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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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休日ククールと容赦ないトウカ

 ある日の、よく晴れたトラペッタの草原にて。

「ねぇククール」
「……なんだ」

 我らがリーダーエルトは目の前で次々と槍の技を出し続け、風を切り裂く音は聞いていて気持ちがいい。かれこれ一時間は続けているのにほとんど息を切らさない様子は流石としか言いようがない。それぐらいできないとこの旅を切り抜けられなかったとも言うが。

 ちなみにゼシカは俺と同じくエルトの演舞じみた訓練を見ていて、ヤンガスはトウカとどっかに行ってしまった。大方スライムでも狩っているんだろう。羽休めにやってきたトラペッタ地方の弱い魔物相手に遅れをとるはずがないしな。

「ククールってトウカのどこが好きなの?」
「そうよ、あたしも気になってたの」

 …………。お前ら実は暇だろ?

「暇じゃないしっ」
「あんたってもっとわかりやすい女の子を好きそうなのにね」

 わかった、少し話してやるから俺に当たるぎりぎりまで槍を振るのはやめようなエルト。だんだん誰かに毒されてないか?砂塵の槍のせいで砂がだいぶ巻き上がって目が痛いからやるなら別のやつでやってくれ。いいな?

「オッケー。じゃあ僕の、夜眠れないぐらい気になること話してよ」
「嘘吐け」
「バレた?」

 あははと笑う姿は普段の俺達を率いるリーダーらしい苦労人というよりは近くで腰を下ろして催促しているゼシカに似たものを感じるんだが。年相応だな、普段もそうしときゃいいのによ。

「僕はいいから。トウカとは長い付き合いだけど旅立ってからかなり言動、変わってるんだよね。まだトロデーンにいた時の貴族然とした姿の方がまだしも可愛いと思ってさ」
「……あの笑顔を見てなにか思わなかったのか?」
「あー……童顔だよねトウカ」

 とても二つ年下とは思えないが、そこじゃない。行動の端々が妙に世間知らずで子供っぽい時があるがそうじゃない。

「黒い瞳に吸い込まれそうだった事は?性別のわからない人間の髪の毛に触れたいと思った事はあるのか?」 
「……それ、ひとめぼれって事かしら」
「…………」
「照れ顔のククールなんて見たくないんだけど」

 話せと言ったのはそっちだろ。ともかくトウカの浮かべる表情を見ていたいとでも言えば満足か?頭撫でたら眩しい笑顔が返ってくるがそんなレディ今までいなかったし、大抵俺の顔を見てイチコロだったからな。

 なんて言いつつ髪の毛をかきあげるとエルトが突然ザクッと槍を地面に突き刺し、さっきまで呆れたり納得顔だったりと忙しかった表情が消えた。……そのまま見据えられると背筋がゾクッとする。

「顔と身長の話しないでくれる?」
「身長……?俺身長の話なんて」
「……いいよ、今回は何も言わないから。話してくれてありがとうね。僕もちょっとひと狩り行ってくるからさ」

 …………。……エルトもきっとお年頃なんだな。あの姫様は綺麗だったし少しは焦ってイラつくもんか。個人的にはお似合いなんだが立場がなぁ。それは俺も身分の違いはあるんだが王族に比べればまだ、な。

 矢のごとく飛び出していったエルトの振りかぶる槍の、早速の餌食となったプークプックが赤い飛沫を上げるのが既に遠い。ブウンと槍を振る音が低くこっちまでびりびり伝わってくるから相当、溜まってんなあれは……。

「その顔にそんなに自信があるなら全面に押し出せばいいのに」
「その手があったか」
「……ねぇククール、貴方トウカが絡むと結構ポンコツよね」

 おいおいゼシカ、俺は天下のククール様だぜ?今は本気を出していないだけで恋愛経験のないトウカをコロッと惚れさせることが出来る……かもしれないぜ?こう、壁際に追い詰めて甘い言葉でも囁けば……。

 頭の中にゼシカへの練習?と首をかしげてにこにこ笑う姿が浮かんで来たからさっさと首ごと振って振り払った。何事も挑戦、色恋沙汰は俺の戦場なのだから気弱ではいけない、だろ。多分……。

「なんで最後尻すぼみなのよ。あんた真面目に頑張ってるし、あたしだって応援してるからね。だから帰ってきたトウカが背後に立っててもびっくりしないで相手したら?」

 バッと振り返れば逆光に浮かび上がる笑顔があった。肩に担いだ剣から滴り落ちる赤い液体もいつものこと、そう?と首をかしげて笑うのも何時ものこと、剣を片手に話の輪に自然に入ってくるのも、いつものことだ。

「えへへ気づかれてた。ねぇ楽しそうだね、何か話してるの?」
「……特に気にしなくていいぞトウカ。大した事は話してない」
「そうよ、ちょっと恋バナしてただけなの」

 おい、ゼシカ!

