魔女に乾杯!
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78部分:第七十七話
第七十七話
第七十七話 甘さの秘密
夏雄は西瓜を口に入れた。そして味わう。華奈子達はそれをしっかりと見ていた。
「お兄ちゃん」
一口食べ終わったのを見計らって春奈が声をかけてきた。
「何だい?」
「どう、今日の西瓜は」
そしてこう尋ねてきた。
「いいね、よく冷えてて」
「うわ」
「いきなり外してきたわね」
華奈子達はそれを聞いてヒソヒソと囁き合った。
「いや、そうじゃなくてね」
だが慣れているのか春奈の態度は違っていた。彼女は動じることなく兄に再び問うた。
「甘さは。どうかなあ」
「そうだね」
夏雄は舌に残っている甘みを感じながら答えた。
「いつもに比べて。甘いね」
「そう」
春奈はそれを聞いて満面に笑みを浮かべた。
「いつもより甘いのね」
「うん。けれどそれがどうかしたの?」
「今日の西瓜はね、特別なの」
彼女は兄に対してこう言った。
「特別」
「そう。ほら、いつもはお砂糖をたっぷりかけてるでしょ」
「うん」
夏雄は頷いた。
「今日はね、かけてないの」
「そうだったんだ。それじゃあこの甘みは」
「お塩よ」
春奈は答えた。
「お塩」
「うん。お砂糖をたっぷりかけるよりね、お塩を少しかけた方が甘くなるのよ」
「そうだったんだ」
「お兄ちゃんいつもお砂糖やシロップをたっぷりとかけるから。それで考えてみたのよ」
「僕の為だったんだ」
「うん。気に入ってもらえたかな」
「そうだね」
夏雄はそれに頷いた。
「美味しいよ。それに西瓜自体の甘さも感じられるし」
「よかった、じゃあ気に入ってくれたのね」
「うん。これからはそのまま食べることにするよ」
彼は言った。
「どうもそっちの方が美味しいかも知れないしね」
「よかった、わかってくれたのね」
「案外ものわかりのいいお兄さんなのね」
「うん。もっともめるかと思ったけれど」
華奈子達は嬉しそうに囁いていた。
「それじゃあ西瓜どんどん切って」
「えっ!?」
華奈子達はそれを聞いて目をキョトンとさせた。
「何か無闇に甘いのよりこうしたすっきいした方がよく食べられるや。だからどんどん頂戴」
「わかったわ。それじゃあ」
「うん、お願いするね」
「やっぱり上手くいかないね」
「かえって私達の仕事は増えるのね」
「けれど。お兄ちゃんの甘党がましになって何よりよ」
「そうね」
朗らかな顔の春奈に対して他の四人は沈んだ顔であった。そしてうなだれたまま西瓜を切るのであった。
第七十七話 完
2005・12・31
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