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Fate/kaleid night order

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第9節:VSランサー

駆け抜ける、双剣を手に7つの武器を持つ謎のランサーへ走っていく。

「坊主、あの背中の武器…何をしてくるかわからねえ。無闇に近づくと一瞬で殺られるぞ。」

「わかってる。背中にある武器…軽く見ただけで大刀、刀、薙鎌、鎖剣、大槌、薙刀と手に持ってる大槍……多分、あれを全部使いこなすんだろう……なぁ、クロ、キャスター。」

「何、お兄ちゃん?」

「どうした?坊主?」

「キャスターが前衛、俺とクロが投影した武器で援護射撃、これで行かないか?俺とクロが背についてる武器を叩き落としてキャスターの戦いやすいようにする…これが妥当な戦法だと思う」

「ハッ!いいねぇ、お前みたいに機転のきくマスターは嫌いじゃない。いいぜ、それで行こう。間違えても俺に当ててくれるなよマスター!黒い嬢ちゃん!」

「なんかその呼び分け方に抵抗を感じるわね……ていうかお兄ちゃん、なんで私がお兄ちゃんと同じ魔術を使えるのがわかったの?」

「それは…まあ、さっきと同じでいろいろあってだ。」

「えー、またそれ?仕方ないわね。じゃあそれもあとで教えてよね。」

「ああ、ありがとな。」

(……やっぱり少しでも言ったほうがいいかもしれないな。)


やはり誤魔化すのが少し申し訳なくなった俺は事実を掻い摘んで答える。


「なあクロ。」

「何?」

「さっきのわけなんだけど、簡単に言うなら、
お前の使う投影(そのチカラ)は未来の俺の力が起因してるから、かな。」

「えっちょ、それってどういうーーー

「ごめん、やっぱり話はあとだ!作戦を開始するぞ!クロは俺に合わせて動いてくれ、いいな!」

「え⁉︎ええ!」


会話をしながら並走していた俺とクロとランサーは別の道へ別れる。ランサーはそのままシャドウランサーへ進んでいき、俺とクロは少し離れたところで弓と無数の剣を投影し、形を矢へと変えて地面に突き刺す。

既に目の前ではキャスターとシャドウランサーの戦いが始まっている。真紅の魔槍と無骨な槍がぶつかり合い、辺りを火花が照らす。

狙うのは奴の背中、外すことはランサーへ当たるということ…つまり、俺たちの敗北を意味する。鎖剣を狙った第1射……

意識をあの鎖剣にのみに集中する…決まりきった手順を寸分の狂いなくなぞらえる(トレース)、そういった機械的作業にばかり長けるエミヤシロウという存在に矢を外すという概念はない、無論、そのチカラをその身に宿すクロも。放てば必中。そうだ。迷う必要性は何処にもあるはずもなく、選ぶはずもない。結果など初めから見えているのだから…そして、第1射を放つ。

同時に放たれた2発の剣矢は狂い無く鎖剣を弾き薙鎌をも同時に弾き飛ばす、それと同時にシャドウランサーの真後ろで爆発を起こし、弾いた武器を消し飛ばす。

「いいねぇ、その正確な狙い。頼りになる」

ランサーの賛辞が聞こえるがそれを耳に入れる余裕はない。
続いて構える第二射…狙うは刀、又は大刀…

再び意識を集中し、放つ。

放たれた剣矢は今度も寸分違わず刀を弾き飛ばす。それを確認するのと同時に再び剣矢を爆発させる。

「これなら行けるな。」

俺は地面にさしていた剣を全て消し、新しく大きめの矢を3本投影し、一気に構える。

「体は…剣で出来ている」

極限まで集中力を高め、残りの3本の大刀、大槌、薙刀を狙う
既に当たる事などわかりきっている。ならば、後は矢を放ち、弾き飛ばす事のみ。

極限の第三射、放たれた矢は三つ…当たった矢は三本、大刀、大槌、薙刀の全てを弾き飛ばした。

「ナイスだぜ、坊主、嬢ちゃん!」

青い閃光が大地を駆け抜け、シャドウランサーへ突進する。
槍と槍がぶつかり合い、ぶつかり合う鉄の音が激しく響き、火花が熱く眩く辺りを照らし、むき出しの殺気が辺りを包む。

「いいねぇ!此れでこそ戦いだ!黒化してる癖に良くやるじゃねえか!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎––––––––‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

シャドウランサーは槍を振るい、ランサーの心臓を狙う、ランサーは魔槍でそれを防ぎ、更に相手の心臓を狙う、シャドウランサーは自身の槍で防ぎ……その繰り返しを無限に続ける。

