つま先立ちの恋に慣れたら
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手料理
前書き
怜治のために手料理を振るまおうとはりきる奈々。約束の日に寝坊してしまって--------!?
「-----いたっ!」
指先に走る痛み。わずかに赤い線が流れた。奈々は週末、礼二のために手料理をふるまおうとピリカで練習していたら、手が滑って包丁で人差し指を軽く切ってしまった。あわてて救急箱から絆創膏を取りだす。
「あ~・・・やっちゃった・・・」
怜治に会えるのは明日。料理の味は自信があるとは言えない。任せてくださいと言ってしまった手前、おいしいものを出したいのだ。
「よし!もう一回!」
手当てをした後、練習を再開する。こうして桜井奈々の夜はふけていった。
ーーーAM10:00 当日ーーー
ピピピピピーーー。せわしないアラーム音が部屋中に響きわたる。お、起きなきゃ・・・!と奈々はボタンを押して音を止め、ぼーっとしながら時間を確認したら、頭が真っ白になった。
「いそがなきゃーーーーーーーーー!!!!」
徹夜で疲れきってまちがえて一時間おそくアラームをセットしてしまったのだ。あわてて準備をして、ばたばたとピリカのドアを開く。
「あれ奈々、朝ごはんは?」
「いらない!行ってきます!!」
「・・・・・どうしたんだ?一体」
「耕ちゃん、奈々もそういう年頃なのよ」
「さくら、お前なにか知ってるのか?」
「ひ・み・つ♡」
楽しんできてね、奈々。帰ってきたら話聞かせてもらうから。極上スマイルを浮かべながら、さくらは今日も日々の業務をこなすのだった。
---AM10:15---
バスに乗った後、奈々は急いでスマホを開くと、やはり怜治からの着信があった。もうすぐ着くことを連絡し、目的のバス停までに乱れた息をととのえる。
久しぶりに会えるのに、私のばかーーーーーー!
いつもはバスの時間は気にならないが、今日ばかりは長く感じられた。
最寄りのバス停から降りたらすぐに怜治の家がある。事前に教えられたとおりの道を歩いていると、奈々は思わず声が出そうになるのを必死で抑えた。怜治がこちらに手を振っている。奈々はいそいで駆けより、できるだけ小声で謝る。
「遅れてごめんなさい!でも、なんでここに・・・」
「ごめん、うちにいてもなんだか落ちつかなくて」
「こんな大通りで、見つかったら大事ですよ・・・!!」
一応サングラスにマスクと、バレないように気をつかっているみたいだ。そんなこんなで到着し、怜治は高層マンションの1階の豪華なロビーでカードキーを通し、エレベーターに乗り込む。
「ひやひやしたね」
「ひやひやしましたね」
怜治はなんだか楽しそうだ。一方奈々は言葉どおり、本当にひやひやしていた。見つからなくてよかった・・・!とほっと胸をなでおろした。
「さあ、入って」
「おじゃまします」
うわあ、緊張する・・・!奈々は怜治の部屋に入るのは初めてだ。モノトーンで配色された室内にセンスを感じる。360°見渡していたのがおもしろかったのか、怜治はくすくす笑っている。
「男の部屋ってこんなもんじゃない?もしかして俺が初めて?」
「はい!なんだかモデルルームみたいでびっくりしちゃいました!!」
「そんなこと言ってくれるなんて嬉しいな、ありがとう。ところで今日は何を作ってくれるの?」
「出来上がるまで待っててください!」
「わあ、すごく楽しみだよ、俺にできることがあったら言ってね」
「大丈夫です!ありがとうございます」
はりきる奈々がいつも以上に可愛くてずっと見ていたくなる。後ろから見ていると緊張するからと照れた彼女にキッチンから追い出されてしまった。しょうがない、しばらくリビングで待っていよう。
「お待たせしました!」
奈々がテーブルに運んできたのは和食だった。魚の照り焼き、お味噌汁、厚焼き卵、ごはん・・・。どれもつやがあり、とてもおいしそうだ。
「冷めないうちに食べちゃってください!」
「うん・・・!おいしそうだね、いただきます」
料理はどれも美味しかった。味付けはほどよく、野菜の切り方も均一で整っている。見た目もきれいでこげついていない。
「こんなにおいしいなんて、奈々はいい奥さんになるね」
「・・・そこまで言われると、照れちゃいます。でも、とっても嬉しいです!」
「本当のことだよ。最近忙しくて、ロケ弁や出来合いのものばかりだったからさ。こういうちゃんとした食事をするのは久しぶりなんだ」
「それなら何よりです・・・!!」
すっかり怜治のペースに乗せられっぱなしの奈々は、照れと嬉しさとでうまく話せないでいた。うつむきながらも笑顔が隠せない彼女を見た怜治は、反応が初々しくて心が洗われたような気分になる。しばらく食べていると、ふと彼女の指先が目に入った。
「それ、どうしたの?」
怜治は箸を止めて奈々の手を取りよく見ると、人差し指の側面に軽く切った跡がある。もう治っているものの、少し痛々しくて思わず顔をしかめた。
「こ、これは・・・その、ですね、手が滑っちゃって包丁でつい・・・」
「・・・・・・・」
「でも、全然大したことないです!ほら、傷もふさがってるしーーーーー」
-----ちゅう。
言い終わる前に怜治は奈々の指先に唇を寄せる。
「怜治さんっ・・・・」
彼女の顔が真っ赤になり、体が緊張でこわばるのが分かる。怜治は分かっててしばらくやめなかった。
「料理、練習してくれたの?」
「・・・はい」
奈々の声はか細く消えそうだった。気づかれたくなかったのだろうか。
「おいしいもの食べてほしかったから」
「もしかして遅くなったのも、昨日までしてたから?」
「ううっ・・・なんで分かるんですか~~」
「俺は奈々のことなら大体分かるよ」
自分のために料理の練習をする奈々の姿を想像し、怜治はますます彼女のことが愛おしくなった。
「あんまり無茶しないで。ほら、手も荒れてる。俺のためにがんばったのはすごく嬉しいけどね」
「あっ・・・もういいです・・十分です、は、はな、離してください・・・・・・!」
「あと十分ね。分かった」
「そっちの十分じゃないーーーーーーー!!!」
指先に唇をあてたり、舌でなぞったりしていると、耐えられなくなったのか逃げ腰になる奈々を引きよせ、逃がさないようにした。
甘くしびれる かなしばり
(ずっとされたら頭はたらかなくなります・・・!!)
(たまにはいいんじゃない?)
(良くないです!!)
お題元:確かに恋だった 様
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました。最初の話ということで手料理、です。奈々は何事にも一生懸命な女の子だと思うので、料理も一週間前から練習していました。怜治の喜ぶ顔が見たくて・・・けなげですね。初めに比べたらかなり上達してます。こういうところに怜治は惹かれたんだろうなあと、書いていてほっこりしました。
怜治は鋭いので奈々の手料理を色んな観点から見てます。事細かにほめたら、奈々にちょっと引かれるのでみんなと同じようにほめました。さすがです、やはり育ちが違いますね。胃袋をわし掴まれた怜治はますます奈々を甘やかすんだと思います。
あとがきは以上です。よかったら次の話もぜひご一読くださいませ。
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