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NARUTO~サイドストーリー~

作者:月下美人
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SIDE:A
  第三話

 
前書き

 ご都合一丁入りまーす!
 

 


 ミナトは混乱に乗じて他の隠れ里の忍たちが紛れているかもしれないことから、緊急招集されていた忍たちに引き続き第二級警戒態勢を取らせ、九尾は一応退くことはできたと伝えた。


 一般人は常日頃から非常事態に対する対応を徹底させていたため、多少の混乱は生じたものの被害は最小限ですんだ。九尾が現れたのが民家が少ない外壁部周辺であったのも大きな要因といえるだろう。これほどの緊急事態で死傷者が発生しなかったのは奇跡としか言いようがなかった。


 一先ず落ち着きを取り戻した木の葉隠れの里。


 火影邸の執務室にはミナト、ハルト、九喇嘛、ヒルゼン、クシナ、そして母の腕の中で眠る汐音の姿があった。


 重々しい雰囲気の中、執務机に座ったミナトが柔らかい口調で語りかけた。


「それじゃあハルト、説明してくれるかい? クシナの中に封じられていた九尾が解放された時点で、彼女の命はもう僅かだった。それをどうやって救ったのか。そして、九尾を使い魔にしたというあの術と、膨大なチャクラ。詳しく教えてくれるかな」


「うん。えーと、なにから説明すればいいのかな……」


 そう頬をかいて困ったような顔で語るハルトだが、しかしその内容は信じがたい話だった。


「実はずっと前、物心がつく前からある夢を見てたんだ」


「夢?」


「うん。ある男の人の人生だと思う。子供から大人になって、おじいちゃんになって死ぬまでの一生。それをまるで俺自身が追体験するかのような夢なんだ。すごく生々しくてリアルで、しかも夢から覚めてもはっきりとその内容を覚えてるんだ」


 真剣な表情で語るハルト。黙って話を聞いているミナトたちは思いがけない話に息を呑んでいた。


「そして、ある日見た夢がその人の人生に大きく関わる内容だった。その夢の舞台はこの里で、大きな事件が起きた時のことだったよ。そう、九尾が解放されるっていう」


「なんだって!」


 大きく目を見開き驚くミナトたち。九喇嘛も一瞬、眉を跳ね上げた。


 前世の記憶があって、ここが漫画の世界なんだと馬鹿正直にいうわけにはいかない。そのためハルトは断片的な未来を夢という形で見て、追体験してきたと説明することにした。


「俺が見た夢だと九尾が解放されることで母さんは死んじゃって、父さんも九尾を自分の命と引き換えに封印するんだ」


「自分の命と引き換えに、ということは屍鬼封尽じゃな。たしかに九尾を封じるならあれくらいしかないの」


 自分を封じるという話を聞いて九喇嘛の機嫌が悪くなる。それを感じたのかハルトは九喇嘛の手を握って微笑みかけた。大丈夫だよと言いかけるように。


 その笑顔を見て、九喇嘛は無意識に力んでいた力が抜けていくのを感じた。順調にこの少年の使い魔になっていく自分に頭を悩ませながら。


「でも九尾ほどのチャクラを物理的に封印することは不可能だ。もしやるとすれば陰と陽に分けて片方を封じるな。ん? ということは、もしかして……。ハルト、その夢だと、汐音に九尾を封じた?」


「――!」


「……!」


「……うん。父さんの言う通り汐音に封じたよ。夢の中の父さんが言うには、汐音を里の英雄にしたかったらしいけど」


「そうか……。そうだね。あの状況なら僕も恐らくそうしただろう」


 痛々しそうな悲しげな目でクシナの腕の中で眠る汐音を見る。


 クシナも想像して悲しくなったのか、涙を零していた。


「でも、汐音は英雄になれなかった。むしろその逆で、汐音を九尾と同一の人物と見なされて憎悪の対称になったんだ」


『なっ――!』


 顔を俯かせるハルト。脳裏に過ぎるのは原作でのナルトの扱い。


 ナルトを九尾だと、化け物だと罵り、石を投げつけ、虐め迫害する大人たち。


 ハルトは両親の命を救うほかに、あの残酷な運命から妹を守りたかったのだ。


「夢の中の汐音を見て思ったんだ。石を投げられ、口汚い悪口を言われ、誰にも見てもらえず認めてもらえない。汐音をこんな悲しい目に合わせちゃいけないって」


「……」


 厳しい顔で押し黙るミナト。クシナは涙を流しながら汐音に何度もごめんねと誤り、ヒルゼンもやるせない表情で目を瞑った。


 原作当事を思い出して意気消沈していると頭を撫でられる感触がした。見上げると、ぶっきらぼうな顔でそっぽを向いている九喇嘛が無造作にハルトの頭を撫でていた。


 思わぬ使い魔の気配りに感動したハルトは、それまでの暗い空気を払拭するように柔和な笑顔を作った。


「だから頑張ったんだ! 汐音に悲しい思いをさせないように、父さん母さんを守れるようにって! きっとあの夢を見たのは皆を守れっていう神様の意思だったかもしれないって。そう思って今日この日のために頑張ったんだよ俺!」


