世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはA's ~奪われた主~
はやて宅に到着した一向。
なのはたちは家の外に待機し、先にヴォルケンズから中に入って、事の顛末を説明しに行った。
「闇の書・・・呪いのプログラムか・・・・・」
「主にその気がなくても、強制的に集めざるを得ない状況に追い込む・・・」
「ひどい・・・ね」
「うん・・・・」
家の前でなのはたちは闇の書に関して話し合っていた。
「とりあえずはやての身柄を確保してから、管理局の病院で検査だね」
「だけど・・・そんな簡単に行くのかな・・・・」
「なぁに、俺がまだこの世界にいれる時間は結構あるからな。その点は大丈夫だ」
「どういうこと?」
「俺は他の世界の仲間の力を借りられてね。ほら、俺がやってる変身とかがそれだよ」
「え?じゃあれは舜の力じゃないの?」
「違う違う。で、だ。その中のうちの一つに「幻想殺し」ってのがある」
「いまじんぶれいかー?」
「簡単に言ってしまうと、魔法とかそういう「異能の力」を打ち消すものなんだ。だから、前にはやてに会った時も、それで触ったら負の魔力が消えたんだよ」
「じゃあ、それで闇の書を触れば?」
「いいや、そう簡単な話じゃないんだ」
「え?」
「この力は問答無用で消してしまうもので、制御ができない。闇の書とはやてのつながりは表面ではなくもっと深遠なところにある。闇の書をうまく分解して、その核を見つけて触れたとしよう。だがその時消えるのはその悪意あるプログラムだけなのか、ということだ」
「もしかして・・・ヴィータちゃん達も?」
「・・・消えるかもしれん。彼女たち自身に触っても問題はないだろうが、その核に触っては闇の書とはやての契約自体が切れてしまうかもしれない。そうなると闇の書は・・・」
「おそらくはやてが死んだと勘違いし、新たな転生先に飛ぶだろう。それでは意味がない」
「その通り。だから慎重に検査して、いらないとこだけ消すんだ」
「大変だね・・・」
「はやての症状の進行は抑えられるから、まあーーー気長に行けば」
ドォオオオン!!!!!
「「「「!?」」」」
その瞬間、家の二階の窓ガラスが爆発し、そこからあの仮面の男が飛び出してきた。
その腕には二つの物を抱えている。
「あいつッ!!!」
「はやてちゃん!?」
「闇の書までパクリやがった!!!」
その言葉の通り、男の腕には気絶したはやてと、闇の書が抱えられていた。
「貴様!!その子をどうするつもりだ!!!」
クロノがとっさに結界を張り、周囲から見えないように一体を覆ってから、仮面の男に叫んだ。
「お前たちにはもう任せておけない。闇の書とその主は私が預かる。なに、ちゃんと蒐集はしてやるから安心しろ」
ヒュン、ヒュンヒュン!!
そこまで発言した男を、騎士甲冑に身を包んだシグナム、ヴィータ、ザフィーラが取り囲んだ。
「貴様ぁ・・・テスタロッサを不意打ちしただけでなく、我らが主にこのような仕打ちを!!!!」
「ぜってぇ許さねえ!!はやてを返せ!!!」
「さもなくば、後悔することになるぞ!!!」
三人が激昂する。
玄関からヨロリとシャマルが出てきた。
なのはたちの方に歩いてきてから、そこでパタリと倒れてしまった。
「シャマルさん!!!」
「ご、ごめんなさい・・・闇の書と・・・・はやてちゃんが!!!」
「気にすんな・・・」
そう言って肩を叩いてその場に座らせる蒔風。
「フェイト、クロノ、シャマルを頼むよ」
「うん」
「蒔風、気をつけろよ」
「は!どーってこたァねえ。またボコすだけだ」
「わ、私も行く!!レイジングハート!!」
《セットアップ》
なのはがバリアジャケットを着込み飛び、蒔風は家の屋根の上にジャンプした。
「てめえ・・・闇の書が完成したところでお前には使えない!!!それがわかってんのか?」
「私の目的は闇の書の完成だ。その使用ではない」
男が淡々と言う。
その言葉にヴィータがさらに激昂した。
「そんなことはどーでもいい!!はやてから手を離せ!!!」
男に向かってアイゼンを振るうヴィータ。
だが
バシィ!!!
そのグラーフアイゼンの動きが止まる。
見ると、アイゼンの先端にバインドが巻き付いていた。
それが伸びて、ヴィータを簀巻き状態にする。
バシバシィ!!!
