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Fate/kaleid night order

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第2節:A.D.2015 〜人理継続保障機関フィニス•カルデア① 正面玄関前にて〜

目がまるで信号のように点滅を繰り返す。そして乗り物酔いに近い感覚に襲われ、それからくる怠さによって体を動かすのが面倒くさいと感じてしまう。随分と意識を失ってしまっていたようだ。現在の時刻がいつかは分からないが、遠坂も今頃同じような状態になってしまっているのだろうか。それが気掛かりだ。


ーーーフォウ?キュウ、キュウ、キュ?・・・・・フォウ!フォウ、フォーウ!
ーーーファサファサ、ペロッ。



その瞬間、(何だ?何かが俺の顔を擽ったり頬を舐めたりしている、そしてさっき聞こえた俺の人生で一度も聞いたことのない鳴き声は一体誰のものなんだ?)そう思った俺はそのことがきっかけで、自身がずっと目を開けていないままであるということを理解した。そして、生じた疑問を明らかにする為、なかなか上がらない自分の瞼に喝をいれて目を開き、辺りを見回す。
だが、まず始めに視界に入ったのは先程の鳴き声の持ち主ではなかった。具体的に言うと、右目が前髪に隠されている少女が俺を見ていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

いきなりのことだったからか、言葉詰まりになりつい少女を見続けてしまった。そしてそれは、彼女も同じの様だった。

「・・・・・・・・・・・あの。朝でも夜でもありませんから、起きて下さい、先輩。」

(ん?この娘は一体何を言っているんだ?)


そう思った俺は現在の自分の体勢をよく確認した。すると、床に寝転んでしまっていた。(なるほど道理で、さっきから俺がこの娘を見上げる形になっているのか。)と、納得したのち、体を起こして周囲を見回す。だがやはり、全く見覚えが無い。
なので、この娘に起き上がるのを手伝ってもらいながら俺が今いるこの場所は何処であるかということ、遠坂を見かけていないかどうかということ、この娘の名前は何と云うのかということ、此の三つを聞くことにした。

「すまないが3つ質問をさせてもらってもいいか?」

「はい。構いませんよ、先輩。」

「有難う。じゃあ1つめ、俺が今いるこの場所はいったい何処なんだ?2つめ、遠坂凛っていう真っ赤な服を着た黒髪サイドテールの女の子を見なかったか?3つめ、君の名前はなんて云うんだ?」

「分かりました。まず最初の質問ですが、これは簡単に答えられます。ーーー此処は正面ゲートから中央管制室に向かっている通路です。平たく言うと、カルデア正面ゲート前ですね。」


「カルデア・・・・・」

その名を脳内で何度も繰り返してみるが、思い当たるものが全く無い。要は一度も聞いたことが無いのだ。

「次に2つめの質問ですが、これも最初の質問と同じで簡単に答えられます。先輩が仰っている遠坂凛という方を、他の人はどうかは分かりませんが少なくとも、私は見ていません。」

「そうか、君は見てないのか・・・」
(遠坂のやつ、きっと俺と同じで此処に来てるはずなのにいったい何処に居るんだ?)

「最後に3つめの質問ですが、これは難しい質問なので答え難いです。しいて言うならば、名乗るほどのものではないーーーとか?」

「ん?君には名前が無いってことか?」

「いえ、名前はあります、あるんです。名前はあるのです、ちゃんと。ただ何と言うべきかその・・・・・・・」

「ああ成る程、それはつまり、君は自分の名前を口にしたくない何かしらの事情を抱えてるってことだな。」

「はい、私は自分の名前を口にする機会があまりなかったんです。なので、印象的な自己紹介が出来ないと言うか・・・・・・・」

「・・・・・・・コホン、そのことはさておき質問をしても宜しいでしょうか、先輩。」

「ああ、いいぞ。」

「有難うございます。先輩はお休みのようでしたが、通路で眠る理由が、ちょっと。硬い床でないと眠れない性質なのですか?」


(ちょっと待て、何でそうなるんだ?俺は確かに床で寝ていたが・・・・・・・ん?寝てた?此処でか?)

「ちょっと待ってくれ、俺は此の場所で寝てたのか?」

記憶に無いことを聞かれても訳が分からないと言った感じに聞くが、少女は口元を緩めて、当然とばかりに答えてくれた。


「はい、とてもすやすやと。眠りのお手本として教科書(テキスト)に載せたいくらいの熟睡でしたよ。」


(俺はそこまで緩みきった顔をこの娘の前に晒してたのか。)
俺は恥ずかしさから思わず赤面してしまった。少女が「ふふっ」と目の前で笑みをこぼしていることが、更に顔を赤くさせる。


「フォウ!キュキュ、キャーウ‼︎」

「えっ⁈うわわわわわ!んぷぅっ⁈」

「・・・・・・・失念していました。あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん。先輩、此方にいらっしゃる見た目にリスっぽさを感じられるお方はフォウさん。カルデアを自由気儘に散歩する特権生物です。」

