| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Blue Rose

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十八話 新幹線の中でその七

「長崎は」
「そうだよ、だからね」
「楽しんで来ればいいんですね」
「あそこにいる間はね」
「わかりました、それじゃあ」
「行って来るといいよ、さて」
 ここでだ、男は。
 新幹線の窓の外の景色を見てだ、優花にこうしたことを言った。
「もうすぐ九州だね」
「トンネルを越えたらですね」
「九州だよ」
 その長崎県のあるだ。
「あそこに入るよ」
「九州ですか」
「いい場所だよ、九州は」
 男は目を微笑まさせて優花に九州自体のことも話した。
「あそこに行くともう気持ちが楽しくなるよ」
「そうなんですね」
「わしはね、じゃあ行こうか」
「はい、それで長崎に」
「行くといいさ、ただ」
「ただ?」
「わしは鹿児島で君は長崎」
 同じ九州でもというのだ。
「行く場所は違うね」
「そうですね、同じ九州でも」
「わしは九州の一番南だよ」
 鹿児島県だからだ、鹿児島県は九州の最南端にある。島津家はその九州の最南端から攻め上がるのが常だった。
「そこに行くからね」
「僕は西の端ですね」
「長崎だからね」
「お互い行く場所が違いますね」
「端っこでもね、お互い九州の」
「そうなりますね、じゃあ長崎に行っても」
 九州に入ろうとしている中でだ、優花はそのまだ先の長崎に目と心を向けつつ言った。
「楽しく過ごしてきます」
「そうしてくるんだ」
「絶対にですね」
「療養でもね、それで何があっても」
「生きることですね」
「本当に生きていればね」  
 何といってもとだ、男はまた優花に言った。
「何とかなるんだ」
「どんな状況でもですね」
「確かに生きていれば色々あるよ」
 人生の深みからだ、男は優花に話した。
「それで辛いこともある」
「それでもですね」
「生きるんだよ」
「絶対にですね」
「そう、何があってもね」
「そうしないと駄目ですね」
「最低限ね」
 例え何があろうともとだ、男は言葉の中に入れて優花に言った。
「そうするんだ」
「それじゃあ」
「そう、僕も生きているから」
「僕もですね」
「生きるんだ」
「わかりました」
 優花は男に確かな声で答えた。
「そうします」
「そういうことでね、じゃあ今から」
 男は窓の景色に目をやって話した。
「九州だよ」
「はい、今からですね」
「そう、行こうね」
「わかりました」
 優花も頷いた、そして。
 トンネルを抜けた、それから男はまた言った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