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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第237話 ボスを倒したいⅠ

 
前書き
~一言~

 何とか、投稿できました! ちょっとだけ、速くなって良かったです……。
 物語的には、あまり進んでいないのが……ちょっとアレですが、1万字を超えましたので、投稿をしました! 今後も、このペースを……とは思いたいですが、雲行きがちょっと怪しくなりつつある現状なのが……… 涙

っとと、暗くなっちゃダメなので! 考えない様にしますっっ!! (ヤケクソ!!)

 最後に、この小説を読んでくださって、ありがとうございますっ! これからも、頑張ります!!


                                じーくw 

 

 出鼻を挫かれてしまった様子だったが、さして気にする様子の無く笑顔だったユウキ。

 いや、どうやら少し違った。――ユウキは 先ほどよりも、より(・・)笑顔だった。その理由は簡単で 昨日今日の付き合いどころか、ついさっき知り合ったばかりのアスナやレイナは勿論、リュウキにも判った。 


――……仲間達の元に戻ってきたから。


 その一言に尽きるだろう。

 リュウキもそれはよく判る。
 かつて、自分自身は、仲間を本当の意味で信じる事が出来なかった。そんなリュウキも……その気持ちは、今では当たり前の様に判る。……本当によく判るから。《仲間》と言う何にも代えられないかけがえのない宝物を初めて理解したあの時から、心の中に留まっているのだから。

 だからこそ、今のユウキの笑顔を、そして ランも同種の笑顔を見せているその理由が判る。そして、彼女達を迎えてくれている仲間達の笑顔もよく判る。

「改めてお帰りーユウキ! ランも!! そっちの人達が?? 見つかったのっ!?」

 ランも戻ってきて、改めてはしゃぐ様に、少年が出迎えてくれた。
 酒場の中央の丸テーブルに座っているのは、少年だけではなく、合わせて5人のプレイヤーが陣取っていた。他には人影はなく どうやら店を全て借り切っている様だ。
 ユウキは5人に駆け寄ると、両手を広げながら アスナ達3人の方に振り向いた。

「うんっ! ボクも改めて紹介するねーっ! ボク達のギルド、《スリーピング・ナイツ》の仲間たちっ!」

 くるくると回るユウキと、それを見守る様に微笑むラン。仲間達も同じ様子だ。

 その後、ユウキは再び半回転して、今度はアスナ、レイナ、リュウキを手で示して。

「で、このお姉さん達とお兄さんは―――………」

 と、ここまでは順調だった。
 だが、よくよく考えたら 大事な事を忘れている気がしたのにいの一番に気づいたのは、ランである。あっちゃぁ……と考えている様なのがあからさまな表情をした後に、額に掌を当てて、酒場の天井を仰ぐ仕草をしていた。
 そんなランをちらっ と見たメンバーは、『どうしたの?』と一瞬首を傾げそうになったりながら、訳を訊こうとしたが、直ぐに理由が判った。
 ほかならぬ、ユウキの言葉で。

「ごめんっ。まだ、ちゃんと名前訊いてなかったっ!」

 一斉に、だぁぁっ、 と5人のプレイヤーが椅子の上で派手によろけた。打ち合わせをしていたのであれば、見事なリアクションだと言えるが、これが極自然(ナチュラル)だと言う事は、この場に連れてこられた3人はよく判る。

「はぁー」
「え、えっと! そーだ、そーだ! お兄さんの事は知ってるよーーっ!!」

 姉のランの盛大なため息を訊いて、条件反射の様に 必死に打開策? を模索するユウキ。何やら、お説教を恐れる子供の様な仕草なのだが、この場合、ランも同罪な気がするから、気にしなくて良い……と思うのは、自然な事ではないだろうか?
 が、それでも必死に考えて……出てきた。

「えーっと、え、っと……えーーーっ、、、は、白()の りゅ、リュキっ!! そう、リュキお兄さんっ!」
「……白()のリュ()キだ。っ……、白銀(それ)、自分で言いたくなかった……」