「……っ! ハルト!」


 感極まったのか、膝をつきハルトを抱き寄せる。声を殺して泣く母の背を優しく叩いた。


 ミナトもハルトとクシナを優しく抱き締める。両親のぬくもりを感じながらハルトは改めて、守りきれたんだなと実感した。


「……頑張ったんだな」


「私たちを守ってくれて、ありがとう。ハルト……」


 両親の言葉を聞き、自然と涙が零れた。


 ほわっと暖かな空気が流れる。ヒルゼンは優しげな眼差しで家族の仲睦まじい光景を見守り、九喇嘛もふんっと悪態をつきながらもどこか柔和な雰囲気を漂わせていた。


「ははっ、泣いちゃった……。とまあ、こういうことで夢が未来を暗示しているんじゃないかって感じたから、ずっと昔から修行してきたんだ」


「なるほどのぅ。摩訶不思議な話じゃが、しかしそれならばお主が歳のわりに成熟しているのも理解できる。恐らくは夢の中でその者の生を体験したことで精神的にも成長したのじゃろう」


「だと思う。俺自身子供っぽくないかなって感じてから、今まで少しだけ子供っぽく振舞っていたんだ」


「そうだったのか……。たとえ子供っぽくなくても、ハルトは僕たちの子だよ」


「そうよ。あなたに何があろうと私たちの大切な家族に変わりはないんだから。変に気を使わないでいいのよ」


 馬鹿ね、と諭すように言う二人。改めて器の大きい人たちなんだなと感じた。


 人間は異物に対し敏感で排他的である。他の子供たちと違い明らかに大人染みた思考を持つ我が子を気味悪く思う人が多いだろう。


 しかしこの二人はハルトの異常性を知った上で、それまでと変わらない態度で接してくれる。それがどんなに凄いことなのか、前世の記憶があるハルトはひしひしと感じていた。


「ありがとう。父さん、母さん」


 ギュッと二人に強く抱き締めてから離れる。


 にぱっと明るい笑顔を浮かべながら説明の続きに移った。


「えーっと、あとは俺の術のことだよね」


「あっ! そうだった! あの瞳術はなんなの? あんな瞳術見たことないってばね!」


「クシナ、口癖口癖。ところで瞳術ってなんのことだい?」


 首を傾げるミナト。解析眼の存在を知っているのは治療を受けていたクシナのみだから、その疑問も当然のことだろう。ヒルゼンも興味深そうに見ていた。


 印を結んで再び解析眼を発動させる。瞳の中心に蒼い六芒星と細かな記号のような文字が浮かぶ。うちは一族の『写輪眼』や日向一族の『白眼』とも違う特殊な目に、ミナトたちは驚愕の表情を浮かべた。


「ハルト、その目は一体……」


「ふむ、儂も始めて見る瞳術じゃな」


【教授】の異名を持つヒルゼンは忍術などに深い造詣を持ち【忍の神】とまで言われた人物だ。そのヒルゼンでさえ知らない瞳術。興味が湧かないわけがない。


「この眼だけじゃなくて、母さんを治療した術やクーちゃんと契約を結んだ術にも言えることなんだけどね。なんでかは分からないんだけど、実は俺……忍術を作ることができるみたいなんだ」


「……? どういうことだい。忍術の開発ってことかな?」


「いや、そうじゃなくて、もっと根本的な意味。細かな設定を作る必要はあるけど、多分忍術に分類できるものなら何でも作れるんじゃないかな。血継限界だっけ? 多分そういう一族ならではの忍術とか、術や能力も忍術という形で作ることができると思う。俺はこれを創造忍術って呼んでるよ」


『…………』


 返ってきたのは予想以上の話だった。


 忍術の開発は誰もが行える。しかし、それは当然なことながら、本人が持つ属性に基づく忍術であるし、高ランクの忍術の開発や習得は並大抵のことではない。火遁の適正があるからといって火遁の術の全てが使えるわけではないのだ。それは本人の生まれ持っての才能やセンスなど、目に見えない要因に左右されるからである。


