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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第四十三話 鈍足の艦隊だって時には役に立つのです。

 第5艦隊旗艦リオ・グランデ艦橋――。
■ シャロン・イーリス准将
 久々の機会到来よ。今度こそラインハルトを仕留めなくてはならない。いえ、彼を仕留められないまでも、イルーナ、アレーナ、ティアナ、フィオーナが戦場に出てくるのであれば、返り討ちにしてくれるわ。
 幸い私の司令官はアレクサンドル・ビュコック中将。前のムーアなどと違って、聡明な提督だから、部下の意見を無下にしないでしょう。ただし、どちらかといえば戦術レベルを優先する方であるから「全体の戦局を理解して艦隊を動かせるかどうか」が今回のカギというところかしらね。
 私のほかに、転生者としてティファニー、アンジェを見出すことができていたのは幸いだったわ。彼女たちもそれぞれ別艦隊に所属しているから、ずっと遭遇できる確率は上昇するもの。極低周波端末をそれぞれ持ち寄って連絡を取りさえすれば、私が正面に立たなくとも、ラインハルトを見つけ次第仕留めるのは造作もない事。
 原作通りに事が進めば、ラインハルトはヴァンフリート星域の例の補給基地に陸戦部隊として上陸するところ・・・・・なのだけれど、今回はどうも様相が違ってきている気がする。なぜなら焦った味方の一部が突出して、包囲体制に穴が開いてしまったから。
 信じがたいことをするわね。獲物を咥えこんでからゆっくりと消化すれば、もうそれだけで帝国軍は消滅するというのに。
 混戦状態になりそうな戦況には変わりはないのだけれど、グリンメルスハウゼン艦隊が最初からずっと後方に位置していると偵察部隊から連絡があったのが気になるところ。いったい何があったというの?
 まぁ、いいわ。戦局に応じて戦術を変更するのは何もこの現世だけの話ではないのだから。まだ会戦は始まったばかり。じっくりとチャンスをうかがうことにしましょう。


■ アレクサンドル・ビュコック中将
 やれやれ、混戦状態になりそうだの。ヴァンフリート星域では敵軍の動きはまさにこちらの予測した通りじゃったが、味方の動きが予想外じゃった。何故あそこではやって突出してしまうのか。もしやここ最近大規模な戦闘がない事への焦りと功名心の生み出した結果だというのか。そうだとすれば嘆かわしいの。
 となると、こちらはその混沌とした渦に巻き込まれぬよう、秩序をもって包囲体制の一画を継続して保ち、長距離砲撃で対応するほかあるまい。儂が言うのも何だが、包囲体制に穴が開いた時点で、勝機を逃しているからの。
儂がそう思っていると、新しく赴任してきた次席幕僚の若い娘さんが同じようなことを参謀長に話し始めておった。
 ふうむ、中々の卓見じゃの。最初の頃は何を考えているやらようわからんかったが、あの娘さんもそれなりに戦場での見識を備えておる、というわけか。ここはひとつ乗ってみるとしよう。


ヴァンフリート星域――。
 帝国軍本隊はグリンメルスハウゼン艦隊を残し、ヴァンフリート星域に吸い寄せられるようにして集められ、不完全ながらも、完成していた同盟軍の包囲体制に引きずり込まれていた。思ったほど被害が出ないのは、ヴァンフリート星域が小惑星帯の集合体であるため、双方の砲撃がそれら小惑星に阻まれて、効果を発揮できないためである。
 こうしたことから、ミュッケンベルガー大将は、いったん艦隊を後退させて、秩序を再編成し、あらためて進撃するようにビリデルリング元帥に意見具申した。

