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NARUTO~サイドストーリー~

作者:月下美人
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SIDE:A
  第一話



 この世界は前世で大ヒットした漫画【NARUTO】の平行世界らしい。


 それは少年――うずまきハルトがこの物語の主人公の兄として産まれたからだ。


 というのも、前世で難病を抱えていたハルトは症状が進行し、十八歳という若さで亡くなった。そして、目が覚めると一面真っ白い空間の中に立っていたのだ。


 死後の世界に対して否定的だったハルトだが、困惑する彼の前に転生神と名乗る人物が現れ、前世で悪いことを特にしなかったため前世ポイントというのが一定値を越えているらしく、転生できる権利を与えられたのだ。


 転生する世界はランダムで選ばれ、しかも有意義に過ごせるように特典が与えられる。残念ながら特典の数はルーレットで決められ、運悪くハルトは一つだけだったが。


 その結果、ハルトはここ【NARUTO】の世界に転生したのだった。しかも何の因果か、前の転生者が引き当てた特典プラスして。なんでも罪人を間違えて転生させちゃったらしい。ハルトは転生キャンセルとなった人に対し心の中で手を合わせた。


 前世では漫画もそれなりに嗜んでいたため当然【NARUTO】も知っている。とはいえ、ペイン戦までしか読んでないが。物語が完結する前にハルトの人生が完結したため、その後どうなったかは知らない。


 しかし、まさかこの家系に生まれるとは思わなかったとハルトは胸の内で呟いた。


「あぶぶぶぶー」


 まだ赤ん坊の彼はベビーベッドから小さな手をバタつかせる。赤ちゃんだから寝るくらいしかできなくて暇だ。


 それにしても――。


「ん~? どうしたのハルト~?」


 目の前にはニコニコ顔の女性。腰まで届く赤髪にヘアピンで前髪を分けている美女は何を隠そう彼の母、うずまきクシナ。


 父は四代目火影の波風ミナト。両親がこの二人だと知ってハルトは驚きのあまり泣いてしまったほどだ。


 うずまきクシナと波風ミナトは原作主人公であるうずまきナルトの両親だ。しかし、この両親はナルトが産まれる年に起こるある事件が元で死んでしまう。


 けれど第一子であるハルトが誕生しても二人は健在。それどころかまだ九尾襲撃事件も起きていない様子。


 ということから、ここは【NARUTO】の平行世界ということなのは間違いないだろう。ただ、それがどんな世界かはまだ不明。


 これから襲撃事件があるのかもしれないし、ないのかもしれない。ハルトがナルトの代わりなのかもしれないし、この先ナルトが産まれるのかもしれない。


 現時点ではまだなんとも言えないのが正直なところ。


 まあ、とりあえず――。


「あぶ~」


「あーん! もう可愛いわねぇ!」


 今から転生特典の把握とチャクラコントロールの修行をしないといけないかなと、抱き上げ頬ずりされながら、ハルトは冷静に人生設計を立て始めたのだった。





   †               †               †





 それから月日が経ち、三歳になった。


 ハルトは改めて今世の肉体スペックは半端ないと驚いていた。転生特典に【超人的な肉体】とあるが、まさに言葉のままだった。


 三歳といったら現代でいうところの三輪車を乗り始める時期。しかし色々とおかしいハルトの体は、常識を意図も簡単に覆してしまった。


 一度親の目を盗んで家の裏庭で簡単な身体能力をテストしたその結果――。


・脚力 → 思いっきり踏み込んだら蹴り足で地面が抉れた。一歩で十メートル移動しました。

・膂力 → 石を思いっきり投げたら大木を貫通しました。

・体力 → まだ不明。しかし三歳児以上なのは明らか。


 という規格外な結果となった。


 チャクラの総量はまだ不明。おぼろげな原作知識も引っ張りだして自己流で頑張ってはいるが、チャクラらしき存在は感じるけど操ることはできない。だが、少なくとも転生特典に【膨大なチャクラ(九尾相当)】とあるから、九尾レベルなのは確か。


 またそれに伴い他の転生特典である【創造忍術ノート】も上手く扱えていない。これは一見すると大学ノートのような本で、記入した設定を忍術として発現することができるという規格外のアイテムだ。ハルトの体と同化しており本人の意思で取り出せる。しかし、記入するにはチャクラを浸透させた字でないと無意味のようで、現状無用の長物と化していた。