 思わずツッコミを入れるリュウキ、そして2人のやり取りを訊いて、思わず吹き出してしまうのは、アスナとレイナだったりする。他の5人は 2人程は反応をしてなかったのだが――、名前を盛大に間違えた事、本来であれば、結構失礼な気がするのだが……、それをおもしろおかしく? ツッコミをしている(様に見えるリュウキ)と、それを見て、にこやかに笑っているアスナやレイナを見て、次第に笑いに包まれていく。

「こーら! ユウっ! 知ったかは、やめなさい」
「はぅっ」

 はぁーっと 拳に息を吹きかけて、ぽかっ、と頭に拳骨を落とすのは、ラン。
 確かに自己紹介をしてなかった自分にも非があるが……それでも、名前を間違えてしまうのは、不躾だ、と思ったのだろう。

「ランがいて珍しいねー。ユウキの操縦見誤った?」
「あはは……、私も嬉しくって、色々と……ね?」
「ちょっとー、操縦ってなにさーっ!」

 きゃいきゃい、と言い合っているメンバーを見て、改めて温かい気持ちになるのは無理も無い。本当に仲の良い――、ギルド、と言う名前よりも、長年連れ添ってきた まるで家族の様なアットホームな温かさを感じられた。
 だから、アスナとレイナは、早く自己紹介をしたい、と思い、一歩前に出る。

「初めまして。わたし、アスナと言います」
「私は、レイナですっ。えへへ。この人は、リュウキくんっ! リュウキくんで、お願いしますねっ!」
「……妙な渾名は忘れてくれて良いから。それに、レイナ、これ 選挙じゃないんだから……」

 3人の自己紹介は、5人にも負けずと劣らない賑やかで温かなやり取りだ。
 それを見た5人のメンバーが直ぐに打ち解ける様に話しかけたのも当然だと言えるかもしれない。……いや、或いはそれは元々で、決して変わらないのかもしれない。

「僕はジュン! アスナさん、レイナさん、リュウキさん、よろしく!」

 一番左に座っていた小柄な火妖精族(サラマンダー)の少年が勢いよく立ち上がって手を挙げた。その手を挙げた反対側の手には……しっかりと、フォークが握られており、突き刺さっているのは、肉団子。どうやら、大層気に入っている様で、片時も離さない、と言わんばかり……と、思うのは、アスナやレイナの想像。リュウキを含む、3人は 笑顔で軽く頭を下げる。

 そして、続くのは その隣にいる土妖精族(ノーム)の巨漢。だが、3人が知る巨漢――エギルとはまた違った風貌で、にこにこと細められた両眼が、その容姿に盛大に愛嬌を添えていた。

――エギルさんも、これくらい愛嬌のある接客? が出来れば、売上更に上がるのに……。

 と、一瞬考えてしまったのも束の間、その巨漢の彼が、のんびりとした口調で名乗った。

「えーっと、テッチ、と言います。どうぞよろしく」

 そして、次に立ったのは、ひょろりと痩せた鍛冶妖精族(レプラコーン)の青年。
 特徴的なのは、きっちり5・5に分けた髪、そして鉄ブチの丸メガネ。そこから、真面目な学生めいた印象が得られる。小さな丸い目をいっぱいに見開いて、何処となく赤面しつつ、どもりながら言う。

「わ、ワタクシは、そ、その……、た、タルケン、と申します。よ、よ、よろしくお願いし……イタッッ!!」

 必死に最後まで言おうとしたのに、まさかの方向から妨害が入った。
 彼の左側に座っていた女性プレイヤーが、随分と重そうなブーツで、むこうずねを蹴飛ばしたからだ。

「(……い、痛そう)」

 何処となく、自然なやり取りに見えたのだが、思わず ぎょっ! としているかの様に悲鳴を上げた彼を見て、相応のノックバックが発生したのだろう事は想像できる。それに、一見しただけだが、かなり良い装備だと言う事は、全員を見てよく判ったから、尚更だ。