『やむをえんのう!!後退という文字は儂の中には存在せんのじゃが、今回はやむをえんか!!』

 ビリデルリング元帥はミュッケンベルガー大将の意見を採用し、艦隊を秩序をもって後退させようとした。

 この動きをいち早く察知したのは、第9艦隊のバール・ビュンシェ中将である。かれは帝国軍側面にいたため、正面部隊よりも早くこの動きに気付くことができた。バール・ビュンシェ中将は白人の40代のひげ面の茶色髪の指揮官である。ビュコック中将らに言わせるとやや陽気すぎる点があるが、当の本人はそれが艦隊の士気向上につながると思っているのであるから、認識の差というものは恐ろしい。
 前回のイゼルローン要塞攻防戦においては、一軍を率いて要塞に攻めかかったものの、たいした戦果を上げられずに帰還している。もっとも本人は「生きて帰れたぞ!!」と、それをいささかも気にしていなかったが。

「ようし!!全艦隊敵の側面に張り付け!!小惑星を盾にしながら接近し、近距離砲撃で削るぞぉ!!」

 中将の号令一下、横陣形で進出した第九艦隊は帝国軍の左側面に射撃を開始した。砲撃自体はあまり統制が取れているわけでもなく、小惑星帯に阻まれもしているため、効果はあまりなかったが、帝国軍にとっては心理的動揺は大きかった。すなわち敵が包囲網を縮めてきたと錯覚したのである。

「まずい!!」
「敵にすりつぶされるぞ!!」
「後退だ!!」
「後退しろぉ!!」

 各艦隊が恐慌をきたして下がろうとするのをビリデルリング元帥は叱咤激励した。

「バカ者!!よく目ん玉開けてみろ!!包囲しようとしているのは一部の艦隊じゃ!!他は動いておらんではないかッ!!むしろこれが好機じゃ!!!左側面の敵は横陣形、突破するのは容易ではないか!!全艦隊、時計回りに運動を開始せい!!」

 ビリデルリング元帥はこの機会を利用して、ジョウカイ進撃を行い、同盟軍の後背に出ようとしたのである。だが、敵に察知されないよう、一部をもって正面と右翼に手当てさせ、主力3万隻余りをさっと縦陣形に編成すると、どっと左翼に向けて押し出させた。左翼に展開するのは、先ほどの同盟軍第九艦隊である。

「しまったぁ!!!」

 バール・ビュンシェ中将は狼狽した。その狼狽の様子もどこか陽気で有り、まるでへたくそな三文芝居を見ているかのようである。これがかえって良かった。誰もが笑いをこらえ、事態の深刻さに伴う恐慌を回避できたからである。

「いいさ、中央は敵の蹂躙にまかせよう!!敵が通り過ぎたら、部隊を再編して敵の後ろをついていくとしよう」

 この判断は適切だった。少なくとも自軍に余計な出血を与えることをさけるという点では適切だった。しかし、敵のジョウカイ進撃を許してしまうということは、総司令部本隊を直撃させてしまうことになる。

* * * * *
 ビリデルリング元帥の主力艦隊3万隻が離脱するのを、シャロンは見逃さなかった。正面と右翼に対応しているのは残る敵の2万隻余りである。正面部隊と協力して押せば、敵に対して互角以上の優勢を発揮できるのではないか。

「司令官、敵の主力が正面戦線から離脱しました。おそらく第九艦隊を突破し、錠回進撃を行い、総司令部の背後に回り込むのではないでしょうか?」

 シャロンの言葉に、ビュコック中将はうなずいた。

「ふむ、貴官の言う通りだな。今から総司令部本隊の防衛に行くのでは、時間がかかりすぎる。では、こちらとしては敵の残存艦隊に圧力を加え、敵の後衛を襲うというやり方が手っ取り早いかな」
「おっしゃる通りだと思います」
「しかし、そうはいっても総司令部が手薄になる危険性は高いと思いますが」

 参謀長が疑問を口にした。その疑問を持つのはもっともだとシャロンは思ったが、あえて口を出さなかった。なんとなくだが司令官はすべて理解しているような気がしていたからである。