 ちなみに残りの能力である【気合いパワー】の詳細は一切不明。検討もつかない。


 一日の大半を火影邸の書庫で過ごしているハルトは両親や周りの忍の人から内向的で大人しい子供だと思われている。


 同年代の子供が少ないというのもあるが、仮に九尾襲撃事件が起こると想定しているハルトとしては出来れば事件発生前に下準備をしておきたいのが本音だった。今世の両親であるクシナとミナトを見捨てるつもりは毛頭ない。


 ハルトとしては九尾襲撃事件を防ぐキーパーソンは転生特典の一つである【創造忍術ノート】だと思っている。これがハルトの思う通りの特典だった場合は今考えている『設定』は切り札となるはずだ。そのためチャクラコントロールの修行や知識を深めるために書庫に篭り本を漁っている。


 三歳にして大人が読むような難しい書物を読み漁るハルトにクシナたちは「この子は天才に違いない!」と大人たちを驚かせているが、知らぬは本人ばかり。


 そして、数ヶ月が経過し。


 運命の時がやって来た――。





   †               †               †





 その日、ハルトはいつものように火影邸の書庫で本を読んでいた。


 椅子に座りリラックスした様子で本を読むその姿はどこか微笑ましい。しかし、ハルトが読んでいる本が童話などの子供向けの本であるのなら、だが。


「……んー……む~……」


 難しい顔で時々唸りながらページを捲るハルト。彼が現在読んでいる本は『子供の人生計画!~将来を見据えて~』という教育に関する本だった。


 母であるクシナが妊娠して十ヶ月。出産日が今日らしく、母は現在家で命がけの大勝負に出ている。その付き添いとして父も家に戻っていた。


 ハルトも心配ではあるが自分が傍にいてもできる事はないし、実はそこまで不安はない。


 それにあの両親のことだ。母は「このくらい、どうってこと……ない……っ! ってばねー!」と驚異的な精神力と根性で乗り切るだろうし、天然な上に心配性な父はむしろハルトがそばにいると「ああっハルト! クシナ大丈夫かな!? 僕は心配で心配でしょうがないよ~!」とこっちまで飛び火するだろう。狼狽する父はぶっちゃけウザイ。


 ハルトの弟か妹が出来るのだと両親から嬉しそうに聞かされてからというもの、少年もまだ見ぬ家族の顔を楽しみにしてきた。そのため良き兄として今から勉強をしていたりする。


 静寂に包まれた部屋の中、ページを捲る音だけが支配する。


「……ふぅ……。んー……!」


 一通り読み終えたハルトは大きく伸びをして、凝った体を解した。


 元の書棚に本を戻したハルトは近くに据え置かれていた姿見に映る自分を見つめた。


 鏡の中の自分はきょとんとした目を向けている。


「髪、ちょっと伸びたかな?」


 そろそろ目もとを隠しそうな前髪を弄りながら「そろそろ切らなきゃ」と呟いた。


 ハルトの髪は母であるクシナ譲りの赤い髪で、男の子にしては少し長めの髪形である。首元まで伸びているため、その父譲りの整った顔立ちと相まい一見すると女の子のようにも見えた。


 父と同じ群青色の目はパッチリしており、そっちの趣味を持つお姉さまからは大変ウケが良さそうな容姿をしている。火影の息子として恥ずかしくないようにと、淡い青色の着物をきっちり着こなしているのも要因の一つとして言えよう。


「そろそろ、だよな。大丈夫……この日のために準備してきたんだから。大丈夫だ。大丈夫……」


 チャクラの扱いにも慣れてきたため【創造忍術ノート】も活かせるようになったハルトはまだ見ぬ大事件に備えてある忍術を開発してきた。実験段階では上手く機能したが、これが彼の者に通用するかは別問題。正直不安は拭いきれないが、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせて平常心を装った。


 転生特典の一つ【努力するほど成長できる才能】のお陰でかなりの実力を身につけることが出来たと自負しているくらいだ。やはり影分身でのレベリングは反則級で超有用。今では複数の影分身を修行場へ送り、定期的に解除というサイクルを送っているため術に関する扱いは鰻上りである。体術関連は本体であるハルトでないと意味がないが。


