チャドリ
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第四章
「家はあって匂い立つみたいな美人だ」
「あんたの二人目のかみさんにはしないのか」
マスルールが既婚者であることからの冗談めいた突っ込みだった。
「そんなに美人だっていうんなら」
「好みじゃないしそんなに金があるか」
「二人のかみさんを養える位にはか」
「そうだよ、だからな」
「一人か」
「俺は今のかみさんが好みだ」
彼の今の妻がというのだ。
「匂い立つみたいな美人よりもな」
「美人なことは認めてもか」
「けれど御前さんはどうか」
イマル自身はというのだ。
「そうした問題だ、今回は」
「そうなるな、確かに」
「じゃあ来るよな」
「是非な、美人のかみさんなら」
イマルも是非という顔で応えた。
「願ったり叶ったりだ」
「よし、じゃあ今からだ」
「行くな」
こうしてだった、イマルはマスルールに案内されてその美人の後家の家に赴いた。言うまでもなく店を畳んだ後で。
後家の家は彼が商いをしている通りから少し歩いたところにあった、普通の大きさだったが随分清潔な感じがしていて。
出て来たのは確かにだった、浅黒い肌によく似合う黒い切れ長の睫毛が長い瞳に紅のあだっぽい唇を持ち。
脚は長く胸が大きい見事な美人が出て来た、完全にイマルのタイプだった。
イマルは後家を見るなりいきなり惚れ込んだ、そしてマスルールが紹介するよりも早く名乗り彼女の名前も聞いた。
後家の名前はジャラーダ=サールーンといった。ジャラーダは随分と気立てもよく美味い手料理で二人も迎えてくれて彼は彼女とマスルールを差し置いて積極的に話もした。
後家の家を出たのはもう真夜中だった、彼女の家を出てすぐにだった。
マスルールは苦笑いでだ、イマルに言った。
「おい、もうな」
「俺ばかりって言うんだな」
「喋ってたな」
「あんたが紹介する筈がな」
「あんたが名乗って名前を聞いてな」
「いや、何でも話したな」
「俺は殆ど話してないぞ」
紹介役であったがというのだ。
「商売人だから口は動くのはわかるが」
「いや、まさかな」
「あそこまで美人とはか」
「思わなかったからな」
だからとだ、イマルはマスルールに言葉を返した。真夜中のカブールの道を歩きつつ。
「だからな」
「自分から話したんだな」
「どんどんな、しかしな」
「しかし?」
「美人でスタイルはいいし料理も上手でな」
イスラムのヴェールではなく洋服、ズボンだった。アフガニスタンでもこうした服装の女性は結構いたりする。
「気立てもいい感じで」
「いい人だろ」
「そこはあんたの言う通りだな」
「だからな」
「あの人とか」
「真剣に考えてみるか?」
「もう考えてるさ」
既にというのだ。
「本当にな」
「ちなみにあの人の前の旦那さんはな」
「どんな人だったんだ?」
「結婚した時はもう七十過ぎで曾孫もいた」
「爺さんだったんだな」
「それでもあの人を街で見掛けてな」
そしてというのだ。
「第三夫人にしたんだ」
「ああ、それで夜も昼もか」
「そこはわかるな」
「歳取ったら本当にそうしたことは毒なんだな」
「それで大往生をしたんだ」
「その爺さん幸せだったな」
どうして幸せだったかはだ、二人の間でわかっていたので多くは言わなかった。
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