英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~不審商人の調査~中篇(前半)
~クロスベル国際空港~
「すみません、”カプア特急便”の方ですか?特務支援課の者ですが……」
空港内にいる運送業者を見つけたロイドは話しかけ
「ん?あれ……さっき依頼を請けてくれた人達と違うけど……」
話しかけられた運送業者は不思議そうな表情でロイド達を見つめた。
「あ、その人達は同僚です。俺達は依頼の件ではなく、ちょっと今捜査している事件の参考の為に聞きたいんです。」
「事件?一体何の。」
「……その事なんですが……ジョゼットさんに話を聞きたいんです。できればでいいのですので、ジョゼットさんに伝えてくれませんか?ティオ・プラトーが聞きたい事があると。」
首を傾げている運送業者にティオは申し出
「お嬢に??……まあ、一応聞いてみるよ。」
ティオの申し出を聞いた運送業者は首を傾げた後エニグマを出して通信を開始した。
「あ、お嬢ですか?……いえ、その件ではなく、何でもティオ・プラトーという娘がお嬢に聞きたい事があると……ええ……ええ……わかりました。…………お嬢に連絡したら、今ここに来るってよ。」
通信を終えた運送業者はロイド達に伝え
「ありがとうございます。」
運送業者の言葉を聞いたロイドは軽く頭を下げた。そして少しするとバイザーを付けた娘がロイド達に近づいてきた。
「へへ、珍しい所で再会するもんだね……ってあれ。あんた、そんな翼、前にあったっけ?」
近づいてきた娘は口元に笑みを浮かべた後ティオを見て目を丸くし
「えっと……実は私は”闇夜の眷属”でして。理由があって今まで翼を隠していたんです。………それと、挨拶が遅れましたがお久しぶりです、ジョゼットさん。」
ティオは理由を説明した後娘――――ジョゼットに軽く頭を下げた。
「へ~、そうだったんだ。……それで?アロンの話だとボクに聞きたい事があるそうだけど。」
ジョゼットは口元に笑みを浮かべた後不思議そうな表情でティオ達を見つめ
「……実は―――――」
見つめられたティオはロイド達と共に事情を説明した。
「………という事なんです。今の話を聞いて何か気付いた事はないでしょうか?」
「………………………」
ロイドの説明を聞き終えたジョゼットは呆けた表情で黙り込み
「ジョゼットさん?」
ジョゼットの様子に気付いたティオは尋ねた。
「あ、ゴメン。…………うん。気付いたというか、さっき聞いたそのミンネス?だったけ。その男の事を聞いて、”あの時”の事を思い出して呆けていたんだ。」
「”あの時”というと詐欺の被害にあった時ですか?」
ティオの疑問にジョゼットの答えたジョゼットにロイドは真剣な表情で尋ねた。
「うん。……………君達がその弁護士に聞いてきたリドナーって男がそのミンネスっていう男みたいにボク達に”良い人”だと思わせてドルン兄やキール兄、そしてボクを信用させて、土地の権利書と資産の一部を譲渡させるサインをドルン兄にさせて、そのまま姿を消し……後は知っての通り、ボク達には莫大な借金が残ったわけ。……で、その後ボク達は行方を眩ませて、しばらくは空族をやっていたんだ。」
「ジョゼットさんにそんな過去があったなんて……………」
「その……何と言えばいいか……………」
「す、すみません……辛い過去を思い出させてしまって……」
複雑そうな表情で答えたジョゼットの話を聞いたティオは驚き、エリィは辛そうな表情をし、ノエルは申し訳なさそうな表情をした。
「ああ、別に気にしなくていいよ。ボク達は今の生活に貴族だった頃より満足しているし、借金の件もリベールの異変の解決を手伝った事でアリシア女王がボク達を無罪放免にする所か、私財をなげうってまでボク達の借金を肩代わりしてくれてさ。そのおかげでボク達はこうして真っ当な仕事でアリシア女王に借金を返していけるんだ。」
「アリシア女王が……!」
「噂通り慈悲深い方なんだな……」
ジョゼットの説明を聞いたロイドは驚き、リィンは静かな笑みを浮かべた。
「……しかし、ジョゼットちゃんの話を聞く限り、状況とか全て似すぎてねぇか……?」
「というか、まるっきり同じ手口としか思えないよねぇ?ひょっとしたら同一人物とか?」