「爺ちゃんのところにでも行くかな」


 そう呟いて書庫から出た時だった――。


 辺り一体に響き渡る轟音と震動。立っていられず咄嗟にその場にしゃがみ込むほどの揺れが襲った。


「な、なんだ?」


 騒がしくなる火影邸。色々な人が走り回るその姿からただ事ではないと察することが出来る。


 ハルトは事態を把握するために急いで三代目がいる執務室へと向かった。


「爺ちゃん! なに今の!?」


 扉を勢いよく開け放ち中に入る。そこには忍装束に着替えた三代目火影ヒルゼンが部下たちに指示を出していたところだった。


「おおハルトか! では頼んだぞお前たち!」


『はっ!』


 面をつけた忍たちは一斉に低頭すると、シュバッとその場を離れた。


「何が起きてるの?」


「うむ、九尾の封印が解けたようじゃ。儂はこれから九尾の対応に向かう。ハルトは母たちの元へ向かうがよい!」


「うんっ」


 窓から躍り出たヒルゼンを見送り、ハルトは急いで自宅へと向かった。


「ついに来たかこの時が……! 母さんは無事なのか!?」


 小さな脚を動かしながら自宅へと向かう。途中響き渡る轟音に振り返ると、見上げるほどの巨躯の妖狐が暴れまわっていた。


 九尾が外壁近くにいるということは、家に仕掛けたトラップは上手く作動したということだろう。もしトラップが起動しなければ、九尾は封印されていた人柱力であるクシナの近くに顕現するはずだからだ。


(ここまでは重畳か……。一世一代の大博打。絶対に成功させて見せる!)


 人がいないことを確認したハルトは裏路地に入ると指で十字を作った。


「影分身の術! そして変化っ!」


 ハルトは実態を伴う分身の術――影分身を使い分体を一人作ると、変化の術を使って大人に化けさせた。


 大人に化けた分体は暗部と同じ忍装束と狐の面を被っており、一見すればそこらにいる暗部と変わらない。これでハルトと見抜くのは難しいだろう。


 分体と本体は頷き合うと同時にその場を離れた。


「母さんっ! 汐音ぇ!」


 ハルトは母たちの安否を確かめに急いで自宅へと戻った。


 ハルトたちが暮らす家は三階建ての大きな一軒家だ。大きな損害がないことを確認したハルトは自宅に上がりこみ、クシナの元へ駆ける。


「母さん! 大丈夫!?」


「は、ハルト……?」


 クシナはリビングで座り込んでいた。封印が解けた影響なのか血色の悪い顔で血相を変えてやってきた息子を見る。


「母さんは、平気よ……。それより、汐音を連れて避難場所に、向かいなさい」


 傍に寝かせていた汐音を抱き上げ、ハルトに託すクシナ。


 しかしハルトは母の声が聞こえていないのか、クシナの腹に手を当てるとぶつぶつと独り言を呟いた。


「やっぱりチャクラの波長が乱れてる……生命力も弱いな。このままだと持って一日か……」


「ハルト? どうしたの……?」


 クシナは真剣な顔で何かを呟いているハルトに困惑した表情を浮かべた。


 いつも笑顔で父譲りの天然と陽気な性格を持つハルト。そんな普段の彼からは想像もつかないような雰囲気を漂わせていた。


 まるで別人になったかのような、そんな錯覚まで抱きそうだ。


「まずは母さんのチャクラを安定させて生命力を充填しないと。創造忍術 解析眼!」


 複雑な印を一息で組みチャクラを目に集中させる。すると、ハルトの眼に変化が生じた。


「ハルト……、あ、あなた、その眼……」


 ハルトの瞳には蒼い六芒星に細かな記号のような文字が刻まれた紋様が浮かんでいた。もしハルトと同じく転生者がいれば、それが『魔法陣』と呼ばれるものだと察することができるだろう。


 驚愕の表情で絶句するクシナに微笑んだハルトは真剣な表情に戻った。


「詳しい説明はあとで。今は母さんを助けることが先決だから」


「……わかったわ。でも、あとでちゃんと説明しなさいね……」


「ん。――解析完了。よかった、なんとか補填できる量のエネルギーだ」


 再び複雑な印を組み、新たな忍術を発動させる。


「――創造忍術 (えにし)の結び!」


 ハルトの体から半透明の管が伸びクシナの体に接続される。パスが形成されたことにより、ハルトの体からチャクラと生命力がクシナの元へ流れていくのを感じた。


「……っ! これは、体の倦怠感や悪寒がなくなっていく……? それにチャクラが回復していくなんて」


 目を丸くしたクシナは信じられない目つきで自身の両手を見下ろした。あきらかに血色がよくなっている。


 人柱力であったクシナが喪失したチャクラと生命力は膨大な量であり、とても一人の人間が補えるものではなかった。しかし、運がいいことにハルトは普通の人間ではなかった。


 寝る間も惜しんで励んだ修行により、転生特典のほとんどを使いこなせるようになっていたのだ。そのため、特典の一つである【膨大なチャクラ(九尾相当)】でチャクラを【超人的な肉体】で肉体に宿る生命力を補うことが出来たのだ。