 と、色々考えている間に、蹴っ飛ばした本人の自己紹介が始まった。

「いいかげんその上がり性を直しなよ、タルは! 今回は、女の子だけじゃなくって、男の子だっているのにさ。アンタ、そっちの気もあるっていうの?」
「ななななっ、そ、そんな事、無いですっっ!!」
「なら しっかりしなって。ま、女の子2人に、男の子1人の割合じゃ、まだタルには難しいかな?」
「むむむーーっ!!」

 何やら勃発している楽しそうな言い争い。
 何処となく、リズ達とのやり取りに通じる物がある、と感じたのは間違いではないだろう。……Sッ気があると言う事。つまり無自覚ではあるが、リュウキにも通じる。本人は皆無だが。

「っとと、そんな事より――」
「わっ!」

 ずいっ! とタルケンの顔を鷲掴みにして 押しのけると、ぱちんっ!とウインクをして 改めて向き直る。彼女は、浅黒い肌、そして 灰色の翅を持つ妖精。……ユウキとは何処か違う濃い色を持つ妖精、即ち 影妖精族(スプリガン)の様だ――が、その印象からはかけ離れてしまっているのは気のせいじゃないだろう。
 かの有名な、スプリガンのブラッキー先生がその印象に拍車をかけているのだから。『くしゅんっ!!』

「アタシは、ノリ。会えてうれしいよ。アスナさん、レイナさん、リュウキさん」

 フレンドリーに話す彼女――ノリ。
 単純に直ぐに打ち解けた話をするだろう、と思える。その辺りもリズに通じる所があるだろう。

 そして、最後の1人。

 それはアスナやリュウキと同じ水妖精族(ウンディーネ)の女性プレイヤーだ。(因みに未だにリュウキの種族が水妖精族(ウンディーネ)だとは あまり周知されていない、と言うより 思われてないのは別の話)。
 比較するとすれば、アスナのアクアブルーの髪が一番近い。だが、それよりも白に近い出で立ちで、穏やかな表情とすっと長く通った鼻梁、戦士系とは違い、法衣を纏っている為、その身体の大きさがよく判る。驚くほど華奢だと言える事がだ。一番小柄なのはジュンだが、それよりも遥かに。――本来の治療師(ヒーラー)としての印象がぴったりだと言える姿だ。

 女性は、にこやかに一礼をすると、自己紹介をする。

「初めまして。私はシウネーです。皆さん。来て下さってありがとう」

 それは、恐縮してしまいそうな程に、丁寧な挨拶。アスナもレイナももう一度頭を下げて自己紹介をし直そうか? と思った矢先の事だ。

「んでもって――」

 ぴょんっ! とジャンプをして 5人の前に飛び込んだのは、最早自己紹介の必要が無いんじゃ? と思える闇妖精族(インプ)の小柄な少女。……いな、美少女と言えるユウキである。
 両手を広げて、紹介をしようとしたその時だ。

「ボクの名が「ちょっとストップ」ゆっぅ!!」

 優美な動き、流動性に富み、淀みなく無駄の無い動きでいつの間にか、ジャンプで着地していたユウキの前に立っていたのはラン。

「ね、姉ちゃん!? 次ボクの番だよー」
「はぁ、ユウ。ちょっと落ち着きなさい。……今のあなた、何にも説明せずに、突っ切ろうとしてるわよ? と言うか、何度もそういうのあったでしょ。そーんな 顔してる時、大体そうじゃん?」

 ランの説明を訊いて、5人が一斉に、『あーー………』と小さく唸った。
 どうやら 身に覚えがありすぎる。そんな印象だった。

「ふぇっ! そんな事ないよー」
「じゃあ、終わったら次の言葉は、『皆、がんばろー!』じゃないの?」
「え……? あ、当たり! さーすが姉ちゃんっ!」

 わー、と両手を上げるユウキ。
 ここまで言い当てた事は、随分と久しぶりの様な気がするが、ユウキの状態を見れば、大体判る為、久しぶりでも的中率は非常に高かったりする。周りが見えてない状態、と言えば正しいだろうか?

