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真田十勇士

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巻ノ五十一 豚鍋その四

「しかも滋養にもよさそうじゃ」
「ですな、何処となく」
「そんな感じがしました」
「ただ美味いだけでなく」
「そちらにもよいですな、豚は」
「どうにもです」
「そうしたものですな」
「そう考えるとな」
 幸村はまた言った。
「猪も滋養によいし」
「それならば豚もですな」
「よくて当然ですな」
「左様ですな」
「そうじゃ、猪も食うが」
 これからもだ。
「豚も機会があればな」
「食いますか」
「先程の様に」
「そうしていきますか」
「そうしようぞ、南蛮の食いものもな」
 そちらもというのだ。
「よりな」
「これからはですか」
「食っていきますか」
「あの者達も豚肉を食いますし」
「それならば」
「そうしようぞ、ただ」
 こんなこともだ、幸村は言った。
「あの者達の国には胡椒がないというのう」
「その様ですな」
「驚いたことに」
「生姜もないとか」
「山葵も」
「ましてや辛子なぞも」
「近頃本朝に唐辛子というものも入っておるが」
 幸村はこれの名前も出した。
「南蛮にはそういった香辛料がない」
「醤油もないそうですし」
「それでどうして食っておるのか」
「塩や酢ばかりですか」
「そうしたものだけで食えるのか」
 食いものがというのだ。
「こうした獣肉には胡椒が合いますが」
「醤油もいいですが」
「それがないとなると」
「辛いですな」
「最近入っていてな」
 南蛮にも胡椒がというのだ、幸村はそのことも聞いている。だがここで幸村は顔を曇らせてさらに言ったのだった。
「随分と高いらしい」
「そして聞くところによると」
「胡椒を手に入れる為に海に出たとか」
「多くの犠牲を払い」
「そうしているとか」
「南蛮は豊かで派手に見えるが」
 これは彼等の身なりからの推察だ。
「しかし実はな」
「そうではないやも知れぬ」
「そう言われますか」
「そうやもな、鉄砲や大きな船は持っているが」
 それでもというのだ。
「国としての豊かさはな」
「本朝の方が上ですから」
「むしろ」
「そうやも知れませぬか」
「そのことをこの目で確かめたい」
 是非にという言葉だった。
「拙者のな」
「殿ご自身が南蛮に赴かれ」
「そのうえで、ですか」
「その目で南蛮がどの様な状況か確かめられる」
「そうされたいのですか」
「そうも考えておる、しかし南蛮は遠い」
 だからともだ、幸村は言った。 
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