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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第47話

 
前書き
~前回までのあらすじ~

魏軍「114514!!」

 大       河

陽軍「なんだぁテメエ……」



そーそ「決着を――」

 大       河

えんしょ「――つける時!」



ハム「……」

大体空気 

 
 大河を挟んだ両軍の睨み合いのあと、袁紹は軍師達と共に軍議を開いた。
 内容は明日の作戦についてである。

「大河と私達がいる地を結んでいる橋は一つ。大き目ですが、送り込める人数が限られています」

「恐らく魏軍は自陣側の橋の手前で横陣を組むわ。渡る陽軍を狙って迎撃するなら、橋での戦に限り数の優位性が逆転するもの」

「芸の無い迎撃策ですが、それだけに一定の戦果を望めますね~」

「正攻法での突破は被害が大きいのです! 後、気になるのは――」

「大炎に対してどんな対策を用意してあるか……だな」

 袁紹の言葉に軍師達が頷く。

「たとえ橋の先で数の優位性を得ようとも、大炎に騎突を許せば――」

「横陣は崩れ、我が軍が殺到するな」

「魏軍もそれは承知のはず。大炎を封じる何かを用意していると見て、間違いないでしょう」

「いずれにしろ、明日は様子見からか」

 言って、袁紹は先鋒を任せる将を思い浮かべる。
 何が待ち受けているかわからない危険な任務だが、彼女であれば問題ないはずだ。








「それで私ですか。う~、大役にも程がありますよう……」

 明朝、日が昇り始めた頃。先鋒を託された斗詩が半べそで馬に跨っていた。
 袁陽は人材の宝庫である。そんな名将揃いの中なぜ自分なのか……。
 緊張から手綱を握る手が震える斗詩だったが、袁紹の選別に間違いは無い。

 陽軍の武将は、恋や猪々子を始め攻めに傾倒した者が多い。
 攻守優れる星は補給地点の防衛にあたっている。今回は様子見の為、臨機応変に動ける将が理想なのだ。
 そう言った意味では白蓮に任せる手もあったが、彼女の新兵科はこの任に向かない。
 故に斗詩へ白羽の矢が立ったのだ。

 斗詩の用兵術は堅実で理に適っている。兵に無理をさせないため被害も少ない。
 爆発的な力は無いが、一定の戦果を生み出すことが出来る。
 今回のような様子見にはうってつけな将だ。

 断じて消去法で選別したわけではない。消去法で選別したわけではないのだ!

「……よし!」

 斗詩は覚悟を決め、並ばせた歩兵達の前に出る。
 
 ――いけない、みんな萎縮しちゃってる!

 橋攻略を任された歩兵達は自ずと勘付いていた。自分達が、罠の有無を確かめる隊であると。
 橋を落とせば渡河は困難になる。魏軍としては橋が無いほうが守り易いはずだ。
 それなのに橋は健在。罠の類を疑わない方がどうかしている。

 行軍中に橋を落とされるか。そうでなくとも、渡った先には敵の大群が控えている。
 飛来する数千、数万の矢。騎馬隊による容赦ない波状攻撃。
 それらに晒されながら、後に続く隊の為に拠点を構築する。

「無理だ……渡れたとしても壊滅する」

「クソッ、数で勝っていると言っても橋の先じゃあ……」

「ああ、俺達は不利な地で戦う事になる」

 陽軍と魏軍の戦力差が圧倒的なだけに、陽軍の一般歩兵達はどこか浮き足立っていた。
 彼らにとってこの戦は勝ち戦。生きる死ぬを考えず、どこまで戦果を――と、楽観視していたのだ。
 そんな胸中の彼等に危険な任が降りた。顔良軍に配属された者達は貧乏くじを引かされた気分だ。