「私はフォウさんに此処まで導かれて、お休み中の先輩を見つけたんです。」

「フォウ!ンキュッ、フォーウ‼︎」

「い、今は説明しなくていいから、早く何とかしてくれ!」


フォウという不思議な動物は俺の顔や頭を揉みくちゃにしながら俺の体を動き回ったのちに、そのまま飛び降りて逃げるようにして何処かへと走り去っていってしまった。


「・・・・・・・また何処かへ行ってしまいました。あのように、特に法則性もなくカルデア内の色々な場所を散歩しています。」

「な、何だか不思議な生き物なんだな。」

「はい。私以外にはあまり近寄らないのですが、どうやら先輩は気に入られたようですね。おめでとうございます、カルデアで2人目のフォウさんのお世話係の誕生です。」

(それは喜ぶべきなんだろうか、悲しむべきなんだろうか?)
そう思いながら俺は、さっきからずっと気になっていることを何気無く口にした。

「なあ、カルデアっていうのは何なんだ?此処の名前か何かなのか?」


だが、その発言に対する少女の反応は意外にもあまり良いものではなかった。
何故なら、彼女はそれを聞いた瞬間、驚いたように俺を見上げたからだ。

(ひょっとして俺は、何か可笑しなことを言ってしまったのか?だとしたら謝らなきゃな。)

「俺、何か可笑しなことを言っちゃったみたいだな。ごめん。」

「あ、いえ、違います!そういうことではないんです。」

「え、じゃあどういうことなんだ?」

「あの、先輩。いきなり問い質すようで申し訳ないのですが、
カルデア・マスター候補生・49人・英霊召喚・コフィン・霊子ダイブ・特異点・人理修復・聖杯探索、この9個の単語に聞き覚えはありませんか?」


「ごめん、マスター候補生っていう単語の"マスター"の部分と英霊召喚っていう単語と聖杯探索っていう単語の"聖杯"の部分しか聞いたことがないな。というか、それ以外は全部全く知らない単語だ。」


何なんだ一体?何があったって云うんだ?
ごく一部を除いて全く知らない単語の羅列に、俺は若干押され気味になる。


「す、すいません!確認したいのですが今年は西暦何年ですか⁈」


とうとうこんな可笑しなことまで聞かれた。
今年が西暦何年かなんて、分かりきっていることだろうに。


「そんなの決まってるじゃないか、今は西暦2006年だろ?」

「っ・・・・・・・⁈」


すると彼女はさっきと同じ、しかしさっきよりも驚きに満ちた表情で俺を見た。
(やっぱり俺は可笑しなことを言ってしまったのか?分からない、一体どういうことなんだ?)
俺がそう考えていた時、介入者が現れた。


「ああやっと見つけたよ、此処に居たんだね。駄目だぞマシュ、断りもなしに何処かへ行くのは。所長から君に直ぐに伝えるようにと言われたことが有って、さっきからずっと君を探していたん・・・・・・・おや?そうか、先客がいたのかな。私としたことが、すまなかったね。」


そのスタイルは19世紀ヨーロッパの貴族の様な感じだった。また、彼の特徴的で目立ちそうな髪型と背高帽子がそのイメージを助長させている。
そんな感じの男に、マシュと呼ばれた少女が大慌てで駆け寄った。


「レ、レフ教授、実は〔以下略〕。」


レフという男、じゃない、教授か・・・・彼に近寄ったマシュは耳元で何かを囁いた。その瞬間、彼の表情がさっきのマシュと同じ、驚きに満ちたものになった。


「なっ、何だって?君、今年は2006年だとマシュに言ったのかね?」


マシュが頷くのを見た後、こっちに向き直り確認を促してきた。


「はい。そうですが、俺、何か可笑しなことを言ってしまいましたか?」


俺もそれに合わせて、確認をとるように眉をひそめながら聞き返した。
すると、レフ教授は「いや、そういうことじゃないんだが・・・。ああいや、しかしなあ、なんてことだ。」と言いながら顔を手で抑えた。そして次に彼が言ったことは、俺にとって安易に聞き流せないものだった。


「まさか、君にも記憶障害が起きているとは。所長に何と言えば良いだろうな。」


その瞬間、俺の口から疑問が次々に飛び出す。
「どういうことですか、俺に記憶障害が起きているって?あと『君にも』ってことは俺の他にも記憶障害と思われてるやつがいるってことなんですか?」

「先輩、とりあえず落ち着いて私と教授が今から言う話を聞いてください。いいですか、今年は2006年ではなく2015年なんです。大事なことなのでもう一度言わせてもらいます、今は西暦2006年ではなく西暦2015年です、先輩。」


その瞬間、俺はマシュの言った内容に頭を思いっきりハンマーか何かで打たれたようなショックを受けた。


「嘘、だろ・・・。」

「いいえ、すぐには信じられないかもしれませんが事実です。先輩」

俺はそれが信じられず何故か思わず辺りを見回してしまった。すると目に入った時計の仕様が俺が知っている長針と短針で時を刻むものではなく、時刻に応じて映像が時計のガラス部分に投映されるものだった。成る程これは2006年の時点ではありえないものだ。どうやら本当に今はマシュの言う通り2015年らしい。

(だとするとあの試作品は俺を、多分遠坂もだけど9年先の世界に飛ばしたんだな。ハア、とんでもない"うっかり"をしてくれたなあ、遠坂も。)

「ああ、マシュの言った通りだよ。そして、君が記憶障害を起こしているのは、多分此処に入館する際のシュミレートの時にコンピューターがバグかエラーを起こして、その影響が君に及んだ為だろう。それとね、先程私が『君にも』という言い方をしたのは、今日君に会うちょっと前に実はもう1人、記憶障害を起こしていると思われる子に会ったからなんだ。」

(ん?それってもしかして・・・・・?)