 不足していた量のチャクラと生命力を充填することに成功したハルトは再度、万物を解析する眼でもってクシナの状態を確認した。


「――解析完了。……はぁ~、よかったぁ。これで母さんは大丈夫だよ」


 瞳をいつもの群青色の目に戻しにっこりと笑う。とりあえず母の死を免れたことで半分安堵していた。

 
「クシナっ! 大丈夫かい!?」


 その時どこからともなく、父ミナトが現れた。飛雷神の術による時空間移動だろう。


 ミナトはいつもと変わらないクシナの様子に「あれ?」っと首を傾げた。


「クシナ……? 八卦封印が解けた、よね?」


「ええ、解けてさっきまで死にそうだったんだけどね。さあ、はーるーとー? いったい何したのか説明してもらうわよ!」


「……ハルト?」


 逃がさないってばね! と腕を広げるクシナに、状況の理解が追いつかないのか首を傾げるミナト。


 ハルトは降参だとでもいうように両手を上げて苦笑を浮かべた。


「わかってるよ、ちゃんと説明するってば。でも今は九尾をどうにかするのが先決だよね」


「むぅ、まあそうね」


「そうだね。よくわかんないけど、後で説明してくれるんだよね?」


「ん」


「なら父さんは信じるよ。じゃあハルトは汐音を連れて避難先の火影岩のところに行くんだ。クシナは僕と一緒に」


「ええ」


「ちょっと待って!」


 飛雷神の術で飛び立とうとしている二人に待ったの声を掛けるハルト。出足を挫かれたミナトは困った顔をしながら振り返った。


「父さん、俺も連れて行って! 俺なら九尾をどうにかできるかもしれないから!」


「どうにかって、何を言ってるのハルト! 連れて行けるわけないじゃない」


「そうだよ。ここは危ないから汐音を連れて避難してくれ」


「やだ!」


 クシナの眉が跳ね上がる。ミナトも厳しい目でハルトを見た。


 しかしハルトは二人の視線を真っ向から受け止め、それでも真剣な顔で二人の目をジッと見つめた。


「父さんたちの言うことも理解している。危険なのも分かるし、わがままだって言われても仕方ないって。でもお願いです、俺も連れて行ってください!」


 その真剣な表情にクシナは先ほどまでのハルトを思い出した。死を免れないクシナを救ってくれたハルト、その時彼が浮かべていた表情も今と同じ真剣な顔をしていたと。


 一方ミナトも頭を下げ続けるハルトに感じ入るものがあった。普段から物分りがよく我侭を言わない息子。手の掛らない子供で親としてそれが寂しく思っていたが、初めて息子が我侭を言った。


 この非常事態だというのに、という思いはもちろんあるが、それ以上に頭の良いハルトがここまでする理由が気になった。


「……ハルト、さっき九尾をどうにかできるかもしれないって言ったね。それはどういうことかな?」


「ごめん、うまく言葉では言えない。でも後でちゃんと説明するから」


 そう言って顔を上げたハルトの目には強い意志が宿っているように感じられた。


 はあ、とため息をついたミナトは小さく頷く。


「わかった」


「ちょっとミナト!?」


「あのハルトがここまで言うんだ。本当に手があるのだろう。ならそれを信じてみようじゃないか」


「でも……」


「大丈夫だよ。いざという時は僕は守るから」


「……あー、もう! 一度決めたら梃子でも動かないのはミナトに似てるのかしらね。ハルト! 絶対に私たちの傍を離れちゃいけないからね!」


「うん! ありがとう父さん、母さん!」


 満面の笑顔を浮かべる息子に、クシナとミナトは小さく笑った。


 影分身で汐音を避難させたミナトはハルトを背負うと、クシナと頷き合い家を出る。


 木の葉を救うために――。

 
 

 
後書き
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