魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第十四話 双剣訓練
デバイス変更をしたアスカ。
アームドデバイスを使いこなす為にシグナムが呼んだ人物とは?
そして、フェイトの捜査に進展が……
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
アスカside
初出動の翌日、オレは訓練が始まる前にバリアジャケットを展開していた。
と言うのも、昨日は結局ジャケットを身につける状況にならなかったから、オレのバリアジャケットのデザインが分からなかった為、スバルの奴が
「アスカのバリアジャケット見た~い!」
とワガママを言ったからだ。
そんな事もあって今に至るのだが、これ、変わったバリアジャケットだな。
「これがアスカさんのバリアジャケットですか」
エリオが物珍し気に見ている。
みんなは、どちらかと言えば白を基調としたカラーリングだったけど、オレのバリアジャケットは黒をベースにしている。
ただ、色が問題なんじゃない。
「ずいぶん、変わってますね」
キャロも違和感を持っているみたいだ。
「ジャケットと言うより、アーマーね」
ティアナの感想が一番しっくりくるな。
シグナム副隊長やヴィータ副隊長のように武装隊甲冑をインナーにして、その上にプロテクターのような硬質ジャケットが取り付けられている。
「アスカのはバリアジャケットと言うより、アーマードジャケットって言うべきかもね」
シャーリーが説明してくれる。
「アスカの防御技術は確かに凄いけど、他の人を守る時にどうしても自分が疎かになるのよね。
だから、通常のバリアジャケットよりも防御力のあるアーマードジャケットにしたわけ」
シャーリーの言うとおり、オレは仲間を守ろうとすると、そっちばっかり意識が行って自分の守りが甘くなる。
「そりゃどうも。急所を守るようになってるんだな」
ブンブンと腕を振り回してみるが、アーマーがぶつかり合うような事はない。
腕、足、腰、胸と基本的な所を防御するようになっている。
「あまりゴチャゴチャつけると機動力が落ちるでしょ?人体の急所を守るようにして、あとはバランスを見てのデザイン。どう?」
どちらかと言えば地味なデザインだが、流線型のアーマーは動きやすく、防御力も高そうだ。
「うん、邪魔にならないな」
これ、ツノとかショルダーアーマーにトゲとかあっても良いんじゃないの?
……左肩は赤くしちゃおうかなー。
「じゃあ、私は戻るから、訓練がんばってね!」
仕事があるのか、シャーリーは手を振ってオフィスの方へ帰って行った。
オレもアーマードジャケットをリリースして、訓練の開始と行きたかったんだけど……
「今日から個人スキルをやるからね」
高町隊長の一言で、各個に分かれる事となった。
すげえ嫌な予感がする!
スバルはヴィータ副隊長に、ティアナは高町隊長に、エリオとキャロはハラオウン隊長のそれぞれついて行く事になって、残されたのは……
「どうした?なにを微妙な表情をしている?」
オレとシグナム副隊長だった。
「えーと」
クルリとオレはシグナム副隊長に背を向け、スバルを追おうとするが、
「待て、どこに行く」
ガシッ!と肩をつかまれてしまう。
「え?いやぁ、ヴィータ副隊長の……」
「お前の担当は私だ。来い」
「あ、あの!シグナム副隊長のは昨日散々絞られましたので、今日はスバルとかどうでしょうか?」
許せスバル!
流石に昨日の今日じゃオレも保たない。お前を生け贄にオレのライフを召還する!
と思っていたらスバルの奴、オレの声が聞こえたのか、ビクッとなって早足であっちに行っちまったよ!
