剣士さんとドラクエⅧ
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108話 炎
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「メディさん……?」
轟々と、火の放たれた家は、ほんのついこの間までお世話になった場所で、信じたくないけれど間違いない。もしや火の中倒れていないかと不謹慎な事を思って突入した私たちに襲い来るのは、やっぱりダークウルフェンだった。狂気だけ宿した赤い目をギラギラ光らせ、涎を垂らして奴らは襲いかかってくる。
とはいえ室内、今いる数より増える様子もなく、大した数もいないのでさっさと片付ければ全く問題ないけれど。魔物の気配も大量というわけでもないし、回復魔法の使えるエルトにゼシカとヤンガス、ククールに私がついて二手に分かれ、捜索を開始する。
誰かを探すようにそこらじゅう嗅ぎ回り、地下室にたむろする忌々しいやつらの首をスパンスパンと切り落とし、ククールはこちらを奴らが振り返る前にザラキで仕留めていたし、コンビネーションはバッチリで片付くのはほぼ一瞬だ。
……ザラキって確実に効く呪文じゃないって記憶してたんだけど、ククールってやたら命中率高くない?やっぱり生命に司るプロなんだろうか……いやいや、それでいいんだけどさ!味方だし!
「……自分の意思をもたない奴らを葬るのなんて簡単だろ、トウカ」
「あぁなるほど!」
不意打ちは確かにすっごく簡単だよね!弛緩した筋肉にはダメージも入りやすいし、しかも当たりやすいし!ナチュラルに心読まれたけど今は気にするべきじゃない、と。それはいいんだけど。
ここにメディさんがいなかったなら……エルト達も何も言ってこないし、心当たりのある場所は……なんか家の裏に洞窟らしきもの、なかったっけ。そっちに用事なかったから別に行こうとも思わなかったけど……そこの裏に人が安全でいられる所でもあれば……。
うん、ククールもそう思うよね?
火の手がどんどん激しくなる家から私たちは脱出すると、急いで家の裏手に回った。……オークニスで風邪の人を診る為に残ったグラッドさん、後から来るって言ってたけど……この実家の状態を見たらショックだろうな……。変わり果てた家を見るショックっていうのは果てしないから。
メディさんが無事なことを願う……って!あれはっ!
「また囲まれたかッ」
「ここは魔物避けがあったのにどうして!」
「……ゼシカ、魔力は?!」
「駄目よ、イオ一発ぐらいしか回復してないの……ッ」
ダークウルフェンはまたもやどこからともなく姿を現す。しかもさっきの比較にもならない大群。あれ以上の大群がいるなんてまったくもって訳が分からないし、こいつらを倒したらダークウルフェンという魔物は絶滅しそうだ、本気で。そんな数……ラプソーンというのは魔物をこうも操れるの?!
あぁ、いまさらながらドルマゲスを倒した時に杖を粉々に砕くことが出来ていればこんなことにはならなかったんだろうかと思うよ!後悔なんてらしくないのに、この旅は後悔だらけだ!
「お前さんたち!こっちだよ!」
とりあえずそっちに行かせるかと洞窟側のダークウルフェンどもを斬り伏せたその時、聞こえたのはメディさんの声。あっちは安全……?いや、わからないけど!少なくとも前方位から襲われるよりマシ、それから後ろにメディさんも守れるならもっといい、しかも陛下や姫をお守りしやすいし……!
「行くよ!」
同じ決断を下したであろうエルトの声に、私たちは突っ込んだ。目くらましのイオを放ったゼシカをエルトが守り、ヤンガスが陛下を抱えて走る。ククールと姫様が行ったのを確認して私は今度こそ誰にも遠慮せずに放った真空波で数十匹ぐらい吹っ飛ばしてから急いだ。家に結構ダメージがあったかもしれないけど、それは許して欲しい、切実に。
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「うおっ」
バーンッ!派手な音が洞窟……というか祠……に響いた。思いっきり重いものを硬いものにぶつけたような音。
……えっと。この場にはメディさん、陛下、姫にそれからいつものメンバーが揃ってるよね。うん、急いでゼシカに魔力を回復してもらってるぐらいでみんな大きな怪我もない、と。かすり傷ぐらい今更誰も気にしないし。陛下や姫は別だけど、幸い、ないみたいでよかった。
「エルトォ……現実逃避してないで、助けてくれない……?」
メディさんが呼んでくれたこの場所には結界が張ってあるみたいで、悪しき者は入ってこれないとか。狂ったダークウルフェンとか悪の塊みたいなものだから安全だよね。うん、安全……ここは安全……。
……。…………。
「なんでトウカ弾かれてんのっ?!」
「私が聞きたいんだけど!」
「しかも脱色してるし!」
「それは気にするほど珍しくないでしょ!」
らんらんと紫の目を光らせてトウカは叫ぶ。逆の立場なら同じことをしてるからこそ僕も叫ぶ。悪しき存在なの、トウカ?!見慣れた僕にはなんともないけど普通の人の感性ならもしかしてトウカ、邪悪だったりするの?!いやいや、トウカって生粋の騎士だよね、人助けしまくってるよね、打算もないよねトウカ!息を吸うようにやってるよね、なんでなんだ!
