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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第四章 魔族の秘密
  第44話 二回目

 目を開けて確認したが、勇者の剣は鞘に収まったままだ。
 見回しても特にこの謁見の間に変化があったようには見えない。

「何だ? 今の音は」

 国王が隣にいる将軍に訊く。
 将軍は首をかしげ周りを見渡すが、何もなく再度首をかしげる。
 勇者も辺りを見回しているが、この部屋自体には本当に何も起きていないようだ。

「遠くで何かが壊れるような音にも聞こえましたが……おい! 誰か!」

 人払いをしていた関係でこの部屋には誰もいない。
 そのため、将軍は閉じられている入口の扉に向かってそう叫んで人を呼んだ。

 扉はすぐに開いた。

「ハァ~イ」

 ひどく間が抜けた声とともに入ってきたのは、兵士……ではなかった。
 三人の黒服黒フードの人間だった。

「参上致しましたァ~」

 三人のうち中央の男はそう言うと、右足を引き左腕を腹部に水平に当て、玉座に仰々しく礼をした。

「な、何者だ貴様らは!」
「暗殺者ですが、何かァ~?」
「暗殺者だと!? 陛下の御命が狙いか! 兵士は何をしておるのだ!」
「さあ? みんな城壁に空いた穴でも見に行ってるんじゃないですかあー?」
「貴様らァ……」

 将軍が剣を抜き、国王を庇うように立った。
 国王が「ほう、暗殺者」とかすかにつぶやいたように聞こえた。
 勇者も剣を抜き、なぜかぼくを庇うようにして構える。

(ちょっと! 違うでしょ!)

 ギリギリ聞こえるくらいの小声でそう言うと、彼女はぼくの言いたいことに気づいたのか、玉座に走っていく。
 相手は暗殺者で、三人だ。
 この場合はまず国王と将軍の二人を安全なところに避難させなければならないだろう。

 暗殺者は「では行きまーす」と言うと三人が一斉に動き出した。
 その声には緊張感がまったくなく、それが逆に不気味だった。
 ぼくも部屋の端に避難しようと動いた。

「陛下、将軍。わたしが時間を稼ぎます。避難を!」

 玉座から勇者が二人に避難をすすめる声が聞こえる。
 確か、玉座の後方にある小さな扉があったと思う。そこから逃がすのだろう。

 ぼくはその様子をチラッと確認した。
 チラッと。
 ほんの一瞬のはずだったのに。

 暗殺者三人に視線を戻そうとしたら、いきなり景色が九十度左に回転した。
 兜がまた手から離れ、床に落ちる音がした。

「うわっ?」
「ハイ確保、と」

 手の自由が利かなくなった。
 縄?
 しかもお姫さま抱っこされたみたいだけど……暗殺者は玉座に向かわずぼくのほうに来たってこと?
 なぜ?

「マコト!」
「じゃあ勇者さん、さようなら」
「待て!」
「待ちませーん」

 加速度がつき、そして揺れる。
 運ばれているようだ。

 そのまま謁見の間を抜けたのだろう。扉が閉められる音がする。
 そして何かを打ちつけるような、大きな音がした。

 ぼくはその直後にお姫様抱っこから二人の肩に担がれるように持ち替えられ、揺さぶられ続けた。
 途中で城の外に出たことだけはハッキリわかった。
 急に明るくなり、頬に当たる風も爽やかになったからだ。

 首を回して何度か確認したが、横倒しの景色がめまぐるしく変わっていくだけで、どこを通っているのかまではよくわからなかった。



 ***



「さーて。ここまで来れば一安心かなー。少しだけ休憩しよう」

 ぼくは降ろされ、縄を一度解かれた。
 どこかはわからないが、背の高い建物に挟まれた狭い路地裏だった。
 まだ日中だが、ここは全体的に薄暗い。
 建物の隙間からところどころ斜めに差し込む日の光が、細かい埃を照らしている。