一方ランディは目を細め、ワジは口元に笑みを浮かべてロイドに視線を向け
「……そうだな………もしかしたら同一人物の可能性もあるから、できればジョゼットさんにミンネスに会ってほしいけど、さすがにそこまで無理は言えないしな………」
視線を向けられたロイドは考え込んだ後、残念そうな表情で溜息を吐いた。
「………………だったらさ。ボクの連絡先を教えるから、そのミンネスって男に会いに行く時に連絡してきてよ。もしかしたら、リドナーの顔を知っているボクやドルン兄達がそっちに行けるかもしれないし。」
するとその時ジョゼットは考え込んだ後提案し
「え……いいんですか?」
提案を聞いたロイドは目を丸くして尋ねた。
「うん。もうボク達みたいにまた騙される人達が増えるのは見たくないし、それにもしそのミンネスって男がボク達を騙したリドナーと同一人物なら一矢報いてやりたいからさ。」
尋ねられたジョゼットは口元に笑みを浮かべて答え
「……ありがとうございます、ジョゼットさん。」
ジョゼットの答えを聞いたティオは静かな笑みを浮かべて軽く会釈をした。その後ジョゼットと連絡先を交換し合ったロイド達はIBCに向かった。
~IBC~
「あら、特務支援課の皆様……本日はどんなご用件でしょうか?」
「ええ、実は……IBCに協力してもらいたい捜査があるんです。」
「ランフィさん、IBCで使われている口座を捜査することはできますか?それにあたって、ある口座のミラの働きなどを洗ってみたいんです。」
「まぁ……口座をですか?ううん……事件性が確認できるなら、許可する事はできますが……そうですね、まずは詳しい事情をお聞かせ願えますか?」
「ええ、わかりました。それでは……」
ロイドは受付嬢に詐欺の疑いのある今回の件について説明した。
「なるほど……そういった事情でしたか。」
「ある程度の捜査理由にはならないでしょうか?」
「IBCとしても、このまま犯罪に口座が利用されたとしたら信用問題にも関わるだろうしね。」
「……そうですね。充分に事件性が確認できるでしょうし……端末の情報を口頭でお伝えする程度なら許可できると思います。」
ワジの話を聞いた受付嬢は考え込んだ後答えた。
「ええ、それで結構です。どうかよろしくお願いします。」
「かしこまりました、それでは……口座名義は『ミンネス』様……『クインシー社』子会社、『アルモリカ・ハニーカンパニー』……」
ロイドの言葉に頷いた受付嬢は端末を少しの間素早い指捌きで操作した。
「ありました。確かに開設なされてますね。……あら……?」
「ど、どうかしたんですか?やっぱり何か、問題があったとか……」
不思議そうな表情をした受付嬢の様子を見たノエルは尋ね
「ええと……詳しく預金額などをお教えするわけにはいかないのですけれど…………『アルモリカ・ハニーカンパニー』の口座には最低限のミラしか預けられていないようです。」
尋ねられた受付嬢は戸惑った様子で答えた。
「えっと……それってどういう……?」
「え、ええとですね。法人様向けの口座を開設するためには資本金というものが必要なのですが……それが、口座開設に必要な最低限のミラ……つまり、数万ミラ程度しか入っていないのです。」
「製菓工場の建設、及び各畑などの管理……そんなことをするには明らかにミラが足りていない……そういうわけですか。」
「彼は土地の権利書を預かったり、色々と取引きしてるはずなのに、その辺りに変更がないとすると……うん、かなり不自然だと言えるわね。デリックさんの信用を得る為に形だけの口座を用意した……そんなところじゃないかしら。」
「多分、デリックさんが口座の金額まで調べるとは予想していなかったんだろうな。」
エリィの推測を聞いたリィンは頷いた後答え
「なるほどね。フフ、これは明らかな矛盾じゃないか。」
ワジは口元に笑みを浮かべて呟いた。
「ああ、いい材料が手に入ったな。ランフィさん、ご協力ありがとうございました。」
「いえ、私どもにできることならなんなりと……また何かありましたら遠慮なくお越しくださいまえ。」
「ふふ、そうさせてもらいますね。」
その後ロイド達はマクダエル邸に向かった。
~住宅街・マクダエル邸~
