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取り替え子

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第一章

                 取り替え子
 野田麻美子は二十九歳になる、高校を卒業してから生まれ育った大阪市鶴見区の市役所で働いていたが母の勧めで見合いをしたその時三十歳の今の夫太と結婚して九年になる。
 太は薄い眉に小さな垂れ目を持つ一七〇程の背に痩せた身体の黒髪の男だった、容姿は平凡だが仕事は出来るらしく勤めている八条製薬で三十歳ながら主任になっていた。しかも実家は大店で結構金持ちだった。
 その太が麻美子の長い黒髪を束ね右肩に垂らしたうえええで面長で大きな目に細いが色の濃い黒い奇麗な眉い小さめの口、一六〇程で均整の取れたスタイルと奇麗な声に魅せられて熱烈にアタックをしてきた。それでだった。
 麻美子も悪人ではなさそうだしと思いプロポーズを受けた、そして結婚したがすぐに妊娠してだった。市役所を休職して娘を生んだ。
 娘は玲と名付けた、母親によく似て大きな目と形も色もいい眉を持つ可愛い顔立ちの娘で黒髪を左右で三つ編みにし黄色いリボンでまとめている。麻美子にとっても太にとっても自慢の娘だ。
 太は十年の間に主任から係長、そして課長補佐になっていた。仕事が出来るだけでなく麻美子が見た通り人格円満で人望もあり前途は遙々だった。娘の為になると言って会社の社宅からあえて大阪市の住吉区帝塚山の高級住宅街に家を買った、ローンを組んで。
 そのうえでそこで一家三人で住むことになった、麻美子は育児が忙しく市役所は止めたが在宅ワークをはじめそれで生活費とローンの足しにすることにした。
 その麻美子にだ、太はこう言った。
「そこまでしてお金稼がなくても」
「あなたの稼ぎでっていうのね」
「これでも充分あるよ」
「だって玲ちゃんの養育費もあるから」
 このこともあるからだというのだった。
「お金は少しでもないと」
「それでなんだ」
「市役所は辞めたけれど」
 それでもとだ、パソコンで在宅ワークをしつつ夫に言う。
「こっちで稼ぐわ」
「そうするんだね」
「玲ちゃんをいい学校に行かせて」
 そしてというのだ。
「いいお嫁さんにしないとね」
「幸せになってもらわないとね」
「だからよ」
 こう言ってだ、麻美子は在宅ワークをしながらだった。娘を育てていった。玲は幼稚園から所謂お嬢様学校に入学してだった。
 小学校に進み順調に育っていた、素直で明るく優しい性格で両親の言うこともよく聞く。しかも成績優秀で欠点と言えば図工と体育が苦手な位だった。
 麻美子も太もその娘を可愛がり大事にした、それでだった。
 娘に何かあってはいけないと学校の送り迎えもしっかりした、麻美子が車で学校まで送迎してだ。
 IPSや携帯も持たせいつも知らない人についていくなと教えていた、玲もそんな両親の言葉に素直に従っていた。
 この日も同じだった、麻美子はまずは家を出る夫を娘と一緒に見送った。
「じゃあ行って来るね」
「ええ、行ってらっしゃい」
「パパ行ってらっしゃい」
 玄関で二人で笑顔で手を振った、結婚した時と比べて三十キロは太って額も広くなり脂っ気も強くなっていたがよく夫であり父である彼に。
 そして娘に自分の手作りの弁当を持たせて言った。
「今日はお弁当だからね」
「ママが作ってくれたの」
「そうよ、沢山食べてね」
 娘にその弁当を娘の目線の高さにしゃがんで手渡してから言う。
「玲ちゃんの大好きな卵焼きも入ってるから」
「うん、それじゃあね」
「それじゃあ今日もね」
「うん、お勉強頑張るね」
 玲は麻美子ににこりと笑って応えた、そしてだった。 
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