魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic7-Aホテル・アグスタ~Troubles~
†††Sideアイリ†††
海鳴市への出張任務を終えて数日後。アイリたち機動六課にまた新しい任務が入った。ミッドチルダの首都・クラナガン、その南東にあるホテル・アグスタで警備任務。
「八神部隊長。いつでも出発できますぜ!」
「ん、了解やヴァイス君。それじゃあ、みんな。ヘリに搭乗や」
ヘリポートに居るアイリ達は、六課専属ヘリパイロットのヴァイスが操縦するヘリに乗り込み始める。ここから現場までは空の旅になるね。はやて、なのは、フェイトの隊長陣。キャロ、エリオ、スバル、ティアナのフォワード陣。はやてとフェイトそれぞれの補佐を務めるリインとアリシア。そしてアイリとシャマルの医療班が乗り込むんだけど・・・
「っと、その前に♪」
ヘリポートまでお見送りに来てるマイスターの方を見る。マイスターは隊舎に常駐する特務調査官だってこともあって、隊舎から離れられないからいっつも留守番になる。この前の出張任務でもひとり隊舎に残ったしね。一緒に海鳴市に帰りたかったな~。
『マイスター、行ってきます!』
『ああ、いってらっしゃい。気を付けてな』
マイスターに手を振ると、マイスターも小さく手を振ってくれた。そしてアイリもヘリに乗って、「出発します!」ヴァイスがヘリを離陸させた。アイリとキャロは窓から外を覗き込んで、今もアイリ達を見送ってくれてるマイスターに手を振る。マイスターは右目だけでも視力は良いから、ちゃんと気付いて手を振り返してくれた。
「ルシルさん、手を振り返してくれました♪」
「やったねキャロ♪」
「うんっ!」
キャロと喜び合う。それだけでやる気は限界突破だよね。そして現場に着くまでの間、はやて達から今日の任務について、フォワード達へのおさらいが始まった。ホテル・アグスタで開催される骨董美術品オークションの会場警備と人員警護が任務。そのオークションに、取引が出来ると管理局から許可が下りてるロストロギアがいくつも出展されるって話。そのロストロギアを“レリック”と誤認したガジェットが現れる可能性が高いというね。ホントに馬鹿だよねガジェットって。
「――で、この手の大型オークションとなってくると密輸物の取引の隠れ蓑にもなったりするから、その点も含めて油断大敵だよ」
「昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長、それに他の隊員数人とザフィーラが現場入りしてる。私となのは隊長、フェイト隊長は屋内での警備。フォワードは副隊長の指揮の下で屋外での警備や」
「警備はずっと気を張っていけないから大変だけど、みんな、しっかりね」
「「「「はいっ!」」」」
なのはにそう言われて元気よく頷き返すフォワード4人。それからホテル・アグスタに到着するまでの間、現場の見取り図やそれぞれの外での配置図や警備ルートの再確認をして、ようやく現場に到着。ホテルの屋上のヘリポートに着陸して、みんなは外へと出てくんだけど・・・
「あ、ヴァイス君。あなたも少し降りていてもらえるかしら?」
シャマルがすっごい笑顔で操縦席に座るヴァイスにそう言った。輸送室に残るのははやてとなのはとフェイト、あと薄いケース3箱を胸に抱えてるシャマル、あとアイリ。ヴァイスが「え? 何でですか、先生」そう訊き返すと、「どうしても♪」シャマルは有無を言わさずに出口を指差した。
「ヴァイス君。私たち、これから着替えるから出ていてくれると嬉しいんだけど・・・」
なのはがそう言ったことで「うっす! すいません、すぐ出ます!」顔を赤くしたヴァイスが慌ててヘリの外に出てった。シャマルは「あらあら。初心なのね~♪」微笑ましく見送って、ケースを長椅子に置いて開いてく。はやて達は思い思いに制服を脱いでって下着姿になったんだけど・・・
「なんや改めてこんな格好になると、格差を見せつけられてまうな~」