 だがその気持ちは、ランにも判る。―――色んな意味で、来てくれた事が嬉しいのだから。

「説明、全然出来てないのに 何を頑張ろうっていうのかな? ユウ。ここの皆さんが困惑しちゃうのが直ぐ判るよ」
「……ぁ」

 ここまで来て、ユウキは 漸く気付いた様だ。
 ランが、ここまでネタバレしてくれたおかげで、他のメンバーも大体判った様で、ため息を吐いたり、苦笑いをしたり、と 先ほどの様なずっこけモードにはならないだろう。

「ほんとだ。ボク、まだなーーんにも説明してなかった!」
「はぁ……」
「でも、ユウキもそうだけど、ランだって、うっかり屋だよねー」

 ここで、ジュンに図星を刺されてしまうラン。
 しまった! と言う表情を見せつつも、ランは気を取り直して 3人の方に向いた。

「改めて自己紹介をします。私はラン。一応、このギルド、スリーピングナイツのリーダーをしています」
「ああっ!! 姉ちゃんずるいっ! ボク、ユウキだよーー。ギルドのサブリーダー! 影のリーダーっ!」

 先を越されてしまったユウキは、ぴょんぴょんっ! と跳ねながら、手を挙げて自己紹介をする。そんなやり取りを見て、微笑ましく思わない訳は無く、アスナもレイナも、口元に手を充てて、笑っていた。

 ただ――リュウキだけは、少し別だ。

 これまでのやり取り――ちょっとした仕草から、言葉、感情の機微――、全てを 視て……、強く印象に残った物があったのだ。


「(皆の動きにまったく違和感がない(・・・・・・・・・・・・・)――。現実とほぼ同等に、この世界の……VR空間の仮想体(アバター)を動かしている、な。全てが滑らか。……鮮やか、とすら言える。―――つまり)」

 リュウキは、確信した。
 先の戦いでも十分に判った事であるが、改めて。

 それは、自分自身にも通じる所は勿論あるから、尚更判る。

 リュウキ自身が、現実世界とは、離れた部分で生活をし続け、積み重ね続けた為に、持ちえた感覚があった。(……そのせい? で 現実でのやり取りや感情の機微の成長が遅れてしまってた、と言う難点はあった物の、大分克服出来ているから、よしとする)

 この目の前の人達も……ある意味では、同じ(・・)

「(……間違いない、な。《フルダイブ慣れ》している。―――つまり、全員が凄まじい、と言える程の力量の持ち主。……手練れだ)」

 リュウキは、そこまで考え終えたのと同時に、軽く息を吸い……1秒程止めた後に、ゆっくりと吐いた。

「ん? リュウキくん?」

 直ぐ隣にいたからか、レイナもリュウキのため息に気づいた様で、その横顔を見た。 
 そして、何処か、嬉しそうな表情をしている事に気付く。
 
「―――やはり、世界は広い」

 ぽつりとリュウキは呟いていた。
 その言葉はレイナにも届く。――凡そ、同じ事を考えていたんだろう、とレイナは思い、軽く微笑んだ。

 絶剣、剣聖と称される2人と戦ったのだから、レイナは勿論、アスナも印象は得ている。このギルド、スリーピングナイツに対する印象もそうだ。

「(絶剣と剣聖、ユウキさんとランさん、彼女達にも、決して負けずと劣らないよね……皆。リュウキ君が、剣聖――ランさんには勝ったけど、言う様に 差はほとんどない、って言ってたし。私も……贔屓目で見ても、同じ印象だった。……そんな力量の持ち主(レベル)のプレイヤーが……。こんな凄腕集団(ギルド))が存在するなんて)」

 これ程の力量のギルドが、何処かの種族のチームに所属をしたら――パワーバランスが乱れる可能性だって大いにあるだろう。
 アスナも強くそれを感じていた。示し合わせていた訳ではなく、レイナと殆ど同時に考えていた事がある。