「あ、あいつわ~!!」
逃げていくスバルの背中を、オレは恨めしげに見るしかなかった。
「心配するな。昨日ほど無茶はせん」
あ、無茶してた自覚はあったんだ。
オレは引きずられながら思ったよ。じゃあもっと手加減してくれよと。
そんなオレの心内なんかちーとも気づかずに、シグナム副隊長は少し離れた所で解放してくれた。
「され、今日は個人スキルの特訓となる訳だが、お前はデバイス変更をしたばかりなので基本訓練を行う」
「基本訓練、ですか?」
「そうだ。アスカ、双剣を扱った事はあるか?」
「いや、ないっス」
「つまりはそういう事だ。基本を知らなければ、応用などできはしない」
シグナム副隊長の言う事はもっともな事だ。
基本の先に応用があり、応用の究極の所は基本にある。
オレのバリアも、基本の積み重ねであそこまで防御力を高めている。
そういう考え方は充分に理解できる。
意外とまともな事を言うなあ。てっきり、習うより慣れろ!ってなし崩し的に模擬戦になるのかと思ったよ。
「とは言え、私は双剣は専門外だ。本当に基礎程度しか教えられん。だから、午前中は基礎動作の反復練習。午後からは、私の友人に教導をお願いする」
そう言うと、シグナム副隊長はオレの横に立ち、手取り足取り構えを教えてくれた。
「よし、これでラピッドアーディアンを振ってみろ」
「はい、こうですか!」
オレは全力でラピを振り上げた。
ブン!といい感じの音がする。
「まて、最初はゆっくりだ。正しいフォームを身につけるまではスピードを上げる必要はない」
すっげえまともな事を言ってくるシグナム副隊長。ホント、剣術の事はまともなんだな。
オレはいま受けた注意を意識して、今度はゆっくりとラピを振るう。
「脇が甘いな。もっとこう……」
指導の為にシグナム副隊長はオレの後ろに立って、手を……いや、え?
ポフン
あ…その…当たってるんですけど…
後ろからオレの手を取って色々教えてくれてるんですけど、そのけしからん物がポフンポフンとウェヘヘヘな事に…
昨日ボコられたご褒美ですか!最高です!
ティアナside
個人スキルになると、流石にチーム戦の時のようにごまかしが効かなくなるわね。
なのはさんに色々教えてもらったけど、今まで自分がどれだけ適当にやってきたかを思い知らされたわ。
そんな事を考えながらみんなと合流して昼食になったんだけど……
「いや~、今日のシグナム副隊長は女神に見えたぞ」
……鼻の下を伸ばしきって緩んだアスカの顔を見ると、力が抜けてくる。
シャーリーさんも含めたフォワードメンバーでのお昼休みの時に、開口一番アスカはそんな事をいってきた。
どうやら双剣の基本の素振りをずっとやってたみたいで、もの凄い汗はかいていたけど、怪我とかはしていなかった。
「シグナム副隊長と訓練していたのに、怪我してない!」
ってスバルが驚いていたくらいだ。スバル、アンタ結構容赦ないわね。
何があったのかは分からないけど上機嫌のアスカ。本当に何をしていた?
「じゃあ、昨日の副隊長はどうだったのよ?」
何となくムカついたので意地悪な質問をしてみる。
すると、突然暗い顔になった。
「昨日は、地獄の悪鬼だったよ…」
いや、そんなに?
ハア、とため息をつくアスカを見て、ちょっとかわいそうだったかなと思ってしまう。
アルトさんに聞いたけど、調整という名の模擬戦……と言うか、ほぼ一方的に叩きのめされてたらしい。
アルトさんの肩を借りて医務室に行ったらしいけど、なんかうなされていたって言ってたし。
「話には聞いてたけど、本当にバトルマニアなんだな。シグナム副隊長って」
パスタを口に運びながらアスカはボヤく。
「本人はそんなつもりは無いみたいだけどね」
シャーリーさんの言葉に、アタシとスバルはただ笑うばかりだ。
あれでバトルマニアじゃなければ、何だって言うのよ?
「ま、しばらくはアスカが防波堤になってくれるでしょ」
「お前、他人事だと思って…」
アッサリとしたアタシの言葉に、文句の一つでも言ってやろうと思ったのかしら?何か言い掛けたけど、それよりも早くシャーリーさんが口を開く。
「でも、シグナムさんはアスカの事、相当買ってると思うよ?こんな早い段階で直接指導するなんて滅多にないんだから」
それを聞いたアスカの顔が赤くなる。あんまり褒められる事に慣れてないみたいね。
「と、ところでさ、スバルって以前から部隊長と面識があったのか?」
シャーリーさんの言葉にどう反応していいのか分からなくなったのか、アスカは急に話題を変えた。照れてるのかしら?