さらにザフィーラとシグナムの身体にも巻き付き、束縛する。
「お前らはまだだ。来るべき時になればお前らも・・・・」
「くっ!!!おおおおおお!!!!」
「はやてええええええ!!!!」
「やぶっ、れん!!!」
三人が空中で身動きが取れなくなる。
が、まだこの少年がいる。
「その子をぉ・・・・離せや!!!」
蒔風が男に飛びかかっていく。
その速度、方向、タイミング、すべてをとって完璧だった。
これなら確実にはやてと闇の書を取り返せる、と思われた。
ドドッ、ドドッ、ドドッ!!!!
ガァルァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!!!
バゴォア!!!!!
そこに、漆黒の体躯を持つ巨大な獣が現れた。
三つの首に二振りの尻尾。
「ケルベロス!!!!!まさか・・・てめえ「奴」と繋がってんのか!!!」
蒔風が男に訊くが、どうやら男も困惑しているようだ。
と、いうことは
「なるほどな・・・・「奴」の独断か・・・・全員こいつに手を出すな!!こいつは!!!!」
ヒュォオッ!!!
ドゴァ!!!
蒔風の身体がケルベロスの前足に弾かれ、地面に落ちる。
地面を砕き、ゆうに百メートルはその後を残して蒔風が吹っ飛ばされた。
「ごあああああ・・・・こ、の・・・・開翼!!!(ドバァ!!)」
頭を振って立ち上がりながら開翼する蒔風に、一瞬で接近したケルベロスの爪が襲いかかる。
それを前回りでかわし、ケルベロスの後方に向かってジャンプする蒔風。
それを反転して追うケルベロスに、桜色の砲撃が命中した。
「舜君!!!」
「手ぇ出すな!!お前はその仮面ヤローを!!ッ、グォア!!!」
言葉の途中で蒔風にケルベロスの肩がぶち当たり、蒔風が住宅を二、三吹き飛ばしながら飛ばされていく。
なのはが苦い顔をしながら、仮面の男に向かう。
蒔風も心配だが、はやての事は今どうにかしなければならない。
「はやてちゃんを、返してもらいます!!!」
「断る。どうやらあの犬はこちらを逃がすためにいるようなのでな。ありがたく逃れさせてもらおう」
「させません!!」
なのはが男に向かう。
だが、男は幻影や砲撃でなのはを翻弄してその姿を掴ませない。
なのはは善戦するが、先ほどの戦いの後だ。
どうやっても掴み来ることはできず、ついにはバインドで体を縛られてしまう。
そしてついに男は逃走してしまった。
その光景を見ていたフェイトが身を乗り出そうとする。
だが、その腕をクロノが掴んで止めた。
「フェイト!!何をしに行くんだ!!君はリンカーコアを奪われたばかりだ!!!魔法どころか、立って歩くのだって本当はいいことじゃないんだぞ!!」
「で、でも・・・このままじゃ・・・」
「わかってる。助けに行きたいのは僕も同じだ。だけど、僕まであっちに言ったら、君たちが無防備になる。魔法の使えない君たちを、守らなくちゃいけないんだ!」
クロノのデバイスを握る手がギシリと軋む。
彼も、この場で耐え忍んでいた。
蒔風とケルベロスの戦いはここら辺一体をすでに焼土と変えてしまっている。
結界を解けば元に戻るとはいえ、なければ一体どれだけの被害が出たのか。
そんな状況で、クロノは動くことができなかった。
八神はやては、敵の手に落ちた。
「てめええええ!!!!(ゴガア!!)あいつを助けるとは、何を考えている!!!」
蒔風がケルベロスに叫んだ。
すると、頭の中に「奴」の声が響いてきた。
『いやなに。(ドゴォ!!)俺としても闇の書を完成させてもらった方が、あとあと都合がいいし』
「どういうことだ!!闇の書は完成させね、え!!(ズゴン!!)それがお前のためになるならなおさらだ!!」
『はあ・・・まだ「闇の書」の真の名も知らないのか』
「なに?それはいったい・・・」
『今確かユーノ君が無限書庫で調べ物してんだろ?だったらじきにわかるさ』
「お前・・・この世界の「原典」を・・・」
『知ってるさぁ!!お前は忘れちまったみたいだけどな』
「ならば・・・このあとどうなると言うんだ!!!」
『それは言えないよ。そもそも、俺やお前が介入した時点ですでに歪んでるし』
「まさか貴様・・・もうすでに構築の計算が・・・」
『いや、まだ50%程度だ。だが、最後に「あれ」があるなら、結構役に立つしね』
「いくらお前でも闇の書は扱えないぞ。それに、計算してるんだろ?こんなんしてていいのかよ」
『今は休憩中さ。この会話も、ケルの中に埋め込んだ俺の力で交信してるし』
「どぉりで・・・強いわけだ!!!」
ドバガァ!!!!