はやてが自分の胸となのはやフェイトの胸を見比べて、それはもうガックリと肩を落とした。はやてっていろいろと小さいんだよね。中学生の時はそんなに差はなかったんだけどね。なのはは少し恥ずかしそうにしながら「女の子の魅力はそこだけじゃないよ?」フォローを入れて、「うん。はやては魅力的な女の子だよ」フェイトも同意。
「そうですよ、はやてちゃん。それにはやてちゃんのサイズでも十分じゃないですか。ルシル君だって満足しますよ♪」
シャマルがそんなことを言うものだから、はやてだけじゃなくてなのはとフェイトも「っ!」顔を真っ赤にした。一体ナニを考えたんだろうね~。シャマルは絶対に厭らしい意味で言ったわけじゃないよ。
「そもそも、はやてがみんなの胸を揉むからダメなんじゃないの?」
そんなはやてにアイリはポツリと漏らしてみた。はやてって、親しい間柄の女の子の胸を揉む趣味を持ってるんだよね。アイリだって最近は揉まれるようになったし。
「でも確かに人に、その、揉まれると大きくなるって言うよね」
「お返しって感じでなのはちゃん達からも揉まれてるはずなんやけどなぁ~。同じ日本人やのに、どうしてこう差が出るかな~。遺伝やろか?」
「それもあるかもね」
「はやてちゃんのお母さんってどんな感じだったの?」
「う~ん。どうやったかな~。そんなに大きなかったかもしれへん」
そんな風にお喋りしてるはやて達にポケットから取り出した携帯端末を向けて、ピロリン♪と写真を撮った。すると「なんで撮ったの!?」はやて達に詰め寄られる。ベルカ時代の頃、エリーゼも胸が小さいことを悩んでたのは聞いてる。で、服飾店の主だったターニャがエリーゼのスリーサイズをマイスターに伝えて、そのサイズでも問題ないかを訊いたってことも知ってる。
「マイスターに送って、はやての今の胸のサイズでも大丈夫?って訊こうかと・・・」
だからアイリも同じようなことをしようかな、って思ったんだけど。
「アカぁぁぁぁ~~~~ン!!」
「「ダメぇぇぇぇ~~~~!!」」
どうしてかなのはやフェイトからも大反対を食らった。アイリは「別に裸じゃないんだから大丈夫だよ」そう言いながら送信先をマイスターの端末宛に設定してると、「だからダメ~~~!」フェイトに取り上げられた。
「あー、取った~!」
「取るよ! こればかりはさすがに問答無用で取るよ!」
「アイリだって見られたら恥ずかしいでしょ!?」
なのはに訊かれたことにアイリは「別にかな。だってルシルのこと大好きだもんね♪」そう答えた。好きな人になら全部をさらけ出しても大丈夫。まぁ少しは照れくさいかもだけどね。
「なのはとフェイトも、ルシルのこと好きでしょ?」
「た、確かに好きだけど! それはあくまで友達としてであって!」
「うんっ! だから写真を送るのははやての下着姿だけにして!」
「ん~~・・・、うん、判った」
「ちょっ!? ちょちょちょちょちょ、おぉぉーーーい! ここに来て裏切りとかあんまりやよ! アイリ、送ったら本気で怒るよ!」
結構な眼力で凄まれたから「や、ヤー・・・」アイリは大人しく従った。写真データも消すように言われたから消して、はやて達が着替えるのを黙って見守る。
「そやけどせめてもうちょい身長が欲しいな~。私、元学校組で一番チビやし。アリシアちゃんに身長追い抜かれた時の絶望感、いま思い出しても泣きそうやわ」
「あー、アリシアちゃんの身長も急激に伸び出して来たもんね~」
「あれは家族全員が驚いたよ。プレシア母さんも結構背が高かったし、遺伝かも」
「遺伝、やっぱり遺伝かぁ~。この低身長だけはどうにかしたいわぁ。ルシル君の身長と釣り合ってへんからな。シャルちゃんがルシル君と並ぶと絵になるんが、かな~り悔しかったりする」
「シャルちゃんも結構高いもんね~」
胸から身長の話題に切り変わった。はやては自分の身長が低いことを気にしてるけど、「はやてはそのままで良いと思うけどね~」アイリは独り言を呟く。はやての今の身長が、マイスターに一番合うと思うからね。そして着替え終えたはやて達の姿に・・・
「きゃぁぁぁ♪ はやてちゃんもなのはちゃんもフェイトちゃんも、とっても綺麗で可愛いわ♪ あんなに小さかった3人も、お化粧が似合う歳になったのね~。はぁ。時が経つのはあっと言う間ね」