食堂に来る前に、八神部隊長がリイン曹長と一緒に出かける所にバッタリ会ったんだけど、その時に部隊長がスバルにお父さんに何か伝えておく事は無いかと聞いてきてくれんだ。
「私は、お父さんから名前を聞いた事があるぐらいだけどね」
バクバクとパスタを片づけるスバル。まったくペースが落ちてないのは流石ね。
「どういう事ですか?」
キャロが不思議そうに尋ねてきた。
ああ、そうか。まだこの子達には言って無かったっけ。
「あぁ、スバルのお父さんは108部隊の部隊長なの。お姉さんも、その部隊で捜査官をやっているのよ」
食べる事に忙しいスバルに代わって、アタシが説明する。
「なるほど。スバルさんのお父さんとお姉さんも陸士部隊の方なんですね」
「うん。八神部隊長も一時期、父さんの部隊で研修してたんだって」
器用に食べる合間を縫ってスバルが答えると、キャロはヘー、と納得したように頷いていた。
アタシはふと思った事があったのでシャーリーさんに聞いてみる事にした。
「しかし、うちの部隊って関係者つながりが多いですよね?隊長達も幼なじみ同士なんでしたっけ?」
ほんと、部隊長の知り合いで固めたような部隊だ。
「そうだよ。なのはさんと八神部隊長は同じ世界出身で、フェイトさんも子供の頃はその世界で暮らしてたとか」
その話は聞いた事がある。オーバーSクラスの幼なじみが三人って凄まじいわね。
「えーと、確か、管理外世界の97番」
エリオが言うと、シャーリーさんがそうだよ、と答えていた。
「え……」
ん?いまアスカが何か言ったような気がしたけど……
アスカを見ると、なんか深刻そうな顔をして固まっていた。どうしたんだろ?
「97番って、うちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだよねえ」
「そう言えば、名前の響きとかなんとなく似てますよね、なのはさん達と」
スバルとキャロはアスカの変化に気づかずに喋っている。
いや、エリオとシャーリーさんも気づいてない。
「そっちの世界には、私もお父さんも行った事がないし、よく分かんないんだけどね」
「……」
スバルのお喋りを聞いているのか、いないのか。アスカは俯いて何かを考えているように見える。
今まで見たことがない表情だ。
「アスカ、どうかした?」
気分でも悪くなったのかと思って声をかけると、
「え?…あぁ、いや、何でもないよ」
ハッとしたような顔をして、アスカは再び食事を始めた。
ウソ……絶対何かある。けど、無理矢理聞いても仕方ないわね。
コイツも、人並みに悩みがあるって事なのかしら?
「あれ?そう言えば、エリオはどこ出身だっけ?」
アスカの様子に気づいた様子もなく、スバルが話を進める。
もうちょっと周囲の事を気に掛けてくれると、アタシも楽なんだけどね。
「あ、ボクは本局育ちなんで」
「!」
え?
本局って…じゃあエリオは!
アスカも、キャロもシャーリーさんもその意味に気づいて目を見開く。
でも、ただ一人、スバルだけがその意味に気づいてなかった。
「え?管理局本局?住宅エリアって事?」
「ば…!」
アスカが立ち上がりそうになるけど、それよりも早くエリオが答えていた。
「本局の、特別保護施設育ちなんです。8歳までそこにいました」
本局の特別保護施設。
事件や事故で親を亡くし、身よりのない子供達を一時的に預かる施設だ。
……アタシも、少しの間いた事がある。
つまり、エリオにはもう本当の親はいない、と言う事なんだ。
「え…あ、ゴ、ゴメン…」
自分の聞いた事がどれだけ残酷な事かを悟ったスバルが項垂うなだれる。
『このバカ!何て事を聞きやがるんだ!』
アスカが思念通話でスバルに怒鳴りつけた。
アタシとスバルの共通回線を通しているので、アタシには聞こえるけど、他の人のは聞こえないようになってる。
『アスカ、落ち着いて。スバルだって悪気があった訳じゃないのよ。わかるでしょ?』
アスカが怒る気持ちも分かるけど、怒鳴ってその場が収まる訳じゃない。
『…分かってるよ。ワザとなら、女でもブン殴ってる所だ』
気まずい雰囲気が漂う。念話だから聞こえてはいない筈だけど、アスカがスバルに対して怒っているのは一目瞭然だった。
スバルもそうだけど、アスカも結構顔に出るのよね。
「あ、あの!気にしないでください。優しくしてもらってましたし、全然普通に、幸せに暮らしてましたんで」
エリオが慌ててフォローに入る。
情けないなあ…アタシが上手くフォローしなくちゃいけなかったのに…
「あー、そうそう。その頃からフェイトさんがずっと、エリオの保護責任者なんだもんね」
その場の空気を吹き飛ばすように、努めてシャーリーさんが明るく言うと、エリオも笑って話を進めた。
「はい!もう、物心ついた時から色々よくしてもらって。魔法も、ボクが勉強を始めてからは、時々教えてもらって。本当に、いつも優しくしてくれて。ボクは今も、フェイトさんに育ててもらってるって思ってます」
嬉しそうに話すエリオを見て、アタシはホッと胸をなで下ろす。
この話はエリオにとってトラウマなんかじゃなく、本当に優しい思い出になっているんだ。
アスカを見ると、アスカもそう思ったのか、優しい目をして笑っている。
…こんな表情もできるんだ。
「そうなんだ。ハラオウン隊長、優しいもんな」
アスカがそう言うと、エリオは笑顔ではい!と返事をしていた。
「フェイトさん、子供の頃に家庭の事情でちょっとだけ寂しい思いをした事があるって。だから、寂しい子供や悲しい子供の事は放っておけないんだそうです」
アタシ達は黙ってエリオの話に耳を傾ける。
確かに、フェイトさんは誰にでも分け隔てなく優しい。天使かと思うくらいにね。
「自分も優しくしてくれる、暖かいてに救ってもらったからって」
なんだか羨ましいなあ…こんなに、幸せそうに保護者の事を話せるなんて。
「…寂しかったり、悲しい時って、誰かがそばにいてくれるだけで安心したりするよな。ハラオウン隊長は、その事を知ってるんだよ」
なんか、アスカが言うと重みがあるわね。
アスカも、そういう体験をしてるのかな?
