英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)
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第26話
~鉄道憲兵隊司令所・ブリーフィングルーム~
「―――すまないね、本当なら帝都庁に来てもらう所だったが。戻っている時間が無かったのでこの場を貸してもらったんだ。それでは早速、A班とB班の本日の依頼と宿泊場所を―――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
それぞれが席に座ってレーグニッツ知事の説明を聞いている中、マキアスが立ち上がって話を中断させた。
「どうして父さんが……さすがにいきなりすぎるだろう!?
「た、確かに……」
「あの、どういう経緯で帝都知事閣下が……?」
Ⅶ組を代表するかのようにリィンはレーグニッツ知事が自分達の宿泊場所や依頼についての説明をする事について尋ねた。
「ハハ、すまない。説明していなかったな。実は私も”トールズ士官学院”の常任理事の一人一。なのだよ。」
「ええっ!?」
「そ、そうなんですか?」
「…………………………」
レーグニッツ知事が最後の常任理事の一人である事を知ったマキアスとアリサは驚き、ユーシスは目を伏せて考え込み
「ユーシスさんのお兄さん、アリサさんのお母さんに続いて……」
「……さすがに偶然というには苦しすぎる気がするな。」
「うふふ、何か意図的なものを感じるわね。」
「……………………」
エマは驚きの表情でレーグニッツ知事を見つめ、ラウラとレンの推測にフィーは何度も頷いた。
「はは、別に我々にしても示し合わせたわけではないが。むしろ学院からの打診に最初は戸惑わされた方でね。」
「学院からの打診……?」
「やはりⅦ組設立に何かの思惑があるという事ですか?」
「いや、それについては私から言うべきではないだろう。いずれにせよ、3名いる常任理事の最後の一人が私というわけだ。その立場から、実習課題の提示と宿泊場所の提供をするだけの話さ。」
「は~っ……」
ガイウスやリィンの疑問に答えなかった父親の説明を聞いたマキアスは疲れた表情で溜息を吐いて席に座り直した。
「あはは……やっと腑に落ちた気分です。」
「―――了解しました。さっそくお聞かせください。」
「ああ、時間もないので手短に説明させてもらおう。”特別実習”の期間は今日を含めた3日間―――最終日が夏至祭の初日に掛かるという日程となっている。その間、A班とB班にはそれぞれ東と西にわかれて実習活動を行ってもらおう。」
「東と西……」
「それぞれ担当する街区が異なるということですか?」
レーグニッツ知事の説明を聞いたエマは考え込み、アリサは尋ねた。
「ああ、知っての通りこの帝都は途轍もなく広い。ある程度絞り込まないと動きようがないだろうからね。そこでA班には”ヴァンクール通り”から東側のエリア……B班には西側のエリアを中心に活動してもらうことになる。」
「”ヴァンクール大通り”…………」
「帝都を貫く大動脈にして皇城に通じる目抜き通りか。」
「うん、帝都駅から北にまっすぐ続いているんだけど……」
「かなり大ざっぱだがそこでわけさせてもらった。それでは各班、受け取りたまえ。」
そしてA班とB班はレーグニッツ知事からそれぞれの実習内容が書かれてある紙が入った封筒と、住所のメモと鍵を貰った。
「こちらの封筒はいつもと同じ実習課題をまとめた物として……」
「こちらの住所と鍵は……?」
それぞれ渡されたリィンとアリサは班のメンバーと共に住所に書かれてあるメモや鍵を見つめた。
「アルト通り……僕の実家がある地区だ。」
「なんだ、そうなのか?」
住所を見て目を丸くしたエリオットの言葉を聞いたリィンは驚き
「うん、でもこの住所にはちょっと見覚えがないけど……」
エリオットは住所を見つめて考え込んだ。
「ヴェスタ通りというのは西の大通りだったかしら?」
「ああ、庶民的でかなり賑やかな通りだが……父さん、もしかして?」
アリサの疑問に答えたマキアスはある事を察してリィン達と共にレーグニッツ知事を見つめた。
「ああ、帝都滞在中のお前達の宿泊場所とその鍵だ。A班B班、それぞれ用意しているからまずはその住所を探し当ててみたまえ。ふふ、ちょっとしたオリエンテーリングといった所かな?」
レーグニッツ知事の話を聞いたレンを除いたⅦ組の面々は入学式でのオリエンテーリングを思い出し、それぞれ冷や汗をかいた。
「おっと、そうこうするうちに時間が来てしまったな……」
「と、父さん?」
腕時計を見て突如立ち上がったレーグニッツ知事を見たマキアスは戸惑った。
「これから夏至祭の準備で幾つか顔を出す必要があってね。悪いが、今日のところは失礼するよ。―――そうそう、帝都内では君達が持つARCUSの通信機能も試験的に働くようになっている。それでは実習、頑張ってくれたまえ。」
「ちょ……!」
そしてレーグニッツ知事は部屋から出て行った。
「はあ……」
「えっと、何というか……」
「帝都の知事閣下というからもっと厳格そうな人をイメージしてたんだけど……」