その時だった。


Es last frei.(解放)Werkzung(斬撃)―――!」


後方支援のために俺とクロよりさらに後ろに控えてもらっていた遠坂のほうから虹色の斬撃が飛来する。

ランサーは自身のスキル「矢避けの加護」によって難なく躱すが、それを持たず、またキャスターとの死合いに必死だったシャドウランサーはそれをモロにくらい吹っ飛ぶ。

「ガッ……⁉︎」

「あっぶねぇ!今の下手したら俺に当たってたろうが!も少し加減できなかったのかよ!」

「うっさい、加減の仕方なんか知らないのよ!とにかくキャスター!一旦離れて!」

「あいよ!」

「教授、今です!」

「了解した、刮目しろ、これぞ大軍師の究極陣地『 石兵八ノ陣(かえらずのじん)』!」


高校生のころ氷室から聞かされたことがあった。
石兵八ノ陣(かえらずのじん)」、それは孔明が自軍の敗走が決まった際に仕掛けておいた伝説上の陣形。
孔明の十八番である「奇門遁甲」を利用した、地理把握・地形利用・情報処理・天候予測・人心把握の五重操作からなる、まさに彼の軍略の奥義にして最終形態というべき閉鎖空間。


それが、エルメロイ2世の掛け声とともに宝具として目の前で再現されていく。
上空から複数の石柱がシャドウランサーを囲うように高速で飛来し大地に突き刺さる。最後に屋根と思しきものが飛来し、たちまちのうちに巨大な迷路という名の牢獄が完成した。

「す、スゴイ……」


戦闘中とはいえ、実物を見たからか感銘を抱いてしまう。


「惚けるな!今のうちだ、エミヤ、レディ!」

「は、はい!」


エルメロイ2世の発言により、それが奴を拘束するためのものだと理解した俺たちはすぐさま仕込みに取り掛かる。


投影、重装(トレース・フラクタル)


創造するのは捻れた剣、かつての俺の仲間(セイバー)の家臣が所有していた聖剣の原典とされるケルト神話に登場する魔剣の改造系。


I am the bone of my sowd(我が骨子は捻れ狂う)


二人揃って手に現れた剣を弓に番える。


「その心臓、貰い受ける!」


ランサーを見ると既にランサーは飛び退き、呪いの朱槍を解放しようとしていた


偽・(カラド)

偽・偽・(カラド)

刺し穿つ(ゲイ)


アルスターにゆかりのある宝具を同時に放った。


螺旋剣Ⅱ(ボルグ)!!」

螺旋剣III(ボルグ)!!」

死棘の槍(ボルグ)!!!」


ドリルの様な形の二つの剣は、解放されたばかりのシャドウランサーの背中に突き刺さり、因果逆転の朱槍は奴の心臓を確実に貫いた。


「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……私を倒してくれた事…感謝しますぞ。キャスター、そして、そのマスター……」