「(―――この世界、《ALO》に移住してきた意図は、なんだろう)」

 目的があるからこそ、だろう。全ては通じている。ユウキやランが自分達と戦った事もそうだし、ここに連れてきた事。……見つかった、と言う言葉もそう。

 色々と交錯していた時だ。

 改めて、ランとユウキが3人の前に立って、ぺこり と頭を下げていた。

「ごめんなさい。アスナさん、レイナさん。……リュウキさん」
「うん。ほんとごめんね。皆。理由も言わずに、突然連れてきちゃって」

 楽しそうだったのが一変し、申し訳なさが顔からはっきりと出ている2人を見て、アスナとレイナも逆に恐縮してしまっていた。

「や、いやー。大丈夫だよー。ね? お姉ちゃん」
「うん。私達の意志で、付いてきたんだからね。……理由が今はすっごく気になってるだけだよ」
「あはは……そう、ですよね。判りました」

 2人の言葉に感謝をしつつ、ランは 笑顔を作った後に、リュウキの方を見た。

「ん―――」

――以下同文である。

 と言わんばかりに、リュウキは目を瞑って、頷いていた。
 それを見て、ランはまた、ニコリと笑った。ユウキも同じだ。

「ようやくボク達と同じくらい強い人を見つけて――、それに、姉ちゃんをやっつけちゃうような強い人に敢えて、本当にうれしくてつい………」

 ユウキがそういったと同時、だった。


『えええええっっっ!!!』


 場が一斉に湧いた。

 先ほどのずっこけリアクション……ではなく、驚きに満ちた表情に加えて――やや、オーバーリアクションだった。ジュンに至っては、『どっひゃあー!』と言わんばかりに両手を上にあげて、その勢いのせいもあって、右手に持っていたフォークに突き刺さっていた肉が すっぽ抜けて宙に飛び上がり………、タルケンの頭に見事に着地。
 それなりに温かい料理だったのだろう……、タルケンの頭の上でもまだ湯気が可視化されており――凡そ2~3秒ゆっくり固まった後に『あ、あっつーーっっ』と慌てて、頭から払っていた。
 それでも、皆は気にする様子も無く――ただただ 唖然としていた。

「ん?」

 リュウキとしては、そこまで驚く理由がよく判らなかった――のは、仕方ないとして、大体察するのは、リュウキ以外の他のメンバー。ユウキの強さやランの強さを知っているアスナとレイナ、つまり、仲間達はより知っている筈なのだ。それも、リーダーが。
 そんなランが負けた――と言う衝撃は、云わば 自分達で言う『キリトが負けた』に匹敵する衝撃だろう、と言う事は想像できる。

 だからこそ、仕様がないかな? と判断して ただただ アスナもレイナも苦笑いをするだけだった。








 
 その後は、ランが苦笑いをしながら、驚き、固まってしまっている皆にしっかりと説明をした。時間を要したものの、何とか落ち着いた空気に戻る。……ひそひそ話が中々無くならなかったが。
 リュウキ自身もランの説明を訊いて、漸く 察した様だった。


 説明にたっぷりと時間を要した後に――。

「こほんっ。改めて、お願いがあるんです」

 軽く咳払いをした後に、ランとユウキは並んで立った。
 そして、ユウキが胸元に手を充てて……。

「ボク達に――、ボク達に力を貸してください!」

 その言葉が響いたと同時に、場の緊張感が増した。
 返答を待っている間もずっと――。

「力――? 貸す??」
「え……? それ、ほんとに、……必要……なのかな……?」
「………」

 3人、特にアスナとレイナの頭に《?》が浮かんだのが殆どだった。
 単純に、お金やアイテム、スキル上昇ポイント目的の狩り等の手伝い、と言う事は無いだろう事は判る。だが、どんな理由があるにしろ、レイナの言う様に、『必要なのか?』と思ってしまうのは当然だ。ランやユウキの力量、そして 実際に見た訳ではないが、感じ取る事が出来る他のメンバーの力量。ここまでの豪勢なメンバーが揃えば、如何にアスナやレイナ、更にはリュウキが加わって、そんな事……必要あるのか? と。

