遊戯王EXA - elysion cross anothers -
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PROLOGUE EDITION Volume.1
PE01-JP001《必ずしもテンプレからは始まらない》
前書き
初めての方は初めまして。
そうでない方もとりあえず初めまして。
にじファンでは"クレセント"でした、"月詠カグヤ"です。
この小説は、にじファン閉鎖後すぴばるにて⑨話まで投稿していたものをこちらに移転してきた物です。とは言っても、少々表現の修正とかはしてますので、規読者の方にも楽しめる仕様になっていると思います。
…前書きはこの辺にしておきましょう。
それでは、本編をお楽しみくださいませ。
呉風学園。この地域ではそこそこ有名な、中高一貫校。今年の3月に卒業して以来、私は久々に足を踏み入れた。
今現在時刻、12時26分。丁度、期末試験が終わる頃だ。
「ああ、お前か。久しぶりだな」
部室棟へ向かう途中、廊下ですれ違った一人の男性に声をかけられた。
「お久しぶりです、武藤先生」
武藤零二。
私のクラスの担任だった先生で、天文部の顧問。気さくな性格からか、今も生徒たちに人気が高いらしいみたい。
「その様子だと、大学には無事合格したようだな」
「はい、なんとか。あと3点で落ちてましたけど」
「うわ、危なかったな……」
「ええ、本当に。……あ、期末試験ってもう終わってますか?」
「ん? ……ああ、あいつらならもう部室にいるぜ」
「了解です。……で、新入部員はちゃんと来ましたか?」
去年度の天文部は私含めて5人。私が卒業したから、今年度の6月までに一人入ってなければ、校則で天文"部"は天文"同好会"に格下げされてしまっているわけなんだけど…。
「ああ、それなら中学生が5人入ったから大丈夫だ」
あ、なんだ。それなら部もしばらくは安泰じゃない。
「頑張れよ、初代OG」
「あー、はいはい」
労い(?)の言葉を最後に、先生は行ってしまった。
……さてと。
「部室、行きましょうか」
― ― ― ― ― ― ― ―
第3部室棟の2階、その一番奥に私達の部室がある。
「失礼しまーす」
ドアをノックし、一声かけた。
「いや先輩、なんで無言で入って内側からノックするんですか!?」
……ただし、部室の中から。
「ん、なんとなく」
「なんとなくでそんなことしないでください! ビックリしたじゃないですか!」
「えー? いいじゃない、久しぶりの部室なんだから」
「理由になってませんから!」
部室の中は、私が卒業してからも全く変わっていなかった。本棚の中には先輩達の観測記録がファイルに……なってないのよね、これが。最初の部費で空のバインダーたくさん買っといたけど、それが今までに使われたのは去年の1回だけ。だから左上の1つ以外は全部空。天文同好会が天文部に昇格したのが去年のことだから仕方ないんだけど。
棚の上には埃まみれになった地球儀と天球儀のセット。何を勘違いしたのか、私の姉が部費で買ってしまったものだ。天球儀はともかく、地球儀は天文部にとっては置物にしかならない。
そして奥には……デスクトップのパソコンが置かれている。本来は勧誘ポスターを作るのに使ったりしてるのだが、何を血迷ったかここのOBでもある私の親友がネット回線を敷いてしまった。天文部関連のデータよりも某弾幕STGの方に容量を割いてる時点でお察し。
「うん、何も変わってない! 久しぶりね、ゆみな」
「部長……」
ウェーブのかかった黒い髪を肩のあたりまで伸ばした少女、織姫 ゆみな。遺憾ながら、私よりも5センチほど背が高い。
一言で言っちゃえば、良いとこのお嬢様。精神的に問題ありな姉がいて、それ故に織姫家に生まれたことを後悔しているらしい。自分の姉のことを"あれ"なんて呼んでるもんね。
「私はもうただの先輩よ。今はあなたが部長でしょ?」
「いや、その……受験勉強は大丈夫なんですか……?」
「よし、蓮は何処だ」
あいつなに変なこと吹き込んでんのよ!?
「ゆみな、沙耶姉はちゃんと大学受かってるからね?」
おお、いたいた。
「弟く「こっちくんな」おい!?」
風見 蓮。
黒色の整った髪をした……あ、寝癖ついてる。こいつ試験中寝てたな?