考えてみれば、アタシはアスカの事を何も知らない。コイツも、寂しい思いをした事があるのかな?
「さてっと。思い出話もいいけど、そろそろ現実に戻る時間だ」
アスカの言葉に時計を見ると、確かにいい時間になっていた。
「本当ね。じゃあ、行こうか」
アタシが立ち上がると、みんなもそれに続いた。
「じゃあみんな。午後の訓練ガンバってね!」
シャーリーさんに見送られて、アタシ達は訓練場へと向かった。
『スバル、さっきは怒鳴って悪かった。その…思わず…』
訓練場に向かう途中、アスカがスバルに謝っていた。
昼食時にスバルのウッカリからアスカが怒った事を言っているのね。
あれは、別にアスカが謝る事じゃないと思うけど。
『いや、あれは私が悪かったんだからいいよ!っていうか、あの時アスカが叱ってくれたから、逆に今は気が楽だよ』
『そう言ってもらえると助かる。ありがとな、スバル』
念話のやり取りで仲直りか。二人は笑いあっていたけど、共通回線でイチャつくのはやめてよね!
アスカside
昼食後、訓練場に戻ってみると、そこにシグナム副隊長の姿はなかった。
たぶん、後からくる御友人とやらを向かえに行ってんだろう。
午後からはハラオウン隊長が捜査の為に抜けてしまう為、オレ以外は高町隊長とヴィータ副隊長が訓練をつける事になる。
早くラピに慣れなくちゃいけないな。
オレは午前中に習った基本動作を繰り返し復習する事にした。
だが、メシの時の事がどうにも心に引っかかる。
管理外世界97番……地球。
そこで思考を停止させる。
もう昔の事だ。乗り越えた筈だ!
ブン!
ラピを力一杯振り上げる。
《マスター、力み過ぎです。それに、副隊長に注意された箇所が雑になっています》
女性型AIのラピッドガーディアンが、今の素振りを注意してきた。
「おっと、そうだったな。つーかラピ、オレの事をトレースしてたのか?」
割と的確な注意をしてきたラピに、オレは質問する。
《マスターの訓練のサポートも私の仕事ですので。余計だったでしょうか?》
まだ基本人格だけだから、堅苦しい感じだが、基本的に優秀なヤツらしい。
「いや、正直助かるよ。一人だとどうしても型が崩れるからな。気がついたら、また指摘してくれ」
《了解しました》
なるほど、これがインテリジェントデバイスか。
確かに道具と言うよりは、相棒って感じだな。いや、まさに相棒か。
常に身近にいて、共に成長する相棒。
新しい仲間の注意を受けながら、オレは何度も素振りを繰り返した。
そして、うっすらと汗ばんできた時にシグナム副隊長が帰ってきた。
「あれ?」
シグナム副隊長と一緒に、黒のシスター服に身を包んだショートカットのお姉さん……なんだか、強烈にイヤな予感がしてくる。
もし、あの女性が、オレの考えている人と同じなら……絶望的にヤバイ。
練習の手を止めて、オレは直立不動になって二人に向き直る。
「アスカ、紹介しよう。私の友人で聖王教会のシスターシャッハだ。今回、お前の教導をお願いした」
副隊長の紹介で、シスターがニコリと笑う。
やっぱり、聖王騎士のシスターシャッハだ!
