英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~オルランドの”業”~
~メルカバ玖号機・甲板~
「ランディ。」
「………明日の準備は終わったか?」
「ああ。正直万全とは言い難いが………ミレイユさん達の事を考えたら贅沢は言ってられないしね。」
ランディの疑問にロイドは頷いた後真剣な表情になり
「まあな………”六銃士派”や”ラギール商会”は多分猟兵どもが出撃するだろう。叔父貴やシャーリィは簡単には出てこないだろうが……それでもガレスあたりが出たら激しい戦いになるだろうな。―――例えエルミナ大尉や局長達がいて、ベルガード門の精鋭がいても奴がいたら死傷者は出てくるだろうしな。」
「そうか………」
ランディの言葉を聞いたロイドは頷き、ランディと共に少しの間黙り込んだ。
「”赤い星座”………聞いていた以上の戦闘力だな。大陸西部最強と言われてるのもうなずける気がするよ。」
「まあ、歴史だけで言うなら中世の暗黒時代に遡るからなぁ。狂戦士オルランド………当時から名の知れた戦士たちの一族だったらしい。常に最新の戦闘技術を取り入れ、特殊な鍛錬法で肉体を強化する事で”最強”と呼ばれ続けた戦士団……それが近代になって猟兵団となり、一族の紋章だった赤いサソリを名前として掲げたってわけだ。」
(へえ?色々と興味が出てきたねえ?)
ランディの説明を聞いたエルンストは興味深そうな表情をし
「そうだったのか………ひょっとして……前に、旧市街のレースをあんな形式でやったのって?」
ロイドは真剣な表情で頷いた後ある事を思い出して尋ねた。
「ハハ、よく気付いたな。あれは、”赤い星座”で行われる戦闘訓練をアレンジしたもんだ。もっとも本来は、より実戦に近い、いつ死んでもおかしくない代物でな。ガキの頃から、毎日のように血反吐を吐くまでやらされたモンだぜ。」
(クク………その訓練とやらがどんなものか見たかったねえ。)
(………だからあれほどの戦闘能力を持っているのね……)
ランディの答えを聞いたエルンストは凶悪な笑みを浮かべ、ルファディエルは目を伏せ
「なるほど………」
ロイドは複雑そうな表情で考え込み
「……それをランディに仕込んだのが”闘神”と呼ばれた親父さんか。」
すぐにある事に気付いて尋ね
「ああ―――バルデル・オルランド。まるで鋼鉄の獅子のように厳しく容赦のない親父だった。―――3年前。俺はその”闘神”から一つの任務を与えられた。宿敵ともいえる猟兵団、”西風の旅団”の2個中隊………そいつらを俺の部隊で殲滅しろという内容だった。」
ランディは頷いた後過去を語り出した。
敵兵力はこちらの倍………実力が拮抗している事やその中には”西風の妖精”っていうシャーリィクラスの猟兵までいる事を考えると正直、厳しすぎる戦力差だった。だがこちらには奇襲と地形を利用できる強みがあった。
そして俺は………日頃から補給のために立ち寄っていた村を利用した。奇襲で陽動を行い、片方の中隊を村に引き寄せて………崖崩れを起こすことで分断し、もう片方を一気に潰した。
そして村外れの納屋を爆破することで敵の混乱を誘い………村から退却するルートを読んでそこに全火力を集中し、別ルートで退却したと思われる”西風の妖精”と数名以外は撃破した。
………村人の犠牲は一人も出さないつもりだった。だが、戦場における見込みなんて流動的で当てにならねぇもんだ。
結局、撃破するポイントは50アージュほど村寄りになって………一軒の雑貨屋を巻き添えにした。
………多分、猟兵仲間以外で初めてダチと言えるヤツだった。任務がない時は、たまに酒場で一緒に飲んで騒いでナンパして……いずれ街に出て、自分の店を持つのが夢だって言ってた。その夢も、命も、全て俺が奪った。
わああっ!ランディ兄、やるじゃん!
クク―――合格だ、ランドルフ。”西風の妖精”達を逃がしたとはいえ、十分な結果だ。この”試し”をもってお前は次の”闘神”に決まった。兄貴の跡を継げるよう、これからも精進するがよい。
「………………………」
ランディの過去を聞こえたロイドは複雑そうな表情で黙り込み
(クク、当時のランディがどんな男だったか見たかったねえ?)
