魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic10-A機械仕掛けの少女~Bad Reunion~
†††Sideティアナ†††
機動六課に入ってから初めてのまともな休暇に、あたしはヴァイス陸曹のバイクを借りてスバルと一緒に街に繰り出した。服やアクセサリーのショップを回ったり、エリオやキャロがデートを任務と誤解してるのに苦笑したりと楽しんで、どこかで一旦休憩を挟もうかってスバルと話していると・・・
「どこ見て歩いてんだよお嬢ちゃん?」
「おいおい、汚れちゃったよ、お兄さん達のスーツ。どうしてくれんの?」
「お母さんかお父さんに連絡してよ、クリーニング代貰いたいからさ」
家族や恋人、友達の憩いの場である噴水公園から、そんな呆れるような話声が聞こえてきた。スバルが「何やってんのあの人たち!」真っ先に公園へと駆けこんで行くから、「ちょっ、待ちなさい!」あたしも急いで追いかける。
「そこの人たち、何をしているんですか!」
スバルが向かう先、そこには数人のガラの悪い男性と小さな女の子1人が居た。男連中が「なんじゃい、お嬢ちゃん達。この娘の知り合いか!?」スバルとあたしをギロリと睨みつけてくる。もう溜息しか出なくなる、馬鹿馬鹿しくて。
「時空管理局、スバル・ナカジマ二等陸士です」
「同じくティアナ・ランスター二等陸士です。事情を窺えますか?」
あたし達は局員IDを取り出すと、男連中は明らかに嫌そうな顔をした。スバルが絡まれてた女の子に「大丈夫? 何かあったのか教えて」話を訊き始めた。その子が何かを喋る前に、リーダー格らしい30代後半くらいの男性が「これを見てくれよ、局員さん」そう言って、後ろに佇んでいた2人のワイシャツを指差した。
「そのお嬢ちゃんがぶつかって来た所為で、コイツらのスーツがコーヒー塗れなんだよ。これから大事な商談があるって言うのによ。クリーニング代くらい請求させろや」
男性がそう言うと、「違うもん! ぶつかったのは確かだけど、でもコーヒーは自分で掛けたくせに!」女の子はそう証言。あたしは「そうなですか?」改めて訊ねる。
「おいおいおい、局員さん。そりゃねぇよ。局員相手に嘘を吐くメリットがなんてねぇよ、俺たちのような逸れ者にはな」
「お嬢ちゃん、お父さん達に怒られるのが嫌だからって嘘を吐くのはいけねぇ。正直であれ、だ」
自分たちがアウトサイダーだってことは理解してるみたいね。だからこそ局員に嘘は吐かないっていう謎理論。アンタ達のような人だからこそ嘘を吐くんでしょうが。
「最悪! なんなの、コイツら! これだから人間は汚くて悪い奴! 嘘吐きはお前たちの方でしょ! とっととくたばれ!」
女の子もとうとう怒っちゃって、とんでもない暴言を吐いた。コーヒーでシャツが汚れてる2人が「ガタガタ言ってねぇで親を呼び出せや!」声を荒げ始める。女の子も「んべー! 嘘吐きにはこれで十分だよ!」あっかんべーで応戦。ともに白熱してきたから騒ぎが大きくなってく。
「(どうすれば・・・)あ、アレ・・・!」
途方に暮れて周囲を見回してると、監視カメラが設置されてることに気が付いた。あたしは少しの間スバルに女の子たちを押さえておくように伝えて、この公園の管理者に連絡を入れる。そして「はーい。注目~!」あたしはモニターを1枚と展開する。
「この映像に真実が隠されているわ」
管理者から監視カメラの映像を借り受けて、それをモニターに流す。まず女の子がモニターに映り込んで、何かを探してるのかベンチの下や遊具の中を覗き込み回ってる。次いで男連中が映る。缶コーヒーを片手に飲む2人が徐々にベンチの下を覗き込んでる女の子に近付いていく。
「「「あ・・・!」」」
そして、女の子が立ち上がったことで缶持ち2人とぶつかる。だけど、コーヒーが2人のシャツに掛かることはなかった。女の子はフラついて尻もちをつき、なんと缶持ち以外の男が缶を叩いてわざとコーヒーを缶持ち2人のシャツに掛けた。