「ええと……あったわ。これがクインシー社のパンフレットよ。」
自室の本棚でパンフレットを見つけたエリィはロイドに手渡した。
「へえ……しっかりした装丁だな。とても単なる資料には見えないんだが。」
パンフレットを見たランディは驚き
「大企業だからこそできる力の入れ方でしょうね。資料の中身の情報も信頼性が高そうです。」
ティオは納得した様子で言った。
「ふふ、それはよかったわ。」
「よし……とにかくざっと読んでみようか。」
そしてロイド達はパンフレットに書いてある情報を読み始めた。
……当社は、製菓業界の第一人者として製菓の未来のために、日夜研鑽を重ねています。このパンフレットでは、そうした当社の姿の一端を紹介したいと思います。
お菓子にとって最も重要なのは、『美味しい』と思ってもらえるかどうか、その一点に尽きると当社は考えています。そのため当社では『お菓子のクオリティを高める』ということにおいては一切の妥協はしません。
製菓工場には最新の設備が整えられ、衛生面にも最大限の配慮が為されているのはもちろんのこと、お菓子に使用される材料の品質やその産地にも強い拘りを持っています。また、商品開発についても厳正な基準が定められています。
役員自らが開発中の商品を試食し、販売に耐えうる商品かどうかを審査され、それから何度もの企画会議を経てようやく製造ラインに乗るのです。これは確実にお客様にお喜びしてもらえる最高のお菓子をお届けしていくための、社の設立当時からの伝統なのです。
そうして常に高いクオリティのお菓子を提供し続けてきたからこそ、現在のクインシー社の姿があるのです………
パンフレットの内容を読み終えたロイド達は少しの間黙り込んだ。
「ふむ、ざっと目を通してみたけど……あまり大した事は書いてないねえ。」
「まあ、パンフレットなんだから仕方ないよ。」
目を閉じて呟いたワジの言葉にリィンは苦笑しながら答え
「ミンネスの証言に矛盾する内容、見つかりましたか……?」
ノエルは不思議そうな表情で呟き
「う、う~ん……やっぱりこんな資料からなんて無理があったのかしら……」
エリィは考え込み
「いや……矛盾は見つかったよ。」
(フフ…………さすがね。)
ロイドは意外な事を言い、ルファディエルは微笑んでいた。
「……マジですか。」
「はは、相変わらず頼りになるなあオイ。段々、ルファディエル姐さんに似てきてねえか?」
ロイドの答えを聞いたティオは目を丸くし、ランディは笑いながらロイドを見つめ
「ハハ、さすがにそれは言い過ぎだよ。俺がルファ姉の域に達するなんて、まだまだだし。」
見つめられたロイドは苦笑した。
(ううっ……ロイドの憧れにして、目指すべき人……本当に恋敵として厄介な人ね、ルファディエルさんは……)
ロイドの答えを聞いたエリィは複雑そうな表情をし
「……確かに私達にとってはヒントもない状況で、今までの事件の真相を当てたルファディエルさんはあまりにも凄すぎですものね……」
「それがルファディエル姐さんの良い所だろ♪……んで、どういう矛盾なんだ?」
静かな笑みを浮かべて言ったティオの言葉に嬉しそうな表情で答えたランディはロイドに尋ねた。
「昨日のホテルでの会話をよく思い出せさえすれば、そこまで難しくはない答えだよ。一言だけ、ミンネスがこぼした言葉……それと矛盾する内容が確かにあるんだ。それこそが、ミンネスが『クインシー社の役員』ではないという証拠になっている……」
「そ、そこまでのヒントがこの資料の中に……?」
「ああ、それは――――」
戸惑っているノエルにリどが答えかけたその時
「―――待った。それは一旦黙ってようよ。」
ワジが制した。
「へ……どうしてだ?」
「フフ、キミだけわかってるってのも何だかシャクじゃないか。だから、実際にミンネスに突き付ける時まで宿題にしておかない?」
「あ、あのなあ。遊びじゃないんだから……それにルファ姉だってわかっていると思うぞ?」
ワジの意見を聞いたロイドは呆れた後言い
「キミより遥か上の反則的な推理力を持つルファディエルさんは最初から勘定に数えていないよ。」
「そうそう。そもそもルファディエル姐さんに推理で勝つなんて、俺達が戦闘で”風の剣聖”に挑むぐらい、ありえねえよ。」