「ハッ!アスカ・ザイオン二等陸士であります!よろしくお願いします!」
ビシッと敬礼を決める。ヤバイ人が来ちゃったよ、マジで。
「ごきげんよう、アスカ。聖王教会シスターの、シャッハ・ヌエラです。初めまして」
柔らかな物腰で、上品に挨拶をしてくるシスターシャッハ。
「本日は双剣の基本稽古と伺ってます。非才の身ではありますが、出来うる限りの事をやらせていただきます」
そう言ってシスターはペコリとお辞儀をした。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
物静かに、優雅ささえ感じる立ち振る舞いに思わず恐縮してしまう。
なんかイメージと違うな?
聖王教会のシスターシャッハ。オレも写真でしか知らないが、その噂は色々聞こえてくる。
陸戦AAAクラスの実力者で、剣術の腕ならシグナム副隊長と互角とか。
曰く、聖王教会の門番にして最終兵器。曰く、教会の魔神。曰く、地獄天使。
どれもこれから教導を受けるオレにとって有り難くない通り名を持つシスターだ。
だけど見た感じだと、上品なお姉さんって所だな……え?
「では、始めましょうか」
目にも留まらぬ早業とはまさにこの事。一瞬にしてシスターは自分のデバイスを起動させた。マジはえぇ!
しかも、その瞬間にその場の空気がピン!と張りつめた!
「は、はいぃぃ!」
ヤバイ!この人シグナム副隊長と同類だ!
直感的に危機を感じ取ったものの、時既に遅し。
今更逃げられない!
「基本動作のいくつかは、騎士シグナムより教わったと聞いています。それらの応用と実戦方法。そして模擬戦を行いましょう」
ニコやかに罰ゲームをしましょうって言ってきてるよ、この人!
「ペ、ペース早くないっスか!?」
「大丈夫ですよ、アスカ。習うより慣れろ、と聖王様も仰ってます」
アンタの方だったかあああああ!
「イヤイヤイヤ!聞いた事無いっスよそんなこと!」
「サッサと構えんか!シスターシャッハが教えてくださるのだぞ!」
「イエッサー!」
時間稼ぎをしていたらシグナム副隊長にドヤされてしまい、サッと身構えてしまったオレ。
ちょっと待ってよ…
この二人から教導受けるの?!午前中は楽しかったのになあああ!
outside
数時間後、アスカの悲鳴が周囲に響きわたったとか…
フェイトside
時空管理局 中央地上本部。
そこの研究施設に、私とシャーリーは足を運んでいた。
これまでのレリック事件の資料と、今回のリニアレールで集められた資料を比較する為だ。
「レリック自体のデータは以上です」
シャーリーがレリックの解析データをモニターの表示する。
「封印はちゃんとしてあるんだよね?」
「はい、それはもう厳重に」
ロストロギアは、物によっては次元震を引き起こす可能性があるので、取り扱いは慎重に慎重を重ねなくてはならない。
万が一この場所で次元震が起きたら、どれだけの被害がでるだろうか?
それを考えたら怖くなる。
「それにしても、よくわからないんですよね、レリックの存在意義って。エネルギー結晶体にしてはよく分からない機構が沢山あるし、動力機関としてもなんだか変だし」
シャーリーの言うとおり、レリックが何の為に作られたのか、どんな能力を持っているのかは、まだ解明されてない。
高エネルギー結晶体であるのは間違いないんだけど…
「まあ、すぐに使い方がわかるようなら、ロストロギア指定はされないもの」
今はまだ情報の積み重ねの段階。急いで答えを出しては却って危険だ。
レリックを中心に事件が起きるのであれば、レリックを追う事によって本質に近づいて行くはずだ。
これ以上はレリックについて考えてもしょうがないので、新たに確認された新型ガジェットの残骸をモニターに出す。
「こっちは、シグナムさんやヴィータさん達が確保してくれた物と変わらないですね」
シャーリーが新型ガジェットの各パーツのデータを重ねて映し出す。
「新型も、内部機構自体は大差ないし…」
シャーリーの指摘するとおり、基本設計は変わらないので参考にはならない…
!!!
