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真田十勇士

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巻ノ五十四 昔の誼その一

                 巻ノ五十四  昔の誼 
 家康はすぐに北条氏規に対して文を送った、その文は程なくその氏規の下に届いたが。
 その文を受けてだ、氏規はその温厚な顔を曇らせて彼の家臣達に言った。
「竹千代殿の言われていることはもっとも、しかし」
「それでもですか」
「今の当家は」
「お館様は頷いてくれるが」 
 今の北条家の当主である氏直はというのだ。
「しかしな」
「大殿ですな」
「あの方が」
「うむ、どうしてもな」 
 氏規にとって兄である彼がというのだ。
「あの方がな」
「どうにもですな」
「戦にこだわっておられますな」
「今も尚」
「あくまで」
「戦をすれば」
 秀吉、彼とだ。
「天下を相手にすることになる」
「流石に天下を相手にするとなりますと」
「勝てるものではありませぬ」
「ですから大殿にもです」
「考えをあらためて頂きたいですが」
「ですが」
「兄上、いや大殿は関白様をご存知でない」
 秀吉、そして彼の勢力をというのだ。
「最早天下を一つにされる方じゃ」
「東国もですな」
「西国は既に一つにされました」
「箱根から西はそうなっております」
「それではです」
「東国もまた」
「そうなる」
 間違いなく、というのだ。
「だからな」
「大殿はです」
 家臣の一人が氏規に言って来た。
「例えどれだけの数の軍勢が来ようとも」
「守りきれると思われておるな」
「まず箱根があります」
 相模と駿河の境にあるこの場所がだ。
「あそこはとかく険しいので」
「人が通ることは難しい」
「はい、ましてや大軍の通れるところではありませぬ」 
 まさに西国と東国を分ける場所だ、関東で乱が起こっても西国からは箱根がある為に軍勢を中々送ることが出来なかったのも事実だ。
「あの場所があり」
「そして北条の領地には多くの城がありな」
「どれも堅城で」
「尚且つ連携出来る様になっておる」
「はい、ですから」
「その城と城の守りでもな」
「強いと思われていますな」
 氏政はとだ、この家臣はこのことも言った。
 そのうえでだ、氏規にさらに言った。
「そして何よりも」
「この小田原の城じゃな」
「信玄公、謙信公がこれまで攻めてきましたが」
「どちらも防いだ」
「はい、寄せつけませんでした」
 天下の名将であった彼等をというのだ。
「謙信公は関東の諸大名を集めたうえで取り囲んできましたが」
「そうであるな、確かにこの城程の城はない」
「はい」
「町全体を堀と石垣、それに壁で囲んでおる」
 そうした城だというのだ。
「この様な城は明や南蛮では普通というが」
「本朝ではこの城だけですな」
「そしてここまで大きな城もな」
 まさにというのだ。
「他にはない」
「だからですな」
「確かに天下の堅城じゃ」
 氏規もそう見ている、小田原城はこれ以上はない城だというのだ。 
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