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トラベル・ポケモン世界

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6話目 性悪猫

 コイン、ギラド、グレイ、のコイキング売り一行がツギシティを離れてから2週間が経っていた。一行は新たな町コンドシティで商売をしていた。
 一行はこの2週間で、コンドシティの他にも3つの町を巡り商売をした。
 グレイによるステマ活動の効果は意外にも高く、コイキング売りの客層に変化があった。
 今までの主な商売相手は、観賞用にコイキングを求める者、祭りなどでコイキングを大量に必要とする者、あるいは商売人コインの面白い喋りの見物料の代わりとして買っていく者、もしくはコインに騙され……ではなく説得されて秘密のポケモンコイキングを欲しくなった者、などであった。
 しかしグレイがステマ活動を始めてからは、ギャラドスが欲しくて進化前のコイキングを買っていくトレーナーが新たな客層に加わった。

 さて、この2週間に起こった出来事としてもう1つ。グレイは新たな手持ちポケモンとして、チョロネコを仲間に加えていた。
 チョロネコ、しょうわるポケモン。悪タイプのポケモンであり、紫色の猫のようなポケモンである。
 一般にチョロネコはとても悪戯好きなポケモンであることで知られており、遊びで人の持ち物をよく盗む。さらに厄介なことに、盗まれた人に対して可愛らしい仕草を見せて、見事に糾弾を回避する術をもっている。
 グレイのチョロネコも例外ではなく、グレイもよく持ち物を盗まれ、そのたびに可愛らしい仕草を見せられてつい許してしまうという経験を何度もした。
 しかし、『自分の持ち物を盗むなら良いが他人の持ち物は絶対に盗むな』とチョロネコに釘をさしていたにも関わらず、対戦相手のトレーナーの財布を盗んできた時にはさすがにグレイもキレた。折檻として常に戦闘に飢えているグレイのギャラドスの戦闘相手をやらせた。ギャラドスが飽きるまで。
 折檻した後、今日に至るまでチョロネコがグレイ以外の他人の持ち物を盗む事案は発生していない。

 今グレイが訪れているコンドシティにもトレーナーが集まる広場や公園がいくつかあり、グレイは1日ごとに場所を変えてステマ活動をしていた。
 夜になり、仕事終わりの地元のトレーナーや旅人のトレーナーで賑わう広場。グレイは慣れたように適当なトレーナーを探し、バトルを始めようとしていた。相手は若い女性のようだ。仕事終わりの地元の人といった様子である。

