英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)
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第11話
6月28日、06:30―――――
翌朝、リィン達はウォーゼル家が用意してくれた朝食を取っていた。
~ウォーゼル家~
「ふう……ごちそうさまでした。」
「昨日の宴会でたくさんご馳走を食べたのだから全部は入らないと思っていたのだけどねぇ……」
「ふふっ、育ち盛りですものね、」
朝食を食べ終えたリィンは一息つき、レンの言葉を聞いたファトマは微笑み
「馬に乗るのは体力がいる。そのくらいむしろ普通だろう。」
ガイウスは静かな表情で指摘した。
「……アリサ?さっきから黙っているけど大丈夫か?」
その時食事を終えて顔を俯かせているアリサに気付いたリィンは訪ねたが
「えっ!?え、ええ、大丈夫よ!何もしていないわよ!」
「???」
「クスクス♪」
真っ赤な顔で慌てた様子で否定したアリサの言葉に首を傾げ、その様子をレンは面白そうに見つめていた。
「え、えっと……おかわりはいりますか?」
「いや……さすがに遠慮しておこう。」
「余った鶏飯があれば竹の皮に包んでおいてくれ。実習中に頂くとしよう。」
「うんっ!」
「リリーもてつだう~。」
「じゃあ、冷やしたお茶も竹筒に入れておきますね。」
「はは……どうもありがとう。」
「うーん、何から何までお世話になりっぱなしね……」
色々と世話をしてくれるガイウスの弟達の優しさにリィンは微笑ましそうにトーマ達を見つめ、アリサは申し訳なさそうな表情をした。
「気にすることはない。客人には当然のもてなしだ。さて―――今日の実習だが課題を用意してある。」
そしてラカンはリィンに課題内容が書かれてある封筒を渡し、リィン達は課題内容を確認した。
「―――昨日よりも依頼の数は絞らせてもらった。残る1日は、ある程度君達の好きなように過ごすといいだろう。」
「……了解しました。」
「レン達の為に依頼の数を少なくしてくれてありがとう、ラカンおじさん。」
ラカンの話を聞いたリィンは会釈し、レンは微笑みを浮かべてリィンに続くように会釈した。
「ふふ、何ならアリサさんはお祖父様とゆっくりしたら?昨日はあまり一緒に過ごせなかったみたいだし。」
「そ、それは…………」
ファトマの提案を聞いたアリサは驚いた後口ごもり
「そういえば、昨日グエンさんは長老さんの所に泊まったんだよな。」
「グエンおじいさんもそろそろ起きている頃じゃないかしら?」
「午前中は俺達に任せて祖父孝行でもしたらどうだ?」
「で、でも…………」
ユーシスの提案を聞いたアリサは答えに困った。するとその時
「ラカン!……ラカンはおるか!」
「長老……?ええ、おりますが。」
長老とグエン、ノートンが住居に入ってきた。
「あら、皆さんおそろいで。」
「お、お祖父様?」
「ノートンさんも……」
「うむ、みんなおはよう。」
「お邪魔させてもらうよ。」
「……………………」
「……どうやら何かあったようですね?」
3人からさらけ出されている緊迫感を感じ取ったガイウスは真剣な表情で黙り込み、ラカンは気を引き締めて尋ねた。
「うむ―――ゼンダー門から先程連絡があった。どうやら帝国軍の監視塔が何者かの攻撃を受けたらしい。」
「!?」
「なに……!?」
「……………」
長老の口から出た驚愕の事実を知ったガイウスとユーシスは驚き、レンは真剣な表情で黙り込み、リィン達もそれぞれ気を引き締めた。
「今日の真夜中の話らしい。し、しかもそれだけじゃなくて…………」
「どうやら共和国軍の基地も攻撃を受けたらしくてな。これは少々……騒がしくなるかもしれん。」
ノートンは信じられない表情で答え、グエンは重々しい様子を纏って答えた。
同日、8:00――――
一方その頃、ノルド高原の上空に現れたエレボニア帝国軍、カルバード軍共和国軍の飛行艇がそれぞれの軍施設に向かった。
~監視塔~