「もしかしたら教授、その子は遠坂凛っていう名前の19歳の女の子じゃないですか?」

「えっ?何故君がそのことを知っているんだい?」

「それは、俺と遠坂が知り合いでカルデア?にやって来る直前まで一緒にイギリスにいたからですよ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君とあの遠坂凛という女の子が知り合いなのは解った。だが君とあの子が此処に来る直前まで一緒にイギリスにいたというのは一体どういう意味なんだね?君は記憶障害を起こしてるんじゃなかったのかい?」

「いえ。俺が今年が何年かを間違えたのは記憶障害が原因じゃないんですよ。というより俺は、遠坂もそうでしょうけど記憶障害を起こしてる訳じゃないんです。」

「えっ、それじゃあ益々もって解らないのですが、どうして今が何年かを間違えたのですか、先輩?ひょっとして本当に2006年からいらっしゃったんですか?」

「その通りだよ。マシュ。俺とあと遠坂は嘘じゃなく、西暦2006年からやって来たんだ。」

「では、本当に2006年からいらっしゃったんですね。」

「ああ、そうなんだ。それで原因を具体的かつ簡単に言うと、俺と遠坂は2006年のイギリスで遠坂が製作した宝石剣っていう魔術礼装の試作品の実験をしてたんだ。で、これは途中までは上手くいってたんだ。だけど、その途中で試作品に組み間違いがあることが判ってその直後に試作品が暴走。その時に試作品が辺り一帯に放った魔力光から生じた渦に呑み込まれて、そのあとは気がついたら此処に居たって訳なんだ。」

「成る程、そういうことだったのか。すまなかった、だが全く他意は無かったんだ。君と遠坂君の2人に対して記憶障害が起きていると私が勝手に早とちりしてしまっただけなんだ。これは信じて欲しい。」

「私もです。先輩、本当にすみませんでした。」

「2人が解ってくれたなら、それでいいですし、2人は何も悪くないですよ。だから頭を上げて下さい。教授とマシュは、本来なら当然のことを考えてただけじゃないですか。」

「有難う、君にそう言ってもらえると救われるよ。」

「よ、止して下さい。これは別にただの勘違いであってそんな深刻な問題じゃないですよ。」

「そうかね?君がそう言ってくれるのなら、マシュ、君にすぐに伝えるようにと私が所長から言われた件を話させてもらうとしよう。と言っても、この少年との今までの会話のおかげであらかたは話したようなものなんだがね。」

「それはつまり、教授が私に伝えたかったこととは私が今恐らく医務室に居るであろう遠坂凛さんに会って彼女の話をいろいろと聞いてあげなさいといったものだったということですね。」

「ああ、殆ど正解だよ、マシュ。正確に言うと、所長はあと約10分後に行われる今日の為にカルデアに集められたマスター候補生47人への軽い講話とそれから2時間後にあるファーストミッションの準備で忙しくて自分では彼女の話を聞いてあげられないから、マシュが代わりに
彼女に会って話を聞いてあげて欲しいということなんだ。」

(ん?また知らない単語が出てきたな。)

「成る程、解りました。それにしてもやっぱり所長は優しい方ですね。」

「ああ、まったくだよ。」

俺はマシュが言っていた9個の単語と2人の今の会話の中で出た"ファーストミッション"という単語の意味、そして所長とは誰かということを合わせて聞こうとした。だが、

クラッ、

(うっ。)

ドタッ。

半ば無理やりに目を覚ましたことが今になって祟ったらしく、少し立ち眩みを起こしてしまい、それが原因で尻餅をついてしまった。


「せ、先輩!大丈夫ですか⁈」

「あ、ああ。大丈夫だぞ、マシュ。少し、疲れただけだ。」

「そ、そうですか。それならば良いのですが。」

「だが心配だね。ふむ、そうだな。マシュ、さっきの件とは別に君に頼みたいことがある。」

「な、何でしょうか?」

「この少年を医務室に連れてあげていってくれないか?」

「わ、解りました。ですが、確か所長にも先輩のことを伝えなければならないのではありませんでしたか?」

「大丈夫、それは私の方で何とかしておくよ。君、私の名はレフ•ライノールというんだ。何か困ることがあれば、この名を出してくれればいい。そしてこの娘の名は・・・」

「マシュ•キリエライトと云います。先輩のお名前は・・・?」

「俺の名前は・・・・・・・衛宮、衛宮士郎だ。」
俺、衛宮士郎はまだ知らない。この少女との出会いが、これより少しのちに始まる壮大な物語の幕開けを告げる、運命《フェイト》とも言うべき出来事だったということを・・・・・。



 
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