百人一首
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
67部分:第六十七首
第六十七首
第六十七首 周防内侍
春のこの月夜がまずあった。それに誘われてのことだった。
月夜の誘いは何よりも強くて。ふと気付いたその時にはもう。
あの人と共にいて。あの人の腕の中に自分がいる。
そう噂されてしまう夢を見ることになってしまうだろう。月夜に誘われればそれだけで全てが変わってしまうことはわかっている。
けれどそれはつまらない話。つまらない噂でしかない。
そんな噂が立ってしまえば。自分の様な者とそんな噂になってしまえば。
困るのはそちら。そう忠告した。
月夜は確かに不思議な魅力があって。その下にいるとそれだけで心が揺らぎその誘いに乗ってしまい最後には過ちを犯してしまう。これは誰にでもよくあることで自分にとってもあの人にとっても同じことなのだと強く心に留めておく。
しかしそれは愚かなこと。愚にもつかないことなので。
それで今この歌で釘を刺すことにした。噂ができてしまうその前に。
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
こう忠告を出しておく。何かあればつまらないことだから。月世の中でつい揺れてしまうその心を抑える為にも。一時の気の迷いで過ちを犯してしまう前に。この歌をあの人に贈りそんな馬鹿なことにならないようにしておいた。春の静かな月夜の下でこの歌を贈って。
第六十七首 完
2009・3・5
ページ上へ戻る