仮面ライダークロウ
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第1話 咬傷
それは突然現れた
街の中心部の土地が隆起し、巨大な山が出来た。専門家たちが連日調査を行っているが未だに原因がわからないという。周辺の住民は避難したがそれでも不安は拭えず、人々の間では地獄山と呼ばれ始めている。
そして俺、水城翔は今その山の麓に立っている。不本意ではあるが。
「何時までそんな顔してんのさ、翔」
俺がこの場にいる原因を作った女が言う
「あたりめーだろーがよ!いいか!休日のこんな朝早くに叩き起こされ、バイク走らされ、こんなところに連れてこられたと思えば、怪人が現れるって噂を聞いただと?くだらねえよ!いるわけねぇだろ!馬鹿か⁉︎馬鹿だったなお前!」
「うるさい!みんな言ってるんだ!テレビのは胡散臭くて信用できないけど友達が言ってるんだ!」
「テメーの友達も胡散くせえのばっかじゃねーか!いい加減にしろ!」
本当にうるさい女だ。こいつ…小泉桃とは高校で知り合い、趣味や性格の一致で仲良くなり、まさかの大学も同じなわけだが…遠慮というものはないのか?女ってみんなこんな感じだったか?だとしたら俺は今とてもゲイになりたい。いや、ゲイも嫌だな。少なくともおとなしい女と仲良くなりたいものだ。
「胡散臭くなんかないもん!いいから早く上行くよ!」
そう言って桃は俺の服の袖を引っ張り、引きずってでも連れて行こうとした
めんどくさい上に怪物騒ぎというのも馬鹿馬鹿しいがこの山自体には興味がある。探検するのも悪くないだろう。
…こいつの思い通りになるのは気に食わないが
「わかりましたよっと…行きゃいいんでしょ。怪物なんていないのがわかったら俺はすぐ帰るからな」
そう言いながら足を進めた。
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「満足か?怪物の足跡でも見つかったか?お?」
「いやー、結構高さあるねーいい景色だなぁ」
「誤魔化すなポンコツ。埋めるぞ」
「お前もいい景色だと思うだろー?」
「はぁ…カタツムリのファック見てたほうがまだ面白いな。」
そう言うと桃は無言で腹パンを決めてきた
「ゴフュッ…こ、このクソアマ…何しやがる…?」
「すまない、手が滑った」
「真顔で言うな…」
こういう時、殴ってもいいのかもしれないが悲しいことにこんな性格のくせに女は殴れない。俺の数少ない紳士的な面だ。
「…で?もう帰ってもよろしいかな?」
「よろしい」
「OK…あとお前は徒歩で帰れ」
「はあ⁉︎なんでさ!」
「当たり前だろ、こんな下らないことに付き合わされた俺の気持ちを考えろ!」
「うるさい乗せろ!」
再び腹に向かって拳がめり込む
「痛ァッ!」
俺はその場に倒れこむ
だが腹パンの所為ではない。首だ。首筋に何かが噛みついたような痛みが走った。
「え…?」
桃が驚き、身体を支える。
「お、おい!大丈夫か⁉︎なあ!しっかりしろ!」
すごく心配そうな顔でこちらを見ているのがわかった。こういう時に限って女の子らしい表情をしやがる。
薄れていく意識の中、視界の端に黒い靄のようなものが一瞬だけ見えた。
そして俺は目の前が真っ黒になった。
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次に記憶があるのは真っ白な病室で目を覚ましたところからだ。
首には包帯が巻かれているがすでに痛みはない。横を向くと俺が目を覚ました事に気付いたからか不気味な笑みを浮かべている桃がいた。
「なんだその顔は?気持ち悪いな…帰れ。お前を見て他の患者が悪化したらどうする。」
「命の恩人にそれは酷いんじゃないの?お前、下手すりゃ大量出血で死んでたんだぞ?」
「そんな大袈裟な…」
そこまで言いかけた時に医者と思われる男が入ってきた。
「大袈裟ではありませんよ。傷は浅いですが血がなかなか止まりませんでしたからね。彼女が通報しなければ本当に死んでいたかもしれません」
「そうなんですか…」
「ほら〜命の恩人に対して言う事があるんじゃないですかーーー?」