 その気持ちは斗詩にも痛いほど良くわかる。だからこそ、その解決方法も。

「それでは皆さん。これから橋を渡って拠点構築及び防衛を行います。
 私に付いて来て下さい、出陣!」

『へ?』

 あっけにとられている歩兵達を他所に、斗詩は馬を下りて走り出す。
 罠の事を考慮して、後方で指揮を取るよう言われているというのに――

「しょ、将軍に続けぇぇッッ!」


 慌てて歩兵達が走り出す、その顔に恐怖は無かった。

「……フフ」
 
 それを見て斗詩は、考えがあたったことを確信した。
 思い出すのは親友、猪々子のこと。

 いじめっ子に泣かされたとき。
 乱暴者に絡まれたとき。
 賊に襲われたとき。

 親友である彼女は、いつも震える(斗詩)の前に出て戦ってくれた。
 それに手を引かれ鼓舞されるように、私も前に出ることが出来た。
 その時の私は―――震えることすら忘れていた。



 そう、萎縮した歩兵達に必要なのは将の背中だった。
 安全圏で一方的に命令するのではなく、同じ視点で前線に臨む将。
 彼女一人いるだけで―――
 
『オオオオオォォォォーーーーーッッッッ!!』

 どこまでも戦意が上がるのだ。

 





「あわわ、大丈夫かな斗詩ぃ……」

「……」

 橋を疾走していく斗詩を見て、猪々子はわかり易く慌て。
 袁紹は口を閉ざし静観していた。

 表情はいつも通りだが、その心中は穏やかではない。
 拳に力をこめ、御輿に飛び乗るのを我慢している。
 これがどこぞの覇王であれば、涼しい顔で将の雄姿を見届けるだろう。
 総大将としてまだまだ彼女に及ばない――と、血の滲む拳を見ながら袁紹は自嘲した。






 袁紹達が心配そうに見守る中、斗詩達は橋の中腹を通り過ぎた。

「! 矢が来ます、密集陣形!!」

『応!』

 そんな彼女達に、数千にも届くであろう矢の雨が降り注ぐ。
 斗詩達は身体を寄り添って密集し、円盤の鉄盾を頭上に掲げ大きな傘を作り衝撃に備える。
 一方向の防御にのみ特化させた、擬似ファランクスだ。

「うおお、豪雨だぜ豪雨。なかなか降り止まねぇ!」

「だがさすが袁陽製の鉄盾だ。びくともしない」

 大炎にも採用されている鉄盾だけに、魏軍の矢ではびくともしない。
 そのまま斗詩達は矢の雨が途絶えるのを見計らい、徐々に橋を進んでいく。
 
 しかし――橋の終わりに差し掛かったところで、彼らの足は止まった。
 正面から矢が飛んできたのだ。先程の高台による降り注ぐような射撃に加えて……。
 密集陣形による防御は一方向に特化しているため、二方向での攻撃には対応しきれない。
 それでも、陣形の外側に居る者たちが正面の矢を防ごうと奮闘したが――
 頭上と身体の正面とでは面積が違う。どこぞのスパルタン兵のようにファランクスを使いこなせれば話は変わってくるが、あいにく、そのような訓練は施していない。
 
 もう一つ大きな問題がある。魏軍により橋を渡る陽軍との間に設けられた柵だ。
 この柵が進軍を阻む致命的な障害となった。
 その作り自体は単純な物、材木を縄で縛り合わせ並べただけだ。
 しかし、使われている材木の一つ一つが頑丈な素材を使用しているらしく。
 接近に成功して大斧の類を振るっても中々壊れない。水を含ませているらしく、火矢の効果もいまいちだ。
 偶然かわいた部位を燃やせたとしても、消火用の水で消されてしまう。
 最早、破壊するより縄を解いていったほうが早いという状態だが、その間に矢の的になってしまう。

「……」

 斗詩には複数の選択肢がある。

 一つ、人海戦術による突破。
 犠牲は多いだろう。しかしそれでも、潤沢な兵力が自軍にはある。
 形振り構わなければ突破は容易だ。

 ――駄目。こんな方法では、無駄に多くの血が流れるだけ。

 二つ、一時退却し突破力の高い他の軍に任せる。
 猪々子、恋、華雄、単純な突破力ならこの三軍に値する軍は少ない。
 彼女達とその隊の力を持ってすれば、目の前の柵など廃材の化すだろう。 
 
 ――これも駄目。他の誰かに任せられるのなら、麗覇様は私に託しはしない!

