魔界転生(幕末編)
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第64話 それぞれの旅立ち 中編
土方はじりじりと間合いを詰めてくる近藤を睨みつけた。
(ちっ、早すぎるっていうんだ。もう少し戦況を診させてくれ)
土方は苛立って奥歯をぎりぎりと鳴らした。
「どうした?打たせてやると言っているのに、こんのか、トシ?」
(何言ってやがる。自分から近づいてきてるくせに)
土方は近藤の間合いを測りながら再び周囲に目を配らした。
(あ、あれは!!)
土方の目に映ったのは暗い球体だった。それは、おそらくこの雨のせいで爆発しなかった大砲の弾だった。
土方は頭をフル稼働させて近藤退治の計画を練り始めた。
まずは、目をつぶす。目玉まで鋼鉄化してはいまいと思ったからだ。
そして、次は近藤の大きな口の中にあの不発弾を放り込む。
最後に不発弾を爆発させて留めの一撃を食らわせる。
あらかたそういったところだ。が、またまた一か八かの戦略だ。
上手くいくかは神のみぞ知るってところだろう。
(まったく、こんな作戦しか思い浮かばぬとは我ながら呆れる)
土方は心の中で苦笑いを浮かべた。
土佐の岡田以蔵の時も長州の高杉晋作の時もそうだった。一か八かの賭け。
それでも、土方はなんとか勝ち残った。化け物に成り下がった強者達に。
(俺は運がいいのかもしれないな)
今度は本当ににやりと笑った。
「近藤さん、今、あんたを地獄に叩き落としてやる」
土方は典他を肩に担ぐような姿勢で近藤を睨みつけた。
「面白い!!面白いぞ、トシ!!もう一方的に打たせるのはやめだ。ここからは、わしも攻撃させてもらう」
近藤は上段に構え、大きな口をさらに大きくして笑った。
静寂が二人を包み、雨が地を打つ音だけが聞こえる。じりじりとお互いが間合いを詰め、緊張感が二人を支配する。
「おぉーりゃー!!」
気合一閃。先に攻撃を仕掛けたのは近藤だった。
上段から繰り出された剣圧と妖気が土方に襲い掛かった。が、土方はそれをなんなくかわし、近藤の元へ俊足を飛ばした。それでも、近藤はひるむことなく妖気が籠った剣を振り続ける。
(くっ、躱し切れん)
土方は剣でその気を受け止めたくはなかった。剣で受ければ、その分攻撃を受け隙を造ってしまう。が、限界にきているのは確かだった。それほど、近藤の妖気は凄まじく強いものだった。
そして、ついに土方は近藤の剣を自らの剣で受けてしまった。
がきんという鈍い音を残すと、土方は後方に弾き飛ばされ、もとの位置へと戻されてしまった。
「どうした、どうした、トシ?お前の力はこんなもんか?」
近藤は剣先を土方に向け、にやりと微笑んだ。
「ふん。吠えるのはそれくらいにしておけ、近藤勇」
土方は近藤を睨みつけた。
「なんだと?」
近藤もまた土方を睨みつけた。その顔には笑みがなかった。
土方は剣を地面と平行に両手で持ち、姿勢を低くして構えた。まるで、獰猛な狼が獲物に向かって飛び掛かるようなそんな構えだった。
「その構えは平突き。ようやく、本気を出す気になったか、歳三」
近藤は土方の構えを見て微笑んだ。
「そういえば、お前が本気になったのは、わしが知る限りでは、これで2回目か。1回目は池田の事件。そして、今回。いいぞ、いいぞ。来い、トシ」
近藤は虎鉄を鞘に納め、両手を大きく広げて土方の攻撃を迎え受けようとした。
「だがな、トシ。温い攻撃であったなら、このわしの拳でお前の頭蓋を打ち砕いてくれる」
近藤は余裕綽綽の笑みを浮かべた。
(よし、いいぞ。これでこそ、作戦に近づいたということ)
土方自身、自分自身でたてた計画はまさに一か八かの賭けとは思ってはいたが、ようやく一つのピースが埋まったことに内心ほくそ笑んだ。
「いくぞ、近藤さん」
土方は両足に力を込めて一気に近藤との間合いを詰めると目にもとまらぬ速さに突きを近藤の体目がけて繰り出した。
最初の一撃でガキンといういつものごとく鈍い音を残した。
近藤の上半身の服は最早ずたぼろで体にかろうじて引っかかってる感じで見るも無残な物と成り果ててはいたが、体は全くの無傷であった。
「トシよ。お前が突きを辞めたときお前の頭蓋は木端微塵になると知れ」
近藤は拳に力を込めた。が、その驕りが命取りになるとは全く予想してはないかった。なぜなら、土方の突きは体から徐々に上へと上がって行くのに気付いていなかったのである。
(未だ!!)
