狐火
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第五章
「地震あかんねん」
「雷大嫌いや」
「台風の風の音聴きたくもないわ」
「めっちゃ燃える火苦手やのに」
「まあそれだけで追い出されてよかったわ」
老人は泣いて言う二人にこう声をかけた。
「今日はな」
「棟梁さんが来てるお祭りやさい」
「他の火とちゃうからか」
「半殺しにされて叩き出されんだけまし」
「お稲荷さんも出したさかい」
「そや、まだよかったわ」
五体満足で帰ってきてというのだ。
「おしっこもちびってへんみたいやしな」
「ああ、こわかったけどな」
「汗はかいてるけれどな」
二人も老人に言われてスカートの上から触ってチェックをしたがそうした感触はなかった。幸いなことに。
「よかったわ」
「とりあえずはな」
「携帯もあるし」
「狐火の撮影ちゅうか社について一切呟いてないけど」
「おしっこ漏らしてないし」
「落としものもないし」
「そや、それで済んでよかったわ」
老人はまた二人に言った。
「今日あそこに行ってな」
「そやねんな」
「アホなことしてか」
「それでもこれ位で済んだ」
「まだましやねんな」
「そういうこっちゃ、わかったらはよ神戸に帰るんや」
老人は二人にあらためて言った。
「それで家で御飯食べてお風呂入って寝るんや」
「そうしよか」
「それがええな」
葵も彩菜も顔を見合わせて話した。
「結局実況失敗したけど」
「あれ位で済んでよかったな」
「実況のことは後でツイッターで言うにしても」
「今日は帰ろな」
「駅まで送るわ」
老人は二人にこう申し出た。
「夜道女の子達だけで歩いたらあかんさかいな」
「何や、爺ちゃん紳士やな」
「それで待ってくれてたんかいな」
「まあそんなところや、ほな駅まで一緒や」
老人は二人に優しい笑顔も向けた、そして。
ここでもだ、犬と猫達を見てまた言った。
「チロとシロ、タマもな」
「ワンちゃんや猫ちゃん達も一緒か」
「駅まで」
「そや、皆で賑やかに帰ろうな」
二人にまた笑顔で声をかけた、彼等をあやしつつ。
「駅まで」
「そっから家まで帰ろか」
「そうしような」
二人はお互いに顔を見合わせて話した。
「大騒ぎになったけど」
「叩き出されてもうたけど」
「もうこれでな」
「帰ろうか」
二人でこう話してだ、老人に顔を戻してあらためて頼んだ。
「ほな頼むわ」
「やっぱり夜道危ないさかいな」
「狐よりもやばいのおったらあかんし」
「そやったら」
「うん、じゃあ帰ろうな」
老人は神社の出口に方に足を向けて二人に言った。
「これからな」
「ほな涙拭いて」
「帰ろうか」
葵も彩菜も言ってだった、そのうえで。
老人に駅まで送ってもらいそこで彼と犬、猫達にお礼の言葉を言って手を振り合って別れてから駅に入って電車に乗ってそれぞれの家に帰った。後でツイッターには化かされて失敗したと書いたがそれを信じる者も信じない者もいなかった。この時から二人は軽率な行いは慎む様になった。化かされたことを記憶に入れていたので。
狐火 完
2016・7・25
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