「ほらー! 自分たちでコーヒー掛けてる! それなのにデルタが悪いって言って! サイテー、サイテー、サイテーな人間め!」
(デルタ? 変わった名前ね・・・)
男連中は「チッ・・・!」舌打ちをしてこの場から立ち去ろうとする。それを見て「待ってください!」スバルが呼び止めた。男連中は面倒くさそうに振り返って「何か?」苛立ちを隠そうともしないでそう訊いてきた。
「この子に謝ってください! あなた達の言動は恐喝罪に当たります。このまま立件しても構わないんですよ? でも未遂ですから厳重注意でもいいです。まぁこのデルタって子が被害届を出さない前提ですが・・・」
「りっけん? ひがいとどけ?」
「デルタ。この人たちが謝ったら今回の件、水に流して・・・許してあげても良い? それともやっぱり許さないで――」
「いいよ、謝るならね。ひがいとどけ、とか面倒くさそうだし、・・・どうせあと少しでお前たち人間は・・・」
あたしの提案にデルタは応じてくれた。最後に何か呟いたようだけど聞こえなかった。たぶん変な悪態でも吐いたんでしょうね、気が強い子供だし。改めて「どうしますか? 大人なら謝れますよね?」スバルが男連中に伝える。あたし達だけじゃなく、公園に居る他の人たちからの視線をも一手に受けた男連中は「すみませんでした・・・」デルタに頭を下げて、周囲にガンを飛ばしながら公園から去って行った。
「それで? 君はさっきから何をしてるのかな? 何かを探しているようだけど・・・」
「ん? そうだよ、探し物の途中。えっと、ありがと? デルタは学んだよ。人間の中にも良い人間も居るって♪」
なんかさっきからこの子の言い方が引っ掛かるわね。人、じゃなくて、人間、って言うし。まぁあながち間違いじゃないんだけど。そういう教育を受けて来たのかもしれないし。デルタは「じゃ、これで!」そう言って走り去って行った。
「あー、行っちゃった~」
「ま、一度トラブルに巻き込まれたからには、もう同じトラブルを起こさないでしょ。ちょうどいいし、あそこのアイスクリーム屋さんで何か買っていきましょ」
「お、いいね!」
改めて休みを満喫するために、まずはアイスクリームを売ってる屋台に寄って、スバルと一緒に3段重ねを注文。木陰に座って美味しく頂きながら、次はどこへ行こうかと決めていると、キキィー!とブレーキ音が響いた。続けて「危ないだろう!」そんな怒声が。
「「まさか・・・」」
慌ててアイスクリームを食べ終えて、ブレーキ音と怒声が聞こえてきた場所へ向かうと、「デルタ!」が道路脇でうろちょろしてた。しかもクラクション鳴らされてるのに意に介さずに道路内に入ろうとするし。
「待って、待ってデルタ!」
「轢かれるわよ! こんなところに居ちゃ!」
慌ててデルタを保護すると、「あ、さっきの。なに?」あの子は自分が何をやっているか理解していないようだった。車の走る道路に進入しちゃダメ。そんな小さな子供でも知ってる常識が無いなんてどんだけ箱入り娘なのよ。
「大丈夫だよ、避けてくれてたし」
「それ大丈夫じゃないよ! 絶対あとちょっとで事故起こしてたから!」
「なんて危うい・・・」
スバルと一緒に溜息を吐く。近くの陸士隊に預けるのもなんか不安だし。スバルも同じ考えに至ったのか『あたし達で手伝おうか・・・?』念話でそう提案してきたから、あたしは『そうね、そうしましょ』それを受け入れた。
「デルタ。あたし達も探し物手伝うよ」
「え? いいよ、デルタ1人で十分だし」
「馬鹿言わないの。ほら、行くわよ」
「うぇぇぇ!? これがあの有名な誘拐!?」
「違うわよ!」「違うよ!」
あたしとスバルはデルタの肩を掴んでデルタを安全な場所へ連れて行く。デルタは「まぁ好きにすればいいよ」それだけを言ってサッサと立ち去ろうとするから、「待って!」急いで追いかける。