シャマルはメロメロ。そして思い出を振り返ってるのか目を閉じてうっとりしてる。アイリは「ねえ。写真、撮って良い?」はやて達に確認してみた。マイスターに見せてあげたい。はやての綺麗なドレス姿。本当に綺麗なんだもん。
「うん。私からお願いするわ、アイリ♪」
「あ、私もついでで良いから撮ってくれる?」
「私もお願い。あとでデータちょうだい」
「ん!」
はやてとなのはとフェイト、ソロで3枚ずつ、あと3人並んだのも3パターンで撮った。アイリってば写真の才能があるかも。結構良いものが撮れたよ。
†††Sideアイリ⇒アリシア†††
ここホテル・アグスタで開かれるロストロギアを含めたオークションに備えて、会場警備や人員警護の仕事を請け負ったわたしたち機動六課。実働部隊のメンバーじゃないわたしは、基本的にはフォワードのフォロー、見守りみたいな立ち場かな。進んで戦闘には参加しない方針だ。
フェイト、なのは、はやての隊長陣は屋内。屋外警備はシグナムとヴィータの副隊長2人、わたしとシャマル先生とザフィーラ、それにリインとアイリ、それに加えてフォワードのエリオ、キャロ、スバル、ティアナになる。うん、圧倒的過ぎるね。
「今回の任務も、八神部隊長と副隊長たちが一緒ですから心強いですよね」
「だね~。この前の海鳴市での出張任務でも後ろに居てくれたから、安心してロストロギアを確保できたもんね」
「コンビネーションも練習通りにしっかりと出来ましたし、褒めてもらえましたから嬉しかったです!」
「けどやっぱ、あたしってイマイチだったと思うのよね~」
「あー、ま~たそうやって自分を悪く言う~。なのはさんとヴィータ副隊長、それにフェイトさんとシグナム副隊長にも褒められたじゃん!」
「それはあくまでコンビネーションの出来でしょ。あたし個人としちゃ、まだまだだって思うわけよ」
「えー! ティアも強くなったよ! 指揮だってしっかりしてるし!」
持ち場に着くまで、フォワードの4人がちょっと前にやって出張任務での出来事を喋る。その際にフォワード4人だけでロストロギア(スライムのような奴だった)を撃破、そして封印を行った。その手際にフェイト達が4人を褒めてたっけ。スバルが「ですよね? アリシアさん」わたしに話を振ってきた。
「うん。わたしだって、入隊時と比べてみんな、本当に成長したって思ってる。それにね。ヴィータから、4人が調子に乗るかもしれないから黙ってろ、なんて言われてるんだけど。ルシルもね、みんなのコンビネーション、それに個人的な成長を褒めてたよ」
出張任務の報告をルシルに出した際に、フォワードの戦闘映像も一緒に提出したみたい。んで、それを観たルシルは4人のこれまでの成長を褒めて、そしてこれからの成長に期待してた、ってフェイト達から聞いた。
「ルシルさんが!? ティアさん! ルシルさんにも褒められるなんて、やっぱりすごいことなんですよ!」
キャロが満面の笑顔でティアナにそう言った。キャロってば本当にルシル、それにアイリが好きなんだよね。保護責任者側としてはちょっと妬けちゃうくらい。
「まぁ、あのルシルさんにまで褒められたとなると、それはかなり嬉しいけど・・・」
ルシルって実質チーム海鳴で最強だし、魔導師ランクも空戦SSランク。そんなルシルに褒めてもらえれば、きっと誰だって嬉しいと思う。もうわたしじゃルシルにギャフンと言わせられない。ホント手の届かないところにまで行っちゃったよ。でもま、それでティアナの自分を卑下にする考えも少しは改まったのか、「その評価が暴落しないようにしっかりしないとね」そう自分を納得させた。
「あの、少し話は変わりますけど。ルシルさんが元々、八神部隊長やシグナム副隊長たちと家族だったという話を聞いたんですけど、それって本当なんですか・・・?」
「うん、そうだよ。・・・はやてとシグナムたち騎士の関係って判る?」
エリオからの質問に、わたしはエリオだけじゃなくてスバル達にも向けてそう訊き返した。そうしたらティアナは「スバル。あたし達の中だとアンタが一番詳しいでしょ」スバルに一任した。