 だが、その疑問も直ぐに解消されることになる。

「その、ボク達……笑われるかもしれないんだけど……、この層のボスモンスターを倒したいんだ」
「………ん」

 ランも神妙な顔つきだった。
 ここで、ちゃんと確認しなければならない事があるだろう。

「え? ボスって……、ほら、時間湧きのネームドモブ、フィールドとかで出てくるモンスターじゃなくって?」
「ううん、違うよ」
「―――えーっと、と言う事は、この層の……、って事だから、あの代表的な……迷宮区の一番奥にいる?」
「はい。そうです」

 アスナやレイナが確認をした所――、想定外と言う訳じゃない。……薄々感づいていた。

 このメンバーが揃っていても、それでも力を借りたい理由――、それを考えれば、ある解にたどり着く。

「そっかー。うーん……、ボス、かぁ」

 ちょっと放心しかかっているが、それでも 何とか考えるのはアスナ、である。
 レイナ自身も、アスナの様に動揺をしてしまっているから、思わず言葉に詰まってしまっていた。リュウキだけが、腕を組んで、考えている様で、目を閉じていた。

 その間に、レイナは 周囲のメンバー達を改めて見回した。

 緊張している様子なのと、何処か目の奥をキラキラと輝かせているのが判る。今か今か、と返事を待っている様だ。

 色んな事で、度肝を抜かれた気分だが、つまるところ、ランとユウキのギルド スリーピングナイツのメンバー達は、フロアボス打倒を専門にしている所謂《攻略ギルド》の仲間入りをしたい、目指している、と言う事だろう。

「う、う~ん……」

 ここで、漸くレイナも始動。
 今までの攻略情報、アルゴからも時折仕入れた情報を照らし合わせて、頭の中で形を作っていく。現状の攻略組は、ALO古参プレイヤーが8割、そして 宣言をしている訳ではないが、旧SAOのプレイヤーが2割と言った状態だ。

 色々と蟠りの当初はあった。

 ここALOは アミュスフィア最古のタイトル。だが、SAOは、VRMMOにおいての最古のタイトル、それであるがゆえに、何処か『妖精』である事が頭の中に存在していたプレイヤー、そして 生粋の『剣士』であるプレイヤー。
 其々に、強固な自負心と言うものを強く抱え込んでいるのだ。
 それは、アスナやレイナ、リュウキ……そして、この場にはいない 元SAOメンバー達も同様だった。

 そんな所に、いきなり他のタイトルからのコンバートであろう集団が、『仲間にして!』と押しかけても厳しいだろう。……が、それは 全く知らなかったら、の話だ。
 《絶剣》の名前も《剣聖》の名前も十分過ぎる程に轟いている。剣聖のランが、負けはしたものの、決して褪せる事のない程の衝撃を残している。その上 決して劣らないメンバーが揃っているのであれば、それを示す事が出来れば、十分過ぎる程に可能性はある。

「確か……、アルゴさんの情報によれば、もうこの層の迷宮区は、ボス部屋近くにまで、マッピングは出来ているから、いきなり このボス戦に参加させて~って言っても、難しいかもだけど……、うんっ! 次の層からだったら、きっと出来ると思うよ! ユウキさんや、ランさん、皆さんの実力だったら、きっと」
「……うん、確かに。前の層のボスが……その、あまりにも強くて 色々とバランスを崩してたそうで、前回のアップデートで 一レイドの上限人数も、パーティ上限人数も、ボス戦に限って 多くなったからね。可能性は凄く高いと思うよ。……でも、絶対に7人が……とはちょっと言えないけど」