「心配はいらんと思う。正面の予備軍としてボロディンが控えておる。(誘導が完了した後、ボロディン艦隊はいったんビュンシェ艦隊と入れ替わり、予備隊となっていたのだ。)彼ならば戦局に柔軟に対応するじゃろう。それに、後ろの心配ばかりしておっては、正面の敵に攻め寄せることはできんぞ」

 参謀長は苦笑した。それは老人のたわごととバカにしたのではなく、後ろを気にしすぎる己の姿勢を顧みての事であった。

「その通りですな、では、全艦隊に攻勢の指示を出されますか?」
「うむ」

 ビュコックはうなずき、司令席から立ち上がった。

「全艦、正面の敵に接近、主砲を斉射しながら、突撃じゃ!!」

 ビュコック中将の正面突撃の策は、敵に対して損害を増すばかりのような気がするが、今回は小惑星帯がある。敵の砲撃は思ったほど当たらないだろうし、逆にこちらの砲撃を効果的に浴びせるには接近戦に持ち込むしかないのである。
 第五艦隊は小惑星帯を巧みにすり抜けながら、帝国軍の右側面前に進出し、隊列を整えて、一気に距離を詰めた。

「ファイヤー!!」

 ビュコックが右手を振り下ろした。1万数千の艦艇から一斉に砲撃が放たれ、帝国軍右翼に命中する。

「これは!!」

 右翼を指揮するシュタインホフ大将は狼狽した。主力艦隊がごっそり抜け、後衛にされることは事前に承知していたが、それは敵が一定の距離を保って包囲体制を継続するからこそである。全面攻勢に出てこられては、こちらの体力が持たない。

「後退しろ。いや、応戦しつつ秩序をもってな」

 シュタインホフ大将は攻勢は苦手であったが、守勢は得意としている。だからこそビュコック中将の攻勢にも秩序をもって艦隊を運動させ、規則正しく後退していった。

「ほう、やるもんじゃのう」

 ビュコックは感嘆したが、追撃の手は緩めなかった。帝国軍右翼が押し込まれれば、正面部隊は孤立する。そこを正面に展開している第十艦隊が押し出して叩けば、一気に戦局は傾くだろう。後は孤立した本隊3万隻と後ろで何を思ってじっとしているかよくわからない艦隊を叩けばいい。
 さすがのビュコック中将もシャロンも、まさか旗艦が故障して立ち止まっているとは予測していなかったのだった。

 
 そのグリンメルスハウゼン艦隊では、旗艦の機関が復旧した。もともとメインバイパスが吹っ飛んだと言っても、エンジンに損傷はない。部品を交換すれば済む話である。
 それにしても、とフィオーナは思う。まったくタイミングのいい話だ。結果論であるが、今帝国軍は左翼の敵を突破して主力が錠回運動をはじめており、正面展開している前衛正面部隊と右翼部隊が敵に攻撃されている。特に右翼は押されっぱなしであるから、このままではちぎれ飛んでしまうだろう。
 今こそグリンメルスハウゼン艦隊の出番である。敵の第五艦隊のさらに外側から側面攻撃をかけ、押し込めば帝国軍右翼と協力して一気に敵を突き崩せるではないか。

 ところが!!!

この期に及んで、グリンメルスハウゼン爺様は昼寝をし、参謀長は「命令が下っておらん」と突っぱね、参謀たちもふくれっ面をしているだけだったのだ。
 さすがのフィオーナもこれには大きなため息を内心つくしかなかった。アレーナがその場にいれば、