 三……。

「……」

 斗詩は何時の日か、袁紹に聞いたことがある。任せる人選の基準はどんなものなのかと。
 彼曰く、能力や性格が大きな判断基準らしいのだが――……。

『我が人に何かを頼む時は、それが“出来る”と確信した者にしか頼まぬ』





 気が着いた時には一人、密集陣形から飛び出していた。

 二枚看板の一人、顔良。相方に比べて地味な立ち位置に甘んじている彼女だが。
 既に英傑たるだけの能力は持ち合わせていた。
 では、英傑となるのに何が足りないか。鍛練、才能、地位、違う、勇気だ。
 己の力を信じ、前に出る勇気が“今まで”の彼女に足りなかった。

 その勇気を“今の”彼女は手にしていた。
 
 この大橋に挑む時だ。昔の自分のように震え、萎縮している兵士達を鼓舞せんと先行する。
 あの時、斗詩は勇気の欠片を手にし、袁紹の言葉が背を押した。

 そして、一度それが開花すれば――

「いけぇぇッッ! 斗詩!」

「――ッ、えーーーいッッ!!」

 柵程度では彼女を止められない。

 飛び出した彼女を狙い飛来する矢を、盾で受け大槌で掃いのける。
 そして柵の前に到着しすると、場違いな可愛らしい掛声と共に柵が吹き飛んだ。








「よっしゃぁッッ。さすが斗詩、あたいと麗覇様の嫁!」

「……」

「複雑そうな表情ですね、お兄さん。嬉しさ半分、寂しさ半分といったところでしょうか~?」

「バ、バーロー。ちがわい!」

 図星である。

 今までの袁紹は、斗詩に対してどこか過保護な側面があった。
 無理も無い。この世界に生を受けてから、彼の女性に対する認識が“武人”となったのだから。
 そんな中で一歩引いた立ち位置を良しとし、女性らしい仕草の斗詩に出会ったのだ。
 言わば彼女は“守ってあげたくなる系女子”である。庇護欲に駆られるのも当然と言えた。

 今回の任に対してもそうだ。袁紹は斗詩に橋攻略の力があると確信しておきながら、指揮を後方で執るようにと命じた。言葉で背を押した当人が、庇護欲で彼女の成長を妨げていたのである。

 そんな斗詩が、袁紹の庇護()から飛び出し英傑として開花する。
 君主として喜ぶ以上に、男として寂しさを感じるのだ。

「その成長を偽り無く祝うことも、男としての器量かと」

「……で、あるな!」

 彼の中に生まれた寂しさは瞬時に霧散した。
 
 そもそも、斗詩が成長した所で二人の関係が変わるわけではない。
 寧ろ一歩退いていた彼女が前に出たおかげで、二人の距離はより近くなったのだ。
 これを祝う事が出来ないのであれば、君主である以前に男として失格だ。
 そう悟った袁紹は、曇りの無い瞳で斗詩の雄姿を視界に納め続けた。




 魏軍では、物見の高台から郭嘉が全体の指揮を執っていた。

「柵は全て破壊されました。現在、我が軍の歩兵部隊と交戦中!」

「陽軍が拠点を構築中です。敵歩兵が邪魔で阻止できません!」

「郭嘉様、大橋から敵軍が殺到してきます!」

「橋防衛に付いていた弓兵を下がらせてください。騎馬隊はその援護を、それから――」

 橋を攻略されること事態は予定調和。予め用意された策の進行段階の一つにすぎない。
 しかし、郭嘉の表情は晴れなかった。

「少し予定が狂ったわね、稟」

「はい、まさか顔良さんで来るとは……。そして、彼女がこんなに早く橋を攻略するとは思いもしませんでした」

 郭嘉の予定では、大炎を温存して猪々子とその隊で攻めて来ることを予期していた。
 攻めに特化した将は御し易い。最終的に橋を攻略されたとしても、相応の痛手を与えられたはずだ。
 