 しかし、今ハルトが言った話はその次元に留まらない。極論を言えば血継限界など血族が持つオンリーワンの忍術を含めた全ての術を網羅することも可能であり、さらに言えば想像が及ぶ範囲であるならばそれを忍術という型に嵌めることで再現が可能ということだ。


 これはとんでもないことだ。他里に知られれば誘拐されて細胞の一つにいたるまで研究され尽くされない。


 これほどのものだとは思っていなかったのか、クシナは絶句している。ミナトは難題に直面したとでもいうように頭を抱え、ヒルゼンは目を細めて顎鬚を撫でていた。


 あの九喇嘛でさえ目を大きく見開いていた。


 腰を下ろしたミナトはハルトの肩を掴むと、真剣な顔で言い聞かせた。


「――ハルト、今の君なら理解できると思うけど、このことは絶対に誰にも話しちゃいけないよ。僕たちだけの秘密にしておくんだ」


「そうじゃな……。情報はどこから漏れるかわからん。これは儂らの胸の内に秘めておくべきじゃろう」


「ハルトに変なことをする奴は私がぶっ飛ばしてやるってばね!」


「クシナ、口癖。それで、その目は創造忍術とやらで作ったのはわかったけど、どういう能力があるんだい?」


 その言葉に全員から好奇の目を向けられた。


「これは解析眼って言って、その名の通り万物を解析する眼だよ。とはいっても、実際に解析できるのは生き物や術だけだけどね。この眼で母さんの状態を分析したんだ、で、普段の状態と比較するとチャクラと生命力が圧倒的に不足してたから、それを補ったってわけ」


「ちょっと待って、チャクラと生命力を補うってどうやって? まさか、自分のチャクラや生命力を供給したのか?」


「うん。幸い、俺のチャクラや生命力はすごいあったから、補填しても問題なかったよ」


 ケロッとした顔でそういうと、もはや驚愕を通り越して呆れたような目を向けられた。


「創造忍術だけでも規格外じゃというのに、その上チャクラや生命力まで規格外とは……。流石はミナトたちの子と言うべきかの?」


「ハルトの創造忍術は血継限界? でもうずまき一族も波風一族の中にも血継限界なんていないはずなのに。あら? ということは、汐音も将来ハルトのようなとんでもない子に育つのかしら……?」


「九尾の封印が解けたってことは九尾のチャクラが足りないってわけで、それを補えるハルトは九尾クラスのチャクラを持ってるってこと? ハハッ、僕たちの息子は将来大物になるに違いないね……」


「流石は妾の主といったところかの? まあ妾を僕にするのじゃから、それくらいが丁度いいじゃろうて」


 流石に【創造忍術ノート】の存在を知られるのは拙いと思ったハルトは異能という形で扱った。人が良いためか納得は出来ていない様子だが疑ってはいないようだ。


 とりあえず三者三様落ち着いた。ハルトの質問タイムは終わったため、今度は九尾へと焦点を向ける。


 ヒルゼンは年老いても覇気を感じさせる力強い目を向けながら、心の底を見極めるようにジッと九尾の目を見つめた。


「さて、九尾よ。次はお主について聞きたいことがあるのじゃが、よいだろうか?」


 腕を組んで数秒考えた九喇嘛は鷹揚に頷いた。


「ふむ……。まあいいだろう」


「かたじけない。お主はハルトの使い魔になったと聞いたが、それは真かの?」


「うむ。この童にどうしてもと言われたのでな。まあ相手は寿命が短い人間だ。妖狐である妾からすれば百年などあっという間に過ぎ去るしの、童の使い魔とやらになるのも一興」


「ふむ、なるほどのぅ。……お主からすれば我らは長年自由を奪い苦しめてきた相手じゃ。里を襲う意思はあるかの?」


 執務室に緊張が走る。ミナトはいつでも動けるようにチャクラを練り、汐音とクシナを守るように前に出る。クシナも汐音を胸に抱きながら凛とした表情で真っ直ぐ九喇嘛の顔を見た。


 その心の底を見据えるように九喇嘛の目をジッと見るヒルゼン。


 ハルトは九喇嘛の色打掛の裾をキュッと握った。見れば緊張感の欠片もなく、ぽわ~っと気の抜けた顔で事態を見守っている。


 このどこか気の抜けた顔が普段のハルトである。息子の話を聞いて独り立ちされた親の心境でいたミナトたちは、変わらない普段と同じ姿に深い安堵感を覚えた。と、同時に張っていた緊張の糸が緩んでしまう。


