| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Three Roses

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十二話 孤独の者その二

「王子を無事に育てるのだ」
「王冠を戴くのに相応しい方として」
「その様に頼む」
「わかりました」
 これがマリーの返事だった。
「それでは」
「そなた達には国の未来がかかっているのだ」
 それはこの国だけではなかった。
「四国のな、そのことゆめゆめ忘れることのないように」
「はい」 
 三人は同時にだ、王に答えた。そのうえで婚礼への用意をさらに進めていった。勿論養子を迎える用意もだ。
 三人の姫には声をかけた王だった、だが。
 マイラには一瞥もしなかった、それでだった。
 旧教の諸侯達は彼等だけになった時にだ、顔を曇らせて話をした。
「マイラ様も王女だが」
「あの方にはだな」
「うむ、お声をかけられぬ」
「全くだ」
 こう話すのだった。
「兄君のお子であり姫様であられるのに」
「そして王位継承権もお持ちだというのに」
「所詮妾の子というのか」
「そして旧教徒だからか」
「それでか」
「お声をかけられぬ」
「そうだというのか」
 彼等の中で話すのだった、密室の中で。
「やはり旧教はないがしろにされるか」
「ひいては我等もか」
「この国では旧教はそうした扱いか」
「信教は認められていても」
「新教とは違う」
「それははっきりしているか」
「マイラ様に対する扱いといい」
「我等は所詮」
 苦い顔で言うのだった。
「日陰者か」
「この国においては」
「あくまで主流は新教徒」
「この前まで旧教だけであったというのに」
「それが変わるとは」
「忌々しい」
「諸卿、それで宜しいですか」 
 ここでだ、一人の男が言った。見れば黒い口髭と顎髭、そして髪を奇麗に切り揃えた逞しい身体の長身の男だ。顔も引き締まっている。目の色も黒でその光は鋭く強い。眉も太い。
 名をオズバルト公という、旧教の諸侯の中でも最も古い家で王妃を出したこともある。領地も広くその権勢はかなりのものだ。
 そのオズバルト公がだ、旧教の諸侯達に問うたのだ。
「このままで」
「いえ、それは」
「そうである筈がありません」
「我等とて指を咥えて見てはいられません」
「到底です」
「だから何とかしたいと思っていますが」
「手が」
「打つ手はあります」 
 即座にだ、オズバルト公は彼等に言った。
「旧教の味方は旧教です」
「となると」
「教皇庁にですね」
「太子」
「そして帝国ですね」
「そうです、実は以前から太子からお声を頂いていまして」
 マイラの夫である彼からというのだ。
「それで、です」
「オズバルト公と太子はですか」
「既に懇意である」
「そうなのですね」
「はい」
 その通りという返事だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