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百人一首

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96部分:第九十六首


第九十六首

第九十六首  入道前太政大臣
 もう春の一つの区切り。それはいつも思うことだけれど本当に早いもの。気付けばもう終わってしまうもの。楽しい一時だったのに。
 風に吹かれて桜の花びらが散っていく。はらはらと儚く散っていく。
 それはまるで雪が降るようだ。
 いつも見る悲しい光景だ。桜が散るのを見ること程忍びないものはない。
 けれどこうなのかも知れない。形あるものは何時か必ずなくなってしまうものだから。だから古いものはこうして何時か必ず消えてしまうものなのだろうか。
 だとするとそれは桜だけでなく。自分もそうなのかも知れない。
 それなりに長く生きてきた。これまでのことを振り返るとそれはとても多かった。年月はとても長く。それを見てきたことも思い出させる。
 そして今の自分を見れば。頭には白いものが増えてきている。もう決して若くはない。今散っている桜達と同じで間も無く散ることになるのかも。そう思うと何か心がしんみりとして。それで今この歌を詠った。

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり

 歌にしてみてもこのもの悲しくなってしまった心は変わらない。桜が散るのと同じで自分も去ることになるのかと思うと。けれどそれはどうしてもそうなってしまうものだから。形あるものはどれもそうなるのだから。受け入れるしかないことはわかっているけれど。それでもどうしてももの悲しくなってしまう。


第九十六首   完


                 2009・4・11
 
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