 だが、陽軍はその予想に反して顔良を投入した。
 堅実な用兵術で知られる彼女は、橋で陽軍に少しでも多く被害を与えようとした魏軍にとって、厄介な存在だ。
 しかし、堅実とは裏を返せば瞬発力の低さを意味している。
 そこを突いて、堅牢な防衛線を構築し徐々に被害を与えようとしたのだが――……。

「この場面で、将として一皮剥けるとは……」

「時として人というのは、小さな理由から才に目覚めるものよ。
 現に顔良には才も、その才を開花させるだけの努力もあった。
 私達は偶然、英傑誕生の場に居合わせただけ。拍手くらいなら送ってもいいわ」

「……」

 敵将の成長に動揺しないばかりか、口角を上げて賞賛する華琳。
 その主の器量の大きさ、度量の広さを改めて間近で感じ、郭嘉は頬を紅く染める。

「陽軍に新たな英傑が生まれようとも、盤面に狂いはありません。
 次なる一手でさらに磐石に仕上げて見せましょう!」








 斗詩とその兵が橋を攻略、兵を安全に送り込むための拠点を幾つか構築した時それは起きた。

「きゃあ!」

 後方の安全を確保し、このまま魏軍に攻撃を仕掛けようと歩を進めた斗詩達を、突如強い揺れが襲った。斗詩は慌てて大槌を杖代わりに体を支える。

「た、大変です顔良様! 我が歩兵隊の中心地に巨岩が!」

「な!? そんなまさか――」

 恐る恐る前方の魏軍を見渡してみると、ソレが確認できた。

「投石機! ありえません!!」

 魏軍の軍中、その中央付近に巨大な建造物が三つ、投石機だ。
 それを見た陽軍は上から下まで、全ての人間が目を見開いた。

 陽軍が橋落としの次に警戒していたのが投石機だ。
 いくら大炎とは言え、自身の数倍もある巨石を受けて無事で居られるわけが無い。
 虎の子の殲滅を避ける為、それを建造し運用できるであろう魏軍を見張らせたのだ。
 しかし、陽軍が誇る数百人の物見達からは投石機の類を確認できなかった。
 投石機は巨大な兵器だ。見晴らしの良い軍中に隠す術は無い。
 
 だが、どこからともなく投石機は現れ、陽軍への奇襲に成功した。







「フフフ、彼の慌てる姿が目に浮かぶわ」

「流石の陽国も、これを察知する事は叶わなかったようですね」

 これとは即ち、カラクリ式折り畳み投石機“なげるんデス”二号、三号、四号の事だ。
 郭嘉から、敵軍から投石機を隠蔽する方法を相談されたカラクリに目が無い李典が、袁紹と顔合わせをした時に見かけた“折りたたみ式御輿”を参考に作り上げた物だ。
 未使用時は広げて小さく畳む事ができる為。投石機を兵で取り囲むことにより隠蔽に成功した。
 
 これこそ魏軍が今回の戦にあたり、必殺の矛として用意したものだ。
 陽軍が橋から戦力を送り込めば込むほど、その被害は甚大なものになる。
 空から降ってくる巨石に、一般兵達の士気もガタ落ちするだろう。

 そして陽軍の出血をさらに広げようと、工作部隊にさらなる投石の合図を送る郭嘉だったが――

「急報! 陽軍が船での渡河を開始しました!」

「ふむ、いったい何隻―――ッッ!?」

 今度は魏軍全体が目を見開いた。

 陽軍の小型船だ。それが数千隻、大河を埋め尽くすかの如く此方を目指している!

「小型とは言え、この数を用意するにはかなりの時を要するはず。
 陽軍は、この地での戦を予測していた!?」

「まさか彼が、短期決戦を選択するとはね……」

 華琳が目を細め、陽軍の大船団を静かに見据える。
 この陽軍の攻勢が、魏軍の用意した盤面にどう影響するか予想しながら。




 持久戦でも圧倒的有利である袁陽が、開戦初日から曹魏に王手を掛けた。









 
 
 

 
後書き
一号は(ry 
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