Three Roses
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十話 またしての崩御その十
「どうしてもです」
「その二つを気に病んでいますね」
「常に」
まさにというのだ。
「その中におられます」
「当家も側室の子はいますが」
「それでもですね」
「何も劣ったところはありません」
こう言うのだった。
「私の弟や妹にも何人かいますが」
「その方々もですね」
「皇子、皇女です」
帝国のというのだ。
「誰も疑うことのない」
「帝国ではそうですね、ですが」
「この国ではですか」
「いささか事情が違いまして」
それでというのだ。
「正室のお子は嫡流としてです」
「絶対の存在ですね」
「側室のお子はそれに対してです」
「扱いが悪いのですね」
「長男ならともかくです」
この国は長子相続が強い、それで長子即ち長男ならば側室の子であっても正室の子の様に扱われるというのだ。
「他の場合はです」
「長女であっても」
「地位が低いとされています」
「それ故に妃も」
「そのことに強い負い目を持っておられます」
「ようやくわかりました」
太子は司教の話をここまで聞いて頷いた。
「私も」
「左様ですか」
「妃がどうしてあの様な性格になったのか」
「本質的に生真面目で学問好きであられ」
「そこにですね」
「その二つが加わっておられるのです」
旧教への信仰、そしてその負い目がというのだ。
「だからこそです」
「あの様な気質になった」
「そうなのです」
「薔薇位はです」
太子は政治的な判断から述べた。
「受けてもいいですが」
「はい、しかしです」
「その気質故に」
「それも出来ないのです」
「妃は確かに聡明です」
太子もそのことは認めた、見ていてよくわかることだからこそ。
「非常に、ですが」
「そのご気質がですね」
「君主として気になりますね」
「では」
「ここだけの話ですが」
太子はその目を鋭くさせて言った。南国の明るさもあるがそれと共に権謀術数を熟知している危険さも併せ持っている、その目をだ。
「私は妃をこの国の主にしたいです」
「そうですか」
司教は知っていたが知らなかったふりをして返した。
「それでは」
「はい、その為にです」
「動かれていますか」
「そうしています、ですが」
「この国の主になられてもですね」
「あの気質が気になります」
どうしてもというのだ。
「私はそう思います」
「では」
「機を見て言いましょう」
太子の口からだ。
ページ上へ戻る