身長と髪の長さを除けば、容姿は私と瓜二つ。血が繋がってないのに、なぜかまわりからは実の兄妹扱いされる。
「あんた、姉に対してその態度は何なの?」
"姉弟"なのに。
「"見た目は子供、頭脳はぎりぎり大人"を地でいく沙耶姉が何を言うか」
「ちょ、ぎりぎりってなによ!?」
「ロリ姉、出来るの文系だけじゃん。センター2日目の悲劇、忘れた訳じゃないよね?」
「おい今私のことをなんて言った……!?」
センター2日目の悲劇。
今年の2月、センター試験1日目の疲れから脱することができず、私は風邪をひいて動けなくなってしまった。
……ところが。
「蓮……私の看病もせずに、どこいってたのよ……」
「ああ、代わりに受けてきたよ」
「……はあ!?」
……私の知らないところで、まさかの替え玉。
しかし、蓮はそれだけじゃ終わらなかった。2日目は理系科目、あいつはそれを……。
「自己採点したけど、全部8割越えてるから」
替え玉に成功したあげくセンターで高得点を叩き出した。
「……後は言わなくてもわかるわね?」
「……」
「ゆみな、わかって。お願いだから。これ以上追求されたくないから!」
「は、はい!」
さて、蓮に問いたださないとね……。
「で、それがどうして私が浪人してるってなるのよ」
「替え玉の話をゆみな達にしたら勝手にこうなった」
「……おい」
「ん?」
「デュエルしろよ」
「おい、会話しろよ!?」
「え、デュエリストならデッキで語り合うものでしょ?」
「いや誰が上手いこと言えと言ったんだよ馬鹿……」
そうは言いつつも、蓮は鞄から遊戯王のデッキを取り出した。乱雑に放置されているプリント類をどけ、2人でテーブルを挟むように向かい合う。
「蓮、マッチにする? 丁度サイド調整終わったのよ」
「大会の調整? いや、時間ないよ? 俺たちすぐに行くつもりだったんだけど」
お互いにデッキをシャッフルする。
「あ、ゆみな。タイマー持ってきて」
「部長、風見君の話聞いてました!?」
「え、だから大会の調整でしょ?」
「……やっぱり聞いてませんでしたか」
「……え?」
― ― ― ― ― ― ― ―
「……もう、大会30分前だったら先に言いなさいよ」
「沙耶姉、言ったよね? 俺、最初に言ったよね?」
「風見君、そう言いつつもデッキ出してたじゃないですか…」
ゆっくり歩きながら、駅前のカードショップへと向かっている。この信号を越えれば、後は駅へと続く並木道をまっすぐ進むだけ。
目の前の信号が青に変わった。肩に掛けたカバンから携帯を取り出し、今の時刻を確認する。…丁度午後1時。大会の受付は1時半だから、その15分も前には着くことができるだろう。
そうして他愛もない話をしながら、私達が横断歩道を半分ほど越えた……その時だった。
何かが壁に激突したような鈍い音。それを視界に含んでしまい、悲鳴を上げる人々。
そして、してやったりと言わんばかりにエンジン音をあげ去っていく大型車。
……その事実に気づいたのは、それが私達の背後を掠めた後だった。
声が出ない。足が動かない。体の震えが止まらない。
……一体誰なのよ。「死と向かい合ったとき、意外と人は冷静になる」とか言ったやつは。だったら、今の私のこれはどうやって説明するのよ!?
「沙耶姉!」
蓮の声で私は我に返った。
「とりあえず、歩道に戻ろう」
「え、ええ。わかったわ……」
「ゆみなも行くよ。……ゆみな?」
蓮がゆみなを心配そうに見下ろす。当の本人は今ので腰が抜けたのか、その場にへたり込んでしまっていた。
「か、風見君……あれ………!」
そう言われて指の示した方角に顔を向ける。その先には、黒くて長い髪の女の子が右腕から血を流して倒れてい……え?
「………っ、右腕が……」
……ちょっと待て。
「「「……」」」
あんた、今轢かれたよね? 思いっきり轢かれてたよね!?
しかし、何事もなかったかのように、少女は横断歩道をわたっていってしまった。
「……2人とも、部室に戻らない?」
「……賛成」
「了解です……」
惜しいけど、大会は諦めましょう。
……てか、精神的に、無理。
「……あの2人にメールしとこ」
向こうには2人が既にいるはずだ。大会はあの2人に頑張ってもらおう……。
― ― ― ― ― ― ― ―
「あ、お待ちしておりました」
そしてこの顔である。
あ……ありのまま、今起こった事を話すわ!
「私たちは奴が目の前でトラックに轢かれていたと思ったらいつのまにか私たちの部室に無傷で先回りされていた」
な……何を言っているのかわからねーと思うけど、私にも何が起こっているのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか、超スピードだとか……そんなチャチなもんじゃあ、断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……!
「「「……」」」
「……皆様、大丈夫ですか?」
いいえ、脳内処理が追いつかないだけです。
「……えーっと、今日私がここに来たのは……」
「……どういうことですか?」
おお、さすがは蓮。もう復帰するのか。
「その言い方、まるで俺たちに協力を求めているような言い方ですが……?」
「はい、その通りです」
「正解なんだ……。……さっきのトラック、もしかしてこの話に関係ありますか?」
……え、なぜそこでその話題?