「…ありがとよ」
感謝の念を感じてはいるがこいつに対しては素直に伝えるのは癪だ。故に聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいた。
「ん?なんだって?よく聞こえないなぁ」
「とっとと失せろこの馬鹿女と言ったんだ」
「酷いなぁ…」
このやり取りを黙って聞いていた医師が再び口を開いた
「水城さん、どういう状況でこの怪我を負ったか教えてくれませんか?一応小泉さんから大体のことは聞きましたが念のため本人にも聞こうと思いまして」
「そんなこと言われても…特に何もただたんにあの山でこいつと話してたら急に…」
「…小泉さんの証言と一致してますね。実は首筋に咬傷があり、それを調べたのですが…この辺りに生息するどの動物のものではありませんでした。」
「…あ」
そこまで聞いて、俺は気を失う直前に見た黒い靄のことを思い出した
「どうかしましたか?」
「いや…何でもないです。気のせいでした。」
恐らく見間違いかなんかだろう。気を失う直前なら幻覚ぐらい見るさ。
「では何か関係のありそうなことを思い出したら連絡して下さい。血は既に止まっているのでもう帰っても大丈夫です。」
「ありがとうございました」
何か思い出したら、とは言われてもなぁ…
そもそも首筋の状況なんて俺から見えるわけないしな…
そう思いつつ靴を履き、病室を出た。
「この後どうする?」
後ろから付いてきた桃が聞く
「どうもしねぇよ…今度こそ家に帰る。大切な休日なのに面倒なことになったしよ」
「あぁ…そうだよね」
「なんだ?いつもならそんなの無視してどっか行こうとか言い出しそうなのに」
「いや…ほら今回の怪我は私が無理やり誘ったせいでこうなったしなんか悪いな〜って」
珍しく従順な事に驚いた…が、なんだかこのまま帰るのもかわいそうになってしまった
「…気に入った、やっぱこのまま帰らずに喫茶店でも寄るか」
「え?」
「奢ってやるよ、なんかそんな気分になった。ついでに山の辺りに置いてきたバイクも取りに行かなきゃだし」
「まじで!よっしゃァ!」
「じゃ、行くぞ」
その時俺は既に身体の中の違和感に気付いていた。まるで自分以外の何かがいるような…
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「結局あの地獄山ってなんなんだろうね」
喫茶店に向かって歩いていると唐突に桃が呟いた
「そんなん知るわけないだろ。専門家ですら頭を抱えてるんだぜ?」
「でもさ、あの周辺で行方不明者とかも出てるって噂だし例の怪物と関係あるかなって」
「は?行方不明者?そんなん初耳だ、そんな危険な場所に俺たち行ってたのか?」
「いやあくまでも噂だよ?でもなんか不気味だなって。私はお前なら守ってくれると思って同行させたんだ」
こういう時だけ調子のいいことを言いやがる。それにしても怪物騒ぎ…不思議な出来事を経験した今となっては本当の話だと思えてきてしまう。一体何が起きてるんだ?
「キャーーッ!」
その疑問は一瞬で吹き飛んでしまった。
「何だ⁉︎」
叫び声が聞こえた方を見ると
逃げ惑う人々の間から真っ白い彫刻のような怪物とその前で立ち尽くす女性がいた。
「何…あれ…?」
「俺にもわからんよ…もしかしたら例の怪物かもしれんな」
「○△×□!○△×□!」
怪物が女性に向かって何かを叫んでいるが周りの騒音のせいでうまく聞き取れない。
「助けなきゃ…」
そちらへ向かおうとするが服を引っ張られる。
「何言ってんの⁉︎お前まで襲われたらどうする⁉︎」
「だからと言って放っておけるか!」
「いいから逃げよう!しょうがないよ!」
「ぐっ……」
その時だった。
『彼女を助けたいか?』
首の傷が疼くと同時に頭の中に何者かの声が響く
『あの女を助けるための力が欲しいか?』
「何言ってんだ!誰だお前は!」
「急にどうしたの!」
「誰かの声が聞こえるんだよ!」
「え?」
『答えろ。人を救うための力が欲しいか?』
「クソ…何だよこれ…映画みてえな展開だ…」
『早くしろ!救えるかもしれない命を見捨てるのか!』