「ねえ、デルタ。何を探してるの?」
「端末。ヴィヴィオとフォルセティ」
「「端末・・・?」」
“ヴィヴィオ”と“フォルセティ”っていうデバイスを探してるってことかしら。次に「どんな形をしてるの?」形状を訊ねる。デルタはあたしの問いに答える前に「おl? 何あれ!」道路の向かいに建つとある施設にダッシュしようとしたから、「だからストップ!」慌てて引き止める。
「なに?」
「く、る、ま! 車が走ってるからダメ!」
「ホント心臓に悪いわ、アンタ・・・」
デルタの腕を引っ張って横断歩道まで連れて行って、歩行者用の信号が青になるのを待つ。その間、「あのうるさい場所にある気がする!」その場でピョンピョン跳ねる。落し物ならデルタが既に言ってるところを探すけど、探し物って言うんだからデルタとは違う人が落としたことになる。だから初めていく場所に探しに行くのも間違いじゃないんだけど・・・。
『とにかく行ってみよう、ティア』
『そうね』
そして横断歩道を渡って、デルタが行こうとしてた施設――ゲームセンターへとやって来た。あたしとスバルも行こうとしていたし、筺体の新作でも確認しときますか。店内に入ると「うるせー♪」デルタが耳を両手で塞ぐけど、その声色は喜色満面。
「ここなーに!?」
「ゲーセンだよ、ゲームセンター。その名前の通りゲームで遊ぶところだよ」
「じゃ、アンタの探し物を探しに――」
「コレなーに~!?」
探し物をするはずがデルタはすぐに筺体へと突撃して行った。スバルと肩を竦め合ってデルタの後を追う。んで、デルタに引っ張り回されるままにゲームを3人でプレイし続けることに。シューティング、レース、スポーツ、格闘と7つくらいゲームをプレイ。
「次次♪」
「デルタ! 探し物しなくていいの!?」
「シコラクスやスキタリスもやってるし大丈夫♪」
「シコラクス・・・?」
「スキタリス・・・?」
他にも“ヴィヴィオ”と“フォルセティ”を探してる人もいるってことか。でもだからってサボるのはどうよ。デルタは「次これが良い!」クレーンゲームの筺体の前に陣取った。
「どれか欲しい物ある?」
「え? じゃあ・・・コレ!」
デルタが指差したのはカートゥーンに登場するパンダキャラのぬいぐるみだった。スバルが「よーし。あたし得意だから任せて♪」お金を入れてプレイ開始。回数を分けてぬいぐるみを出口へ近付けてく。そして・・・
「「やったぁ~~!!」」
「ホント、アンタってこのクレーンゲームに強いわよね」
「えへへ~♪ はい、デルタ、どうぞ~♪」
スバルからパンダのぬいぐるみを受け取ったデルタは、「おおう、ありがと~!」ギュッと両腕で抱きしめた。あたしは「ほら、もうそろそろ探し物に戻るわよ」そう言ってデルタの頭を撫でる。
「「えー・・・」」
「えー、じゃない」
するとスバルとデルタが同時に不満そうに声を出した。ホントに楽しんでたもんね、アンタ達2人。まぁあたしもそうだけどさ。相変わらずぶー垂れる2人を連れてゲーセンから出たところで、「キャロから全体通信・・・?」が入った。通信をONにしてモニターを展開すると、エリオとキャロ、それとエリオに抱きかかえられてる小さな女の子が映った。
『こちらライトニング4! 緊急事態につき現場状況を報告します!』
その内容は3rdアベニューのF23の路地裏にて、鎖に繋がれた“レリック”ケースを持ってる女の子がマンホールから這い出てきた、というものだった。そして今は意識を失ってるとの事。
『スバル、ティアナ。悪いけどお休みは一旦中断』
「いえ!」
「はいっ、問題ありません!」
なのはさんにそう返す。そして女の子への応急措置と保護の指示を受けたエリオとキャロと合流するように指示を受ける。通信が切れたことであたしは、「悪いけどデルタ」探し物が手伝えなくなったことを伝えようとしたんだけど、「あれ? 居ない・・・」デルタはもうどこにも居なかった。
