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トウブ

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第三章

「間違ってもね」
「そんなに美形なんですか」
「お会いすればわかるわ」
「そうですか」
「特に服装と合ってるから」
「服装と」
「それもお会いすればわかるわ」 
 今はこう言うだけの美樹だった。
「その時にね」
「そうなんですね」
「妻帯者だからね」
「やっぱりアラブですから」
 その相手が妻帯者と聞いてだ、こうも言った由乃だった。
「相手の人は」
「四人までっていうのね」
「やっぱり」
「あっ、それはないから」
「その人は」
「奥さんは一人よ」
 イスラムの戒律では妻は四人まで持つことが出来るが、というのだ。
「あくまで今のところは、だけれど」
「そうですか」
「けれど妻帯者でムスリムの人だから」
「宗教が違うと」
「ここでは結婚出来ないから」
「改宗しないとですね」
「改宗は凄く楽だけれど」
 イスラム教の特徴である、夢で美形の王子に改宗する様に言われただの言えばそれで喜んで改宗を認められる。この寛容さがイスラム教を世界宗教の一つにしたのだ。
「改宗する気はないでしょ」
「実は代々臨済宗で」
 家は、とだ。由乃は答えた。
「イスラムは」
「私もお祖母ちゃんの実家が神社でね」
 美樹も微笑んで言う。
「それはね」
「難しいですよね」
「だから私達は独身だけれど」
「好きになるとですか」
「まずいからね」
 だからだというのだ。
「そこはね」
「気をつけて、ですね」
「やっていきましょう」
「わかりました」
 由乃はまだ相手、そのラシードには会っていないが美樹のその言葉に頷いた。そのうえでこれからビジネスで会う相手や仕事の予定、日時等について細かく話をした。
 そして次の日から本格的に仕事に入った、まずはそのラシードと会うことになったが。
 この時もだ、美樹はラシードの屋敷に向かう途中で由乃に車中で言った。
「また言うけれど」
「絶対に、ですね」
「そう、本当にね」
 そこはと念押しするのだった。
「好きにはならないでね」
「異性として」
「私最初見てびっくりする位だったから」
「そこまで美形だったんですか」
「美形で」
 しかもというのだ。
「服装もね」
「似合ってるんですか」
「ええ、だからね」
「好きになってはですね」
「駄目よ」 
 こう言って念を押すのだった。
「私も最初お会いして何とかだったから」
「好きにならない様に」
「苦労したから」
「そこまでなんですか」
「そこはお願いね」
「はい、お仕事ですから」
「私情は挟まないで」
 そのうえでというのだ。
「やっていきましょう」
「わかりました」
 ラシードがどんな人物かその目ではわからないままだった、由乃は美樹の言葉に頷いた。そのうえで。 
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