真田十勇士
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巻ノ五十五 沼田攻めその二
「武運長久を祈ります」
「はい、では」
「小田原に帰られましたら」
「それがし、何とか致します」
例えそれが難しいとわかっていてもだ。
こう話してだ、そしてだった。
氏規は相模に戻りだ、そのうえで。
すぐに氏政にだ、こう言った。
「関白様はです」
「何と言っておった」
氏政は即座に己の前に控える氏規に問うた。
「一体」
「特に何も」
氏規は氏政にありのまま答えた。
「そうしたお話はされませんでした」
「ならよいな」
「いえ」
すぐにだ、氏規は言葉を返した。
「言葉で申されてはいませんが」
「しかしというか」
「お考えは既に」
「左様か」
「お館様、ここはです」
氏規は兄にあえて言った、それも強く。
「御自ら」
「だから何度も申しておろう」
「では」
「何故わしが行かねばならぬ」
氏政の返事は変わらない、当然ながら態度もだ。
「御主が行ったではないか」
「しかしです」
「さもなければか」
「はい、西国いえ天下の軍勢が来ます」
「この小田原にか」
「箱根を越えて」
「それなら大丈夫じゃ」
悠然とさえした仕草でだ、氏政は氏規に言うばかりだった。
「何度も言っておろう、我等には箱根がありな」
「多くの城とですか」
「この小田原の城もある」
こう鷹揚に言うのだった。
「それで何故西国の軍勢を恐る必要がある」
「では」
「そうじゃ、西国の軍勢が来ようともな」
「それでもと言われますか」
「十万の軍勢がこの小田原を囲む」
かつての上杉謙信が関東の大名達を糾合し小田原城に攻め入った時のことだ、この時の北条家の主は氏政の父である北条氏康だった。
その父の面影を猛々しくした顔でだ、氏政は氏規自身の弟であり父の顔を穏やかにさせたその顔を見て言うのだった。
「それでどうなる」
「十万ですか」
「兵糧はどうなる」
氏政が言うのはこのことだった。
「十万の兵を養うな」
「では」
「そうじゃ、十万いや二十万の兵でこの城を囲もうともな」
それでもというのだ。
「敵はやがて去る、臆することはない」
「では」
「その後で話をする」
「北条の領地を完全に守ったうえで」
「そうじゃな、関東管領は上杉殿であるからな」
上杉景勝だ、元は長尾家であるが上杉家を継いだのでそうなったのだ。
「その別に何か貰いな」
「対等の立場で」
「羽柴殿と手を結ぼうか」
「東国を守ったうえで」
「そうじゃ」
氏政は氏規に己の考えを述べた。
「そう考えておる」
「左様ですか」
「安心せよ、この城を囲んでも数月」
囲める間はというのだ。
「それだけ守ればよい」
「父上、しかしです」
ここでだ、名目上の主である氏直が叔父である氏規を見てからだった。彼を助ける形で父に言ったのだった。
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