「あの子の事も気になるけど、今は任務を優先しましょ!」
「あ、うん。一応近くの交番に連絡だけはしておくよ」
スバルの通信が終わるのを待って、「お待たせ! 行こう、ティア!」駆けだすスバルの後追う。エリオとキャロの居る3rdアベニューのF23は結構近いから、そんなに時間を掛けずに「2人とも!」合流を果たすことが出来た。
「実際に見ると本当に小さな子なんだ。ひどい・・・、服装もこんなにボロボロで・・・」
「ケースの封印処理は?」
「あ、それならキャロがやってくれました。レリックの反応を探知してガジェットがここに来ることはないとは思うんですが、その・・・」
あたしの確認にそう答えてくれたエリオが、「おそらくケースはもう1つあるかと・・・」鎖に繋がれたケースのさらに先をあたしに掲げて見せた。そこにはちょうどケース1個分の空きがあった。
「今、ロングアーチに調べてもらってます」
「そう。・・・今、なのはさんとフェイトさん、それにシャマル先生とリイン曹長がこっちに向かってくれてる。それまで現場の維持と周辺警戒ね」
「「はいっ!」」「うんっ!」
†††Sideティアナ⇒スバル†††
なのはさん達と合流して、今はシャマル先生が女の子の容体を診察。その結果、「バイタルも安定してるし、危険な反応も無し♪」とのことで、女の子はヴァイス陸曹の操縦するヘリで聖王医療院へ搬送されることになった。
そんな中、女の子が歩いて来たと思われる地下水路、それと海上にガジェットが何十機と現れたって報せが入って、『ロングアーチ。こちらスターズ2とライトニング2』ヴィータ副隊長からの通信も入った。
『あたしは海上で演習中に、んで――』
『私はカルタス捜査主任と打ち合わせ中でしたが、ナカジマ三佐の許可を貰い、スターズ2共々現場に急行中です』
『あと、もう2人援軍を連れて行きたいんだけど・・・』
『108部隊のアリサ・バニングスと・・・』
『ギンガ・ナカジマです!』
「『アリサちゃん!』」「アリサ!」
ギン姉と一緒にモニターに映ったアリサさんの姿に、なのはさんとフェイトさんと八神部隊長がすごく嬉しそうな声を上げた。アリサさんも『なのはとフェイトには久しぶりで、はやてにはちょっとぶり♪』嬉しそうになのはさん達の名前を呼んだ。
『別件の捜査中にカルタス主任から連絡を貰ったのだけど、おそらくあたしとギンガが捜査してた事件がそちらの今の状況と関係があると思うのよ。そういうわけで、あたしとギンガもそちらに参加させてほしいんだけど、いいかしら?』
『もちろんやよ、アリサちゃん! ギンガもよろしくな!』
『はいっ!』
ヴィータ副隊長とシグナム副隊長も来てくれるっていうから心強いのなんのって。さらに「ギン姉・・・!」と、なのはさん達や副隊長たちもその一員であるチーム海鳴の1人、アリサさんが参加するってことになると、ただでさえすごい戦力がさらにトンデモになる予感。
『ほんならヴィータとシグナムはリインと合流、海上の南西方向のガジェットの制圧をお願いや』
『『了解!』』
『です!』
『なのは隊長とフェイト隊長はアリサちゃんと合流、北西部から制圧開始や!』
『『『了解!』』』
『フォワードは地下でケースの捜索とガジェットの撃破。ギンガは地下でフォワードと合流や』
『『『『『了解!』』』』』
八神部隊長からそれぞれが担当する場所の指定を受けて、あたし達は行動を開始。フォワードのあたし達はバリアジャケットに変身して地下へと突入。
「ギン姉! まさか一緒に捜査が出来るなんて思いもしなかったよ!」
『そうね、スバル。実戦の場であなたの成長を見せてもらうわね』
「えへへ~。あたし、すっごく強くなったからギン姉、きっと驚くよ~♪」
『ふふ、楽しみにしてるわ。・・・ティアナ、久しぶり』
「はい、ギンガさん、お久しぶりです!」
『現場リーダーはあなただって聞いてる。従うから指示をくれるかな』
「判りました!」
