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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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もしもトウカが剣士さんじゃなかったら2

 一晩開けて。

 滝の洞窟とやらに行くため、準備とかなにやらが二人ともあったみたいで、少し時間が取れた。だからエルトに一応断って、私はアイデアを実行する為に武器屋に向かうことにした。

 剣を使わずに殴り倒すにしても、素手で殴ったらそういう経験のない私は弱いのだし、きっと怪我してしまう。そうしたらいくらたくさん回復アイテムを持っていても迷惑だろうし、痛いのは出来るものなら嫌だったから。

「お、いらっしゃい」

 朝、店を開けたばかりらしい。店の筋骨たくましい男が愛想よく声を掛けてくれた。護身用として剣を背負ってきたからちゃんと客として認識されたみたいだ。

「素手用の、グローブのようなものはある?」

 知らない人に話しかけるのは勇気が要った。外に出ることがなかったから、養い親や使用人の何人かとしか話したことがなかったから。陛下や姫とお会いしたことはあれど、話のような話もしなかったし。

 だから、私の態度が果たして正しいのか?と問われたら答えられない。でも、幸いにも彼は不思議そうに問いかけを返していただけだった。

「……そういうのは防具じゃないのか?」
「関節部にトゲのついたような……保護かつ武器となりうるもの。ある?」

 武道家が使うような、という説明をした方が良かったのかも。明らかに戦闘どころか人馴れもしていない私に不信感を抱いたのか、彼はなにやらごそごそと探しながら、

「見たところ兄ちゃん、戦闘経験もロクになさそうだ。そんな武器で戦うっていうなら死ぬぞ?その背中の剣を使った方が懸命だと思うけどなぁ」

 と言った。ああ、そのとおり。でも剣で戦って怯える方が死ぬと思うんだ。刃物に深いトラウマのある私は自分が振るうことすら駄目なのだから。

「ボクは死なない。死ぬわけにはいかないから。だけど、剣ではそれを為せないんだ。……どうか売ってはくれないか」
「そうか。……まぁ武器を売るのが俺の仕事だからな。兄ちゃん、好きなのを選べ」

 深くは聞いてこなかったことに感謝しつつ、私は見せられた物を眺めた。並べられた「グローブ」はおおよそ私の想像通りの見た目をしている。

 私では腕を動かせそうにないようなごついものから、軽そうだけど仕込み武器があって扱えそうにないものとか、いろいろあった。その中でも目を引いたのは手の関節部にトゲのついた、私の考えていたのと寸分違わぬもの。比較的防具に近い構造をしている。提示金額は四百二十ゴールド。

 迷わずそれを手に取ると、それを買った。試しもしない、比べもしない姿を見て呆れたのだろうか。彼はお金を受け取るとぼそりと呟いた。

「……ご武運を」
「ありがとう」

 その時私は剣にモノトリアの紋章がバッチリ刻まれていて身バレしてるなんて思わなかった。装備を変えたおかげでほかの誰にもバレなかったから、彼には助けられたよ……。

 人気のないところで剣を仕舞い、グローブを嵌める。どんな魔法が掛かっているのか分からないけどすぐに私のサイズにぴったり合う。

 少し考えて手袋からもう一つの、義父から贈られた護身用のものを取り出して装備した。短剣ってやつだ。もしかしたら刃物が必要な場面があるかもしれないから。

 よし……。

 急いでエルトたちを探さないと。

・・・・
・・・
・・


 追いついた。

 剣を装備していない私を不思議そうにヤンガスが見て、疑問に感じたようにエルトが話しかけてくる。……私より背が高く、しかも若くして近衛に上り詰めた彼は、少し怖かった。もちろん頼もしい味方なのだけど、使えない私を捨てやしないかと、思ってしまって。

「剣は、どうしたのですか?」
「事情があって。ちゃんと戦うから、そこは心配しないで。剣はそもそもほとんど使ったことがなくてね……そっちの方が足でまといになってしまう」
「そう、ですか。街に残りますか?」
「陛下と姫の為、そしてトロデーンの国民を守るのは貴族の役目でもあるんだ。ボクはこんなんでも『モノトリア』だ。引くわけにはいかないよ」