何気なくデータを流していた中で、私はある物を見つけた。
「シャーリー!ちょっと戻して。さっきのⅢ型の残骸写真。たぶん、内燃機関の分解図」
「え?はい…これですか?」
「それ!」
そこには、回路に組み込まれた青い宝石があった。
まさか、こんな所でコレに出会うなんて…
「これって…ムグッ!」
言い掛けたシャーリーの口を私は慌てて押さえた。
驚くシャーリーに、人差し指を自分の唇に押し当てて、シーっとする。
さり気なく周囲の気配を探る。
今、この空間には、私とシャーリーしかいない。それ以外の気配はない。
小さく息を吐き、私は再びモニターに目を向ける。
「ここ、拡大して」
私は青い宝石には触れずに、その右上にあるパネルを指す。
「はい。えーと、何か書いてありますね。これ、名前ですか?ジェイ…」
「ジェイル・スカリエッティ」
「え?」
やはり、彼が絡んでいた。忌まわしき科学者。
「Dr.ジェイル・スカリエッティ。ロストロギア関連事件を初めとして、数え切れないくらいの罪状で超広域指名手配されている、一級捜索の次元犯罪者だよ」
私はパネルを操作して、スカリエッティのデータをモニターに表示する。
「次元犯罪者?」
モニターに映し出される写真。そこには白衣を着た男が映っている。
「ちょっと事情があってね。この男の事は、何年か前からずっと追ってるんだ」
「そんな犯罪者が、何でワザワザこんな分かりやすく自分の手がかりを?」
シャーリーの疑問はもっともだ。
私も直接ジェイル・スカリエッティに会った事はない。けど、彼の犯した犯罪を追っていると、その性格が読めてくる。
「本人だとしたら挑発。他人だとしたらミスリード狙い。どっちにしても、私やなのはがこの事件に関わってるってしってるんだ」
私は、再び周囲の気配を探る。やはり気配は無い。
今のうちに撤退した方が良いかもしれない。
「だけど、本当にスカリエッティだとしたら、ロストロギア技術を使ってガジェットを制作できるのも納得できるし、レリックを集めてる理由も想像つく」
「理由?」
「話は後で。シャーリー、このデータをまとめて急いで隊舎に戻ろう。隊長達を集めて緊急会議をしたいんだ」
「はい、今すぐに」
シャーリーが素早くデータの回収して立ち上がった。
シャーリーside
車を運転するフェイトさん。
でも、何だか随分後ろを気にしている。しきりにバックミラーで後方を見てるけど、何かあったのかな?
「どうしたんですか?さっきから、何だか落ち着かないみたいですけど?」
流石に気になってフェイトさんに聞いてみる。
「うん、大丈夫みたい」
「?」
何のことだろ?
「さっきの分解図の青い宝石みたいなの、覚えている?」
さっきの青い宝石?ああ、フェイトさんが急に私の口を押さえてきた時のだ。
「ああ、あの回路に組み込まれていたやつですね。エネルギー結晶かと思ったんですけど」
あの宝石を見てからフェイトさんの様子がおかしくなったっけ。
そう思っていたら、とんでもない事がフェイトさんの口から飛び出てきた。
「あれはジュエルシードと言って、随分昔に私となのはが探し集めてて、今は局の保管庫で管理されている筈のロストロギア」
!!!!!!!!!!!!!!!!!
「それって、つまりまだ保管庫に存在している事になるって事ですか?」
自分で言っておきながら、私は思わず固まってしまった。
でも、それでフェイトさんの行動の理由がわかる。
本当なら、管理局本局か地上本部のロストロギア専用保管施設で厳重に管理されていなくちゃいけないジュエルシード。
それが、新型ガジェットに組み込まれていた。これの意味する事は……
「敵側に通じている管理局員がいる?」
自分で言って、背筋が冷えるのを感じる。
「ジュエルシードが盗難されたって報告は来てないし、そもそも次元震を起こすだけの力のあるロストロギアが盗まれたら、管理局挙げての捜索をする筈。なのにそれがされてないってるんですよね?そんな事のできる人間って…」
盗難防止の為に、保管庫でのロストロギアのチェックは毎日欠かさず行われている。
データ改ざんできる人間、もしくはそれを命令できる人間がいるって事になる。
管理局内部にスパイを送り込めるだけの巨大組織が暗躍している?