ギン姉と合流するためにティアが合流地点のポイントになるF94を指定して、あたし達もそこに向かって地下を進む。そんな中、アリサさんとギン姉から2人が捜査してた事件の話を全体通信で聴くことになった。早い話が複数台の車による多重事故だけど・・・。
『トレーラーがけん引してたコンテナ車の側にあった焼死体を1体収容したんだけど、検死の結果どうやらサイボーグのようなのよ。本局のスカラボ――第零技術部のドクターに問い合わせたところ、十中八九プライソン製のサイボーグって話よ』
サイボーグっていう単語にドキッとする。だってあたしとギン姉も同じで、全身に機械が埋め込まれた、純粋な人じゃない。あたし達を生み出したのは、あたし達がいま追ってるプライソン。今回の事件の首謀者がプライソンかもしれないって話を知ったお父さんが、あたしとギン姉に教えてくれた。
お母さんがプライソンの研究所で、あたしとギン姉を保護したんだって。お父さんとお母さんの間に子供が出来なくて、そして遺伝子的にあたしとギン姉とお母さんが似てるってこともあって、引き取ったんだって。
――でもな。たとえ実の親子じゃなくても俺ぁ、お前たちが娘だって思ってる――
もちろんあたしとギン姉も同じ思いだった。お母さんはお母さんで、お父さんはお父さんだって。だから迷うことなんて一切ない。あたしとギン姉を生み出したプライソンは、捕まえるべき悪党だって。
『それでですね。そのコンテナは大きく破壊されていました。おそらく物理破壊設定の魔法による攻撃で内部から破壊されたものだと推測しています。そのコンテナからトンネル内にある非常口扉、さらに避難通路から地下水路へと降りるためのマンホールにまで何か重い物を2つ引き摺った跡、それと小さな子供の足跡が2人分が続いていました』
『女の子はその内の1人・・・!』
『さらに地下にもう1人が居る・・・!』
なのはさんとフェイトさんがハッとした。八神部隊長からの『フォワード! その子供の捜索・保護を最優先や!』新たな命令に「はいっ!」あたし達は応えた時、キャロの“ケリュケイオン”からガジェットⅠ型4機がこっちに向かって来ているって報せが入った。
「やるわよ、スバル、エリオ、キャロ!」
「おう!」「「はい!」」
ティアに応えて、ガジェットが突き進んでるポイントへと急ぐ。そして「エンゲージ!」ガジェットと接敵した。
「シュートバレット!」
「フリード! ブラストフレア!」
先制はティアの魔力弾連射と、フリードの吐く火炎弾。ガジェットはAMFを展開して、ティア達の攻撃を無力化する。
「スバル!」「エリオ君!」
「うりゃぁぁぁぁぁッ!」
――リボルバーシュート――
あたしは“リボルバーナックル”のカートリッジを1発ロード。そして近距離射撃の衝撃波を打ち放つリボルバーシュートを繰り出して、ガジェットを大きく弾き飛ばしたうえでAMFを粉砕する。
「せぇぇぇぇい!!」
――スピーアシュナイデン――
その隙を突いたエリオの“ストラーダ”による直接斬撃で、ガジェット4機を真っ二つに斬り裂いて撃破。この数ヵ月の訓練であたし達はすごく強くなった。もうⅠ型のAMFくらいじゃ、あたし達の攻撃は防ぎきれない。喜び合うのはまた後にしてそこから先に進むと、「わらわら出てくるよ!」Ⅰ型のパレードと遭遇した。
「クロスファイア・・・シューット!」
ティアが制圧射撃を行う。1機につき8発の魔力弾が間髪入れずに撃ち込まれてくから、ガジェットのAMFも役に立たたずで次々本体に着弾、爆散してく。フリードも負けじと火炎弾を連発するものだから、「おおう・・・」まるでガジェットがゴミのようだ、状態になっちゃってる。
「次、行くわよ!」
ティアとエリオを先頭に次いでキャロ、しんがりをあたしが務めて地下を駆ける。と、前方の壁がドカーン!と大きく爆ぜた。サッと警戒態勢に入ると、「あー、驚かせちゃってごめんね」もくもくと上がる砂塵の中からそんな声が聞こえてきた。