エルンストは口元に笑みを浮かべて呟いた。
「……しまらねぇ話だろ?別に、そいつがショックで戦場から足を洗ったわけじゃねぇ。猟兵としての生き方にウンザリしたわけでもねぇ。俺はただ……わからなくなっちまったんだ。いつか自分の店を持ちたいっていうあいつのささやかな夢と……いずれ”闘神”となって死ぬまで戦い続ける俺の人生の……果たしてどちらに意味があったのか。」
「………ランディ………」
「多分それが……俺が背負った”業”なんだろう。オルランドの一族に生まれながら修羅になりきれず、中途半端に戦場に生きてきた俺自身のな。」
「…………………」
ランディが呟いた言葉を聞いたロイドは黙り込み
「ランディは、その”業”を断ち切るつもりなんだな……?あの叔父さんを乗り越えることで。」
そして真剣な表情で尋ねた。
「………まあな。親父が死んだ今、それ以外に俺が”業”を断ち切る方法はない。今の俺自身の力と足場をもってあの化物を乗り越えられたら………その時にやっと、3年前のケリを付けられそうな気がするんだ。これ以上―――ただ流されることなくな。そして……俺はオルランドが受け継ぐ”闘神”ではなく……新たな異名でやり直し、オルランドを生まれ変わらせようと思っている。」
「新たな異名?」
「ああ…………―――セティちゃん達が創ってくれたブレードライフルに因んだ異名――――”戦神”。―――圧倒的な力で戦場を蹂躙する狂戦士じゃなく、圧倒的な力で味方を”護る”守護戦士という意味を込めてな………」
「………そっか……当然、相棒としては協力させてくれるんだろうな?」
ランディの話を聞いたロイドは静かな笑みを浮かべて尋ねた。
「ああ、よろしく頼む。できれば一人でケリを付けたかったがさすがに相手が悪すぎる。悪ィがアテにさせてもらうぜ?」
「ああ、もちろんさ。相棒冥利に尽きるというか………頼りにしてくれて嬉しいよ。」
「クク……だからタラシなこと言ってんじゃねぇっての。」
(何を言う!それがロイドの一番の魅力なのだぞ!?)
ロイドの言葉を聞いたランディは笑顔で言い、ギレゼルは胸を張って言い
「へ……?」
ロイドは呆けた。するとその時ランディは酒とコップを出してロイドに見せた。
「それは……酒?」
「ラム酒だ、結構な上物でな。あいつと一緒に、村の酒場にボトルキープしていたモンさ。」
「………そうか………」
「ライフルと一緒に預けてたが何となく手が付けられなくてな。だが、今ならやっと残りを飲み干せそうな気がする。決戦前夜の景気付けだ。一杯だけ、付き合わねぇか?」
「ああ―――いただくよ。」
ランディの誘いに頷いたロイドはランディからコップを受け取り、ランディは互いのコップに酒をそそぎ
「……ちょうど空いたか。無理すんなよ?少しだが結構キツイぜ。」
空になった瓶を見つめて言った後ロイドを見つめて言った。
「まあ、もう成人してるしこのくらいなら大丈夫さ。乾杯しよう、ランディ。」
「ああ。」
そして二人は互いのコップで乾杯した後中身の酒を一気に飲んだ。
(クク………たまにはいいねえ、こういうのも。)
(フフ………)
(くっ!?我輩とはまだ乾杯していないのに薄情だぞ、ロイド!?)
その様子を見ていたエルンストは口元に笑みを浮かべ、ルファディエルは微笑み、ギレゼルは悔しがっていた。
「ケホッ………結構くるな……」
飲み終えたロイドは咳き込み
「ハハ、言わんこっちゃない。まあそいつが大人の味ってヤツだ。」
ランディは苦笑した後口元に笑みを浮かべた。
「ぐっ……だから自分だけ大人面するなってば。―――なあ、ランディ。」
「ん、なんだ?」
「事件が一段落付いたら裏通りのジャズバーに行こう。そこで、新しい酒をボトルキープしないか?できればもう少し、おとなしめのヤツをさ。」
「!ハハ……そうだな………」
ロイドの言葉を聞いたランディは目を見開いた後口元に笑みを浮かべ
「ああ―――繰り出すとすっか!―――じゃ、俺は先に失礼するぜ。」
笑顔で声を上げた後ロイドから去っていた。
「やあ、待たせたね。」
そして少しの時間が経つとワジがロイドに近づいてきた………………
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