 緊張が緩んだ空気の中、口を開いたのは九喇嘛であった。


「……確かに妾はお主たち木の葉の人間が嫌いじゃ。一方的かつ理不尽な理由で妾を閉じ込め、自由を奪ったお主たちに憎しみを感じる。が、里を襲うつもりはない」


「ほっ、それはどうしてじゃ?」


「ふん、ただの気まぐれじゃ。まあ、仮にも妾の主がこの里の人間であるしな。主の使い魔でいる間は手を出さんと誓おう」


「ありがたい。儂としてはその後も里のものに手を出さんでほしいのぅ」


「厚かましい奴よ。保障できんなそれは」


 ほっほっほっ、と笑うヒルゼンに「ふんっ、古狸め」と悪態をつく九喇嘛。


 ミナトとクシナはやれやれと顔を見合わせていた。


「ああ、それと。妾の名前は九喇嘛というが、主らはそれまで通り九尾と呼ぶがよい。九喇嘛と呼ぶのはダメだ」


「あらどうして?」


「妾の真名を口にして良いのは妾が認めた者のみ。そして、妾が認めているのは童のみだ」


 認められているとはっきり言われたハルトは嬉しさが隠しきれずニコニコと笑顔を浮かべた。


 しかし、一つ不満があった。それは――。


「クーちゃんクーちゃん。名前で呼んでよ」


「む……」


 いつまでも童なのは嫌だった。ちゃんと名前で呼んでほしいハルトは色打掛の袖を引っ張りながら「ヨンデヨーヨンデヨー。オネガイダヨー」と歳に見合った姿を見せた。


 袖を引っ張られながら渋面で考え込む九喇嘛。


「ま、まあ気が向いたらの」


 と、曖昧な返事を返した。頬が少し赤くなっているのを一人見抜いたクシナはニヤニヤと不審な笑みを浮かべていたが、幸いなことに誰も気が付かなかった。


「ところでハルト、彼女を使い魔にしたって言ってたけど、使い魔ってなんだい?」


 ミナトのもっともな言葉に一斉に視線が向けられる。


 九喇嘛ちゃんも自分に関係する話のため真っ直ぐハルトを見ていた。


「僕が考えた使い魔は主人の身を守る剣であり楯だよ。それとちょっと従者みたいな印象もあるから、それも設定に入れちゃった」


「ふむ、従者か。なんとも強力な従者が出来たのぅ」


「そうですね。九尾がハルトを守ってくれるなら心配要らないね」


 うんうんと頷く前火影と現火影。意外にも九喇嘛は大人しく聞いており反発する様子を見せていなかった。


 文句の一つでも言ってくるかと思っていたハルトは不思議に思って聞いてみる。


「えーっと、今言った通りクーちゃんの使い魔としての役割はそんなところなんだけど、いいかな?」


「その程度の内容ならば妾が契約に応じた時点で想定済みよ。まああまり気は進まんがの」


「そっか。ありがとう、クーちゃん」


「……っ! ふ、ふん! 礼を言われるほどではない」


 頬を朱に染めてそっぽを向く九喇嘛。ハルトを含めたミナトたちは明らかに照れ隠しと思われる仕草を微笑ましい気持ちで見ていた。


(でもまあ、みんな無事だし九喇嘛も使い魔にできた。どうなるか不安だったけど最良の結果に終わってよかった)


 半分肩の荷が下りてホッとしたハルトであった。


 その後、今後について細かな話し合いをした結果、九喇嘛には今回の件で里の皆に謝ってもらったほうがいいとの結論に達した。


 九喇嘛は反対だったが今後、彼女がハルトの使い魔として傍にいるのなら、必然的に里の人間と接触することになる。その度に軋轢を生むのは如何なものかとヒルゼンに指摘され渋々了承した。意外と物分りがいいと驚かれた九喇嘛であったが、ハルトにお願いされたのが一番大きな原因なのを知らないミナトたちであった。


 使い魔としてハルトとともに行動しなければならないということで、必然的にミナト宅に居候することになったが、そこは人の良いミナト夫妻。むしろどうぞどうぞと歓迎する勢いで九喇嘛の家族入りを了承した。


 こうして、後の歴史書に【九尾契約事件】と呼ばれる一件は収束したのだった。

 
 

 
後書き

 今回のご都合要点。
・夢の話。ちょっと強引に押し通りました。
・汐音が人柱力である必要性。不思議と初めからハルトという選択肢がなかったです。


 お気に入り七件……。あまり人気がなくて寂しい(;ω;)
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