 バトルのルールは、互いに使用ポケモン3体で戦うことになった。
 相手トレーナーは、モグリューを繰り出した。
 モグリュー、もぐらポケモン。地面タイプのポケモンであり、両手に大きな爪をもつモグラのようなポケモンである。
 対してグレイはチョロネコを出した。
 ところで、グレイはコイキングの進化後のポケモンであるギャラドスでバトルすることで、コイキングのステマをすることを目的としている訳だが、いつも最初からギャラドスで戦っている訳ではない。
 その理由をコインには、他のポケモンと対比させてギャラドスの強さを強調させるためだ、という建前の説明で納得させているが、本当の理由はギャラドスだけが強くなることを防ぐためであった。
 グレイは常に、ギャラドスが自分に反乱を起こすことを警戒していた。ギャラドスは日に日に強くなっており、この2週間だけでビビヨン以上の力をつけてしまったため、さらに警戒を強めているのである。
 新たにチョロネコを捕まえたのも、チョロネコにバトルさせるのも、成長してギャラドスの抑止力になって欲しいという思いからである。
(多くのバトルを経験して、強くなってギャラドスをとめられるようになってくれ……)
 そう願いながら、グレイはチョロネコに指示を出す。
「チョロネコ! “なきごえ”」
「モグリュー! “どろかけ”」
「チョロネコ! 中断! 避けろ!」
 “なきごえ”は、相手の攻撃力を下げる技である。
 “どろかけ”は地面タイプの攻撃技である。威力は低いが、相手の命中率を下げる効果がある。その性質から、攻撃技でありながら実際は相手の命中率を下げる技として使われている。
 最初、グレイは“なきごえ”で相手の攻撃力を下げようとしたが、相手が“どろかけ”でこちらの命中率を下げようとしてきたので、避けるよう指示したのであった。
(“どろかけ”で命中率を下げられるのは困る。だが、こちらも“なきごえ”をなんとかして当てたい……どうする?)
 グレイが考えていると、相手トレーナーが新たな指示を出す。
「モグリュー“あなをほる”」
 相手のモグリューは、地中に身を潜めた。
 “あなをほる”は、1回地中に身を潜めた後、地中から相手を強襲する地面タイプの攻撃技である。
(地面にいる相手がどこから襲ってくるか、予想はできない。開き直って次の手を考えよう)
 そう考え、グレイは指示を出す。
「チョロネコ、相手の攻撃は痛いだろうけど頑張って耐えろ。耐えてから“なきごえ”」
 グレイは相手の“あなをほる”を避けることは諦め、とにかく相手の攻撃力を下げることにした。
 相手のモグリューの“あなをほる”がチョロネコに直撃し、ダメージを受ける。その代わりにチョロネコは“なきごえ”をモグリューに当て、攻撃力を下げた。
「モグリュー“どろかけ”」
「チョロネコ! どうにかしろ!」
 相手の“どろかけ”に対して、グレイは対処法をチョロネコに丸投げした。トレーナーに良いアイデアが浮かばない場合、無理して指示を出す必要はない、というのがグレイの持論である。
 判断を丸投げされたチョロネコは、とりあえず“みだれひっかき”で相手の攻撃を相殺した。
 “みだれひっかき”とは、連続で相手をひっかいて攻撃するノーマルタイプの攻撃技である。1発ごとにそれなりの威力があり、連続した攻撃をまともに全部くらってしまうと大きなダメージを受けてしまう。
(あ……“どろかけ”の対処法、あったじゃん)
 グレイはチョロネコが“みだれひっかき”をするのを見て、新たな作戦を思いつく。
「チョロネコ! “みだれひっかき”! そのまま前進」
 チョロネコは“みだれひっかき”による連撃で相手の“どろかけ”をはじきながら、モグリューに近づく。
「モグリュー! 動いて色んな角度から“どろかけ”」
 相手のモグリューも色んな角度から“どろかけ”を放つが、全て“みだれひっかき”ではじかれる。
 チョロネコはモグリューとの距離を詰め、“みだれひっかき”をくらわせる。チョロネコの連撃がモグリューの体力をみるみる削っていく。
「モグリュー! “みだれひっかき”」
 相手も同じ技を使ってきたことで、両者の同じ技が正面からぶつかり合う。
 しかし、モグリューの“みだれひっかき”の方が手数も威力も高く、今度はモグリューの連撃がチョロネコの体力をあっという間に奪っていく。
「チョロネコ! 頑張って避けろよ! いつもオレの持ち物盗んでる時の動きはどうした!?」