「造反者がいるかどうかは、まだ推測の域を出ないよ。今は確実に分かっている事から始めよう」
フェイトさんがそう言って、この話は打ち切りとなった。
思った以上に根深い何かがあるのかもしれない…
わき上がる不安を抑えて、私たちは隊舎へと急いだ。
outside
午後から濃密な模擬戦を繰り返したアスカは息も絶え絶えだった。
シグナムとシャッハに交代で稽古……と言うか、一方的にボコられていた。
「し、死ぬ~」
地べたに這い蹲って、全身痣だらけのアスカ。
「なかなかどうして。よくやるようになったではないか、アスカ」
へばっているアスカにシグナムが近づく。
「どこをどー見ればそーなるんスか!完全にリンチだったで…痛て!」
「人聞きの悪い事を言うな!」
シグナムのゲンコツを喰らってしまうアスカ。
「騎士シグナムの言う通りですよ、アスカ。貴方は自分の実力を過小評価しすぎです」
シャッハも、アスカの実力を認めているようだ。正確には、防御スキルだろう。
「正直に言って、ここまで私の攻撃を凌ぎ切るとは思ってもいませんでした。後半はつい本気になってしまいましたよ」
にこやかにカミングアウトするシャッハ。
「ですよね!後半ガチでしたよね?格下相手にマジでしたよね!」
アスカは地べたから批判めいた声を出す。
「え、えーと…とても筋が良いですよ、アスカ」
(あ、ごまかした)
更に何か言おうとしたアスカだったが、シグナムが拳を握ってはぁー、と息を吹きかけているのを見て口を塞ぐ事にした。
「とりあえず、今回はここまでだ。ほら、立てるか?」
シグナムがアスカの手を取り立ち上がらせる。
身体中が痛むが、動けない事はない。アスカは気をつけの姿勢で敬礼する。
「シスターシャッハ。本日はありがとうございました!」
(できれば二度と来ないでください!)
礼は言うが、本音はそんなもんである。
そんなアスカの本心などつゆ知らず、
「はい、アスカ。これからは暇を見ておじゃまさせていただきます。では、ごきげんよう」
ニコリと清楚な笑みを浮かべてシャッハは帰って行った。
シグナムも、シャッハを送る為にその場から離れる。
「……」
で、アスカはと言うと、シャッハの最後の言葉を聞いて硬直してしまった。
「ま、マジかよおぉぉぉぉっぉぉ!」
ショックのあまり絶叫してしまう。
「うるせえ野郎だな。こっちも終わったんだろ」
そこにヴィータさん登場。ボロボロのアスカを見て呆れたように口を開く。
「ほれ、このまま全体訓練に入るから早くこい」
「へ?」
全体訓練と言う単語に信じられないという風にヴィータを見るアスカ。
「ちょ、ヴィータ副隊長?オレ、シグナム副隊長とシスターシャッハに散々ボコられた後なんですけどお?」
「…ああ、大変だったな。じゃあ、次の模擬戦やっから行くぞ」
「…」
それ以上反論せずに、アスカは素直にヴィータについていった。
(大変の一言で片づけられてしまいましたよ!)
「はーい、それまで!夜の訓練、おしまい!」
なのはの合図で模擬戦は終了した。
フォワード全員がその場に崩れ落ちる。
……アスカは合図の少し前から地べたに突っ伏していたが。
「ア、アスカさん、大丈夫ですか?」
キャロがヒーリングを掛けるが、アスカは起きあがることができない。
「キャロ…花畑がキレイだよ…」
「しっかりしてください、アスカさん!戻って来て!」
エリオが慌ててアスカの口にペットボトルを突っ込む。
一気にそれを飲み干すアスカ。ようやく起きあがる。
「だいぶきつかったね、アスカ君?」
なのはも心配そうにアスカを見る。
一応、オーバーワークギリギリでのプログラムを組んではいるが、シスターシャッハは計算外だったなのは。
「模擬戦云々じゃなくて、シグナム副隊長のリン…訓練がキツ過ぎます」
(いま、リンチって言い掛けた)
スバルの顔が引きつる。もしかしたら、自分もシグナムの訓練を受ける事になるかもしれないと思ってしまったのだ。
「まあ、アスカ君はデバイスが変わったから、徹底して使いこなせるようにってしてくれてるんだよ」
「それはそうなんですけどね…」
そうは言ってもキツいのは事実。文句の一つも出てくるわけである。
「それに、最後の模擬戦では撃沈どころか、ガジェットを何機も撃墜していたじゃない。成果出てるよ、アスカ君」
なのはにそう言われると、嬉しかったのか、アスカは照れたように笑う。
「みんなも段々良くなっているから、これからもその調子でね!」
「「「「「はい!」」」」」
訓練後の恒例、訓練日誌をつけたアスカ。
エリオが今日は代わりますと申し出たが、アスカはそれを断った。
「変に気ぃ使うな。大丈夫だよ」
エリオの頭を撫でつけてアスカは日誌をつけた。
「本当に大丈夫?シグナム副隊長だけでも大変なのに、あのシスターシャッハまで向こうに回しての連続模擬戦でしょ?」
ティアナも心配になったのか、体調を気遣う。
「まあ、なんとかな。何だかんだで、キツい一撃は防げたし。スタミナ的にはキてるけど、寝れば治るだろ」
実際、シグナム達との模擬戦で一撃必殺の威力のある攻撃は、避けるか防ぐかはしている。
その前段階の攻撃は結構喰らっていたが、何とかなっている。
「それに、最後に高町隊長に褒められたから、一気に元気になったよ」
パタン、と日誌を閉じるアスカ。終了である。
「まったく、男ってバカばっかね」
心配したのがムダだったとばかりに、ティアナが大げさに肩を竦める。
「そんなもんだよ、男って」
笑ってアスカが答えた。
「失礼しますって、あれ?」
アスカが隊長室に行くと、なのはの姿はなく、代わりにヴィータがイスに座っていた。
「ヴィータ副隊長だけですか?」
「おう。なのは隊長は、部隊長達と緊急会議に出てる」
(緊急会議?何かあったのか??)
