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立ち上がる猛牛

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第五話 主砲とストッパーその六

 佐伯は優勝を喜ぶナイン達を見て同行している者達に問うた。
「引き分けでも優勝やな」
「はい、そうです」
「近鉄は今優勝しました」
「そうなりました」
「そやな、優勝したんやな」 
 確認の為に問うたがその通りだった、佐伯はここでようやく優勝を認識出来た。
 そしてだ、ほっとした顔で言ったのだった。
「バファローズを持ってはじめてよかったって思ったわ」
 こう言った、そして西本は優勝インタヴューでこう言った。
「マニエルおじさんの遺産をドラ息子達が食い潰したわ」
「マニエル選手のですか」
「それをですか」
「そや、折角打ちまくってくれたのにな」
 そして勝利を重ねていったがというのだ。
「そうしてもうた、けど優勝した」
「はい、おめでとうございます」
「このまま後期もいくで」
 こう言ってだ、西本はこうしたことも言った。
「けど、人間の力はやっぱり凄いわ」
「人間の、ですか」
「それが」
「そや、平野はよおやってくれた」
 そのバックホームのことを言うのだった。
「あそこで決めてくれた、ほんま人間は凄いわ」
 平野のバックホームに心から喜んでいた、近鉄は苦労しながらも何とか前期優勝を決めた。その優勝を病室のラジオで聴いてだ、マニエルも笑顔で言った。
「ミスターニシモト、おめでとう」
 必ず帰ることを決意しつつだ、優勝を心から喜んだ。
 後期の近鉄は前期何とか優勝したがそこに鈴木とマニエルも戻ってきてだった、前期の前半程ではないが好調だった。ストッパーの山口は防御率もよく若い打線も成長していてだった。エースと主砲という軸が戻ったこともあり。
 後期も優勝かと思われた、だが今度はだった。
 阪急は最終戦でだ、今度は彼等が意地を見せた。
 九回まで劣勢だった、この状況にナインは苛立っていた。ここで敗れれば阪急は後期優勝を逃し近鉄は前期後期共に優勝となりプレーオフなしで日本シリーズに行くことになる。昨年の阪急がそうした様に。 
 このことは阪急にとっては意地でも避けねばならないことだった、彼等は昨年の日本シリーズでの雪辱を晴らしたかった。
 それでだ、九回になっても劣勢である状況に苛立っていた。ここで何とかしなければという思いが蔓延していた。
 そのナインにだ、加藤はネクストバッターサークルに向かう時に言った。
「わしまで回ってくれば何とかする」
「打ってくれるか」
「そうしてくれるか」
「ヒットを打つ時やったらヒットを打つ」
 そしてだった。
「ホームランを打つ時はホームランを打つ」
「それでか」
「やってくれるんやな」
「ああ、ここで勝ってや」
 そのうえでというのだ。
「プレーオフで近鉄倒すで」
「ああ、やったろうか」
「前期は近鉄が最後の最後で決めたしな」
「今度はわし等や」
「わし等がやるで」
「ダイジョーーブ!やれるよ!」
 マルカーノがここで笑顔で言った、彼はこうした時いつもこう言ってベンチの雰囲気を明るくする。この彼の明るさもまたチームを何度も救ってきている。
「カトウさんが決めてくれる!僕達はプレーオフに行くよ!」
「ボビーの言う通りや、決めるで」
 加藤はネクストバッターボックスに入り出番を待った、そして彼の出番が来た。しかも嘘を吐かなかった。
 加藤のバットが一閃した、打球は白い流星となりスタンドに入った。逆転サヨナラスリーランとなった。
 加藤はダイアモンドを回ってだ、ホームインしてだった。ナインのところに戻って言った。
「これで決めたな」
「そやな」
「よおやってくれた」
「わし等もプレーオフ行くで」
「そして優勝や」
 阪急もまたプレーオフ出場を決めた、近鉄と阪急は再びプレーオフで激突することになった。西本の目は既にこの運命の決戦に向いていた。


第五話   完


                      2016・9・1 
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