「パチンコでフィーバー目前の確変が起こっているのにそれをしり目に席を立つ客を見ている気分ね。金をどぶに捨てているようなもんだわ」

 とでも言ったかもしれない。

「やむをえないわ」

 フィオーナは身をひるがえして、艦橋を出ていった。動かないのなら、多少手は荒っぽいけれど、確実に動かす方法をとるしかない。

「アレーナさん!!」

 フィオーナは自室に舞い戻るなり、極低周波端末で頼みの綱を呼び出したのである。

 ほどなくして、通信手が目の前の通信元を見、信じられないという顔をして、司令官席を振り返った。

「コ、コ、コ――!!」
「どうした!?ニワトリなんぞこの艦橋にいないではないか!!!しっかりせい!!」
「違うよ!!!バカ!!!!」

 という声を通信手はこらえ、やっとの思いで叫んだ。

「こ、皇帝陛下からの直接通信ですっ!!!」

 その言葉に艦橋がざわめいた。

「な、なんだと!?確かなのか!!??」

 参謀長が裏返った声で叫んだ。

「間違いありません!!!前代未聞ですが、陛下専用の通信コードからです!!!」

 通信コードは無数に設定されていて、それがあればどこから来たのかがすぐにわかるのである。そして、そのコードによれば、なんと皇帝陛下自らが艦隊に通信をしてきたというのである。参謀長は青くなり、参謀、副官はガタガタと震え、兵卒は卒倒せんばかりであったが、フィオーナとリューネブルク、そして当のグリンメルスハウゼンは顔色一つ変えていなかった。

『おぉ、グリンメルスハウゼン。息災かの?』

 皇帝陛下のご尊顔がモニターに映る。

「おぉ、陛下。臣はここにおりますぞ」

 なんともピント外れな回答に、一同と息を吐く思いであったが、皇帝陛下は特に気にもせず、艦隊のことを聞いていた。それに対してグリンメルスハウゼンが、参謀長がかわるがわる応えていく。この間5分であったが、フィオーナにはその5分間が1時間ほどに感じていた。

『時にグリンメルスハウゼン、ビリデルリング元帥からは何も言ってこなんだか?』
「はっ、まだ何も言うてはおりませぬでな。こうして待っておりますのじゃ」

 ビリデルリング元帥やミュッケンベルガー大将が聞いたら、血管を破裂しそうな回答をのんびりとグリンメルスハウゼンはする。だが、フリードリヒ4世はそれに対しても穏やかに、

『のう、グリンメルスハウゼン。今卿等から送られてきた戦況を見るに、反乱軍の一部が我が方を圧迫して居るではないか。今そこの側面後背を突けば明らかにわが軍が有利になるというに。こうした時には卿らは司令官の意志を確認せず、速やかに前進してこれを討つべきではないのかの』

 ぎょっとした顔を参謀長以下がした。総司令官からの命令云々の話ではない。ずっとずっとエライ皇帝陛下御自らがグリンメルスハウゼンに「早く動け!!」と尻を叩きに来たと直感したからである。下手をすれば職務怠慢で処罰されかねないと参謀長以下は居ても立っても居られない思いだった。
 こんな時、人間は目の前の事象だけを見てしまう。焦りに焦った時にはなおさらである。だから彼らは「どうして皇帝陛下直々に!?」という根本的な疑問を考えることをスルーしてしまった。もっともそれこそがアレーナ&フィオーナの狙いとするところであったが。

「おぉ、そうでありますな。儂としたことがうっかりとしておりましたですじゃ」
『うむ。グリンメルスハウゼン、頼むぞ。今卿等の艦隊が反徒共を痛撃すれば、卿等の功績は長く残るであろうからの』
「陛下、吉報をお待ちあそばしますよう・・・」
『うむ』

 皇帝陛下の通信は切れた。それを待ちきれずに、参謀長たちは一斉にがなり立て始めた。

「戦闘用意!!」
「全速前進!!」
「右翼を襲っている敵に取り付け!!あれをぶっ潰すのだ!!」
「足の遅い艦は置いていけッ!!」

 先ほどまでアヒルの様に昼寝していたのがウソのような機敏さである。たちまちのうちに用意を整えたグリンメルスハウゼン艦隊は高速艦隊に負けない速度で猛進し始めたのであった。

 この皇帝自らの通信の背景には、当然フィオーナのアレーナへの迅速な連絡があったことは言うまでもないだろう。
 
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