「ギン姉!」「ギンガさん!」
「ポイントに着いちゃう前に合流できたのね、良かった」
合流ポイントのF94はまだ先だし。でも「うん!」早い段階にギン姉と合流できて良かった。そしてギン姉は「スバルの姉、ギンガ・ナカジマ陸曹です。よろしくね」エリオとキャロに微笑みながら敬礼。
「エリオ・モンディアル三等陸士です!」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です!」
「「よろしくお願いします!」」
エリオとキャロはどっか緊張した風に敬礼を返した。こうしてあたし達はギン姉と一緒に“レリック”ケースの回収と、この地下のどこかに居るはずの子供を捜索することに。その道中、パレードじゃなくて最早カーニバルと化したガジェット群と接敵。
だけどティアとエリオとキャロ、それにギン姉が一緒なら、いくらガジェットが何十機と出てきても負ける気がしない。あたし達はキッチリ自分の仕事をこなして、まるで足止めしたいかのように立ちはだかるガジェットを殲滅した。
『こちらロングアーチ03!』
シャーリーさんが探しだしてくれた“レリック”のあるポイントまでもう少しの時、アルトから通信が入った。ティアが「スターズ4、どうぞ」通信に応じる。
『ポイントF92にガジェット21機と生命反応を感知! おそらくもう1人の子供だと思う! ガジェットから逃げてるみたい! 保護をお願い!』
「了解! すぐに向かいます!」
“レリック”回収より子供の安全を最優先。そういうわけであたし達はF92へ向かうんだけど、『子供とガジェットがケースのあるポイントへ移動中! なんだけど、ガジェット反応がどんどん減ってく・・・?』アルトから戸惑ってる通信が入った。
「どういうことでしょうか・・・?」
「まさかその子供が撃破した、とか・・・?」
キャロとエリオがそう言う。ティアが「カメラからの映像が無いんですか?」って訊くけど、『どれもこれもノイズばかりで・・・』何も撮れてないっぽい。とにかくあたし達は、子供とガジェットの元へと急ぐ。
あともう少しで着くというところで、「っ!?」通路の先の壁が爆発して、「ガジェット!」のⅢ型やⅠ型6機が飛び出して来た。と言うよりは吹っ飛ばされたって感じで、その大きな胴体にはポッカリと大穴が開いていて、パチパチと燃えてた。
「みんな警戒して!」
ギン姉が先頭で壁に開いた穴へ入っていって、「うんっ!」あたし達も続く。そこはあたし達がこれまで通って来た通路と同じだったんだけど、「ガジェットの残骸の山・・・!」が広がってた。右を見ても左を見てもバラバラに砕かれてるガジェットの残骸で、どれもこれも大穴が開いてる。
「これ、たぶん砲撃によるものね」
「しかも炎熱変換が使われてますよね」
ギン姉とティアがガジェットを見てそう分析した。これはいよいよもう1人の子供が魔法を使って反撃してるのかも。あの女の子や今探してる子供が乗ってたと思われるトレーラーも、内側からの魔法攻撃で破壊されてるってギン姉が言ってたし。
『ガジェットの反応、完全に消失! 生命反応、ケースのあるポイントに到着!・・・って、あれ? 今度は生命反応も消えた!? どうなってんの!?』
アルトがかなり混乱しちゃってる。でもそんな聞き捨てならない報告で、まさか子供がガジェットと相打ちになっちゃって力尽きたのかもしれない、そんな最悪なビジョンが脳裏を過ぎった。あたしは「そんなこと・・・!」信じたくなくて、ケースのあるポイントへと先行する。
「待ってスバル!」
「独りで突っ込んじゃダメ!」
ギン姉とティアから制止の声が掛かるけど、あたしはそれを振り切った。そして狭い通路を抜けてとんでもなく広く大きな空間――調圧水槽に出た。あたしは「おーい! 助けに来たよー!」子供に聞こえるように大声を出す。
「もう! スバル、何が待ち構えているとも知れないのに突っ込むなんて危ないじゃないの!」