疲れた表情のマキアスの様子を見たリィンとアリサは遠慮気味にマキアスを見つめ
「結構お茶目な感じ?」
「うふふ、見た目の割には中々面白いおじさんね♪」
フィーとレンが誰もが疑問に思っていた事を口にし、それを聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「……すまない。昔から父さんはあんな調子で。一応、帝都知事の仕事は何とかこなせているようだが……」
「”何とか”どころかすっごく有能だって噂だよね。平民出身で人当たりもいいけど積極的にリーダーシップを取るって。」
「ふふっ、帝国時報の記事でも好意的に評価されていましたよ。」
「ふむ、同じ革新派とはいえ、かの”鉄血宰相”殿に比べれば貴族との対立も少ないと聞く。」
「フッ、その人当たりの良さもただの擬態なのかもしれんが……帝都駅の”こんな所”を借りられるくらいだからな。」
「それは……」
クラスメイト達が次々とレーグニッツ知事を高評価している中で呟いたユーシスの疑問に答え辛そうな表情をしたマキアスはクレア大尉に視線を向け
「―――帝都は帝国の全鉄道路線の中心とも言える心臓部です。その意味で、鉄道憲兵隊も行政長官である知事閣下には日頃からお世話になっていまして。そのお礼に、少しばかりの協力をさせて頂いた次第です。」
マキアスやユーシスの疑問をクレア大尉が答えた。
「フン……」
「ま、まあまあ。」
鼻を鳴らしたユーシスの様子を見たエリオットは諌めた。
「その、場所を提供してくださってありがとうございました。実習も始めたいので、自分達の方もこれで―――」
「はい、お疲れ様です。それでは駅の出口まで案内させていただきます。」
その後リィン達はクレア大尉に駅の出入り口まで案内してもらって帝都に出た。
~緋の帝都ヘイムダル~
「わあ……!」
「これは……」
駅から出て見える光景にエマやガイウスは驚いた。
「凄いな……相変わらず。」
「正直、人多すぎ。」
「確かにそれは言えてるわねぇ。」
帝都の光景を見たリィンは目を丸くし、呆れているフィーにレンは苦笑しながら同意した。
「でも、”導力トラム”を見ると帝都に来たって気になるわね。」
「”導力トラム”……あの小さな列車のようなものか。」
アリサの言葉が気になったガイウスは近くにある小さな列車のような乗り物を見つけた。
「私も乗ったことはないが帝都の各所を結んでいるとか?」
「ああ、帝都にある16の街区を全て結んでいる交通機関だ。帝都ならではの光景と言えるな。」
「実際、運賃も安いから足として気軽に使えるんだよね。年間パスを買う人も多いし。」
「凄いですね……導力車も沢山走っていますし。あ、遠くの正面に見えるのがあの有名な……?」
クラスメイト達が”導力トラム”に注目している中帝都内を走る導力車に気付いたエマは驚いた後遠くに見える緋色の高い建造物に気付いた。
「皇帝陛下の居城である”バルフレイム宮”だな。鉄血宰相のいる帝国政府も入っているという話だが。」
「ええ、そうなりますね。それでは、私の方はこれで。3日間の特別実習、どうか頑張ってください。」
「は、はい……」
「わざわざのお見送りありがとうございました。」
そしてクレア大尉はリィン達が見送る中、駅の中へと入って行った。
「な、なんというか……軍人には見えないな。」
「ええ、鉄道憲兵隊といえば帝国軍の中でも精鋭部隊として知られているそうですけど……」
「うふふ、あんなとっても美人なお姉さんが軍人だなんて普通は想像できないものね♪」
クレア大尉が去った後それぞれ戸惑いの表情で呟いたマキアスとエマの意見にレンは小悪魔な笑みを浮かべて同意し
「フン、各地の貴族からは蛇蝎のように嫌われているがな。何しろ鉄路さえあれば我が物顔で治安維持に介入する連中だ。」
ユーシスは真剣な表情でクレア大尉が去った方向を見つめた。
「ふむ、レグラムの方ではあまり見かけたことはないが……自然公園での事件を見る限り精鋭揃いなのは間違いないだろう。」
「確かに、領邦軍を圧倒してる感じだったしね。」
「うーん、それでいてあの可憐さと美人っぷり……軍服も妙に似合っているし、反則としか思えないんですけど。」
「サラと正反対な感じ。」
「はは、確かに。(そういえば、あの二人……因縁ありそうだったけど。)」
アリサとフィーの話を聞いたリィンは苦笑した後、サラ教官とクレア大尉がさらけ出していた微妙な空気を思い出した。
「よし……それじゃあ移動するか。」
「まずはトラムに乗って宿泊場所の確認だね。」
「3日間の長丁場……お互い頑張ろう。」
「ああ、そちらこそな。」
「フィーちゃん、ラウラさん、レンちゃん。どうかお気をつけて。」
「はい。」
「ん、そっちも。」
「エマお姉さん達も頑張ってね。」
「……女神の加護を。気を付けて行くがいい。」
「ええ、それじゃあね!」
そしてリィン達はB班と別れて”アルト通り”に向かう導力トラムに乗っアルト通りに向かった―――――
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