 エルトの黒い瞳が少し、呆れたみたいだったけど、それ以上は何も言ってこなかった。命の恩人であるエルトを慕うヤンガスも、エルトが私に貴族だから敬語を使う様子を見て……そして多分それよりも陛下のように突っかからないから何も言わない。

 私のことを二人とも無視こそしないけど、気にしない。

 ……これでいいんだ。これで。仲良しごっこなんて出来ないんだから。死にたくないけど、見捨てられないなら、それでいいんだ。

 そこからしばらく歩いて、戦闘して、滝の洞窟に着いた。そこで襲いかかってくる魔物はフィールドで襲ってくる奴ら……なんとか殴り殺せる程度……よりも、強い。

 最初と違って迷いがなくなったから、威力が上がった私の攻撃だけど、それでも一撃で殺せないから何度も何度も殴って倒すしかなかった。

 そのせいですぐに私の白かった服はなんとも形容し難い赤黒っぽい色に変わった。染料は魔物の血や体液だ。正直、気持ち悪いけど……脱いで性別がバレるのも、守備力が下がるのも真っ平御免、我慢するしかなかった。

 そうなってしまうほど過激な戦い方だけど、刃物を使わないから、ちっとも怖くはなかった。……嘘だよ。怖くはなかったけれど、怖く「は」なかったけれど、どうしてか愉快で愉快で仕方がなくて、大声で笑いだしそうになるのを必死でこられるのが大変だったぐらいだ。

 でも顔は抑えきれなくて、ずっと満面の笑みだったと思う。そうなってからヤンガスは一度も振り返らなかった。エルトは三回の戦闘に一回ぐらい怪我の心配をしてくれたから薬草ですぐ治して見せた。

 お強かったんですねって、少しひきつった顔で言っていた。だから、君ほどじゃないよって返しておいた。

 強い魔物を次々殴る。蹴る。首をギチギチと締める。壁に死ぬまで何度でも叩きつける。踏む。心臓を狙って、打ち込む。

 ただの一度も短剣を使わなかった。グローブをしていても慣れないから手が痛くなったり、足に血豆が出来たんじゃないかってぐらい傷んだりした。でも全て気にならなかったんだ。煩わしいなら薬草もアモールの水もあるから、治せばいいだけだったし。

 エルトとヤンガスがどんどん無口になっていくのも、次々と襲い来る魔物にできるだけ気づかれないようにして戦闘を避けるためだと思った。だから、楽しくって、幸福感すら 覚えた私も口をつぐんだ。

 血を浴び、魔物の悲鳴を聞き、自分の命をぎりぎりで守り抜くのはあぁ、なんて楽しいんだろう!これが生きてるってことなんだね!

 部屋の中でひたすら怯える灰色の日々にはなんて勿体なかったんだろう!私はここで、こんなにも「生きれる」というのに!

 急所を狙って鋭く一撃。めり込んだ拳が、グローブのトゲが魔物の体に穴を開けた。ずぶりと沈んだトゲを抜けば血が溢れ出る。倒れた魔物の首の骨を折ってトドメをさす。

 足で思いっきり力を込めて踏みまくれば私にだって魔物の首の骨ぐらい折れるということを学んだ。もし囲まれたなら、連打で目の前の魔物を殴り、蹴り、殺していけばいい。

 最初は拙くても今はまぁまぁ洗練されたかな……?少しずつ形になってきて、技として成立してきたかな。正拳突きがモグラを一撃で仕留める。スキッパーは踏み殺せる。

 あぁ、あっちが、最深部かなぁ。

「……狂われた。ううん……あれが、彼の」

 ボソリ、エルトが何かを言ったように思う。よく聞き取れなかった。

 勝たないと、すべてを倒さないと。私は生き延びたいんだ。もっともっと、「生きる」ために。そして今度は守るために。 
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