「あぅ~。でもギン姉! 消えた生命反応って、もしかしたら消えかけてるって感じで、今すぐにでも処置すれば助けられるかもしれない! だから警戒して手遅れになった、なんて事にはしたくなかったんだよ・・・!」
「それはそうかもしれないけど・・・。でもだからって、助ける前にこちらが墜ちたら全てが台無しになるのよ」
「ギンガさん。とにかく今は、子供とケースを探しましょう! エリオとキャロは子供の方を探して! スバルとギンガさんはケースをお願いします!」
ティアの指示であたし達は、手分けしてケースと子供を探すことにした。エリオとキャロは「返事してー!」声を出し続けて、あたしとギン姉は足元をひたすら見ながらプール内を歩き回る。そんな中、「ケースを見つけましたー!」キャロから知らせが入った。
「了解! ケースの封印処理お願い!」
「はいっ!」
ケースは見つかった。あとは子供を発見するだけ。“マッハキャリバー”の機動力を使ってプール内を虱潰しに探そうとしたその時、「っ!?」ゾワッと悪寒が奔った。ティアが「この感覚・・・!」“クロスミラージュ”を両手に携えて辺りを警戒し始めた。ギン姉も同じなようで、あたしとほぼ同時に構えを取った。
「・・・っ! エリオ君、キャロちゃん!」
ギン姉がいきなりのトップスピードでエリオ達のところにダッシュしながら、左腕に装着してる“リボルバーナックル”を振り被った。あたしもようやく気付いた。エリオとキャロの背後に、ホテル・アグスタでアリシアさんを撃墜したあの女の子が居たことに。
「シュートバレット!」
ティアがすかさず魔力弾を撃ち込んだ。エリオはキャロに抱きつくようにして横っ飛びして、魔力弾はそのまま女の子へ向かって行くんだけど、「うえ!?」魔力を付加した右手で払い落としちゃった。
「少し痛いかも知れないけどごめんね・・・!」
だけどその一瞬の隙にギン姉は肉薄して、振り被っていた“リボルバーナックル”を女の子に打ち込んだ・・・はずだった。
――ケレリタース・ルーキス――
女の子は一瞬で姿を消して、ギン姉の攻撃を躱した。ギン姉は勢いを止めることが出来ないでそのまま少しだけど前進、そして制動を掛けたその瞬間・・・
「ギン姉!」「ギンガさん!」
女の子はギン姉の背後に音もなくスッと現れて、魔力が付加されてる右拳をそのままギン姉に繰り出した。
――トライシールド――
――ハーツイーズストライク――
ギン姉がシールドを張ったとほぼ同時、女の子が繰り出した拳がシールドに打ち込まれると、付加されてた魔力が砲撃になって「ぅく・・・!」ギン姉を吹き飛ばした。あたしは「ギン姉!」に駆け寄ろうとしたら・・・
「うわぁぁぁぁ!」「きゃぁぁぁぁ!」
今度はエリオとキャロが何かの魔法で吹き飛ばされた。女の子はまだあの位置から動いてない。ということは「新手!?」ティアの言うようにまだ敵が居るんだ。そしてその新手も姿を見せた。女の子だった。2人揃ってキャロくらいの女の子。でも、2人とも魔力量が桁違い。
「あ、待ってダメ!」
魔法で吹き飛ばされた際にキャロが落としちゃったケースをその子が抱きかかえて、ギン姉を吹き飛ばしたあの子も瞬間移動したかのようにスッとその子の隣に移動した。
『あたしが幻術で髪の長い子を確保します!』
『了解! スバル! 私とあなたはリボンの子を引き離す役目よ!』
『う、うんっ!』
『エリオとキャロは、周囲を警戒しつつ子供を探して!』
『『了解!』』
ギン姉の言うリボンの子っていうのは、瞬間移動をする子に違いない。だって、特徴を答えよ、なんて問題を出されたら真っ先に頭の上にある大きなリボンに目が行くから。髪の長い子は、今“レリック”のケースを抱えてる子のことだ。ティアは姿を隠せる幻術魔法を使って、髪の長い子の確保に動いた。
「「はぁぁぁぁーーーーッ!」」