「ええ!? えっと、ギン姉やお父さんからちょこっと聞いただけだなんだけど・・・。副隊長たち、シャマル先生とザフィーラ、それとリイン曹長は、八神部隊長が個人で保有する特別戦力で、家族だってこと。でも出自とか能力の詳細は特秘事項になってるから、詳しいことは知らない・・・。大体そんなところ、です」
“闇の書”関係の話は未だに局内でも秘匿扱いだから、スバル達が知らないのも当たり前な話。ティアナは「やっぱレアスキル持ちはそうよね」って呟いたのが聞こえた。ティアナってなんかこう・・・自分自身に対して自信が無いというか、かなり危ういんだよね。いつかプライベートで話してみようかな。
「うん。でも、そこにあと2人入るんだよね」
「ルシルさんと・・・アイリ?」
「キャロ、正解。結構前になるんだけど、ルシルとアイリも八神家の一員だったんだよ。ルシルははやてと同じ家で過ごして、わたし達と同じ小学・・・プライマリースクールに通ってた。それに本局捜査部・特別技能捜査課じゃ、はやてをリーダーとして捜査も一緒にしていたんだ。はやてとの付き合いの長さで言えば、ルシルが一番だね。そして、はやてを大事にする想いもまた一番強いかも知んない」
「あ、聴きたいかもです、その話」
「あたしも気になります」
キャロとティアナが食いついてきたけど、「あとは念話で話そうか」そろそろ持ち場に着かないと怒られちゃう。というわけで、話は念話に切り替えて続けることに。
『まず、はやてとルシルは天涯孤独の身だったんだ。はやてはご両親を事故で亡くしてて、ルシルは家族を・・・殺されてる』
『『『『っ!?』』』』
(あ、ヤバい。これってわたしが言っていい事じゃないよね・・・。ごめんっ、はやて、ルシル!)
心の中で合掌して謝る。でももう言っちゃったから後には引けない。
『2人ともその時は8歳。はやては海鳴市の家で独り暮らし。しかも下半身が不自由で車いす無しには移動できない体。そしてルシルは犯人を捜して独りで次元世界を旅してた。そんな時にルシルは海鳴市に降り立って、偶然はやてと出会った。2人は孤独を埋め合うように一緒に暮らし始めた。その後でシグナム達が一緒に暮らすようになったの。出会いの経緯は特秘事項に抵触するから省くけどね』
『なんか、八神部隊長とルシルさんの歴史を知れてる今って、かなりレアな状況よね』
『はい。なんかドキドキします』
『ルシルさんのご家族も・・・殺された・・・』
『スバルさん・・・』
『・・・。シグナム達がはやてやルシルと一緒に暮らし始めて少しした頃、はやての下半身をマヒさせてたものが徐々に上半身にも移って来て、余命幾ばくもない状態だと判った』
『『『『え・・・!?』』』』
今のはやての元気さを見れば考えもしないだろうし、想像も出来ないかな。
『で、はやてを救うには莫大な魔力が必要だった。そのために真っ先にルシルが動き出した。違法魔導師を襲撃してリンカーコアを奪うって手段で、ね。ルシルに続いてシグナム達も参加。そうしてルシル達はこう名乗って本格的に活動を始めた。パラディース・ヴェヒター、って』
パラディース・ヴェヒターに反応したのは『あの有名な!?』ティアナだけだった。エリオとキャロは年齢的に知らなくても問題ないかな。そんで『え、なに? そのパラなんとかって・・・』スバルも知らないわけか。まぁ10年前の話だし、知ってるティアナが特別かぁ。
『あんたね・・・。まぁいいわ。パラディース・ヴェヒターってのは、アリシアさんが言うように指名手配された違法魔導師を何百人と狩り続けて、一時的に次元世界から魔法犯罪を減少させたことまである、すご腕の騎士集団だったのよ。今は管理局員だって噂を聞いてたけど、副隊長たちのことだったのね・・・』
『『そうだったんですね』』
『そうだったんだ』
管理局には守護騎士クラスのベルカ騎士が結構在籍してるから、そうそう特定できないよね。というか地味に強い騎士が多いし。ルミナとか、フィレス一尉とか・・・。
