酒と雪女
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第一章
酒と雪女
波田喜一郎はこの時自分の家の中でだ、弟の喜多にこんなことを言った。
「寝るか、そろそろ」
「寝るかって他に何があるんだ」
喜多はこう兄に返した。
「酒飲む以外に」
「ないな」
五平は弟にすぐに答えた。
「それこそな」
「そうだろ、外は雪だぞ」
六郎は家の外を見た、二人は共に仕事を持っていてそれなりのアパートで兄弟で暮らしている。両親とは折り合いが悪く別々に暮らしているのだ。
今は夜でだ、外は雪がしんしんと降っていて積もってさえいる。岩手の冬の夜ではいつもある様な状況だ。
その外の方を見ながらだ、喜多はまた兄に言った。
「コンビニでも行くつもりか」
「外大雪でしかも買い置きもあるのにか」
「そうだろ、出る理由ないだろ」
「ああ、もう晩飯も食って風呂も入った」
そうしたとだ、喜多は兄にこうも返した。
「それならな」
「やることもないか」
「それとも飲むか?」
「そうするか?」
喜一郎はそれに乗った、見れば二人共よく似ている。
髪の毛は薄めで細長い顔に丸い目、そして色黒だ。鼻は丸い。
痩せていて中背で腹がだぶつきかけている、その二人がだ。
共にだ、テレビを観ながら話していた。
「もうな」
「やることないからか」
「そうするか」
「日本酒か?また」
喜多は兄に問うた。
「兄貴の好きな」
「やっぱりそれだろ」
酒ならとだ、喜一郎も返した。
「酒っていったらな」
「兄貴本当に日本好きだな」
「それは御前あれだろ」
「岩手だからか」
「俺も御前もな」
「ここで生まれ育ったからか」
「それならな」
岩手、もっと言えば東北ならばだ。
「日本酒だろ」
「ビールも焼酎もあるだろ」
「もっと言えば日本人だろ」
喜一郎は喜多にこうも言った。
「飲むならな」
「あの酒だっていうのか」
「米で造ったな、じゃあそれ飲もうな」
「まあな、俺も日本酒好きだしな」
喜多も実は嫌いでないのでこう返した。
「それなら飲むか」
「ああ、外も寒いしな」
家の中は暖房が効いているがだ、しかも二人共コタツに入っている。
「飲もうな」
「今日もか」
「飲んでそれで寝て」
「明日も仕事だな」
「ああ、明日も頑張ろうな」
「お互いにな」
「積もってるからな」
それもメートル単位でだ、東北の冬は過酷なのだ。
「早く起きてな」
「雪かきしてから行こうな」
「さもないと家から出ること自体が無理だからな」
そんな話もしてだ、そうしてだった。
二人は一升瓶を一本とそれぞれの湯飲みにつまみに梅干を出してだった、テレビは付けたままで飲みはじめた。
そうしながらだ、喜多は共にコタツに座って飲んでいる兄に尋ねた。
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