そしてあたしとギン姉は突撃を敢行。リボンの子はあたし達に振り向いて、足元にベルカ魔法陣を展開。さらにあたし達との間にもベルカ魔法陣を展開した。
――マナクル――
魔法陣から帯状の魔法陣が何枚と突き出して、あたし達に向かって伸びて来た。それらを高機動で回避しつつ突撃を続行。リボンの子は「邪魔・・・!」真っ向からあたし達に向かって突っ込んで来た。ギン姉と一緒に“リボルバーナックル”のカートリッジを1発ロードして、ナックルスピナーを高速回転させる。
「はぁぁぁぁぁッ!」
まずあたしの一撃を繰り出す。リボンの子はその小ささを活かしてしゃがみ込むことで躱して、あたしの腰に抱きついた。そしてまさかの「ぅわっ!?」フロント・スープレックスを掛けられた。そのまま背中から叩き付けられて「ぐへっ!」咽る。
リボンの子はそのままサマーソルトキックでギン姉の顎を狙ったけど、残念足の長さが足りなくてギン姉には届かなかった。ギン姉はそのままリボンの子の両足首を掴んで「捕まえた!」組み伏せた。
「錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」
キャロが召喚魔法を使って召喚した鎖で、まずはリボンの子を四肢を拘束した。そしてギン姉が退いた瞬間に首から下を雁字搦めにした。エリオとキャロがあたし達のところに来て、「見つかりませんでした」悔しそうにそう言った。
「こっちも捕まえたわよ!」
ティアはダガーモードにした“クロスミラージュ”の刃を長い髪の子を首にあてがって、「ごめんね。でもこうでもしないと話してくれないでしょ」謝った。そして髪の長い子もキャロのアルケミックチェーンで拘束して、事情聴取とロングアーチへの報告をしようとしたところで・・・
――スターレンゲホイル――
頭上から魔力弾が飛んで来た。ソレが地面に着弾すると、「っぐぅぅ・・・!」すごい大きな音と強烈な閃光が発せられて、思わず目を閉じて耳を両手で塞ぐ。治まるのをジッと待って、治まったところで瞬きを繰り返しながら目を開ける。
「あ!」
髪の長い子もリボンの子もキャロのアルケミックチェーンから逃れていて、プールの出口に向かっていた。そんな2人の側には「融合騎・・・!」が居た。名前は確かアギト。ヴィータ副隊長たちの話だと、アイリ医務官の実のお姉さん。プライソン一派の1人によって記憶の改ざんを受けて、アイリ医務官のことを何も憶えてないっていう。
「ったくよ~。ルールー、リヴィー、なんで勝手に行っちゃうかな~。絶対にメガーヌに怒られるよ。ま、いいや。この烈火の剣精、アギト様が来たんだからもう大丈夫!」
髪の長い子をルールー、リボンの子をリヴィーと呼んだアギトが、ギラッとやる気満々な目をあたし達に向けてきた。ケースを取り返さなきゃいけないし、やっぱり戦うことになるんだ。だからあたし達を身構えたんだけど・・・。
「おーい。アギト、あなたも私のことを置いて行った挙句に仲間外れなんて酷いわよ」
出口の奥の通路から響いてきたその声に「え・・・?」あたしとギン姉は構えを思わず解いた。この声、とても愛おしくて、懐かしくて、でももう2度と聴けないはずの・・・。ありえない、でも聴き間違いなんかじゃない。
「遅いのが悪いんだよ」
「空を飛ぶのは卑怯よ。・・・さて。メガーヌの大事な愛娘を傷つけさせないように頑張りますか」
姿を見せたのは見間違いなんかじゃなく・・・
「お母さん・・・!?」「母さん・・・!?」
亡くなったはずのあたしとギン姉のお母さん、クイント・ナカジマだった。
後書き
ジェン・ドーブリィ。ドーブリ・ヴィエーチェル。
ついに登場、パート3! クイント・ナカジマが敵側として登場です!
前作では亡霊として登場し、どうやっても救えない存在でしたが、本作は生きています!
スバルとギンガには頑張ってもらいましょう!
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