土方は今までは普段構える持ち方で刃を下に向け地面と平行に持っていたが、今は違った。刃を地面と平行に持ちかえ、突きを繰り出し始めたのだった。
そう、土方の狙いは当初の予定通り近藤の目だった。近藤はまだその事に気づかずいた。
(くらえ!!)
土方の突きが狙い通り近藤の両目を貫いた。一瞬の静寂。
手応えは感じていた。今までと違い、鈍い音だけの無意味な突きではなく肉を刺した感触と言った方がいいだろうか。
「ぎえぇーーーーーー!!」
近藤は絶叫を上げると同時に目を押え上半身を仰け反らせた。と同時に目から大量の血が噴きだした。
「お、おのれ、歳三!!やりやがったな」
近藤は力任せに拳を滅茶苦茶に振り回した。が、すでにそこには土方の姿はなく空を打つしかなかった。
土方はといえば、すぐに近藤から離れ不発弾がある方角に脱兎のごとく走りだしていた。
(よし、次の段階にはいるとしよう)
ものの見事に自分の策がはまっていることに土方は喜びを隠せないでいた。
「歳三!!どこだ、どこにいる!!」
近藤は今度は虎鉄を振り回し、強烈な妖気を四方八方へと放ったが当たるわけもなく、悪戯に樹木を切り倒していくだけだった。
「こっちだ、近藤さん」
土方はうまく近藤の口に不発弾を含ませられる距離まで離れ、自らの剣気を放った。それは、一流と言われる剣客は目が見えずともその相手の剣気で探ることができることを土方は利用するためだった。
「そこかぁ!!歳三」
近藤はにやりと笑うと物凄い速さで駆け寄ってきた。
「うおりゃぁー」
近藤は大上段から気合を込めて振り下ろしてきた。
(いまだ!!)
土方は近藤の斬撃を間一髪かわすと典太で近藤の膝裏に打ち付けた。現代では、膝かっくんという遊びがある。不意に膝の裏側に自分の膝を打ち付けて相手を転ばせる遊びだ。まさに、近藤はその状態となり、勢いもあってか前のめりに倒れこんだ。
「うわぁ」
近藤は焦りのあまり口を開いた状態であったために、その大きな口が不発弾を含んでしまった。
土方はそれを見逃すことはなかった。すぐさま、近藤の後頭部を左足で何度か踏みつけ、全力で押えつけた。
「はがはが」
近藤は怒りに任せて、びたばたと暴れまわっていた。が、土方はそんなこともお構えなしに、今度は愛刀を柄に入れたまま不割断を力いっぱい殴りつけた。
(しんかんに火が付き爆発すればいいんだ)
土方も必死だった。ここで近藤に逃げられたら勝機はない。固い不割断を力の限りひっぱたいた。
(このまま刀が折れても構わん。腕が使えなくても構わん。ここが正念場だ)
痺れる手に構わず、叩き続けた。その時、凝った破裂音が聞こえたと同時に衝撃が足の裏に感じた。
(やったか?)
そうは思ったが足の力は緩めることはなかった。が、じたばたと動いていた近藤の動きが少し止まったようなきがした。が、しかし、近藤の凄い力が、土方を跳ね飛ばした。
(失敗か)
土方は覚悟を決めた。が、起き上がってきた近藤の顔は吹き飛び、丸い穴だけがそこにあった。
「ど、じ、ぞ、ぅーーーーー!!」
声なのか空気が漏れているだけなの分からないような音がその穴から聞こえてくる。その異様さに土方は一瞬ひるんだが、典太を抜きその穴に向けて天に向かって突き上げた。
「これで終わりだよ、近藤さん」
突き上げた典太は近藤の頭蓋を突き破り鋭く輝いていた。そして、勢いよく典太を引き抜くと、近藤は言葉も発することなく大の字倒れこみ、灰と化して消え失せてしまった。
土方は近藤との死闘を終えると、周りを見渡した。
そこには、旧幕府軍の戦士達の屍が累々と横たわっていた。
「近藤さん。この戦い、幕府軍は敗れるだろう。そして、俺たちが築き上げた新撰組もいずれ消え去るだろう。でも、俺は死んで逝った仲間たちの為にもこの誠の一文字を以て戦っていくよ」
空から降る雨は一段と強くなったような気がした。
「でもな、近藤さん。俺はあんたみたいに怪物なった奴らはすべて斬る。あと何人いるかわからないけどな」
土方は近藤が倒れた場所を睨んでつぶやいた。そして、上野を去るのだった。
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