体ごと弾かれているし、結構トウカも焦ってる。後ろで聞こえた風切り音から結構片付けて来てくれたってのは分かったけれど、あの数を始末したなんてトウカの本気だろうと流石に思えない。
「おぉ……トウカさん、まずは深呼吸して落ち着いて。貴女は悪しき者じゃありませんよ。少し心が高ぶっているから結界が勘違いしてしまっただけよ」
少しびっくりしていたメディさんは優しく微笑み、結界越しにトウカの手を握る。言われたとおりに深呼吸したトウカがゆっくり目を閉じ、心を落ち着ける……と。確かに肌にピリピリするほど発せられていたトウカの闘争心が鎮められていった。そしてそのままメディさんが手を引くと、すんなりトウカは結界の中に入れた。
……聖なる結界に勘違いされるレベルの闘争心ってなんだろう。僕達も似たようなものだったろうに。相変わらず脱色した銀色の髪の毛が魔力を弾いてるようにぱちぱち音を立てているからなんだか淡く光ってるみたいだ。
……あれ、さっきまで紫色だったトウカの目がまた、緑色……。姫様と並んでエメラルド色が四つだ。
「……ありがとうございます」
「いいえ。でも折角来てくれたのに……」
「ここに来たのは、グラッドさんがメディさんを心配したからです。……結果はご覧の通りですけど。街で病人を診たらすぐ来るって言ってました」
「……あの子が?」
……何も知らずにグラッドさんがここに来たら危ないなんてものじゃないな。オークニスでの様子じゃ来るだろうし……。あの数相手に、グラッドさんの戦闘能力がどの程度かなんてわからないけど、さっきの様子じゃあまり戦えないみたいだし。心配なんてものじゃないよね、メディさん……。
「そう。じゃあ袋は渡してくれたのね」
「はい、それは勿論」
「あぁ、ありがとう」
メディさんは静かに祠の入口を見つめていた。さっきまでひっきりなしに狼どもが凝りもせずに結界に弾かれていたのに今は怖いぐらい静かだった。
火事はとうとうあの温かい家を包み込んでしまったらしい。不吉な真っ赤な光がここからでも見えるんだ。あの日の暖炉の火はホッとするぐらい綺麗だったのに、今見える火の色はゼシカのメラゾーマよりも恐ろしい。
焦げ臭い匂いが土と冷たい石の清廉な空気の匂いに混ざってかすかに伝わってきた。でも、ここからじゃ何も出来ない。行ったってまたあの大群を相手にしないといけないけど、ゼシカやククールが万端だろうが、ヤンガスや僕の調子が良かろうが、我らが先鋒トウカがぎりぎりと大剣を握りしめていようが危険にわざわざ飛び込むなんてことは出来ないから。
「……」
静かだ。なにも、変わらない。向こうから聞こえる音が聞こえないんだ。さっきまで獣の唸り声が煩かったのに、嘘のようだ。
「……レティスは大空を舞うもの。この世に邪悪の現れし時はレティスに助力を求めることだ……今は流石に関係ない、か……」
誰も何も言えない時、トウカは並んだ石碑の文字を読み上げる。それしかやれることがなかったんだろうけど……確かに伝承らしいその言葉、どう考えても空を飛ぶ存在に力を借りるなんて荒唐無稽なことないよね。今まさに邪悪認定されてた人間が読んでるのは妙だけど。
あとは読み上げもせずに真顔で読み進めていたトウカ。そして最後の文字まで読んだのか小さく息を吐き出す。
「……さて。じゃ、みんな行こっか」
「うん」
槍を構える。杖を手に取る。斧を肩に担ぐ。レイピアを引き抜く鋭利な音、最初から構えている大剣の煌めき。
さてと、さっきから胸の中がバクバク音を立てていて五月蝿いんだ。この先で待ち構えているレオパルドを倒さなくちゃって。洞窟を飛び出した僕らを出迎えたのはやっぱり黒犬レオパルドと、……捕らえられ傷ついたグラッドさんだった。
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