「た、確かに……」
ロイドの言葉を聞いたワジは口元に笑みを浮かべて言い、ワジに続くように言ったランディの言葉にノエルは苦笑しながら頷いた。
「……まあ、私もワジさんの意見に賛成です。ロイドさんの答えが間違っている可能性もありますし、ここで考えを統一するのは危険かと。それに、いつもいつもロイドさんに良い所を持っていかれるのもシャクですし。」
ティオは呟いた後ジト目でロイドを見つめ
「ティオすけの言う通りだな。ちょっとは自分はわかっていても俺達に良い所を残すルファディエル姐さんを見習いやがれ。」
ティオの言葉を聞いたランディは悔しそうな表情でロイドを睨んだ。
「(むしろ後者が本心っぽいな……)わ、わかったよ。それじゃあ皆にも一応、考えておいてもらうとして……この資料については、要点を手帳にメモしておくとしよう。……ひとまずこれで、ミンネスの疑惑を追及する材料が集まったはずだ。一旦、ハロルドさんの家に戻る事にしよう。」
「ええ、そうしましょう。」
その後ロイド達はヘイワース宅に戻った。
~住宅街・ヘイワース宅~
ヘイワース宅にロイド達が到着すると、そこにはイアンもいた。
「おお、あんたたち……」
「どうやら、戻ったようだね。」
「イアン先生……来てくださったんですね。ハロルドさんも戻ってきたみたいですし。」
「ええ、一通り商売仲間へ聞き込みが終わりましたので。そちらの首尾はどうですか?」
「ええ、おかげさまでいろいろと掴むことができました。」
「ハロルドさんのほうではないかわかった事がありますか?」
「ええ……一応は。と言っても、これが何を意味するのか……」
エリィに尋ねられたハロルドは頷いた後考え込んだ。
「フフ、せっかくの情報だ。何でもいいから話してみたらいいじゃない。」
「ええ、お願いします。何か現状の情報と結びつくかもしれませんし。」
「確かに……それもそうですね。私はミンネスという名前に心当たりがないか、貿易仲間たちを尋ねて回りました。すると……どうやらミンネス氏は、クロスベル入りした頃に、ある事を調べていたようなのです。」
「ある事……というと?」
「ええ、それは……クロスベル各地の『地価』なんだそうです。」
「『地価』ねえ……」
「確かに工場を作る関係で、地価を調べる必要はあるけど……しかし、製菓業界の役員がする事か?」
「ミンネス氏が不動産屋のようなことをしていた訳ですね……でも、なんでそんな事を調べる必要が……リィンさんの言う通り、そう言った事は専門の業者がする仕事なのに……」
ハロルドの情報を聞いたランディやリィンは眉を顰め、ノエルは不思議そうな表情をしていた。
「もしかすると……これはミンネスの目的につながる重要な証言かもしれない。」
「ほ、本当かね?」
ロイドの話を聞いた村長は驚き
「ふむ、一理あるかもしれんな。それに、私のほうでも役に立てそうな事を見つけたよ。」
イアンは頷いた後意外な事を言った。
「え……?」
「ハロルド君、それにトルタ村長。これから私の事務所で、探し物を手伝ってくれないかね?」
「イアン先生……?」
「わしらは構わんが……何か重要なものなのかね?」
イアンの提案を聞いたハロルドと村長は不思議そうな表情をして尋ねた。
「いや、そこまで決定力のある証拠にはならないでしょうが……ミンネスとやらを追い詰めたあとの、ダメ押し程度にはなるかもしれませんな。」
「んん~?よくわかんねえが……」
「まあ、間に合うかはわからないからあまり期待しないでくれ。それよりも、支援課諸君。君達はアルモリカ村に急いだほうがいいだろう。ミンネスという男が本当に詐欺師なら、計画は最終局面にまで進行していてもおかしくない。だが、君達ならきっと、手持ちの証拠で何とかできるはずだ。」
「……そうですね、わかりました。それじゃあ皆……さっそくアルモリカ村に向かおう。あのミンネスの正体を暴いて、これ以上の取引きを阻止するんだ!」
「ええ……行きましょう!」
その後ロイド達はジョゼットに連絡をした後車を使って、アルモリカ村に急いで向かった……………
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