ハヤシライス
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第三章
「お母さんもね」
「それでずっと作ってなかったけれど」
「どうして作ったの?」
「ちょっと気が向いたの」
「気が?」
「そう、久しぶりに作ろうって思ってね」
それでというのです。
「作ったのよ」
「そうだったの」
「そう、本当にカレーライスと比べると滅多に食べるものじゃないけれど」
お母さんは銀色のスプーンを出しながら絢香にお話します、それはカレーライスを食べる時のスプーンです。
「こちらも美味しいわよ」
「そうなの」
「だから食べてね」
「うん、それじゃあね」
絢香はお母さんの言葉に頷きました、そしてです。
カレーを食べる時みたいにスプーンで御飯とルーを取ってです、お口の中に入れました。そして食べるとです。
お肉と玉葱、それにルーと御飯の味が合わさっていました。まだマッシュルームは食べていません。
カレーとは違う、シチューに似た味がしてでした、ハヤシライスも。
「美味しい」
「そうでしょ」
「カレーに似てるけれどカレーじゃなくて」
「そう、これがハヤシライスよ」
「そうなのね」
「それでどうかしら」
「うん、美味しくて」
それでというのです。
「これなら幾らでも食べられそう」
「カレーライスみたいに」
「うん、ハヤシライスも美味しいわ」
「そうでしょ、本当に皆カレーライスの方をよく食べるけれど」
「ハヤシライスもよ」
「美味しいのね」
「実はお父さんも嫌いじゃないの」
今この場にいないお父さんもというのです。
「ハヤシライスもね」
「そうなの」
「決してね」
「うん、カレーライスとは違うけれど」
「美味しいでしょ」
「とてもね、じゃあおかわりするね」
カレーライスの時と同じ様にです。
「そうしていいよね」
「いいわよ、たっぷり食べてね」
「うん、そうするね」
絢香はにこりと笑ってお母さんに応えました、そして実際にです。
この日はハヤシライスをたっぷり食べました、それからです。
学校で皆にです、笑顔で言うのでした。
「私昨日ハヤシライス食べたの」
「ハヤシライス?何それ」
「確かカレーライスみたいなのよ」
「お肉と玉葱が入った」
「御飯にかけて食べる」
皆はハヤシライスと言われても微妙な返事でした。
ですがその皆にです、絢香は笑顔で言うのでした。
「ハヤシライスも凄く美味しいのよ」
「カレーライスみたいに?」
「美味しいの?」
「私食べたことないけれど」
「美味しいの」
「そう、だから皆食べてみて」
ハヤシライスを勧めるのでした。
「本当に美味しいから」
「うん、それじゃあね」
「今度お母さんにお願いしてみるわ」
「ハヤシライス作ってって」
「カレーライスだけじゃなくて」
「カレーライスもいいけれど」
絢香にとっては大好物です、何といっても。
「けれどハヤシライスもいいからね」
「そんなにいいのね」
「じゃあ今度ね」
「本当に食べてみるね」
皆もこう応えます、そしてでした。
絢香はこの時からカレーライスだけでなくハヤシライスも大好きになりました、もう一つ素晴らしい食べものを知ることが出来て心から嬉しくも思うのでした。
ハヤシライス 完
2016・4・20
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