怪物が女の方へ歩み寄るのが見える
「クソ…いいか!ヒーローのお誘いみたいな話をしてるが俺はそんな責任持てるようなやつじゃねえ!ただ自分のやりたいことをする!その力ってのを使って今はあの女を助けても明日は殺人を犯しているかもしれねえ!それでもいいか!」
『力の使い方は人次第だ…』
「だったらその力をよこせ!いい子ちゃん生活を強要されないのなら大歓迎だ!」
『よかろう!』
その言葉とともに腰にドラゴンのようなモンスターの横顔の形をしたベルトが現れた。
そして次に右手の中に真っ赤なプレートが現れる
『本能に従え…』
「やってやろうじゃねえかよォ!」
ドラゴンの口をこじ開け、中にプレートをブチ込む
「変身!」
その掛け声とともに口を閉じると全身が炎に包まれ…一瞬で変身が完了した。
「オラァッ!」
一気に怪物の元へと駆け込みパンチを食らわせる
「何だお前は!邪魔をするな!」
怪物が立ち上がりこちらを睨みつける
「…⁉︎その禍々しい力…どうやらお前を先に始末せねばならないようだ」
「なぁんだ、見た目の割にちゃんと話せるのね。すぐ近くに喫茶店あるからそこでお茶でも飲みながら平和的に解決できない?」
「ふざけたことを言ってるんじゃない!」
怪物の拳が迫る。ギリギリのところでなんとか避けて今度はキックをお見舞いした。
「ンヌゥ…中々やるじゃないか…」
「お褒めの言葉どーも。この仕事今日が初めてなんだ。いい筋してるでしょ?」
「あぁ…だがこの場で死んだらそれ以上は望めないな!」
トカゲのような怪物の口から火炎弾が放たれる。予想外の攻撃に今度は避けられなかった。
「アッツゥ!おま、ずるいだろうがよ!」
その場にあった椅子を投げつけ、再び距離を詰める。
「オラオラオラオラオラオラァッ!」
一番気合の入りそうな声を出しながら相手へラッシュを叩き込む。
「これで終わらせる!」
ベルトの反対側、ドラゴンの首のあたりのレバーを捻る。ドラゴンの目が真っ赤に光り、足にパワーが充填されていくのがわかる。
「ハァァァァァァッ!」
上空へ飛び上がり相手に向かってキックを放つ。足をドラゴンの顔型のエネルギーが包み込む。
「馬鹿な!これほどの力…ありえん!」
怪物はまた火炎弾を発射するが全て打ち消される
「ぶっ飛びな!」
「WRYYYYYYYYYYYY!!」
キックをヒットさせ綺麗に着地する。その後ろで怪物が叫び声をあげながら爆発した。
「…ふう」
見ると、怪物がいた辺りに光の球のようなものがあった。
「これは…?」
するとベルトの目の部分からから黒いドラゴンのようなものが現れその光の球を喰らい、またベルトの中へと戻っていった。
「今のは…?まだまだ把握できてねえな…」
ベルトからプレートを抜き出し、変身解除する。
最初から最後まで、既に体が覚えているかのようにスムーズに戦うことができた。
だが…今野は結局なんなんだ?それを聞かずに倒したことに少し後悔する。
「…ま、いいか。こういうのは一匹いたら百匹いると思えってよく言うしな」
振り返ると、心配そうな顔をしながら桃が近づいてきていた。
「お前…なんだよ今の!すげえな!まるでアメコミのスーパーヒーローだ!」
そう言って表情を180度変えて突進してきた。
「おいやめろよ。俺にヒーローなんて合わねえ。」
「え〜でも今の凄いヒーローっぽかったよ。これからもあんなのが現れたら退治したらいいのに。」
「当然そのつもりだ。奴らがなんなのか気になるしな。でもこの力…他にも使い道はあるし戦い方もそんなスタイリッシュじゃ…待てよ」
そこまで言ってあることに気づく
「どうしたの?」
「女がいない」
「女?」
「さっきまで襲われそうになってたやつだ。そいつにも何かしら聞こうと思っていたが…まあいい。逃げたならそれでいいさ。」
そしてまた喫茶店への道を進み始める。
「ほら行くぞ。早いとこ休憩したいんだ。」
「うん!」
それにしても…あの声は何者なのだろうか。それだけが頭の中でぐるぐると回っていた。
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