「待ちなさいよ蓮。なんでトラックの話が出てくんのよ?」
「沙耶姉、考えてもみなよ。あの時トラックに轢かれたのは目の前にいる彼女。それが無傷でここにいるって時点で、これ人間じゃないよ」
「物扱いですか!?」
「その彼女が、今ここにいる。明らかにラノベ紛いのことに巻き込まれるパターンじゃない?」
「……おお!」
なるほど、その発想はなかったわ。
「さすがです、風見様」
少女の形をした、人じゃない別の何かが口を開いた。……いや、蓮を様づけするのかよ。
「本来ならば、起こり得ない事件……」
「起こり得ない事件?」
蓮が復唱する形で少女に意味を問う。
「そうですね……例えば、この世界のインターネット上に散らばっている小説で読んだりしていませんか? "神の手違いで殺されて転生する"小説を……」
……ああ、あるある。二次小説にはよくある話よね。
「突如走ってきたトラックに轢かれて死んでしまった!(起)」
「私のミスで殺してしまった、お詫びに転生させてやろう(承)」
「じゃあ、この世界で。あ、チート能力もくださいな(転)」
「私TUEEEEEEEEEEEEEEE!(結)……って、かんじのやつ?」
「はい、まさにそうなんですけど……打ち合わせでもしてたんですか?」
「「「いや、全く?」」」
うん、ネタに対する私達天文部の結束力は相変わらずおかしいと思う。
「ゆみな、よく(転)の部分ついてこれたね」
「はい、もう慣れましたから……」
ごめんねゆみな。私達のせいでここまで汚れてしまって……。
………って!?
「……待って! それじゃあ、私達は"手違いを口実に"命を狙われているってこと!?」
「はい、天河様のおっしゃる通りです。 神々が、天河様達3人を殺して自分達の駒にしようとしています」
「……つまり、これまで俺たちが生きてこれたのは、その度にあなたが俺達を護っていたから……ということですか?」
「……え、以前にもこのようなことが!?」
「あれ、違った?」
「蓮、それはあんたの運が悪いだけ」
こいつの場合は純粋に運の振れ幅が大きすぎるだけ。
「それで本題なんですが……その神々が、"転生者狩り"というのを始めたのです」
「はい?」
「"転生者狩り"……ですか?」
「自分で転生させておいて?」
その後、少女は"転生者狩り"について良く言えば丁寧に、悪く言えば長々と話してくれた。
簡潔に言えば、転生者を減らすために、神々が新たな転生者に"転生者を一方的に狩ることができる能力"を与えて送り込んだ……ということらしい。
しかし、困ったことにその"転生者狩り"もまた転生者であることに変わりはない。"転生者狩り"は狩りを確実に遂行するため、様々な優遇(いわゆる、「俺TUEEEEEEEE!!」)を受けていて……。
「……で、他の転生者以上に原作を破壊している。本末転倒にも程があるでしょう!?」
「ですよね……。でも神々はそれがいいと思っているんです」
「「「……」」」
……絶句。
もうね。あまりにも酷すぎて、逆に何も言えないわ。
「……では、あなたの目的は一体?」
ゆみなが少女に問う。その答えは、予想通りと言うにはあまりにも近く、また遠かった。
「はい。皆様には、これから私達の世界へと"生きたまま"向かっていただきます」
生きたまま……か。どちらにせよ、こっちの世界では行方不明になるわよね。社会的に死ぬ可能性は否定できない。
「質問、三つほどあるけどいい?」
「あ、どうぞ」
「じゃあ、まず一つ目。表現から、転生者狩りじゃない転生者も原作を破壊してるってこと?」
「その通りです。とはいっても、そういった人々は救う必要無しです。あくまで、目的は"世界の保護"と"転生者の救済"ですから」
まあ、そうなるわよね。転生者無双なんて、嫌われるにも程があるわ。
「無論、世界に元からいる人達は例外なく保護の対象です。例え、それが諸悪の根源だったとしても。倒すのは主人公達であるべきなんですから」
「了解。それじゃ、二つ目。その世界に名前はある?」
「名前? と、言いますと……」
「ほら、"GX"とか"5D`s"とか」
「おい蓮。なんで遊戯王に縛ってんのよ」
「……ああ! はい、あります。確か、"遊戯王ELYSION"だったかと」
「……」
蓮が言いとどまってしまった。
エリュシオン? そんな原作、この世界には存在しない。
"DM""GX""5D`s""ZEXAL"のどれにも該当しない世界……遊戯王だったから良かったものの、十分に厄介であることに変わりはないってことね。
……私としては、そもそも遊戯王だったことに驚いてるんだけど。
「……で、その原作の流れは分かってんの?」
考え込んでしまった蓮の代わりに、私が質問を続行した。
「はい。"ELYSION"は遊戯王シリーズの3作目にあたります。2作目"CONNECT"の正統的な続編にあたり……っ―――!」
目の前の少女が、突然両腕を左右に伸ばした。
私達の足元に、大きな魔法陣が描かれる。直後、紫色の結界が周囲に展開された。
「「「!?」」」
結界の奥、白い何かが部屋を侵食している。元の色こそ多少残っているものの、ほとんどが白い網目に覆われてしまった。
「説明は後でします! ですから、今は……!」
「……わかったわ、早く転送しなさい!」
「わかりました、天河様!」
「ちょ、沙耶姉!?」
その言葉を最後に、魔法陣の光が部室中を包み込む。
2012年7月6日、午後14時28分。
この日をもって、私達の日常は終わりを迎えた。
to be continued...
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