百人一首
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69部分:第六十九首
第六十九首
第六十九首 能因法師
三室山の紅葉は不思議なもの。今それをつくづく感じていた。
まずは散りその紅い模様で龍田川を覆う。
それで川を紅く染め上げてしまう。それがまずとても不思議なこと。
けれどそれだけには留まらず。風に吹かれて散らず川を染め上げるだけではなくて。それだけには留まらず。
秋そのものになって旅をはじめる。ゆらゆらと川の水に乗ってのどかに。
この秋の楽しい思い出をその中に持って川を下って旅をはじめる。
龍田川は紅に染まりその思い出を乗せていく。川は紅葉の帯となってその美しい姿を見せている。秋にしか見られない姿。
その秋にしか見られない姿を見つつ今は静かにたたずみ。歌を口ずさんだ。
嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 龍田の川の 錦なりけり
歌にしてみても感じるのは秋。秋の風情と美しさ。そのことを深く感じるのだった。
秋はただそこにあるだけのものではなくて。そこに無限の深さと美しさがある。それを感じ取り詠った歌はそのまま紅葉に向けたもの。紅に染まった川は静かに流れ深いものをそこにたたえ続けている。秋の紅葉は山を染め上げるだけではなくて。こうして川を染め上げそのうえで旅に入る。旅を見送りつつそれを感じ取る。人もまた秋の中に身を置きその美しさの中に浸っていく。
第六十九首 完
2009・3・7
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