シャドウランサー…いや、武蔵坊弁慶は其れだけ口にして満足そうに消えていった。


「へっ、感謝なんざされる覚えはないね。俺はあくまで俺のために戦ったんだよ。だが、俺としちゃなかなかに楽しめたぜ。」


こっちも満足してるみたいで良かった。


「っと、先ずは坊主。お前相変わらず弓の腕は確かだな、あれ程の使い手なんざ俺もなかなか見る事はないぜ?」

「あと嬢ちゃん、あんたもなかなかだったぜ。服装もの相まって、あの弓兵を思い出しちまった。」

「ねぇ、その弓兵って誰のこと言ってるの?」

「ん?誰ってそりゃ未来のb「ストップ!」うおっ⁈」


さらっと、クロにとって重要なことをバラしそうになったキャスターを後ろに振り向かせる。


「頼むからそれは今は言わないでくれ。」

「あ?何でだ?どのみちバラすなら早いほうがいいだろうが。」

「確かにそうだけど、それは俺が自分で言うってクロと約束してるんだよ。」

「なんだ、そういうことか。まあ構わねぇが早めにしとけよ?」

「ああ。」


とりあえずキャスターを納得させたので、二人揃って再びクロのほうを向く。


「ねぇ、それでその弓兵の正体は誰なのよ。知ってるなら早く言いなさいよ。」

「あー、すまねぇ嬢ちゃん。今坊主と話してる間に忘れちまった。」

「ハア?何それ、解りやすい嘘言わないでよ。」

「いやマジだって。な?この通り信じてくれ。」

「……わかったわ。」

「ゴメンな、クロ。」

「別に怒ってないわよ。お兄ちゃんがそうするのは私を思いやってのことなんだろうし。ただ、そうやってなんでもかんでも一人で背負い込むのは良くないって思ってるだけ。」

「ハハ、そういう癖はなるべく治していってるつもりなんだけどな。」


半ば不服そうではあったがなんとかクロはキャスターの話を信じてくれた。
俺は急いでなるべく自然に別の話に切り替える。


「其れでキャスター。これからお前はどうするんだ?俺たちは此れから柳洞寺の大空洞へ向かって大聖杯を破壊するつもりだが」

「あぁ、俺もそのつもりだ。だからよ、今後も協力って事にしねえか?」


槍を地面に刺し、真剣な顔で俺へ提案してくるランサー…いや、キャスター。


「俺はそのつもりだけど…」


遠くから走ってくる遠坂達を見るとキャスターも納得したのか頷く。


「成る程な、俺としちゃお前さえ良けりゃこのままマスターになっててほしいんだが…」

「ああ、構わないぞ。」

「そうか!ありがとな!」

「あ、でも言峰が生きてたら、あいつと契約してたのか?」

「んなわけあるか!あいつにパシられんのはもうコリゴリだ!」


即答だった、実に早い回答だった。


「そ、そうだよな。なら俺か遠坂しか居ないんだよな。俺たち、カルデアからの支援のおかげで信じられないことに複数のサーヴァントと契約できそうだし」

「あぁ、成る程な。で、他にもサーヴァントと契約すんのか?って聞くまでもないか…どうせ、あとは大空洞の奥にいるセイバーにでもするつもりなんだろ?」

「セイバーが大空洞にいるのか⁈」

「おお、いやがるぜ。そんでもって、今回の件の聖杯を守ってんのもあいつだ。」

「………そうだったのか。」


彼女に再開できるという嬉しさと、味方としてはこの上無く頼もしかったアイツと戦わなければならないという悲しさ、不安が同時にこみ上げる。だが、それでもこの特異点の異変を解決するにはやるしかないのだ。


「だが今すぐ向かうってのはお前の仲間のさっきの疲労具合を見るに難しいだろう。今日はひとまず休んで明日の明け方にでも攻め入るとしようぜ。」

「ああそうだな。」

「んで、そうするにあたって、どっか寛げる場所は無いもんかね?」

「……それなら少し心当たりがある。運が良ければそこで休む事も出来る筈だ」

「お、いいね。そこはどこだ?」

「俺の実家だ。」


俺にとって、本当の意味で始まりとなった場所、衛宮邸。あそこならこの大人数もなんとか許容出来るはずである。なんとか残っていてくれるといいのだが。


「なるほどな!確かにあそこならくつろげそうだ!」

「おいおい、連れてくのはお前だけじゃないんだぞ。」

「解ってる解ってる。それでさっきの件。実際どうなんだ、やっぱりセイバーのことが気にかかるんじゃねぇのか?」

「ほっとけ。」


俺の本来のサーヴァント…確かにそれは彼女以外にはあり得ない。あの言葉を、あの声を、あの仕草を覚えている俺としては彼女以外を自分のサーヴァントにしないという選択など出来ない、出来るわけがない。


「まぁ、セイバーが俺と契約してくれるかわからないけどな。」


誰にも聞こえない声で独りごちる、それは燃え盛る炎の音にかき消されて消えた。


その時だった。俺に向かって一本の矢が高速で飛んできたのは。


「ッ!坊主、避けろぉっっっ!」


「キャスターがそう言って駆け出そうとした時はしかしすでに遅く矢は目前に迫っていた。








直後に、斬撃が矢を襲った。

『!!!』

咄嗟に斬り伏せた影は一度マシュから遠く離れる。
いきなりのことに唖然とする2人を置いて、矢を射った本人が降り立った。そして俺に駆け寄り肩を揺さぶる。


「おい君!大丈夫か!うぇっ⁈君は⁉︎」

「……あなたは⁉︎」


呆気にとられていた俺はなんとか自我を取り戻し、その顔を見て驚愕する。1年半前、一度だけだが出会い命を救ってくれた人だったからだ。
なので礼を言おうとするがキャスターとクロが割って入った。


「マスターを助けてもらったうえにマスターの知り合いにこんなことをするのは不躾かもしれんが、てめぇーーー何者だ?いや、言い方を変えるか。何処の英霊だ!」


俺はそれを聞いて戸惑うよりも先にある考えに至る。


「ひょっとしてこの人もマシュやエルメロイ2世みたいなサーヴァントに肉体に憑依されてるのか?」

「ああ、そうみてぇだが…」

「えぇ。そうなんだけどーーー何なの?その割には、あなたは肉体そのものがサーヴァントとの憑依とか関係なしに異常っていうかーーー」

「どういうことだ、何を言ってるんだ?」 俺がそう答えそうになった瞬間、その人がまた喋り始めた。

「まいったなぁ。予想はしてたけど、流石にそこまで気づかれてると俺は敵じゃない、って言っても信じてくれないか。じゃあ、俺の真名と本名を明かすからそれでこの場は信じてくれないか?」

「っ⁉︎」


真名。それはサーヴァントにとっては弱点とも呼べるもの。それを容易く、初めてあった相手にそれを明かすなどと聞いた事がない。
だが、この人はあっさりそれをバラした。
そして、それを聞いたキャスターとクロはーーー


「ハハハハハハッ‼︎おもしれぇ!わかった、いいぜ。そういうことなら……坊主。俺もコイツを信頼させてもらうわ。」

「はあまったく、しょうがないわね。そうなると私も信じるしかないか……あなた、なんかお兄ちゃんに似てるわね。」

(どこがだ?)


俺はそう思いつつ礼を言う。

「キャスターとクロもこう言ってるし……改めて、ありがとうございます。俺は、もう知ってると思いますけど衛宮士郎って言います。よろしくお願いします。」


その反応に男は二カッと笑い、盛大に答えた。


「ああ久しぶり、士郎。俺はクラスはライダー、真名をローラン、本名は剣崎一真っていうんだ。よろしくな。」



今、混迷極まる戦いに、
フランスの大英雄の力を宿す運命に抗い続ける男が参戦する。 
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