「………………共和国お得意の空挺機甲師団の先駆けか。戦車部隊が到着するのも時間の問題のようだな……」
焼けた監視塔の城壁から双眼鏡で高原の上空の様子を見ていたゼクス中将は重々しい様子を纏って呟いた。
「―――閣下!守備兵2名の死亡を確認!残る3名も重傷ですが何とか助かりそうです!」
その時兵士がゼクス中将に報告した。
「……そうか。救護車が到着しだい急いで運んでやれ。」
「は!」
そして兵士に指示をしたゼクス中将は馬に乗り
「―――ゼンダー門に連絡!第三機甲師団、出撃準備!私が戻るまでに装甲車両を動けるようにしておけ―――!」
整列した監視塔の兵士達に指示をした。
~ノルドの集落~
一方その頃集落にいる民達は戦いに巻き込まれない為に集落から離れる行動を始めていた。
「その、本当に俺達も手伝わなくていいんですか?」
「うむ、その必要はない。変事があった時の移動など手慣れたものだからのう。」
「…………………………」
リィンの申し出を断った長老の様子をガイウスは黙って見つめ
「ガイウス、お前も同じだ。ゼンダー門のゼクス殿に状況を確かめに行くのだろう?ノルドの民としてではなく―――士官学院の一員として。」
「……ああ、行ってくる。」
ラカンの言葉に静かな表情で頷いた。
「お祖父様は……こちらに残るんですね?」
「うむ、これも何かの縁じゃ。運搬車も使えるし、移動の準備を手伝おうと思う。」
「……わかりました。どうかお気をつけて。」
グエンの決意を知ったアリサは静かな表情で祖父の無事を祈った。
「すみません……長老、ラカンさん。肝心な時にお手伝いもできないで。」
一方ノートンは申し訳なさそうな表情で長老たちを見つめた。
「なあに、それがお前さんの仕事だろう。」
「風と女神の加護を。気を付けて行ってきなさい。」
「はい……!」
「とにかく急いでゼンダー門に向かうぞ。」
「そうね……まずは詳しい状況を確かめてから今後の方針を決めないとね。」
こうしてリィン達はノートンをゼンダー門に送り届ける為と状況を確かめる為に馬を急がせてゼンダー門に向かった。
同日、10:00――――
リィン達がゼンダー門に到着すると既に戦車の部隊が次々と出撃準備を始め、いつでも戦いを始められるようにしていた。
~ゼンダー門~
「……………………」
「エレボニア帝国軍、”第三機甲師団”か……」
「うふふ……まさかこんな形でまた見る事になるなんてね。」
出撃準備をしているゼンダー門の様子をガイウスとリィンが真剣な表情で見つめている中レンは意味ありげな笑みを浮かべ
「フン……出撃準備も着々と進んでいるようだ。」
ユーシスは鼻を鳴らした後重々しい様子を纏って呟いた。
「君達、ありがとう!とりあえず撮影許可を貰いに行ってみるよ!」
そしてノートンはリィン達から去ってエレボニア帝国軍に交渉を始めた。
「ゼクスおじさんはどこに―――」
「とにかく詳しい話を聞かなくちゃ……!」
レンとアリサがリィン達と共にゼクス中将を探そうとしたその時
「――おぬしら、来たか。」
高原から馬に乗ったゼクス中将がリィン達に近づいてきた。
「中将……!」
「ど、どちらに行かれてたんですか?」
「念のため、もう一度視察にな。―――それより、おぬしら。いいところに戻ってきた。ちょうど30分後にルーレ行きの貨物列車が出る。今回の実習は切り上げてそれで早めに帰るがいい。」
「ええっ!?」
ゼクス中将の忠告を聞いたアリサは驚き
「……………………」
「――――軍人でもないレン達を戦場に巻き込まない為。―――そう言う事ね?」
ガイウスは真剣な表情で黙ってゼクス中将を見つめ、ゼクス中将の意図を理解していたレンはゼクス中将に確認した。
「うむ…………共和国軍の出方しだいだが……あと数時間もしないうちに戦端が開かれる可能性は高い。既に集落の方にも伝えていたはずだが?」
「クッ、だからと言って……」
「こんな中途半端な形で帰るわけには……!」
ゼクス中将の説明を聞いたユーシスとリィンが唇を噛みしめて悔しそうな表情をしたその時、ガイウスが前に出てゼクス中将を見つめて問いかけた。