 グレイの指示により、チョロネコは技を正面からぶつけ合うのはやめて、素早い動きで相手の連撃を避けながら自分の連撃をくらわせる。
 再びモグリューが体力を削られる側になった。
 相手トレーナーは“みだれひっかき”の連撃合戦には勝てないと判断し、指示を出す。
「モグリュー! 1回距離をとって!」
「チョロネコ“おいうち”」
 “おいうち”は悪タイプの攻撃技であり、逃げる態勢の相手に放つと特に威力が大きくなるという特徴がある。
 距離をとろうとする――つまり逃げる態勢をとっている――モグリューに、チョロネコの“おいうち”が見事に決まった。
(あと少し攻撃すれば、モグリューは倒せるだろう)
 チョロネコの“おいうち”が直撃した影響か、モグリューの体力は限界に近いようであった。
「モグリュー“みだれひっかき”! そのまま前進」
 先ほどグレイが使ったのと同じ手を、相手も使ってきた。
(どういうことだ? “みだれひっかき”同士の戦いなら、相手に勝ち目はないはず……倒れる前に“あなをほる”を最後に1発くらわせてくると思ったんだが)
 疑問を持ちながらも、グレイは応戦する。
「チョロネコ! こっちも“みだれひっかき”」
 お互いの連撃がぶつかり合うその直前、チョロネコは相手の連撃を避ける姿勢をとり始めた。しかし、さらにその直前、すでに相手が新たな指示を出していた。「モグリュー“こうそくスピン”」と。
 “こうそくスピン”とは、体を高速で回転させながら相手に突っ込むノーマルタイプの攻撃技である。
 完全に相手の“みだれひっかき”を避ける態勢だったチョロネコは、完全に不意を打たれた。相手の“こうそくスピン”を避けることもできず、自分の“みだれひっかき”を相手に当てることもできず、ただ相手の技の直撃を待つしかなかった。
 モグリューの“こうそくスピン”がチョロネコに直撃した。
(マジか……敵ながら見事なタイミングだな……!)
 相手の指示が少し遅ければ、チョロネコに分がある“みだれひっかき”同士の戦いによってチョロネコが勝っていたはずである。
 逆に相手の指示が少し早ければ、チョロネコは相手の動きに対応して攻撃できたはずである。
 相手の絶妙な指示のタイミングに驚いたグレイだが、気を取り直してチョロネコに指示を出す。
「チョロネコ! “みだれひっかき”」
「モグリュー! “あなをほる”」
 チョロネコの放つ“みだれひっかき”を、モグリューは地中に潜って避けた。
(相手の“あなをほる”を1発耐えられるか……?)
 チョロネコは予想外の“こうそくスピン”を受けたことで、体力が減っていた。相手の“あなをほる”を1発耐えられるかどうか、微妙なところであった。
「チョロネコ! “みだれひっかき”をしながら相手を待て。相手が姿を現したらすぐ当てろ」
 グレイは、チョロネコとモグリューの戦いにおける最後の指示を出した。
(相手の“あなをほる”を耐えられれば勝ち。耐えられなければ負け。これ以上の指示は不要だろう)
 そう考えていたグレイだが……。
「モグリュー!! 練習した例のコンボ、やってみよう!!」
 相手が地中のモグリューにも聞こえるような大声を出したことで、グレイにも緊張がはしる。
(例のコンボ……? 何が始まるんだ?)
 グレイが思った直後、チョロネコの真下から相手のモグリューが勢いよく飛び出す。相手の“あなをほる”攻撃である。
 しかし、ただの“あなをほる”攻撃ではなかった。モグリューの体が高速で回転している。モグリューの“こうそくスピン”である。
 チョロネコはグレイの指示通り“みだれひっかき”をしながら相手を待っていて、相手が姿を見せた瞬間に攻撃しに行ったが、それよりも早く相手の“あなをほる”&“こうそくスピン”のコンボが決まった。
 チョロネコは倒れた。相手のモグリューの勝利である。

 チョロネコをモンスターボールに戻し、グレイは2体目のポケモンとしてギャラドス出した。
 弱っていた相手のモグリューはギャラドスの攻撃を1発受けて倒れた。
 続く相手トレーナーの2体目のポケモン、3体目のポケモンもギャラドスが倒した。戦術などは特になくギャラドスが力ずくでゴリ押しして倒したので、特筆すべきことはなかった。
 相手を実質2体倒したギャラドスに対して、チョロネコは惜しくはあったが1体も倒せていない。
 グレイの指示にも原因はあるが、今のギャラドスとチョロネコの力の差は大きいとグレイは実感した。

 
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