「恋バナ?悩めるゼシカにククールの恋愛講座って感じなの?」
「んー、好みのタイプについて言ってただけだからあたしじゃないのよ」
「ふぅん」

 ……姉妹だ、姉妹がいる。しかも立場逆転してないか。トウカがひとつ、ゼシカより年上だったよな?

「トウカは三人もパーティに男がいるけど誰か気になってたり顔が好みだったりしないの?」
「ありゃ、ゼシカの口から出たとは思えない言葉だねそれ。顔は恋愛に気になるものでもないけど、みんなかっこいいなって思ってるよ」
「具体的には?」

 トウカはブンと剣を勢い良く振って血糊を吹っ飛ばすと背の鞘に収め、とろける笑顔でかっこよくて眼福だよねと零す。……その笑顔の対象に俺も含まれているよな、な?

「エルトは小さい時から期待してたけどやっぱりかっこよくなったから、男装の参考になるよ。しかもお姉さん方に庇護欲を掻き立てさせておきながらあの兵士らしく逞しく、なのに素朴!素朴なのに地味じゃなくかっこよく適度に可愛い!可愛いけど間違いなくかっこいい!隣にいて恥ずかしくなっちゃうよイケメンの隣じゃあ。私みたいな地味顔だとさぁ。ほら、子供っぽいし」
「トウカは可愛らしい顔つきだと思」

 俺にしては情けない、だが精一杯の言葉は最後まで言わせてもらえない。マシンガン如く語り始めたトウカに気圧されただけに終わっちまう。

「そうかな?ありがとうククール。それでねそれでね、ヤンガスはやっぱりワイルド系としてのかっこよさは私の中では最高。パワフルさも勿論、本人が気にしてる人相も私は好きだな。だって見た目だけで相手を圧倒できるんだよ、羨ましいな!ギロって睨まれたら怖いぐらいがいいよね!もう少し年齢が近かったらもっと見惚れてたかもしれない!年上のかっこよさもいいけど!」
「……トウカってヤンガス好きよねホント」

 もしかして俺に足りないのはワイルドさ、なのか?というか次俺だよな。……キラキラした目で仲間について語るトウカがゼシカに向かって今日最高の満面の笑みを向け、次の瞬間俺は心臓が口から飛び出るかと思った。容姿について褒め称えられるのは慣れっこのはず、だったのにだ。

 あーあ、そうだ。ゼシカの言う通りだ。俺ってもっとクールだったよな、クソ。調子崩されっぱなしでモテモテ騎士の名折れに等しいってもんだ。その名前は現在、本命に相手にされていないことで名折れもなにも機能すらしていないがな!

「んーん、みんな好きだよ?でさでさ、目の前に本人がいるから言っちゃうのは恥ずかしいけど、ククールはナンバーワンの色男だよね、隣にいたら女の人の嫉妬の視線凄いし、正面から見たら正直おおってなるよ、妖艶な雰囲気って言えばいいの?その銀糸の一本一本まで神様が彫刻した傑作って言われても私納得しちゃうし。毎日見放題って言うのはもうすごい。朝見たら目が覚めるイケメン。匂い立つイケメン。笑いかけられたらどうしようって思ったから対抗してキザな台詞を言っちゃうぐらいイケメン。かっこいいのに綺麗が似合うってどういうことなの詐欺かな。目の色も好き。見てたら色は冷たいのに温かいから。背が高いのもいいよね!ほぼ、完璧な容姿だよね、ほんと」
「ア、アリガトウゴザイマス……」
「そうやって不可侵の女神みたいな見た目なのに人間らしい反応があるククールって好きだよ!」
「……」

 最後に真正面からのいい笑顔を食らってちょっと意識がとんだ。アルゴングレートの一撃より効いた。その好きだよの前に面白くて、とか親しみやすくて、が付くのは分かっていたからすぐ我に返れたが、昇天するかと思っちまった。

「案外トウカって面食いなの?」
「大事なのは中身だよもちろん。でもってみんな好きだからこそさらに容姿が良かったらもっとかっこよく見えてくるってもんさ。私ももっとかっこよくなりたいなぁ。キャーキャー言われるようなイケメン騎士だったらいろいろもっとサマになるのにね」

 ちらりとゼシカが俺を見た。にやけたような表情にひきつけておくから今のうちに動揺した顔をなんとかしなさいと書いてある。ありがたく、そうさせてもらう、が。 

 そうか、この顔は有効なのか……。なら迫れば、いけるのか、この裏でキャーキャー言われてる騎士様を俺の物に。相変わらず脳内では壁に追い詰めても肩か背中を踏み台にされてひょいっと脱出される構図しか浮かばないがそれはこっちの勝手なイメージにすぎないし。

 ……にしてもなんで俺が言葉でオトされているんだろうな?

 と遠い目で考えていればいつの間にやらつかの間の休日は終わりを告げ、目に眩しい夕焼けの中。

「見て見て、みんなオレンジでお揃いだね!」

 そのくせ何度見てもその笑顔というのは目が潰れるぐらい眩しいのだから、ポーカーフェイスの返事が喜色満面の返事に変わっていないか心配になるぐらいなんだよな。 
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