「こんなに上手くいくとは思わなかったな」
「やっぱり城の中の兵はマヌケばっかりだな。大して強くもないし」
「中の連中は戦にも出ないで城の警備しか経験ないだろうからな。カンも悪くなるんだろう」

 彼らはぼくをSPのように取り囲んで会話をしている。
 なぜか人数が増えていた。
 数えると……十一人のようだ。
 謁見の間に入ってきた三人以外にも沢山仲間がいたのだ。

「はいよ、これお兄さんの荷物だろ。あと兜」

 荷物の袋と、手から離れていた兜を渡された。
 律儀に持ってきてくれたようである。

「あなた方は一体……暗殺者じゃないの?」

 わからないことだらけだったので、「ハァ~イ」などと言っていたリーダー格らしき男に聞いた。

「はっはっは。違うよ。俺たちゃイステールの賊だ」
「そうなの? ……いったい何がどうなってるのやら」
「うーんそうだなー。まあ別に言っちゃっていいか。北の国スミノフから銭をもらってね。お前を逃がしに来たのさ。まあ雇われたってわけ」
「なんでスミノフに……」

「さあ、あまり事情は細かくは聞いてないからなー。俺たちとしてはとんでもないくらいの銭をもらえるってことで飛び付いただけでね。
 聞いたが、お前はおかしな術で魔族を強化してるんだよな? たぶん、もうちょっとイステールに苦労してほしいんじゃねーの?」

「苦労って……三か国連合軍なんだからスミノフも損害が少ないほうがいいんじゃないの?」

「いや? スミノフやカムナビも一応形の上では兵を出してるけど、割合はイステール人が圧倒的だぞ? ノイマールの戦いはスミノフも近かったから船団を出したりはしたみてーだけど、リンブルクではほとんど出してねーはずだ。
 スミノフにとっては魔国との戦であまりイステールが無傷すぎると困るんだろうよ」

「ということは――」
「まーそうだな。どの国も、もうすでに魔国がなくなってからのことを考えているみたいだぜ。魔国との戦争が終わったら今度は三か国間で領土争いになるんだろ」

「……そしたら、スミノフとしてはさっき国王を暗殺してしまったほうがよかったんじゃないの?」
「ハハハ。お兄さん、あの国王にいい印象を持ったのかい?」

 ……。

「なるほど。あんな人なら生かしておいた方がいい――そういうことなんだ」
「そうそう。殺しちまったら人望のある国王に交代されちまうからダメだってさ」
「怖っ」

「ハハ、怖いか。当然だな。魔族でもモンスターでも天変地異でもない。人間が一番怖いんだ。俺は先代のボスからそう教わってきたぞ」
「……」

 裏社会で叩きこまれた教訓を言われても、と思ったが、実際そうなのかもしれないとも思ってしまった。
 でも魔族は決して怖くないのでノミネートしないでほしかったかな。
 まあどうでもいいけど。

「それよりお兄さん、さっき床にあぐらかいて座ってたみてーだが、あんな姿勢で謁見してたのか?」
「いや、あれは……なんかその場で勇者に首を斬られるってことになっちゃってさ。いかにも斬られますよって姿勢をとっただけだよ」

 一瞬だけ間が空き、リーダーと思われる男がプッと笑った。
 他のメンバーも何人かが軽く吹きだすように笑う。

「あれ? なんかおかしいこと言った?」
「お兄さん面白いなー。あっさりしすぎだ。普通そんなに素直に殺されないって」
「そう?」

「そうだよ。そんなんじゃ長生きできないぞ。最後の最後まで、生き延びる手が何かないのか探さなきゃ。そうじゃねーと賊は務まらねーよ?」
「はあ」

 もちろん賊にはなる予定などはないのだが。
 彼の言葉……あっさりしすぎというのは、勇者にも言われたような気がする。
 彼女のビンタ付きでその記憶がよみがえった。

「じゃあまた走るぞー。のんびりしていると追手が来るだろうからな」 
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