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百人一首

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87部分:第八十七首


第八十七首

                第八十七首  寂蓮法師
 雨が降りだした。この突然の雨。
 にわか雨が突然降ってきて辺りを覆う。それはすぐに止んだのだけれど。
 残していったものはあった。ほんの一時のにわか雨だったけれど。
 それは何かというと。霞だった。
 槙の葉に残していった霞。それがにわか雨の残していったもの。
 静かな木立の間からそれが見える。
 白い霞が霧の如く立ち込めて。
 秋の夕暮れを包み込む。
 その白い世界の中に隠れた赤い世界。けれどそれはその向こうにうっすらと見えている。
 にわか雨がなければとても現われはしなかったこの世界。幻想の世界。
 その中にいて見ていると。にわか雨の如く気持ちが沸き起こってくる。歌を詠いたいという気持ちが。
 それがこの歌を詠わせてくれた。ただここにいるだけでは気持ちが収まらなかっただろう。けれどそんな自分に歌を詠わせてくれた。この世界が。

村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ

 白い世界の中にたたずむ自分が見ているものはただの幻想ではなくまことの世にあるもの。この中にいて歌を詠う。それで何か満ち足りた気持ちにもなる。秋は実りの秋だけれど自分が実り満たされたのはこの霞によってだった。それをもたらしてくれたにわか雨に今は感謝したい。突然降り出した雨だったけれど。自分にも多くのものを与えてくれた。


第八十七首   完


                  2009・4・2
 
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