蒔風の正拳が空中でケルベロスの胴体を横から殴り飛ばす。
ケルベロスの身体がぐらりと揺れるが、そのまま回転して後ろ足で蒔風を蹴り飛ばす。
だが、蒔風はそれを真っ向から受け止めて、ケルベロスの動くを止める。
しかしその爪はズップリとその体に食い込んでおり、さらに先ほどからのダメージも相まって、蒔風の視界がぼやけてきた。
そのまま握り潰してしまおうとするが、短い腕ではまわしきれず、それもかなわない。
(畜生・・・この体じゃあ・・・)
荒い呼吸を一瞬だけ深く貯め込み、ケルベロスを投げ放つ蒔風。
ケルベロスが空中で止まり、まるでそこに大地があるかのように四本の足で立つ。
蒔風とケルベロスの視線が交差し、その瞬間に二人が動いた。
ケルベロスの三つの口砲に焔が溜まり、まず左の首が火球を撃ってきた。
左が撃ち、また溜めてるあいだに中央の首がうち、さらに右の首が撃つ。
そうして間に左の口が装填し終わり、再び火球を撃ってくる。
それはまるで鉄砲隊の様に、絶え間なく撃ち続けられる火球の嵐。
それを蒔風がすべて弾かんと行動した。
獅子天麟を「麒麟」と「獅子天」に分けて、それぞれ左右の手に持つ。
そして最初の火球を「獅子天」の上薙ぎで弾く。
次に来たのを「麒麟」で横に薙ぎ、回転しての後ろ蹴りで次を。
そのまま回し蹴りで弾いた後にその脚を切りかえして踵で弾き、さらに「獅子天」振り下ろして地面に落とす。
そういった行動を何十発と繰り返し、蒔風に一直線に飛んでいく火球は、蒔風に到達した瞬間、花火の様に四方八方に飛んでいく。
そして痺れを切らしたのか、ケルベロスは三首同時に火球を溜めこみ、それを飲み込んだ。
すると、ケルベロスの身体が焔に包まれる。
その姿はまさに「地獄の番犬」
冥界の神よりその任を任された三つ首の黒犬。
ならば、その身に焔をともそうともなんら不思議なことはない!!!
ケルベロスが猛烈な勢いで蒔風に突進してくる。
蒔風はそれを見、獅子天麟を鞘に収め、腰に帯刀する「火」に手を伸ばす。
荒い呼吸を沈め、目を閉じる。
五感を研ぎ澄まし、ケルベロスの迫る音だけを聞いていた。
そしてケルベロスが蒔風に到達する二十メートルほどのところで。
シュカン・・・・・・
という音が静かに響いた。
ケルベロスの身体が途中で凍ったように固まる。
蒔風が口を開く。
「・・・一閃・・・それは「一」瞬の「閃」光のごとき斬撃。ゆえにこの一閃に冠する名は在らず。なぜなら・・・これが「一閃」の極地だからだ。だた、「一閃」それだけでいい。鎌鼬切演武・単撃・・・・「一閃」」
パカァ・・・・
と、ケルベロスの身体が横に真っ二つに裂けた。
斬った瞬間など見えなかった。
斬られた感触もまた、なかっただろう。
それは最初からそういう形であったかのように、それが当然の形であるかのように、二つに分かれていった。
さらにその後方の雲が綺麗に斬られている。
上空では風は吹き荒れているにもかかわらず、斬られた後に雲が混じることはなかった。
ケルベロスの身体が消えていく。
蒔風が翼をしまい、地面に落ちていった。
「舜君!!!」
「舜!!!!」
なのはが叫び、クロノがバリアを解いて蒔風に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「はやては・・・どうした」
「・・・・連れていかれた・・・・闇の書と一緒にだ」
「チク・・・ショオオオオオオオオ!!!!!!」
蒔風の叫びが響いた。
少し離れたところで、ついにバインドが解かれたヴォルケンリッターやなのはも、悔しさに顔を歪ませ、その眼には涙が溜まっていた。
この世界は素晴らしい。
主人公はまっすぐで、敵ですらも美しい想いの持ち主だ。
友達のため、娘への愛情、主への忠誠、もう悲劇を起こさせないという決意。
ただ、この世界はあまりにも美しく。
そしてその純粋な想いゆえに、どこまでも残酷だった。
to be continued
後書き
アリス
「次回、主なき生活」
ではまた次回
傷つくたびに 優しくなれる
君のその笑顔だけ守り抜きたい
願いは一つ
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