 レイナやアスナが、考えを廻らせて告げた時……。

「多分違う。そうだろう?」

 ここまで目を瞑って考えていたリュウキが不意に口を開いた。

「「え?」」
「「!」」

 その言葉を訊いて、アスナやレイナ、それだけでなく ユウキやランもリュウキの方を見ていた。

「通常の、一般的で基本的なボス攻略をしたい――。参加(・・)したい。と言う訳ではない。そうじゃないか?」

 リュウキは、ユウキとランを見て、そう言った。
 
 ランは、その眼を見て―――、また 思い馳せる。



『ぜーんぶ、見透かされちゃうんですよね……。そんな気がするんです。……真剣な顔をしたときが、要注意っ♪ 色々とね? ―――でも……今考えたら、何だか、恥ずかしい気もしますが』



 その眼は、何でもお見通し、だと言う事。
 そんな訳ないとは思う。……彼女の歳を考えたら……その思い出は 幼少期の話だ。色々と肥大していても、おかしくは無い。……だけど、説得力はあった。




 その思い馳せた気持ちを――ランは必死に胸の中に押しとどめて……。

「はい。その通りです」
「うんっ」

 2人は、互いに頷いていた。
 
 だが――、アスナもレイナもよく判らない。

「えっと――、つまり どういう事に……?」
「うん……。ボスを倒すなら……その方法じゃ?」

 判らないのも無理も無い――、彼女達の考えが色々とぶっ飛んでいるから。それをある意味見抜いたリュウキも、ぶっ飛び具合は決して負けてはいない、と言う理由なのだ。

「つまり、攻略組に混ぜてもらおう、と言う訳ではないんです」
「うんうん。でっかい集団達が、ボスを倒そうと頑張ってるのは知ってるしねー」

 2人は、そういうと――上目遣いになって、懇願する様に言う。


「私達は……、ここのメンバーだけで、ボスを倒したいんです」
「うん。……ここにいるメンバー10人だけで! 本当 前のアップデートがここまで嬉しく思うなんて、思わなかったねー」


 2人の言葉を訊いて、今度こそ、たっぷりと放心してしまうのは、アスナとレイナ。

 だが、それでも 長くは無い。直ぐに気を取り戻して。


「「えええーーーっ!!?」」


 それは、この宿屋に来て、この場にいる全員を合わせても、最大音量で部屋に響いた。

 その理由は至極単純だろう。

 新生アインクラッドに配置されているフロア守護のボスモンスターは、オリジナルのSAOと比べると、やけくそなまでの強化を施されているからだ。もちろん、ゲームシステムが大幅に変わっているので、単純な比較はできはしないが……、そこは優秀な測定士? のリュウキがいるから、説得力増大である。


『パラメータ全部、0が2つくらい付く程強化されてる』


 と、真顔で言われた時の、パーティメンバーの顔。
 今思い出しても、ちょっぴり恥ずかしい。……でも、そんな顔をしていたとしても、仕方がないと思うだろう。それ程の強さだったから。
 
 説得力はそれだけではなく、旧ボスモンスターは、情報を集め、慎重に傾向を練れば……1人も死者を出す事なく、討伐が可能だったが、今の新ボスモンスター群達は、云わば《災害》と同系列だ。

 全ての攻撃が強大なのは言うまでも無く、更に特殊攻撃・範囲攻撃と織り交ぜられ、まるで、プレイヤー達はたんぽぽの綿毛の様に、吹き散らされていく。

 勿論……誰も口にはしないが、《死んでも良い》ゲームになったから、と言う心の持ち方は間違いなくある。……それでも 圧倒的な強さ、理不尽な強さを誇っているのだ。

 SAO時代に色々と無茶をし続けたリュウキ。そんな背骨(バックボーン)があるからこそ、連想する事が出来たんだと言う事は理解できたが……それでも 正直無理がある、と言うのが現時点での感想である。



――そのボスに、多くなったとはいえ、たった10人で……?



 アスナもレイナも、どうやって 上記の事を説明しようか……、と頭を悩ますのだった。




 
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