『何も問題なく魔力を回収していったルシル達だったんだけど、その方法があるロストロギアを使うものってわけで、その頃はまだ嘱託だったフェイト達がルシル達の確保に動いたんだけど。ルシル達は当然止まらなくて、次元世界の犯罪者どころか管理局まで敵に回したんだ。それからいろいろあって、はやては無事に救われて、八神家は保護観察処分の管理局従事ってことで管理局に入った』
『八神部隊長を助けるために、ルシルさんや副隊長たちは次元世界に戦いを挑んだんですね』
『確かに八神部隊長を大事に想っていたからこそ出来る行動ですよね』
『でもこれで納得できました。八神部隊長とルシルさんが事務的な話をしていたんですよ。その時、他の隊員が八神部隊長とルシルさんを見て、仲の良い姉弟だったのに六課ではあんなつまらない会話しか出来ないんだな、って寂そうに言ってたんで』
エリオがそう言ったのを締めに、念話でのお喋りは終わり。それぞれが持ち場の警備に専念する。わたしも受け持ったルートを巡回する。そんな中で、『あの、アリシアさん』スバルから念話が入った。
『どうしたの? スバル』
『あの、さっきのルシルさんの話でちょっと訊きたいことが・・・』
『うん。わたしに教えられることなら・・・』
『ありがとうございます。それで、その・・・ルシルさんのご家族を殺害した犯人は今、どうなってるんですか・・・?』
『現在進行形で、ルシルは救ってるよ』
ルシルの言い方をそのまま使ってみた。ルシルは“エグリゴリ”を倒すんじゃなくて、救う、って表現で撃破していってる。当然スバルは『救う? え? 逮捕の間違いじゃ・・・?』困惑してるっぽい。
『ルシルの家族を殺害したのは、ルシルの遠いご先祖が造り出した人型の魔法兵器でさ。元々はセインテスト家の味方だったんだけど、敵側に洗脳されて狂っちゃったって。それから何千年とソイツら――エグリゴリとセインテスト家の間で戦闘を続けた。ルシルは言ってた。洗脳されて望んでもいない破壊行為をしてるエグリゴリを撃破して救うことが、セインテスト家に生まれた者の存在意義なんだって・・・』
『・・・ルシルさんは、辛くないんでしょうか、悔しくないんでしょうか、悲しくないんでしょうか。自分の家族を殺されたのに、救えって責務を負わされて・・・』
スバルは少し黙った後、そう言ってルシルの心情を気遣った。スバルも母親を失っちゃってるからね。自分とルシルを重ねてるっぽい。
『それはわたしなんかが口にしていい答えじゃない。そればっかりはルシル本人に訊かないと。・・・ねえ、スバル』
『あ、はい・・・』
『そろそろルシルを許してあげてほしい』
スバルはまだルシルとちゃんと話せてない。クイント准陸尉が亡くなった原因をルシルに押しつけちゃった幼い頃のスバル。ルシルは今もクイント准陸尉の死に苦しんでる。そこにスバルからも避けられてるとなると、その精神的な負担は結構なものだと思うから。
『解って・・・るんです。ルシルさんが悪いんじゃないってことは。ずっと前から。でも、ルシルさんと話そうとすると、お母さんのお葬式の時にあたしが言った暴言と、土下座して謝るルシルさんの姿が頭の中に浮かんで、どうしても逃げ出しちゃうんです。あたしが弱いから、ルシルさんをまだ苦しませる。だけどもう・・・逃げてばかりもいられない、ですよね。ルシルさんの家庭の話を聴いたら。アリシアさん、教えて頂いてありがとうでした!』
『はい、どうも♪』
スバルはスバルで悩んで、ようやくルシルと話すことを決心したみたい。ルシルは優しいから、スバルを傷つけるようなことは言わないと思うし、たぶんこれで解決だ。あたしも巡回を続けてると、「あ、ティアナ」を発見。けど、何か深く考え事してるみたいでぼけーっと佇んでる。
「ティアナ」
「っ! あ、アリシアさん・・・」
「何か考え事? お姉さん、相談に乗っちゃうよ?」
「いえ、相談するほどでもないので・・・」
そう言ってティアナは小さくお辞儀して、わたしに背中を向けた。わたしの勘が言ってる。今、ティアナを放っておくと何か仕出かすって。だからわたしは「ティアナってさ。自分が凡人とか思っちゃうタイプでしょ」鎌をかけてみる。
「っ!?」
