真田十勇士
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巻ノ四十九 立花宗茂その十二
「この高橋紹運この岩屋城を墓とするぞ」
「では我等も」
「この城で死にまする」
「殿と共に」
「そうします」
「去りたい者は去れ」
高橋は兵達に言った。
「この戦いは死ぬ戦、だからじゃ」
「いえ、我等既に決めております」
「この城で殿と共に最後まで戦うと」
「そのことを決めています」
「既に」
「だからこそここにいます」
兵達は皆高橋に答えた、誰もが澱みのない顔と声だった。そこにいる者達に迷いは何一つ見られなかった。
「殿、ですから」
「我等に何なりと命じて下さい」
「死ねと」
「その様に」
「そうか、では共に死ぬまで戦おうぞ」
高橋は兵達の言葉を受けて一旦瞑目してから答えた。
「そしてな」
「この城で極限まで戦い」
「そして、ですな」
「そのうえで時を稼ぐ」
「そうするのですな」
「うむ」
その通りという返事だった。
「わかったな」
「はい、では」
「その様にしましょう」
「ここはです」
「是非共」
「ではな、戦の備えをするぞ」
こう言ってだ、高橋は幸村達から視線を外しそうして戦の用意に入った。彼は既に己の進むべき道を決めていた。覚悟を。
幸村はその岩屋城の方を振り向いてだ、こう言った。
「この城で天下に残る戦が行われるやもな」
「高橋紹運殿によって」
「そうなりますか」
「近いうちに」
「そうなりますか」
「そうやもな、ご武運を」
高橋、城の中にいる筈の彼にも声をかけた。そしてだった。
幸村は十勇士達を連れてまずは日向に向かった、島津家の領地に。
巻ノ四十九 完
2016・3・14
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