「―――ゼクス中将。今回の一件、どちらが先に手を出したのですか?」
「ガイウス……」
「……確かにそれは気になるところだけど……」
ガイウスの問いかけにリィンは驚き、アリサは考え込み
「―――調査中だ。もちろん先にも後にも帝国軍が動いた事実はない。にも関わらず、監視塔は破壊され守備兵からは死傷者も出た。ゼンダー門を任された者としてこのまま見過ごす訳にはいかん。」
クス中将は真剣な表情で答えた。
「……………………」
「………やっぱり亡くなった人もいるのね………」
死傷者が出たという事実を知ったアリサは真剣な表情で黙り込み、レンは重々しい様子を纏って呟いた。
「―――仮に共和国軍の偽装工作だったとしてだが。あちらの基地の被害はどの程度のものだったんだ?」
「……幾つかの施設にダメージを受けたようだ。被害はこちらと同等……いや、遥かに上には見えた。」
ユーシスの問いかけにゼクス中将は重々しい様子を纏って答えた。
「そ、それって……!」
「どう考えても、何かがおかしいということでは!?」
ゼクス中将の説明を聞き、状況が明らかにおかしい事に気づいたアリサとリィンはゼクス中将に反論しようとしたが
「だが、もはや悠長に様子を伺う時期は過ぎている。全面戦争は避けたい所だがある程度の衝突は覚悟の上だ。我らにしても、彼らにしてもな。」
「…………フン…………」
ゼクス中将が状況がどうにもならない事を口にし、それを聞いたユーシスは何もできない自分の不甲斐なさに不愉快そうな表情で鼻を鳴らした。
「……………―――でしたら中将。どうか今回の事件の調査はオレにお任せください。」
その時真剣な表情で考え込んでいたガイウスは決意の表情でゼクス中将を見つめて申し出た。
「……………………」
ガイウスの申し出にゼクス中将は黙り込み
「ちょ、調査って……」
アリサは戸惑いの表情でガイウスを見つめていた。
「ご存知のように、この一帯ならばオレの知らない所はありません。ノルドの静けさを乱す今回の不可解な”事件”……必ずや原因を突き止めてみせます。」
「……お前…………」
ガイウスの話を聞いたユーシスは驚き
「……………………――――及ばずながら俺達も力になります。」
「これも”特別実習”の一端と言えるでしょうから。」
リィンとアリサもガイウスに続くように申し出た。
「いや―――待ってくれ。これはノルドの……オレの故郷に関する問題だ。戦が始まる前にせめてお前達だけでも―――」
二人の申し出を聞いたガイウスはリィン達をトリスタに戻るように説得しようとしたが
「水臭いぞ、ガイウス。」
「アルバレアの名に賭けて……尻尾を巻いて逃げだす無様を晒すわけにはいかないからな。」
「私だって、身内がこちらにご厄介になってるのもあるし。」
「それにガイウス自身、帝都駅で言っていたことだろう?『全員が無事に戻ってくるのが何よりも重要だ』って。」
「……!」
ユーシスとアリサの申し出、そしてリィンの言葉にガイウスは目を見開いて驚き
「(フウ……仕方ないわね)――――うふふ、レンも忘れないでね?ノルドの人達にはお世話になったのだから、恩返しくらいはしないとね。」
学生の身でありながら戦争が起こる事を食い止めようとしているリィン達の無謀さに内心呆れていたレンはその様子を一切見せずに協力を申し出た。
「フフ……一本取られたな、ガイウス?」
その様子を微笑ましそうに見守っていたゼクス中将はガイウスに問いかけた。
「中将…………」
「現在、10:05――――12:30までの調査を許可する。それまでは戦端が開かれぬようこちらも力を尽くしてみよう。」
「あ……」
「閣下……ありがとうございます!」
「うふふ、そうと決まれば善は急げね♪」
「とりあえず、砲撃された監視塔に行ってみるか。」
「ええ、そうね!」
そしてゼクス中将から調査の許可が出るとリィン達は馬を急がせて監視塔に向かった―――――
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