目を見開いてわたしの方に振り返ったティアナは「どうしてそれを・・・!?」そう訊いてきた。鎌かけ成功だ。
「解るよ。だってわたしとティアナ、似てるもん。周りがすごいとどうしても自分に自信が持てなくて、卑下することもあるよね・・・」
「あ、あー・・・、アリシアさんの周りって・・・」
「そ。フェイト達チーム海鳴のみんな。10年と一緒だから、その成長を見せつけられてきたわけ。喜ばしい半面悔しかったよ。どんどん置いてけぼりを食らっちゃって・・・」
わたしの体は年相応に成長してくれたけど、魔力の才能だけは成長してくれなかった。事故で仮死状態になる前にすでに魔導師としては完成しないって解ってたとは言え、息を吹き返せた奇跡もあるってことで期待しちゃってた自分も居たわけで。
「ねえ、ティアナ。ティアナは他の子のこと、どう見てる?」
「・・・スバル達のこともそうですけど・・・。この機動六課って言う部隊そのものにちょっと疑問があるんです」
そう言ってティアナは、六課が保有してる戦力が尋常じゃないってことを指摘した。確かに一般の機動隊でもこれほどの戦力が保有しないよね。するとすれば特務隊くらい。で、その後はにやっぱりティアナの悪い癖みたいな発言が飛び出して来た。ロングアーチのみんなが将来性のあるエリートだって言うし・・・
「僅か10歳でBランクのエリオ、竜召喚なんて激レアで強力なスキルを持ってるキャロも、フェイトさんやアリシアさんの秘蔵っ子ですし」
「いやいや、別に秘蔵っ子ってわけでもないよ」
それに10歳でBランクってことに驚いてたら、うちの妹や親友たちはどうなわけ。AAAやらSやらと一緒に過ごしてきたわたしは、それでも頑張ってきたよ。
「スバルは・・・危なっかしいですけど、潜在能力の塊で・・・。それに優しい家族のバックアップもあります・・・。そうなるとやっぱり、あたし自身の凡人度と言うか、そういうのが浮き彫りになってしまって・・・」
エリオ達もそれなりに濃いからな~。だけどそれを言ったら「ティアナだって、誇れるものあるでしょ」だよ。小首を傾げるティアナに「幻術だよ、幻術」あたしは呆れながら指摘する。
「今のレベルじゃ誇れるものじゃないですよ・・・」
「だったらエリオもキャロも、スバルだってまだまだだよ。というかね、ティアナ。あなたは焦り過ぎてる。なのはの個別スキルの教導も始まったばっか。これから伸びていくんだよ。そもそもスバル達のことがすごいって思うのは、ティアナがちゃんと指揮してるから!」
「あの・・・」
「いい? ティアナ。あなた達4人はこれからなんだよ。スタート時点で自分と他人を比べるのは感心しないよ。これから伸びていく。今は焦ることなく、なのはの教導官としてのスキルを信じて、スキルアップしていってほしいかな。身内贔屓になっちゃうけど、なのはは本当にすごいから」
少しでもティアナが抱いてる劣等感のようなものを取り払いたい。ティアナはわたしより重症だもん。わたしの願いの言葉に、「それでもお兄ちゃんは、死んだんです・・・」ティアナが何かボソッと呟いたのが聞こえた。
「え、ごめん。聴こえなかった」
「いいえ。ただの独り言ですから。アリシアさん。それでもあたしは、早く強くなりたいんです。・・・では」
わたしにお辞儀をして、ティアナは足早に自分が担当するルートの警備に戻っちゃった。わたしは頭をわしわし掻きながら、「また話そうっと♪」ティアナに解ってもらえるまで話そうっと決めて、自分のルート警備に戻った。
後書き
ジェアグゥィチエルモジン。ジェアグゥィチトロノーナ。ジェアホナグゥィチ。
はーい。ホテル・アグスタ編に入りました。サブタイトル通り、スバルとティアナの葛藤を描きました。いや~、アリシアは良いポジションに居て扱い易いです、このアグスタ編だけは。ティアナに一番感情移入が出来るのは、同じ凡人枠であるアリシアのみ。前作ではシャルが活躍したアグスタ編ですが、本作ではアリシアに頑張ってもらいましょう!
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