そう思ったが、だからと言ってヴィータに聞くことはしない。
必要な事なら、後で連絡がくる筈だからだ。
「んじゃ、日誌出していきますんで」
アスカは机に日誌を置いて退室しようとした。
「ちょっと待て、アスカ」
出て行こうとしたアスカをヴィータが呼び止める。
「は、はい。何でしょうか?」
何かマズイ事でも言ったか?と内心焦るアスカ。
「お前、隊長の訓練を受けてみて、どう思っている?」
唐突にそんな質問をされる。
「どうって言われても…何と言っていいやら…」
アスカはヴィータの質問の意図が分からず、困惑する。
「そんな難しく考えるな。軽く聞いてんだ」
パタパタと手を振るヴィータ。
何か立派な言葉で言うより、直感で言えという事だろう。
「そうッスねぇ…普通じゃ受けられないような訓練ですから、まあ有り難いとか…いや、違うな」
アスカは急に腕を組んで考え出す。少しして、アスカなりの考えをヴィータに告げる。
「…幸せ、ですかね」
「幸せ?」
アスカの答えをオウム返しに呟くヴィータ。
「確かに訓練はキツいですけど、オレ達みたいなヤツに本気で、真剣になってくれて。たくさん心配してもらっているのも分かるし…その…スンマセン。上手く言えなくて」
タハハ、と情けなく笑うアスカ。
「あぁ、分かった。もう今日は休め、な?」
苦笑して、ヴィータはアスカを下がらせた。
一人になり、ヴィータは日誌を手に取る。
「なのはが言ってたっけ。アスカはちゃんと理解しているって」
今、精一杯訓練をして、そこまで気づけないだろうとヴィータは思っていた。
新人達が、今の状況がどれだけ幸せであるかという事に。
だがアスカは、まさに【幸せ】であると答えたのだ。
しかも、部下に対してなのはが真剣であるという事まで見ているのだ。
「まったく、生意気な野郎だよ」
ヴィータは独りごち、日誌に目を通した。
「あっ……」
そして、すぐにパタンと閉じる。
日誌の最後には、個人の感想覧があるが、そこには…
「シグナム副隊長。紫電一閃は一模擬戦につき、せめて一回にしてください。いつか死にます」
とあった。
「……まあ、シグナムにはちょっと言っておく必要があるな」
言ってもムダだろうけどな、ととは思っていたが。
後書き
まず、長文になってしまった事をお詫び申し上げます。
どこで切ったらいいのか分からなくなって、自棄で繋げたまま投稿してしまいました。
いつも読んでくれている方には、大変感謝しています。今後とも、読んでいただけるように
頑張ります。
さて今回、アスカが地球に対して何らかの反応を示していました。
アスカと地球の関係とは?まあ、モロバレしてるような気がしますが、そこは気にしません!
フェイトsideとシャーリーsideはちょっとした緊張感を出したかったんですが、うまく行ってませんね(;_;)
そしてシスターシャッハ登場。アスカにとって試練の道です。
次回からついに肌色温泉回です!誰と露天風呂で鉢合わせになるのか?
そういう回だよね、ここって?
…まあ、結構長文になると思いますので、読んでくださる方にはまた迷惑をかけるかもしれません
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