神へと至る能力、至る知識。それを十全に発揮するその人物の魔術により、歪んだのだ。
上条と八幡は立ち直す。
「ーーあいつはやばいな。」
不意に八幡が呟く。ギチギチと、噴火の直前の火山のように空間が歪む。
ーー軋む。軋む。軋む。
瞬間、音が消えた。
いや、音だけではない。空間も、時間も、距離も、現実感も、生というものがすべて消えたのだ。
ーーその光線の名は竜王の殺息。
聖書におけるドラゴンの一撃と同義と言われるほどの魔術。
世界そのものを否定する幻想。
上条はその幻想を認めないかのように、右手を己が前にかざした。が、相手もやはり伝説。簡単に殺し尽くせるような相手ではない。
お互いの力は拮抗していた。
いや、正確には互角ではない。幻想以外の要素に上条当麻はめっぽう弱いのだ。それ故、幻想殺しが徐々に押され始めていた。
「なんだ...これは!?」
それにより、外でこの部屋を監視していたのであろう魔術師のステイルと神裂が騒ぎを聞きつけやってきた。
「なぜあの子が魔術を使っている!!!答えろ!!!まさか貴様ら彼女に何かしたのか!!!!」
ステイルは激昂する。当然だ、何故なら禁書目録が魔術という奇跡を使えないのは周知の事実。ならば、禁書目録に上条と8万が何かをした、と考えるのが妥当だろう。
ーーだが、もうその前提条件は覆された。
「俺らが魔術のことなんて知ってるわけねぇだろ!!!あれはお前ら協会側の魔術だ!!!騙されてたんだよお前らは!!!インデックスが記憶を消さなきゃ生きられないってのはそもそも嘘だったんだ!!!全部協会に仕組まれてたんだよ!!!」
「なっ!!?」
「ということは...」
神裂は昨日の言葉を反芻していた。
ツンツン頭の少年のななめ横にいる目の腐った少年に昨日告げられた言葉を。
だからこそ、昨日までの疑念は確信に変わる。
こちらの視線に気づいたのか、八幡は口元を歪めた。
「上条の右手には全ての幻想を殺す力、幻想殺しがある。だから、上条を禁書目録の元へと行かせることができたらオレ達の勝ちだ。」
八幡のその言葉を聞いて、神裂は立ち上がる。
確かに、上条当麻はそれほどでは無いが、あの目の腐ったの少年に対しての疑問は晴れてない。ので、警戒は緩めない。
しかし、それと同時に禁書目録を救う絶好の機会を得たのだ。これを使わない手は無い。
何より、彼らの発言が嘘でないという元は今取れた。
ーーもう、諦めることはやめたのだ。
「私も手伝います!!!」
「なっ!?神裂!!?」
「あの子を救える千載一遇のチャンスなのですよステイル!!!これを逃してはいけない!!!今度こそ、彼女を救うために、立ち上がらなければならない!!!!」
「私はもう!!!!自分に言い訳をして!!!!!彼女を救うことを諦めるのは嫌なんです!!!!」
「そうだ!!!今手を伸ばせば届くんだ!!!いい加減始めようぜ!!!魔術師!!!」
「Salvare000!!!」
右手を弾かれ窮地に陥った上条を神裂は禁書目録の足場を崩すことにより救う。
そして、その光線は天高く登って行った。
「気をつけて、この光線は竜王の殺息!!余波の光の羽が当たっただけでも危険です!!!」
上条当麻は走る。禁書目録を救うため、向かう。
『新たな敵兵を確認。戦闘思考の変更。上条当麻の破壊を最優先します。』
そのつぶやきと同時に破壊の根源が蘇る。
そして、その破壊を上条に再現するように、禁書目録の攻撃が上条に殺到した。が、それも通ることはなかった。
「イノケンティウス!!!」
それは見覚えのある火の魔術だった。魔女狩りの王。
「別に、君たちに感化されたわけじゃない。あの子の命が救えるのなら僕はなんであろうと壊す!!!いけ!!上条当麻!!!」
が、それで終わるほど敵も甘くない。
敵は10万3000冊の魔道書を余すことなく使う魔神に至る知識を持った怪物。
すぐにステイルの切り札である魔女狩りの王を解析し、消滅に追い込んだ。
「ぐっ!!」
再び上条の元に禁書目録の攻撃が殺到する。
が、それも通ることはなかった。八幡が能力を使いその光線による一撃を防ぐ。
ーーー地を蹴り、上条当麻は駆け抜ける。
貫きたい思いがあるから。伝えたいことがあるから。
その思いを右手に乗せる。その幻想を殺すように。
(この世界が神様の作った通りに動いてるっていうのなら!!)
ーーー運命なんていうふざけたものに縛られているのなら
「まずは、その幻想をぶち殺す!!!」
ガラスを壊すような音とともに、上条当麻は禁書目録の元へたどり着いた。
『警.....告...首輪の...致命的な...........』
禁書目録は崩れ落ちる。
だが、これはハッピーエンドでは終わらなかったのだ。先の竜王の殺息の余波により生まれた光の羽。それが上条当麻に殺到する。
ことはなかった。それは普通の物語の場合だ。
だが、今は違う。ここにその結末を認めないイレギュラーがいたのだ。
光の羽がピタリと止まった。
比喩ではない、本当に止まったのだ。
神裂もステイルもその光景に目を見開く。それは神に仇なすようなそんな光景だった。
「早く....そこから....離れろっ!!!あと数秒しかもたねぇ!!!はやく!!!!!」
「わ、わかった!!!!」
上条が体に鞭をうち、禁書目録を担いでその場から離脱したのを見て、八幡は安堵し意識を手放した。
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